『雨の中・後編』
あまりの突飛さに、香藤の思考回路は完全にショートしていた。 ソファーの背もたれに身体をあずけ、目をまん丸に見開いて目の前にいるモノを 見つめる。 口を半開きにして呆然とする香藤に気付いていないのか、煙の中から突如現れた 青年は優しげな微笑をたたえてしゃべりかけてきた。 「俺の名前は岩城京介だ。元に戻してくれてありがとう、香藤」 「いわき・・・きょうすけ・・・?」 なおも呆然としている香藤は、彼が言った言葉をわけも分からずくりかえす。 さっきまで小さくて可愛かった子猫は一体何処へ行ったのだろう・・・? まさか、目の前にいる自分とそんなに身長の変わらない彼がそうだとでも言うのか!? 開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。 「香藤?」 自分を見てぼーっとしている香藤に、岩城と名乗った青年は不思議そうに近づいていく。 そして彼の肩に触れた途端、つい香藤はその手を振り払ってしまった。 そしてすくっと立ち上がると、自分の両頬をばちんとはたく。 「これは夢だ!夢に違いない!!!きっと俺、また講義中に居眠りしてんだ!!」 そう言いながら香藤は、自分の頭を叩いたり頬をつねったり、部屋中を歩き回っ たりしている。 今度は岩城が呆然とする方だ。だが、先ほど払われた手の痛みを忘れられなくて・・・。 途端に岩城は床にうずくまって泣き出してしまった。 「わぁーん!!!」 「えぇっ!?」 急に泣き出した青年に、またも香藤は驚きの声をあげる。 そして現実逃避をしていたのも忘れ、青年に走り寄った。 「どうしたの!?ねぇ?何で泣いてるの!?」 焦ってわてわてと話しかけるのだが、青年は一向に泣き止んではくれない。 どうしたらいいか分からず、香藤は思わず青年を後ろから抱しめてしまった。 「っ!!」 「!!なに・・・?」 すると香藤のその行動に驚いたらしい青年は、腕の輪の中で身体の向きを変える。 そして香藤の顔を覗き込むと、香藤も驚いた顔をしていた。 どうやら、自分のこの行動に驚いているらしい。 それを見ていたら、何があんなに悲しかったのか忘れてしまった。 「・・・ぷっ、ふふあははっ」 つい噴出してしまった岩城の声を聞いて、香藤がはっと我に帰り、 何がそんなに可笑しいのかと岩城を見つめる。 そして、今初めてじっくりと岩城の顔を見た。 (な・・・なんて綺麗な人なんだろう・・・) 岩城が動くたびに、さらさらと音を立てて流れる黒髪。 男にしては白く、肌理の細かそうな肌。 すぅっと通った鼻梁に、ほんのりと桜色に色づく薄い唇。 そして、漆黒の夜空と煌く星を映したような瞳。 どれをとっても、香藤の周りにいたどの人間よりも美しかった。 そしてよく見ると、岩城の頭からは黒い猫耳がはえている! さらに腰(臀部?)の辺りからはしなやかで、これまた綺麗な黒いしっぽが! 「?香藤・・・?」 花のように笑っていた岩城は、香藤にじっと見られていることに気付き、 さも不思議そうに首をかしげる。 またその仕草の、なんと可愛らしいことか。 (やっぱり、あの猫がこの人なんだ・・・) 歳は香藤よりも少し上であろう。だが、なんともいえない愛らしさがある。 それは、猫だったときと何も変わっていない。 更に岩城は、かなり色っぽい格好をしている。 上は黒いスーツジャケットのようなものを着ているが、下は裸のようだ。 しかも、ジャケットのおかげであらかた隠れてはいるが、少しでも足を開いたら 奥の方まで見えてしまいそうである。 (ああああっ!やばいよ!!) 香藤は体温が急に上昇するのが分かった。頬も、心なしか熱いかもしれない。 なにせ、ほぼ裸同然の岩城とこんなに密着しているのだ。 (岩城さん男の人なのに・・・なんで反応すんだよ俺っ!!!) 香藤の股間は、正直にも少しだけ反応を見せていた。 岩城の色香にやられたようである。 とうの岩城はきょとんとしているのだが・・・。 「い、いわき・・・さん?ごめんね、少し離れてくれる・・・?」 香藤はどぎまぎと言う。そんな香藤に、きょとんとしていた岩城はくすりと微笑んだ。 「くっついてるのは香藤の方だろう?」 「えっ!?」 香藤の腕は、まだ岩城に回されたままだったのだ。 動揺してしまい、そんなことにも気付けなかったことに香藤はますます赤面する 。 「ごごご、ごめんね!!す、すぐ、離れるから!!!」 慌てる香藤に岩城はまたくすりと笑みをこぼした。 それと一緒に、しなやかなしっぽがゆらゆらと揺れる。 それはまるで、香藤を誘っているようにも見えて・・・。 (ううう・・・可愛いよぅ・・・じゃなくて!) 香藤は自分の煩悩を散らすのに必死だった。 いくらなんでも会ったばかり、しかも男性の岩城にこの反応はまずい。 少し離れ、お互いにソファーへ腰掛け直す。 「んと、岩城・・・さん?聞いてもいいかな?」 「ん?何だ香藤?」 きゅるんとした表情で聞き返してくる岩城は本当に可愛くて、 怖いとか気持ち悪いという感情が全くわいてこない。 どう見たって岩城が自分に危害を加えるようには見えないし・・・。 それに、岩城なら素直に答えてくれそうだ。 「それで、岩城さんは一体何者なの?どうしてさっきまで猫だったの?順をおっ て詳しく話してよ」 ここは真面目に紳士に、という香藤の気持ちが通じたのか、 初めは躊躇していた岩城だが、ぽつりぽつりと少しずつ話し始める。 そして岩城の話はこうだった。 自分は半分人間で半分猫という家系の生まれだということ。 猫型には自分の意思でなれるが、人型にはある特定の人間から受ける接吻によってしかなれないこと。 自分は、親元を離れて1人で暮らす為の旅に出ていたこと。 あの公園にいたのは、猫型のときに嫌な人間に捕まって、そこから逃げ出してきたからなど。 何とも信じがたい話なのだが、さっき実際に見たのだから疑いようがない。 「大体状況は飲み込めたよ。でも岩城さん、俺まだ疑問な点があるんだけど」 「何だ?何でも聞いてくれ」 何でも聞いてくれといわれても、少々戸惑い気味になってしまうのはいざ仕方のないことだろう。 思ってもみなかったことを次々に話されたのだから。 状況は分かったが、不思議な点は尽きることがない。 「うん・・・。あのさ、岩城さんの本当の姿って猫か人間かどっちなの?」 「どっちも本当の俺なんだ。俺はどちらかというと猫の方が濃いが」 「それじゃぁ、人型になっても耳としっぽがついているのは?みんなそうなの? 」 「いや、さっき言ったように俺は猫の血が少し濃い。耳としっぽは隠すことも出来るが、 気を抜くと出てきてしまうんだ」 「へぇ〜・・・・・・」 一応は納得するが、まだよく理解しきれていないかも・・・。 何しろ予想外の事がいっぺんに起きすぎている。いい加減許容範囲を超えそうだ。 だが、今の話を聞いて香藤ははっとした。 (そういえば俺、猫型のときの岩城さんを散々触りまくっちゃったよ・・・) 今思うと顔が火照る。そして、にやける・・・。 (まずい!顔が緩んじゃうぅ!!) 香藤はぐっと顔の筋肉に力を入れた。 気をそらすように話を進めていく。 「えっと・・・、岩城さん今旅してるんだったね。今日泊まるところとかあるの?」 香藤の質問に、さっきまで微笑んでいた岩城の表情が急に曇る。 まずい質問をしてしまったかと香藤が思ったのもつかの間、岩城はまた小さく泣き出してしまった。 「ぐず・・・。実は・・・今まで猫型になって色んな家でお世話になっていたんだが、この辺はあまりいい家がないんだ。さっきだってとんでもない人間に捕まってしまい、やっと逃げてきたところだし・・・。だから今夜は野宿するしか・・・」 それを聞いて香藤は目を見開いた。まだ10月の半ばといえど、夜はかなり冷え込む。 それにまだ雨が降っているし・・・。 「野宿なんてダメだよ!!絶対風邪ひいちゃう!下手したら死んじゃうかもしれないんだよ!?」 「でも、他に方法がないだろう・・・?」 くすん、くすんと涙を流しながらそう言う岩城に、香藤は思わず彼の両手を握って引き寄せてしまった。 「何言ってんの!岩城さんは俺が拾ってきたんだからね!ここに泊まればいいよ!ってか、ここにいてくれると俺嬉しい!!」 「香藤、本当か?」 さっきまで泣いていてかわいそうな位沈んでいた表情が、あっという間にぱぁぁと明るくなる。 香藤はまた、「何て素直で可愛いんだろう」と思った。 「もちろんだよ!ずぅぅっとここにいて!岩城さん!!」 「香藤っ!!」 嬉しさのあまりか、岩城が抱きついてきた。 ボっと赤くなった香藤に気付かず、岩城はしきりに「ありがとう!ありがとう!」と言っている。 かくして、1人と1匹(?)の不思議な同居生活が始まったのでした。 そして、香藤の受難な日々も・・・。 「い、岩城さーんっ!とりあえず服着てよ〜っ!!!」 fin なんのひねりも無い話しですみません(>_<) 最後まで読んでくださりありがとうございましたvv |
きゃあんv 岩城さんに猫耳&尻尾!
それだけで倒れそうですv
それにもましてなんて感情表現の豊かなことv
凄く新鮮な岩城さんでした(^o^)
森谷さんありがとうございますv
なんと番外編もありますのです〜v
お楽しみくださいませ!