『思い・・・・・・そして未来(いま)へ』



                       ―――岩城 京介―――



ススキの野原

昔、母を喜ばせようと見つけて、腕に傷を作りながらもいっぱいに抱きかかえて持って帰った記憶が残っている。

母は喜んで、でも、腕の怪我を心配そうにしていた。

『大丈夫だよ』

笑って久子さんに手当てをしてもらうと、笑い返す。

母も安心したように微笑み返してくれた。



『明日は中秋の名月か‥‥‥』



見上げるお空に真ん丸いお月様

団子とススキ、横に母と父と兄が縁側に並んでいた。

子供ながらお月様を眺める事より、お団子に気が行っていた気がする。久子さんの作るお月見団子は美味しかったから‥‥‥

その中から自分だけ離れた、後ろをふりかえることも無く、がむしゃらに我侭を通して此処まで来た。

香藤が背中を押してくれたから、今、家族と絆を結びなおせ、心が少しずつ近づいている事は、間違いないだろうと思っている。

でも、心の中でこれが母の生きている間に出来なかった事が、悔やんでいるのも事実だった。



こんな事を思えるようになったのも、太陽の光りに触れたからだ。

心を暖めてくれる、俺の側にいる暖かい太陽のような存在‥‥‥香藤‥‥‥



あの母に会えない‥‥‥最後の親不孝‥‥‥

心にチクッと痛みが走る

本当に?このままでいいのか?

香藤と暮らし続けていいのですか?

天を仰いで言葉を向ける‥‥‥月が少しずつ満ちていく

瞳から暖かいものが、頬を伝っていった。

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