次の朝、香藤が朝食を摂っていると携帯が鳴った。 (公衆電話?誰だろう?) 画面の表示を見て少し訝しく思いながら耳に当てる。 「もしもし…。」 「香藤…」 聞こえてきたのはずっと聴きたかった岩城の声だった。 「いわ…き…さん?」 「ああ、そうだ。おはよう、香藤。」 香藤の声に一緒に食事を摂っていた久子が弾かれた様に顔を上げる。 「岩城さん……」 香藤はそれ以上言葉に出来ないまま久子と目を合わせ頷く。二人の目から涙が溢れる。 「香藤、随分心配掛けたな。すまなかった。」 そう話す岩城の声も震えている。 「久子さんそこに居るのか?替わってくれないか?」 岩城の言葉に香藤は黙って携帯を久子に渡す。 「もしもし、久子さん?」 「京介ぼっちゃま…」 久子も涙でそれ以上言葉が出ない。 「ずっと俺についててくれたんだね。ありがとう。心配掛けてごめんね。」 「京介ぼっちゃま。思い出されたんですね。本当にようございました…」 「うん、ありがとう。今日も病院に来てくれるんだよね。またその時にゆっくり 話そう。もう一度香藤に替わってくれるかな?」 「香藤さん、京介ぼっちゃまが…」 香藤は久子に差し出された携帯を両手で握り締めそっと耳に当てる。 「岩城さん…。本当に岩城さんなんだよね?夢じゃないよね?ホントに思い出してくれたんだよね?」 「ああ、本当だ。夢なんかじゃないぞ。ちゃんと全部思い出したから。」 受話器から響く岩城の優しい声に香藤の目からとめどなく涙が溢れる。 「良かった。岩城さん、俺…」 「香藤、本当に随分心配を掛けた。辛かっただろう?すまなかった。」 「いいんだよ。岩城さんが悪いんじゃないんだから。もういいんだ。ちゃんと思い出してくれたんだから。」 暫くの沈黙の後岩城が口を開く。 「香藤、お前今日も仕事なんだろう。先生に訊いたらこの後いくつか検査をして異常がなければ午後には退院出来るそうだ。家で待ってるから出来るだけ早く帰って来てくれ。」 「それ本当?分かった、頑張って仕事して早く帰るからね!」 「ああ、待ってる。まだこれから清水さんと新潟の家にも電話しないといけないんだ。だからもう切るな。」 「岩城さん…。俺に一番最初に電話してくれたの?」 「ああ、誰よりも最初にお前の声が聴きたかったからな。」 岩城の言葉に嬉しさが込み上げる。 「岩城さん……。」 「香藤…。じゃあ、もう切るからな。久子さんに新潟には俺が電話するからって伝えてくれ。金子さんにも迷惑を掛けたんだろうから、お前からよろしく言っておいてくれ。それじゃあな。」 岩城の名残惜しそうな声を伝えて電話は切れた。 香藤は暫く携帯を握り締めたままで安堵の涙を流し続けた。 その日の夕方近にくなって岩城はやっと自宅へと帰って来た。 岩城からの電話で駆けつけた清水や事務所の社長が念には念をと病院に入念な検査を依頼したためだった。そして記憶後退については伏せたまま簡単な記者会見をしてやっと開放されたのだった。 車を降り立ち久しぶりの我が家を見上げる。 もっと長く留守にした事もあるのに酷く懐かしい気がした。 鍵を開けて中へ入る。 一歩一歩確かめる様に歩きリビングのドアを開けた。 ゆっくりと胸いっぱいに懐かしい空気を吸い込み岩城はやっと帰ってきた事を実感した。 まだ右手にギプスを填めたままの岩城を手伝って荷物を運び込んできた清水が、その様子を微笑みながら見ていた。 暫く無事に帰って来る事が出来た喜びを噛み締める様にしていた岩城が清水に振り向く。 「清水さん、今回はご迷惑とご心配をお掛けして本当にすみませんでした。」 もう何度目になるか分からない謝罪を繰り返す岩城に清水は微笑む。 「岩城さん、もういいですよ。そんなに何度も謝られたら逆にこちらが恐縮してしまいますよ?」 清水の言葉に、岩城が苦笑する。 「ああ、すみません。でも何度お詫びしてもお礼を言っても足りないような気がして。その位迷惑を掛けたと思いますから。久子さんにももっとちゃんとお礼を言いたかったのに帰ってしまったし。」 久子は岩城が引き止めたのにも拘らず午後になって新潟に帰って行った。 