ひまわり
『岩城さん。ほらほら。見て!ひまわり畑だよ。うちのとどっちが大きいかな?』 というメールに添付された画像には・・・画面いっぱいの香藤の笑顔。 隅の方にちょっとだけ黄色い花弁らしきものが写っている。 苦笑しながらリビングのカレンダーを見た岩城は、 「雑誌の撮影か。おまえしか見えないけど。まぁいいか」 独り言を言って携帯を閉じ、庭のひまわりに水をあげるために立ち上がった。 「ひまわりを植えたいんだけど・・・」 桜が葉桜になった頃、突然、香藤が言い出した。 庭は岩城のものだと思っているらしく、一応、お伺いをたてているらしい。 「チューリップも終わっちゃったしさ。ひまわりは簡単でしょ」 「なんでも育てるのは簡単じゃないぞ。チューリップで楽しくなったか?」 「まあ。そんなとこ。俺さ。小学校で観察するやつ。ひまわりだけは大丈夫だったから。簡単かなって」 「ひまわりだけ?」 あさがおも水栽培のヒヤシンスもひまわり以外は全滅だった。 ひまわりだけが家に持ち帰ることなく小学校の花壇で育てられたからだと香藤は気が付いていない。 小学校から持って帰った花はみんなダメになってしまう。 最初のうちこそ世話をするが小学生の香藤にとって家の花に水をやるより遊ぶ方が優先だったのだ。 香藤の母は躾のためにと何も手伝ってはくれなかった。 「洋子にもすごくバカにされた」 渋い顔の香藤に反比例するように岩城が笑い出した。 子供の頃の話を聞くのは好きだ。自分の知らない香藤に会えるから。 「もう。岩城さん。笑いすぎ。だからひまわり植えたいの!」 「すまん。香藤。ひまわりか・・・いいがな」 「あれ?なんかあんまりな感じだけど岩城さんはひまわりは嫌い?」 「嫌いじゃないんだが・・・小さい時に読んだ本でちょっとな」 「なに?なに?どんな話だったの?」 ・・・ひまわりは水の精クリュティエ。 水の精クリュティエは太陽の神アポロンに恋焦がれていました。 でもその想いは叶いません。 クリュティエは何日も何も食べずに自分の涙と冷たい露だけを口にして 日の出にアポロンが現れてから地の果てに姿を消すまでずっとアポロンを見つめていました。 9日が過ぎた頃クリュティエの姿は1輪のひまわりになったといいます。 ひまわりの花言葉は「あなたをみつめてる」 「だからひまわりは成長する時、太陽を追っかけるんだそうだ」 「なんかちょっと悲しい話だね」 「そうだろ。でもきっとおまえと育てられるなら、ひまわりもいいかもしれないな」 少しして香藤が表紙の雑誌が発売された。一面のひまわりと香藤。 そしてインタビュー記事にこんなコメントを見つけた。 ”俺のイメージがひまわり?それはうれしいかも” ”だってね。追っかけてるから” ”ひまわりってさ。成長する時、太陽を追っかけるんでしょ?” ”俺もね。追っかけてるから…太陽を。ずっとね。仕事面ではまだまだだしさ” ”でもね。俺はひまわりにはならないよ。だってね。太陽が振り向いてくれたからさ。そばにいるの。太陽がね” 夏の陽射しとどこまでも透き通った香藤の笑顔。 岩城がその雑誌をこっそり自室にしまったのは内緒である。 <おまけ> 「ハムちゃんのエサはまだですかぁ〜?」 元気な洋介の声が電話口から響いた。 「洋介。今は花が咲いてるから種はまだまだだよ」 家に遊びに来た時にひまわりをみつけた洋介は大はしゃぎだった。 洋介の家にやって来た新しい家族はハムスター。 「ハムちゃんにあげるからちゃんと種とっといてね。約束だよ!」 「洋介。楽しみにしてるんだな。でも市販のに比べて種の中身が薄いらしいが大丈夫なのか」 「いいんじゃない。岩城さん。だって大漁だもん♪」 「香藤。それは魚だろ」 「あっそっか。ひまわり大豊作!」 「クスクス。やっぱりおまえは花より団子だな。今度は野菜でも植えとくか」 「ひどいよ。岩城さん」 「怒るな。香藤。どんなものでもおまえとならそれでいい」 「岩城さん・・・ずるい」 次に岩城・香藤邸に何が植えられたかは謎である。 H17.8.21 千尋 |
お題は「ひまわり」
夏の空に向かって咲く花は香藤くんのイメージ
でも太陽はそばにいるから・・・という彼の言葉が印象的ですv
洋介くんも大きくなったんだろうな・・・としみじみv
千尋さん、素敵な作品をありがとうございますv