「俺、岩城さんを愛してるんだ。」 「・・・?それとこれと何の関係があるんだ!!」 「もう、最後までちゃんと聞いてよ。俺たちは夫婦だけど、普通の男女の夫婦の様にキチンと結婚できる訳じゃないよね。もちろん紙切れ上の婚姻届なんて俺たちには大きな問題ではないけど、俺、いっぱい残したいんだ。いつかは年老いて死んでゆくけど、俺にとって岩城さんは今もこれからも全てだから、俺がどれだけ愛してるか、愛してたか、どれだけ幸せだったか、その証拠をいっぱいいっぱい残したいんだよ。そして皆にも見てほしい。性なんて関係なく、人が人を愛するという事。俺たちが今どれだけ幸せか教えたい。岩城さんに会えて、俺が本当にどれだけ幸せか・・・これ、単なる俺の我がままかな? 岩城さん・・・」 眉間に少し皺をよせて、ちょっと苦しそうな表情で見上げてくる。 岩城は息が詰まる気がした。なんでコイツはいつもこうなんだ。もうこれ以上何も言えないじゃないか。 小さく首を振ると、今日何度目かの大きな溜息をついた。 どれくらい時間が経っただろうか、すると岩城も体勢を正して、香藤の方に向き直りじっと目を見つめる。 「香藤。俺もお前を愛してるよ・・・・.。」 「だがな、この仕事は、何となく上手く出来る自信が、その・・・あんまり無いんだ。」 「なんで?岩城さん歌上手いじゃん!!踊りだってちょっとステップ覚えるだけだし・・・・岩城さんきっとめちゃくちゃカッコいいよ!・それに・・・・・俺が側にいるよ?」 そう言うと香藤は微笑みながら岩城の、頬に手を伸ばした。 岩城はそのまま香藤の目を覗き込むとクスリと笑いを漏らした。相変わらず馬鹿ばかり言って俺を怒らせているけど、近頃の香藤はめっきり男らしくなったし、本当に頼もしく思える程に成長した。 「はあ〜・・わかったよ。そのかわりどんな事になっても知らないからな?それに歌はこれっきりだ。」 「わおっ!!すごいやっ!!超スーパープレミアムCDだね!!」 「なんだそりゃ・・・。」 「大丈夫!絶対成功するよ!!そうと決まったら早く歌詞考えなきゃね。俺、一番だけ考えたんだ。あとで見せるね!」 と嬉しそうに言うと岩城に抱きついた。 香藤は肩口に顔を埋めてはぁっと小さく息をつくと呟く様に 「岩城さんホント愛してる。抱きたい・・いい?今日はオフだよね?」 と顔を覗きこんできた。 「やだっていってもするんだろ?」 「したくない・・・?」 岩城の顔を見上げたれ目を益々さげて聞いてくる。そんな香藤の姿にクスリと笑うと 「いや、いい・・・俺もお前に抱かれたい。来いよ・・・」 深く深くキスをした。アイシテル。アイシテル。 深く深く繋がって、ひとつになって、愛しい人を決して離さないと・・・ 「ああ・・・香藤、香藤・・・もう・・」 「んっ・・はあ・・岩城さん、気持ちいい・・すっごく・・・」そう言うと腰をひときわ強く打ちつけた。 スタンドライトの明かりだけの部屋、ふたりの荒い息遣いとクチュッという湿った音だけが現実との接点であるかのように響いていた。 「岩城さん・・・岩城さん・・うっ・・」 唇をかみ締めて喉をのけぞらせる。 「ああああっっ・・・!!香藤っ・・香藤!」」 岩城の足を抱え上げ、腰をさらに大きくグラインドさせるとビクリと身体を震わせ果てた。 快感の余韻を楽しむように、しばらく二人で腰を揺らすと、香藤がドサリと岩城の横に転がった。 チュッチュッとつつきあうようなキス。 「愛してるよ。」 「ああ・・・」 再び強く抱き合うと、そのままふたりは深い眠りに落ちた。 朝方、岩城は電話の鳴る音で目が覚めた。 香藤を胸に抱きしめるようにして寝ていたので、腕が少ししびれていた。香藤はまだ爆睡中だ。 起さない様にそっと腕をはずし起き上がると、ベッドの下に丸まる様にして落ちているパジャマを拾い上げ急いではおり、2階の寝室においてある子機を取った。 「はい、岩城です。」 取り合えず電話に出た者の姓を言う。これはいつの間にか出来上がったふたりのルールだった。 「あ、岩城さんですか?おはようございます清水です。お休みのところ朝早くからすいません。」 「ああ、おはようございます、清水さんこそ、昨夜も遅かったのに・・・あ〜あの〜もしかして、あの件ですか・・?」 小さな声でちょっと言いづらそうに話す岩城に 「そうなんです!!もう大騒ぎになってて・・・あれってもしかしてまた香藤さんのひとり暴走ですか・・・・?」 ふたりの殆どの事件??を知っている清水は自分の立てた仮説にひどく慌てていた。 「いえ、あの〜違うんです。あ、いや、そうなんですけど・・・香藤の暴走はその通りなんですけど・・」 ここで岩城は言葉を切った。 「けど・・?」 と清水が先を促す。 「岩城さんもしかして、香藤さんに口説き落とされたんですかっ??」 「う・・・いや、あの・・・」 しどろもどろになってしまった岩城に清水が追い討ちをかけるように 「本当によろしいんですか?請けていただけるんですかっ!?うわぁ〜社長も喜びます。香藤さんの事務所からも何度も電話が入ってまして。ああ良かったです。それではすぐ双方の事務所で打合せさせていただきます。後ほどまたご連絡しますので。それではまた!」 ガシャッ・・プープー・・・岩城は受話器を見つめたまま呆然としていた。いつも落ち着いていて、滅多な事では慌てないあの清水が、あんなに取り乱すなんて・・・。 「もしかして、俺はとんてもない事を請けてしまったのか・・・?」 予想通り、あれから世間は大騒ぎだった。先日のラジオ終了後も、CDに関しての問い合わせが殺到した。 両事務所サイドも順調に話し合いが進み、お互いのスケジュール調整をして、6月からの歌とダンスのレッスンや、8月からのアメリカでのレコーディングやプロモの作成、そして9月の発売とおおまかな進み方が決定した。あわせてCD発売に伴う宣伝もある。本当に目が回るような忙しさだ。 |