『雨の中番外編・幸せな時間を…』





岩城さんと暮らし始めて、2週間ちょっと。
猫から人間に変わったり、人間から猫になったり。
初めて見たときはかなり驚いた。でも、今はもう大分慣れた。

岩城さんは猫型ですごしていることが多い。
だから人間としての生活には慣れてないんじゃって思ったけど、そうでもないみたい。お風呂もトイレもちゃんと使えてるし。
もちろん猫用のも部屋の隅に置いてある。
岩城さんと暮らすようになってから、少しでも気持ちよく過ごしてもらう為にすぐ買いに行った。

岩城さんは旅の途中らしい。でもそんな急ぐ旅でもないし行くあてが
はっきり決まっているわけではないので、結局ずるずると長い間ここにいる。
俺的には、ものすごく嬉しいけど。

寝るところは一緒。俺のベッドで2人で寝てる。
「別々の方がいいよな?」と思って俺はリビングの床に布団を引いて寝てたんだけど、
いつも岩城さんは俺の布団に潜り込んできちゃう。
だから1週間前くらいから一緒に寝てる。

でも、嬉しい反面結構キツイ・・・。

猫型のときは別に平気なんだけど、人型のときはちょっとヤバイ;
岩城さんは寒がりらしく、俺にべったりくっついて眠る。
ベッドも狭いし仕方ないんだけどさぁ・・・。

更に、岩城さんはものすごく甘えん坊だ。
歳は俺より5つくらい年上らしいんだけど、ものすごく子供っぽい。
表情がころころ変わるし、些細なことでもすぐ悩んじゃうし。
繊細で、傷つきやすいんだ。

俺が大学から帰ると、猫型でしっぽをゆらゆらさせながら足元に擦り寄ってくる。
そんな岩城さんを抱っこしてリビングまで行く。
ソファーに座って岩城さんを膝に乗せてあげると、決まって岩城さんはキスをねだる。
人型に戻りたいからだって分かってるんだけど・・・結構クる;

岩城さんにとっては"キス"って何でもないことなのかもしれない。
でも岩城さんに惹かれ始めてる俺には、かなりキく起爆剤。
気を抜けば出てきてしまいそうな欲望と、必死に戦う日々だ。
だって、猫型とは言えくりくりの目で見つめながら、ふわふわのお顔を首元にすりすりしてくるんだよ!!
しかも「にゃぁ〜」なんて可愛い声で鳴かれ、じっと見られたら・・・・・・・・。

岩城さんは男なのに・・・。
まだ会って間もないのに・・・。

それでもたまらなく惹かれる。岩城さんに吸い寄せられちゃう。
公園で初めて会ったときから、もうおちてたのかもしれない・・・。

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「はぁ〜・・・・」
「・・・みゅ〜?」

俺の座っているソファーの横で毛づくろいをしていた岩城さんが、
大きすぎる溜息をきいて心配そうに擦り寄ってくる。
俺の膝にぴょんっと飛び乗って、行儀よくおすわりしながら首をかしげた。
目で「どうかしたのか?」と訴え掛けてくる。

「なんでもないよ、岩城さん・・・」

俺は岩城さんのぴんっと尖った耳を優しく撫でながら、そう答えた。
少し笑った俺に安心したのか、岩城さんはほっとしたみたい。
撫でる俺の手が気持ちいいらしく、目を細めて嬉しそうだ。
そして、いつものように俺の胸に飛び掛って顔を近づけながらキスをねだる。
俺が可愛く引き結ばれた岩城さんの口元に「ちゅっ」とキスをすると、ボンっと音がして岩城さんが人型に戻った。
格好はいつもの黒ジャケット。今日は耳としっぽは隠れているみたい。

(本当に綺麗過ぎて・・・俺参っちゃうよ・・・)

俺は思わす苦笑してしまった。

岩城さんは俺に横抱きにされながら、俺の首へ腕をまわしてくる。
誘っているような仕草。
でも、岩城さんからしたら、ただじゃれてるだけ。

「香藤が元気ないと俺まで暗くなる。何か悩みがあるなら何でも言ってくれよ?」

にこにこと微笑みながら、またそんな可愛いことを言う岩城さん。
岩城さんの無意識の仕草や言動が、俺をいつも惑わす。
きっと、そんなことにも彼は気付いてない。

「ありがとう、岩城さん」

俺は岩城さんを抱しめた。
今の状態が一番ベストな状態なんだ。
岩城さんがここにいてくれるだけで、俺はこんなにも優しい気持ちになれる。
これ以上を望んだら、きっとバチがあたるよ。

そう自分に言い聞かせて。
今はまだこのまま。
幸せな一時を・・・。

fin

作*森谷



・・・・にゃんこの岩城さんがじゃれてきたら・・・・
平常じゃいられないですわ!!!
香藤くん・・・よく我慢しています
岩城さんを驚かせたくない、今はまだ・・・ってところでしょうv

素敵な岩城さんと優しい香藤くんを堪能しましたv
森谷さんありがとうございました!