香藤は宮坂との一件以来、前にも増して岩城を束縛したがった。忙しくて顔をあわす事も儘ならない日々。
1日に数え切れないほどのメールを送ってくる。

「今、休憩中。岩城さんに会いたいよー」
 
「今日は6時にはあがれそう。岩城さんは??」

「テレビの岩城さん、かっこいい〜〜(^0^)/俺チョーうれしいっ!」
 なんでお前がうれしがるんだ・・・・??

「夕飯作り終わったよー。待ってるからね。」

「まだ終わんない(T.T)早く帰って顔みたいよ」
 クスッ。
その度に返信はしないが、7,8時間連絡が取れないと、着信履歴にはズラッと「香藤・香藤・香藤・・・」
「まったく・・・」


さっきも「これからスタジオ入りま〜す。ちゃんと聴いててね!」

と入っていた。今日は深夜のラジオ番組にゲストとして出演予定だ。

また余計な事しゃべるんだろうな・・などと思うとつい苦笑いがもれる。

香藤の束縛は気持ちがいい。愛されていると思う。その手だけは決して自分を放さないだろうと確信できるから。
「俺も絶対に離さないけどな・・・」とひとりごちる。

この世に本当に神様がいるのなら心から「香藤に会わせてくれてありがとう」と言いたい。



家に入って、時計を見ると0:30分になろうとしていた。

「そろそろだな。」と言いながら、ステレオの電源をいれラジオのチューニングを84.○へ合わせる。
「・・・・の提供でお送りします。」オープニング曲が流れ出した。

軽快なテンポでこの番組のパーソナリティーの女性がじゃべり出す。

「は〜い。みなさんこんばんわー。今日も暖かかったですね〜。わたしは今日一日なんとお掃除で終わってしまいましたぁ。あ〜もったいないっ!皆さんは如何お過ごしでしたか〜?さてさて早速ですが今夜はですね〜うっふふふ〜皆さんラジオの前で耳がダンボの様になってることでしょうー。もう先週から電話でも大騒ぎだったんですけどーなんと今イケメン俳優の中でも超超人気のあの!香藤洋二君に来ていただきました〜〜っ!!どうもっ!こんばんわ〜っ!」

「はい!こんばんわ。よろしくお願いします。」

聴きなれた香藤の声が流れてきた。

「う〜相変わらずかっこいいね〜。皆さん今夜はベージュの皮パンツですよぉ。な〜んかラジオの向こうからキャーーッって黄色い声が聞こえてきそうですねー。」

「あはは・・え〜リスナーの皆さんこんばんは!香藤洋二です。今夜は何かMAKIさんに色々突っ込まれそうなんで、ちょっとドキドキしちゃってます。家帰って岩城さんに怒られちゃうんで、いじめは程ほどにお願いしま〜す。」

嘘付けお前がドキドキってたまか・・・?岩城はソファに座り片眉を少し吊り上げながら聴いていた。

それから暫くは映画の話や、香藤が今度演る予定のドラマの話などで時間が過ぎていった。

リクエストの曲が終わった後、
「そういえば香藤くんは歌も結構上手いって聞いてるんだけど、カラオケとか行くの?」

「カラオケは最近は行ってないけど、前はよく行ってましたよ。
そうそう、今ね〜岩城さんと歌のCD出さないかって話が来てるんですよ。俺一生懸命岩城さん口説いて
るんだけど、なかなかOKしてくれなくて。ほら〜岩城さん恥ずかしがりやだから〜。」

「ええええ〜〜っっ!!い、岩城さんとぉ〜〜?」大声を張り上げるMAKIさん。


岩城も思わず立ち上がっていた「あ、あの馬鹿!また余計な事を!!!」

「曲は出来てるんだけど、これがまたすごい素敵な曲なんですよ。詩はね〜俺達で考える事になってる。
1番だけ出来てるんだ。2番は岩城さんに作ってもらう予定。プロモもね撮る予定なんですよ。」

