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俺は、よろよろと今来た道を戻り始めた。

「か・・・・とう・・・??」

その先に倒れている白いTシャツを着た香藤の身体が見えると俺は走り出していた。


うそだ・・・・


「う・・・うわあああああ〜〜〜!!!香藤っ!!!香藤っ!!!」

助けて!!またいなくなってしまう!!!助けてっ!!だれか!助けてくれっ!!!!




「香藤!!いやだ!!香藤っ!!!香・・・藤・・・・」

膝をおり、うつ伏せる香藤の肩に触れた途端、そこで俺の意識はプツリと途切れてしまったのだった。















「・・・・・・・さん。」
誰かの声がとても遠くに聞こえる。ここはどこなんだろう。なんだか凄く気持がいい・・・・・

「・・・わき・・ん。」
俺を呼んでるのか?なんだかすごく疲れたんだ。もう少し寝かせて欲しいな。だって俺は紺野と勉強をして
、それから大学行って、変な教授の手伝いもしたし、香藤と会って、それから・・・・・・香藤?

そうだ車が通り過ぎていって・・・・

あ・・・

香藤・・香藤が!!!










「わああああっ!!!!」叫びながら岩城はベッドから跳ねる様にして起き上がった。

「岩城さん!」

「香藤!!香藤は!!!?」

「岩城さん!俺はここにいるよっ!大丈夫。もう大丈夫だから安心して。」

「え・・・?」

「俺は轢かれてなんてない、大丈夫。ごめんね、岩城さんごめんね。」

香藤はそういいながら岩城を抱きしめた。

「か・・とう?」

「そう。俺だよ。ピンピンしてるよ。あの時はいきなり目の前でスピンした車に吃驚してコケただけなんだ
よ。心配させてごめんね。ホントごめん・・・」

自分の顔を心配そうに覗き込む香藤の姿。よかった・・・コイツは連れて行かないでくれたんだ・・・
よかった・・・・・・溜息の後、安堵の震えと共に涙が溢れ出した。

「だからいやだって言ったんだ。。。お前。。。これ以上俺の中に。。。入ってくるなよ。。。くそっ。。」




「岩城さん・・俺は!何処にも行かないよ。ずっと側にいるから。イヤだって言っても岩城さんの側にずっと
いるから。ね?だからもう少し眠ろう・・・岩城さん疲れてるんだ。ここは俺の家だから何も気にしないで
眠っていいよ。手だってずっと繋いでるから・・」

岩城が泣いている。俺がいなくなってしまったのではないかと震え怯え泣いている。
ひっくひっくと嗚咽を繰り返す姿に幼い日の岩城が重なって見えて胸が痛んだ。どうにも切なくて、愛しく
て、香藤は抱きしめる腕に力を込めた。この人は今までいったいどれだけの重荷に一人で耐えてきたんだろ
う。なんの問題も無くごく普通に生活してきた自分には、量りかねる重さだったに違いない。

「俺がいるから。岩城さん。俺がいるからね。」

ぐすっと鼻を啜りながら赤く腫れた目を向けてきたから、俺はくすりと笑い額にキスを落とした。

「・・・お前、少し生意気だ・・・ぞ・・。」

疲れきった身体と、緊張で強張った精神は既に限界だったのだろう。
肩を抱いてベッドに横にしてやると、そうひとこと漏らしてすぐにまた眠りに入っていった。


あの時・・・
随分離れてしまった岩城さんを目で追いながら、俺はどうにか膝を立てて立ち上がろうとしていた。
その瞬間目に飛び込んできたヘッドライト。その車は自分の目前で煙を上げながら尻を大きく振りはじめた
。突っ込まれると思った俺は、とっさに前に伏せたのだった。
でも・・・今考えれば、あれは何を考えて起した行動だったんだろう?伏せたって轢かれれば一緒なのにな
ぁ。当たらない分痛みが少ないとか考えたのか?咄嗟の脳味噌の働きというのは、それがたとえ自分のであ
ってもかなり理解不能だ。
不幸中の幸い?でその車は突っ込んでくる事は無く、1メートル位手前で車体を真横にしたまま止まったのだ
った。ドアを開けて降りてきたのは、いかにもお金持ちのボンボンという雰囲気の優男。
「すいません!!大丈夫ですかっ!!!!」と駆け寄ってきた。

瞬間に額を思いっきりぶつけてた俺は「うう〜〜っ」とかなんとか言いながらノソリと起き上がろう
としたんだけど、顔を上げて目に入ってきたのは、叫びながら凄い勢いでこっちに走ってくる岩城さんの姿
だった。
「岩城さん・・・?」
岩城さんは真っ青な顔で駆け寄ると、しゃがみ込み“香藤!!香藤!”と叫び続けた。
“いやだ!助けて!”とも・・・・あの時の岩城さんの表情(かお)はきっと一生忘れないだろう。

ああ、そうか・・・ずっとこんなに辛かったんだね、岩城さん・・・。重かったんだね、可哀そうに・・・

軽い錯乱状態になっていた岩城さんは、俺がいくら話掛けようとしても無駄だった。
息をするのも忘れていたのだろうか、そしてそのまま崩れ落ちたのだ・・・

救急車を呼ぶと騒いでいる優男の後ろから、どこかで見たことのある顔が覗いてきた。

「どうしたんだ?・・あ!岩城っ!!!」

その人は、俺の腕の中で顔色を失っている岩城さんを見止めると、俺を押し退けるようにして横にしゃがみ
込み岩城さんの頬に手を当て「どこか打ったのか?」と鷹揚のない声で俺を睨むように見上げてきた。
その態度に少しムッとはしたものの、俺は簡潔にこの場の状況を説明したのだった。

男は浅井と名乗った。



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うはあ・・・ドキドキしました・・・・
色んな事が分かってきそうな・・・展開?
(こっちもドキドキ・・・)