―――香藤 洋二―――



月明かりの中に、近所の紅葉が色付き始めたのを見て、秋が深まった事を知る。

満月の優しい明かりが、紅葉の朱を際だ立てている。

『こんな中で岩城さんとお月見したいな』

急に思い立ち、川べりまで行ってようやくススキを手に入れ、急ぎ家路を急ぐが遅くなってしまった。

昔は何処にでも在ったススキがこんなに無くなっている事実に驚いた。

災害が起こらないように河川を工事した為に、自然のススキなどが無くなっている。

『寂しいな』

この時期は、ついセンチメンタルになってしまう。



太陽の光りを受けて、やわらかい光りに変えて地球に降り注ぐ。

眠りを優しい明かりで、受け止める

そんな月に香藤は岩城を重ね、思い浮かべる。

昼間の暑い空気を心地よい温度に換えて、風がそよぐ。

そんな中を香藤は急いで家たどり着いた。

明日は縁側に飾って、岩城さんとお月見をしようと目論んでいた。



玄関を開けると岩城の靴があるのを見て、香藤の表情は明るくなった。

ススキを風呂場のバケツに水を張って入れると、岩城の姿を捜して奥の畳の部屋に行った。

縁側より、外に出て岩城は空を見上げていた。

月明かりの中に、その凛とした姿を浮かび上がらせている。

『岩城さん、綺麗‥‥‥でも、表情が苦しそうだけど、どうしたんだろう?』

香藤は岩城に気づかれていないことを良い事にして、岩城の姿を見詰めていた。

ハラリ‥‥‥

岩城の足元に朱色の何かが舞い散る。それを合図にしたかのように岩城の目元から一筋の物が月明かりに光って落ちていった。


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