嬉しそうに話す香藤。MAKIさんはまだ「えええ〜〜っ!うそっ!マジッ!!」といい続けていた。

香藤のなんとも能テンキな言いっぷりに岩城はわなわなと拳をにぎりしめた。

「うわ〜〜美味しすぎるっ朝大騒ぎになるよぉー。曲名はきまってんの?」

「ん〜・・曲名はそのままズバリ〜KISS〜にしようかなって思ってます。キスは奥が深いですからね〜。おはようのキス、ごめんのキス、もう大好き!のキス、いっぱいいっぱいありますよね。頑張って岩城さん口説き落としますから、みなさ〜ん楽しみに待っててくださいねっ!」

岩城は頭を抱えたままドサッとソファに倒れた。
朝になってからの騒ぎを想像すると眩暈がしてくる。「どうするんだ、まったく・・・・」




AM2:00時。人通りの全く無い住宅街。

「ああこんな時間になっちゃったよ。岩城さん怒ってるだろうな〜〜やっぱちゃんと俺の本気をわかってもらうしかないな、うん。」と何故かひとり納得の様子の香藤。

今日は午後から金子が休みだったので自分で移動をしていた。
運転は嫌いじゃない。
ステアリングを握りBMWの低いエンジン音を聞くと気分はわずかに高揚する。

愛車のBMWを車庫にしまい、家に入った。リビングは真っ暗だったが、寝る前に岩城がのんだであろうコーヒーの残り香がまだ漂っていた。

「もしかして寝たばっかり?」そう言うと、急いでシャワーを浴びて、2階へそうっと上がっていった。

岩城は自分のベッドでこちらに背を向けて寝ていた。香藤はゆっくり岩城の寝るベッドへ歩いていき、腰をおろした。ギシりとベッドが小さく鳴る。艶のある黒髪は少し乱れて岩城の頬にかかっていた。

「結構伸びてきたね。」と独り言をいいながら髪をかきあげる。本当に愛しいと思う。

「・・っんとにまじきれい・・・」蕩けそうな微笑が香藤の顔に浮かぶ。起さない様にそっとキスをして立ち上がろうとした時、岩城が急にくるりとこっちを向いて、香藤の鼻を思いっきり摘んだ。

「?ふがが・・・・っ?!」

「いったいな〜もう。何だ岩城さん起きてたの〜?意地悪なんだから〜ん〜〜ただいま・・v。」

と肩を抱きながら唇を突き出してきた。

「何がただいまv。だっ!」と岩城は声を少々荒げながら上半身をベッドから起こした。

そして我慢していた怒りの鉄拳を香藤の脳天に、ごんっ!!

「・・・・・ったい!うう〜。」と唸り涙目になりながらもこんな事でひるむ男ではない。

「もうっ・・・怒ってるだろうなぁとは思ってたけどさ、俺だって頑張って働いて来たんだからお帰りのチュー位してくれてもいいじゃん!」

「う・・・。」

こう切り返されると、それもそうだと思ってしまうのはやっぱり岩城だ。

「で、仕切り直し・・・岩城さんただいま。ハート。」 横目で睨みながらも

「う・・お帰り、香藤」

軽いキス。目と目が合い見つめあう。

「岩城さん、大好き。」岩城のちょっと拗ねたような表情。これわざと??かわいすぎるっ・・・・もう一度キス。

だんだん深くなるキスに、お互い息が上がってくる。

「ふっ・・・んっ・・」

香藤の手が当たり前のように岩城のパジャマの中を探り始めた。

そっと押し倒しながら香藤の頭が岩城の首筋に潜り込む。

「あ・・・」

岩城は目を閉じようとしたが、その瞬間頭が覚醒した。

「わ〜ちがうちがうっ!おいっ、香藤!話がある!!」と香藤を押し退けた。

「む〜〜っ後じゃだめ??」

「さり気なく流すつもりだったんだろうが、そうはいかないぞ!朝になってからじゃ遅いんだ!あの話はまだOKしてなかったろう?なんであんな所で話してしまうんだ?家の前に張り付いている記者たちになんて言えばいいんだよ!」

「だからさぁ・・一緒にやろうよ。岩城さん。」

香藤は岩城から少し離れベッドの上に正座をして、岩城の目をじっとみつめた。