指 
【岩城さんversion】

ベッドルームのカーテンから差し込む朝日・・・。

その眩しさに誘われ目を覚まし、真っ先に俺の目に飛び込んできたもの。

それは愛しい恋人の安らかな寝顔・・・。

栗毛色の柔らかな前髪がその表情を覆っているが、寝顔はまるで無邪気な子供そのものだ。

その寝顔をもっと見てみたいと髪を掻き上げようすると、俺の右手にしっかりと香藤の指が重ねられ

絡め取られていた。





仕方なくその指先をじっと見つめると、そこからじんわり香藤の温もりが伝わってくる。

不思議な感覚・・・。俺と同じ男なのにどこか違う。しなやかで力強い指・・・。

触れているだけなのに心が安らいでいくのを感じる。

その指は香藤の想いをそのまま表しているかのように、ギュッと絡み付いていた。

(俺を離すまいとしている香藤の指・・・。こうやっていつでも俺に安心を与えてくれる。俺もお前に

それ以上の安心を与えているのだろうか)





この指が俺の人生すべてを変え、愛に満ちた世界をもたらしてくれた。

お前に出会うまでの俺は、出口など簡単に見つからない夢の中で足掻いていた。

嘘で出来た世界に砕け散った俺の夢・・・。

壊れていた俺の心に真実を引き寄せ、生きていく事の難しさを教えてくれたのはお前だった。

生身の情熱で頑なな俺を溶かし、そして傷ついた俺の心を癒してくれた。

お前に抱かれて過ごすひと時に流れゆく歳月を感じる。

お前の温もりに包まれ、俺は明るい世界へと生まれ変わった・・・。





香藤を起こさぬようそっと手を動かし、俺は愛しいその指にそっと口付ける。

「んっ・・・」

くすぐったさに香藤が身じろぐが、起きる気配はない。

この指が俺を愛に溺れさせ、お前だけしか見えなくしてしまった。

お前の愛撫に逆らえず、俺のすべてを曝け出し快楽へと導かれる・・・。

触れられたら最後、どんな秘密さえも暴かれてしまうだろう。

(いつまでも俺に触れて欲しい・・・俺だけを愛して欲しい・・・そしてお前を離したくないと・・・)

虜となった俺はお前に抱かれるたびに、その想いがどんどん強くなっていく。

心の中で自分は、どの道に進むべきなのかも分からなくなるほどに・・・。





もう一度その指に口付けると香藤が目を覚ます。

「あっ、すまん・・・。起こしたか?」

「ん〜・・・おはよう・・岩城さん」

「ああ、おはよう」

だんだんと意識がはっきりしてきたのか、その目がパッチリ開かれる。

琥珀色に輝く瞳が俺だけを見つめている。

「岩城さん・・・俺が欲しいの?」

「なっ!?」

「岩城さんの瞳、誘ってるよ。俺が欲しいって、その濡れた瞳が訴えてる」

香藤にそう言われた途端、身体の奥底から熱が沸き起こってくるのを感じる。

昨夜の情交でも足りないくらい香藤に飢えていた。

それを香藤に悟られ、頬に朱が走る・・・。





もう一方の指先が俺の髪に触れると、既に俺の答えなど分かっているのか笑みを浮かべながら

優しく撫で上げる。心地よいまどろみに己の身を預けると、香藤が俺の指に口付けた。

「岩城さんの指って綺麗だよね。繊細な岩城さんの心をそのまま表してるみたい。

勿論、綺麗なのは指だけじゃないけど・・・」

「バカ・・・」

「俺に愛されるたびに毎日綺麗になっていくんだ。俺の愛撫に感じてる時の岩城さんは

本当に綺麗だよ。この指が岩城さんの美しさを磨いているんだね」

そう言いながら香藤の指が頬に触れた。

「お前、よくそんな恥ずかしい事を言えるな・・・」

「今更俺達の間で恥ずかしがってもしょうがないじゃん。たっぷり愛しあった仲じゃない?

俺はもっと岩城さんが欲しい! 俺だけのものだっていつも感じたい!」

「何言ってる・・・俺はお前だけのものだろ・・・」

「それはそうなんだけど・・・。最近の岩城さんて、俺が何言っても動じないよね。

逆に俺の方が照れちゃうような事を平気な顔で言ってくるからな〜。それって反則だよ」

「反則って・・・。お前が好きだっていう気持ちを言葉にして何が悪いんだ? 俺だけを見つめて

欲しい・・・俺だけのお前でいて欲しいって、いつも想ってるのに」

「もう〜岩城さん、それが反則なんだよ。そんな事言われて俺が止まるわけないじゃん。

岩城さんから誘ったんだから覚悟してよ。このゴールドフィンガーでたっぷり鳴かせてやる」

そう言ったかと思うと香藤は、俺の身体をベッドに押さえ付けていた。

香藤の瞳が挑戦的な光を放ち、俺を支配する・・・。

「ほう〜。やれるもんならやってみろ」

「岩城さんがやめてって言っても聞かないよ」

「望むところだ・・・」

俺の指が香藤の唇に触れると、すぐさま熱い舌が這い回る。

濡れた感触に身体が震え、逞しい身体を抱き寄せ口付ける。

触れ合った途端、深くなる口付けに俺はその身を委ねていた・・・。





空高く陽は輝き、静まり返ったこの部屋に俺達の吐息が響いている。

震える指でお前を離すまいと強く抱き締める。

(お前をもっと知りたい・・・香藤・・・)

いつの間にか流した涙を香藤の指がそっと拭う。

愛が年月を経ても続くように、今でも変わらずお前は優しい愛を注いでくれる。

お互いを貪るひと時・・・俺は誓いを新たにする。

お前がそばにいる限り、輝く未来を共に歩んで行こうと・・・。

俺は香藤の指に口付けた。

これからも俺を離さないでくれという願いを込めて・・・。



END



2004・5・5  luna 

【香藤くんversion】