「久子さん、きっと気を遣われたんですよ。今夜は香藤さんと水入らずで過ごして欲しいって。」 「ええ、そうですね。きっと。」 久子の思いやりに岩城は感謝の念を新たにした。 「では、私もそろそろ失礼しますね。」 帰ろうとする清水を岩城が引き止める。 「すみません、清水さん。迷惑掛けついでにもうひとつお願いがあるんですが…。」 岩城は携帯のカメラでリビングのソファーに座る自分を写して貰い、金子に直接お詫びの言葉を伝えたいから玄関まで上がって貰うようにとのメールとともに香藤に送って貰った。 メールの最後には<待っている。>の言葉も添えて貰った。 「清水さん、すみませんでした。お引き止めして変な事を頼んだりして。」 岩城は恥ずかしさから頬を染める。 その様子があまりにも微笑ましくて清水はくすくす笑うのを止められなかった。 「いいんですよ。これくらいの事。香藤さん、早く帰って来られるといいですね。」 清水に笑われ岩城は更に頬を染める。 「もう、清水さん。いじめないでくださいよ。」 清水は何とか笑いを堪えるとマネージャーの顔に戻る。 「岩城さん、明日はもう一日ゆっくりお休みいただいて、明後日、今後のスケジュールについて事務所で打ち合わせをしますから。」 「分かりました。よろしくお願いします。」 岩城も俳優の顔に戻り答える。 「明後日は十時ごろお迎えにあがりますので、それまではゆっくりお休みくださいね。それでは失礼します。」 「清水さん、本当にありがとう。清水さんも出来るだけゆっくり休んでくださいね。」 玄関まで清水を見送り、リビングに戻ってソファーに腰を下ろす。 テーブルの上には指輪の包みが置かれていた。それを愛しそうに見つめ岩城はそっと呟く。 「香藤…、早く帰って来い。」 香藤は自宅へと向かう車の中でずっと携帯を見続けていた。 岩城がリビングのソファーに座っている、なんと言う事も無い画像。 岩城がそこにいる、それが堪らなく嬉しいのとともに、目を離したら消えてしまうのではないかという子供じみた不安も感じ見つめ続けていた。金子が家の前に車を止めると、飛び出す様にして降りる。 見上げるとリビングに明かりが灯っている。 あの明かりを灯しているのは久子ではなく岩城だ。 そう思うと居ても立ってもいられなくて、金子を引き摺る様にして階段を駆け上る。 「金子さん。早く!早く!!」 「わっ。ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。香藤さん。」 もどかしい様にして鍵を開け扉を開くと大きな声で愛しい人の名を呼ぶ。 「岩城さん、岩城さんっ!」 香藤の声に応えて岩城がリビングから現れる。 「香藤、お帰り。」 電話越しではない、直接岩城の口から紡ぎ出される声。 香藤は靴を脱ぎ捨てると岩城に抱きついた。 その目からは涙が溢れていた。 「岩城さんっ。岩城さん…。」 もう二度と離すまいとするかの様にきつく抱きついて泣き続ける香藤の背中に、岩城は不自由な右手を回し左手で髪を撫で続けた。金子もそんな二人の様子を涙ぐみながら黙って見ていた。 暫くして香藤が少し落ち着いてくると、岩城が静かに言う。 「香藤、ちょっと力を緩めてくれないか?まだあちこち痛いんだ。」 「えっ?あっ、ごめんなさいっ。」 慌てて身体を離そうとする香藤を岩城が回した腕に力を込め引き止める。 岩城は香藤の腰に手を回したままで金子に視線を向けた。 「金子さん。この度は金子さんにも大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。そして香藤を支えてくださってありがとうございました。」 岩城が頭を下げたのに続いて、香藤も頭を下げる。 「金子さん、ありがとう。金子さんが居てくれたから岩城さんが居ない間も頑張って仕事する事が出来た。本当にありがとう。」 二人に頭を下げられ、金子は顔の前で両手を振って恐縮する。 「そんな、お二人とも止めてください。僕は香藤さんのマネージャーとして当然の事をしただけです。そんなお礼を言って頂く様な事は何もしていませんよ。」 いかにも金子らしい言葉に二人は微笑む。 「あっ、僕の方こそ肝心な事申し上げてませんね。岩城さん退院おめでとうございます。」 律儀に頭を下げる金子に二人は小さく吹き出す。 「ああ、すみません金子さん。笑ったりして。ありがとうございます。」 なぜ笑われるのか分からない、といった様子の金子に岩城も頭を下げる。 「いえ、いいんです。香藤さん、明後日は九時ごろお迎えに上がりますので。明日は岩城さんとご一緒にゆっくり過ごされてくださいね。では失礼します。」 金子は二人にもう一度頭を下げると帰って行った。それを見送った香藤は岩城と向き合う形になった。 そして岩城の肩に手を掛け頭の上からつま先までをまじまじと見つめる。 「本当に岩城さんなんだね。夢じゃないんだ。良かった。お帰りなさい、岩城さん。」 岩城はまた涙ぐむ香藤の背に手を回しそっと抱き寄せる。 「ただいま、香藤。辛い思いをさせてすまなかったな。」 香藤は改めて確かめる様に岩城に手を回しそっと抱きしめる。 暫くされるままになっていた岩城がポツリと言った。 「香藤、お前からはまだ聞かせてもらってないぞ?」 「えっ、何を?」 香藤は身体を離し、戸惑った様に岩城を見る。 「出迎えたのは俺の方なんだがな?」 「えっ?あっ、そうか。ただいま、岩城さん。」 「お帰り。」 微笑んで見つめあい、そっと唇を重ねる。 「いつまでもこんな所にいたら身体が冷えてしまう。リビングへ行こう。」 「うん。そうだね。」 リビングのドアを開けると目の前のダイニングテーブルにたくさんの料理が置かれていた。 「岩城さん、どうしたのこれ?」 香藤が目を丸くする。 「ああ、社長が退院祝いだって言ってケータリング頼んでくれたんだ。お前と二人で食べるようにってな。冷蔵庫にケーキとシャンペンまで入ってる。」 「そうなんだ。凄いね。」 「クリスマスイブで予約もしてないのに、社長知り合いにかなり無理言って頼んでくれたらしいんだ。感謝しなきゃな。」 「そうだね。」 二人は改めてテーブルの上の料理を見る。立派なクリスマスディナーが出来そうだ。 「美味しそうだね。早く食べよう。」 「ああ。本当はちゃんと温めたりセッティングしたりしておきたかったんだが…。手がこれじゃあ思う様に出来なくて。」 待ち切れない様に言う香藤に岩城が申し訳なさそうに右手を上げて見せる。岩城の手に填められた白いギプスを見て、香藤が僅かに眉を寄せる。 「それ、まだ痛むの?さっきもまだあちこち痛むって…。」 心配そうな香藤に岩城は微笑んで見せる。 「手はひびが入ってるからな。時々ズキッと痛んだりする。身体の方は普通にしてれば痛みはないよ。ただ強く押さえたりたりするとまだ少し痛いだけだ。」 それを聞いた香藤の顔が曇る。 「じゃあ、さっき痛かったでしょ?俺思いっきり抱きついちゃったから。ごめんなさい。」 シュンとしてしまった香藤の肩を岩城がポンポンと叩く。 「酷く痛むわけじゃないからそんなに気にするな。それにさっきは俺もお前に抱きしめられた喜びの方が強かったから。」 岩城の言葉に香藤がおずおずと顔を上げる。 「岩城さん、それホント?」 「本当だよ。それよりお腹空かないか?早く飯にしよう。」 「うん、俺もお腹空いちゃった。急いで着替えてくるね。」 香藤はパッと笑顔になると階段を駆け上がって行った。 ダイニングテーブルに二人横並びで席に着く。 「メリークリスマス。そして岩城さん、退院おめでとう。」 「ありがとう、香藤。メリークリスマス。」 シャンペンで乾杯してディナーがスタートする。 右手の自由が利かない岩城のために香藤がせっせと口元に料理を運ぶ。 いつもならそんな事は嫌がる岩城も今日は素直に差し出された料理を口にする。 「岩城さん、美味しいね。」 「ああ、本当だな。」 また一口と差し出された料理を素直に口に入れ咀嚼している岩城を香藤がじっと見つめる。 「何だ?」 岩城が香藤の視線に照れた様に僅かに頬を染める。 「うん。素直な岩城さんって可愛いなって思って。岩城さんの手が治るまでずっとこうやって食べさせてあげるからね。」 「…なっ。バカッ。何言ってんだっ。」 岩城の顔が一気に赤くなる。 香藤と一緒に食事をする以上それは確実に実行されるだろう。 岩城はそれを思うと気が重くなる反面、気恥ずかしさとともに嬉しさも感じていた。 その後も香藤は甲斐甲斐しく料理を岩城の口に運び、最後にケーキまでしっかり食べさせた。 食事が終わると香藤はてきぱきと後片付けを始めた。 岩城は勧められるままにリビングのソファーに移動し、そんな香藤の姿を眺めていた。 香藤は凄いスピードで片づけを済ませると、嬉々として駆け寄って来た。 「岩城さん、お待たせ〜。」 「ご苦労様、香藤。」 香藤は岩城の左隣にそっと腰を下ろす。 「岩城さん。凭れても大丈夫?」 香藤が少し上目遣いになって訊いて来る。 「ああ、大丈夫だ。」 岩城は香藤の肩に手を掛け自分の方へ引き寄せた。 香藤は最初遠慮がちにしていたが暫くするとゆったりと身体を預けてきた。 「ねえ岩城さん、訊いていい?」 「何をだ?」 そのままの姿勢でお互いに目を合わせず話す。 「どうして記憶が戻ったの?」 香藤の髪を撫でていた岩城の手がピタリと止まった。 それを岩城の戸惑いだと感じた香藤は慌てて身体を起こす。 「ごめんなさい。嫌な事訊いちゃって。それにどうしてなんて分かる訳無いよね。」 岩城は焦って言い募る香藤の肩をもう一度自分の方へ引き寄せた。 「岩城さん?」 「いいから、このままで聞いてくれ。」 岩城は戸惑う香藤の頭を自分の肩に押し付ける様にすると話し始めた。 「記憶が戻ったのは夢を見たからだ。」 「夢?」 「ああ、おふくろの夢だ。」 「お義母さんの夢?」 「ああ、そうだ。」 岩城は夢の中での母との会話を香藤に話して聞かせる。 「ちょっ、岩城さんっ。岩城さん俺と別れるつもりだったのっ!?」 岩城の話を聞いた香藤が我慢出来ずに身体を起こし岩城の顔見る。 「心のどこかでその方が皆のためだと思っていたのかもしれない。」 「そんなっ…。」 涙を滲ませる香藤の目を岩城は真っ直ぐに見つめる。 「でも、おふくろに言われて改めて気が付いたんだ。俺がお前から離れて生きて行ける訳無いって。だからここに戻ってこれたんだ。」 「じゃ、俺も岩城さんもお義母さんに感謝しなくちゃね。これ以上無い最高のクリスマスプレゼント貰ったんだから。」 「本当だな。至上のクリスマスプレゼントだ。」 微笑む岩城の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 その後二人は一緒にお風呂に入った。 岩城の身体のところどころに打撲の痕が残っていた。 それを見て顔を曇らせる香藤に岩城が優しく言う。 「そんな顔するな。さっきも言った様に痛みもほとんど無いんだから。この痕だってもう少しすれば消えるさ。」 「うん。」 それでも香藤は痛まない様に細心の注意を払って岩城の全身を洗う。 髪も丁寧に洗うと後ろ抱きにして湯船に浸かった。 「岩城さん。親の愛情って凄いんだね。俺誰よりも岩城さんの事愛してるって思ってたけど、お義母さんには負けてるかもしれない。」 唐突に寂しさと悔しさが入り混じった様に香藤が呟く。 「馬鹿だな。親の愛情と恋人同士の愛情は全然別の物だろう?比べる方がどうかしてる。でも確かに親の愛って言うのは子供には計り知れない位強くて大きいものなんだろうな。父の愛は山よりも大きく、母の愛は海よりも深いって言うしな。」 「海よりも深い…か。本当にそうだね。お義母さん、亡くなってからもずっと岩城さんの事見守っててくれたんだね。」 岩城は香藤の首に頭を摺り寄せる。 「生前、散々心配させたのに、死んでからまで心配掛けるなんて、俺は本当に親不孝だな。」 「岩城さん…。」 岩城の腰に回した香藤の腕に少し力が入る。 「大丈夫だ。もう必要以上に悔やんだりしない。今は俺が幸せになる事が母さんへの一番の供養になるって思ってるから。」 「そっか。じゃあ、うんと幸せにならなきゃね。」 「ああ、そうだな。」 香藤が風呂の後始末を終えて寝室に上がると、岩城が窓辺に立っていた。 「岩城さん。どうしたの?」 香藤の声に振り向いた岩城がやわらかく微笑む。 「香藤、見てみろ。また雪が降ってる。」 香藤が岩城の隣に立って外を見ると、真っ暗な空から真っ白な雪が舞い降りていた。 「ホントだ。ホワイトクリスマスだね。」 雪を見つめる岩城の顔は先日とは違って穏やかな物で香藤は安心する。 「雪は綺麗だけど、いつまでもここにいると身体が冷えちゃうよ。もうベッドに入ろう?」 「そうだな。でもその前にお前に渡したい物があるんだ。」 そう言うと岩城は香藤の手を引きベッドに座らせ向かい合う様にして自分も腰を下ろす。 そしてガウンのポケットから小さな包みを取り出した。 「岩城さん、これは?」 香藤は驚いた様に目を見張る。 「俺からのクリスマスプレゼントだ。」 その言葉に香藤は満面の笑顔になる。 「開けてもいい?」 岩城から包みを受け取った香藤は一秒も我慢できないと言う様に訊く。 「ああ勿論だ。」 その言葉を待ちかねた様にいそいそと包みを解く。 現れたのはゴールドの太陽とプラチナの月、二つのリングだった。 「岩城さん、これ…。」 予想外の中身に香藤が驚く。 「これなチョーカーのヘッドだった物をお願いして指輪に加工して貰ったんだ。」 「どうしてわざわざ?岩城さんあんまり指輪しないのに。」 岩城の言葉に更に驚く。 岩城は香藤を優しい眼差しで見つめながらゆっくりと話す。 「俺が指輪をしないのは痕が残るからだ。仕事上あまり良くないだろう?でも今回は俺の気持ちをはっきりと形にしたかったから指輪にして貰ったんだ。指輪には他のアクセサリーと違って特別な意味があると思うから。お前はいつも言葉だけでなく、行動や時にはプレゼントという目に見える形で俺に愛情を伝えてくれる。俺はそれがとても嬉しいんだ。だから俺も目に見える形でお前に気持ちを伝えたいと思ったんだ。」 「岩城さん、ありがとう。俺、凄く嬉しいよ。」 香藤は岩城の深い愛情と思い遣りを感じ胸が熱くなった。 「香藤、左手出せ。」 香藤が左手を差し出すと岩城はケースから月のリングを取り出し、その薬指に填めた。 「えっ、こっちを俺に?」 「意外だったか?」 驚く香藤に岩城は残った太陽のリングを見ながら言う。 「俺も最初は太陽の方をお前にって思ってたんだ。その方が似合うと思ったし。でも俺には分からないけど店の人に月のリングが俺のイメージにピッタリだって言われて…。」 顔を赤くして言いよどむ岩城に香藤が先を促す。 「それで?」 「だから、その…。逆にしたら、月をお前が太陽を俺が持っていれば、離れていてもお互いを近くに感じられるんじゃないかと思ったんだ。」耳まで赤くして必死に言い募る岩城に愛しさが込み上げる。 「そうだね。これをしていればいつも傍に岩城さんを感じていられる。じゃあ、岩城さんにも填めてあげるね。」 香藤は太陽にリングを岩城の左手の薬指にそっと填める。 岩城は自分の指に填められた指輪をじっと見つめた。 「ここに香藤が居てくれるみたいだ。」 岩城は顔を上げて香藤をまっすぐ見つめる。 「香藤、これからもずっと俺の傍に居てくれ。」 「勿論だよ。誰がなんと言ってもずっと離さないからね。」 香藤が岩城の隣に移る。 そして結婚式の誓いのキスの様に唇を重ねた。 「本当は岩城さんが欲しいけどまだ無理だよね?でも抱きしめて眠るだけならいいでしょ?力入れすぎない様に気をつけるから。」 「ああ。俺もお前の腕の中で眠りたい。」 もう一度キスを交わしベッドに入る。 寄せ合った体から感じる互いの体温と鼓動に幸せを感じる。 やがて二人は眠りに落ちる。 何ものにも代えられない至上の宝物を抱きしめて。 終 03.12.2 グレペン |
<グレペン様>
※大長編でしたわv グレペンさんお疲れ様です(^o^)
ドラマを見るような気持ちを持って読ませて貰いましたv
2人を思う周囲の一の気持ちが伝わって来て・・・・感動ですv
グレペンさん素敵なお話ありがとうございます
尚、iconは香藤話なので使用させていただきましたv