天の川
日中には夏らしく気温も上がる7月上旬も、夜ともなればまだ涼しい風が窓から入り込んでくる。窓に面したリビングも、その入り込んでくる風で、過ごしやすい温度を保っていた。 それでも、少しその風が肌寒く感じ始め、ソファでくつろいでいた岩城は立ち上がり、窓を閉めようとした…ところで、ふと空を見上げてその行動を止めた。 「…どしたの? 岩城さん。何か外にあった?」 そんな岩城の様子に怪訝そうな表情で首を傾げ、背後からソファに腰を下ろしたまま香藤は問いかける。 「いや…東京の空は、相変わらず星が見えないなと思ってな」 そう呟く岩城の言葉に、香藤もソファから立ち上がり、岩城と並ぶように窓際から空を見上げれば、空は雲こそ無いものの、上空には何の瞬きも無く…。 「都市部とかは夜でも照明とか色々あって明るいから、星が見えないんだっけ。何か勿体ないって気もするよね。今の時期ならきっと天の川が広がっている筈じゃないかな?」 「天の川か…。昔聞いたな。織女と牽牛の伝承を」 「確か一年に1度しか会えない夫婦の話だよね。でもさ、いくら何でも一年に1度しか愛し合っている二人が会えないなんて、酷いなあって今でも思うけどね。もし俺が岩城さんとそんな事になったら、絶対に我慢出来ないし。俺、毎日だって天の川を泳いで逢いに行っちゃうだろうな」 「そんな事にならないように、気を付けようって言わない辺りがお前らしいな」 自分の隣りに立ち、いつの間にか肩へと片腕を回して、軽く引き寄せている香藤へと軽く笑いかけながら岩城は呟き、そのまま空を仰ぎ見る。 都会では見ることの出来ない天の川…。 果たしてそんな状況でも、天の上で恋人同士はちゃんと会うことが出来ているのだろうか? ふと、そう思った時…。 「ああ、そういえば、春に見ることが出来る天の川があるんだが…知っているか?」 「え?何それ。そんなのあるんだ?まさかプラネタリウム…なんて言ったりしないよね?」 岩城の言った言葉に、少しだけ驚いた表情で、それでも興味がありそうな声で香藤が聞いてくる。 「そういうのなら春だけじゃなくて、年中見られるだろ? 桜の品種であるんだよ、天の川というのが」 岩城がその花の事を知ったのは、春に撮影したドラマでのロケ地でのこと。 丁度小高い丘の上…一面に咲き誇る、薄紅の花。 それは一見、桜の花の様に見えた…のだが、全ての枝も花も天を向いており、普通に見る桜とは少し異なるような…そんな花だった。 そして、その花に目線を奪われていた時。 『それは天の川って品種の桜ですよ。花が白いのは七夕って言うんですけどね。少し普通の桜と変わっているでしょう?』 やはり、自分と同じように、その少し変わった桜の木を見ていたドラマの関係者が、そう教えてくれたのだ。 「桜の花か…いいな、それ。桜の花ってさ、何となく岩城さんにも似ているしね」 くすっと微かに声を立てて笑い、香藤が岩城の表情をまじまじと眺めつつ、そっと手を伸ばし慈しむ様に軽く頬に触れる。 「凛としていて綺麗で…凄く強い印象があってさ…見ていると目が離せなくなる。そんな感じが凄く桜と似ている」 「そういう事を言うのは、多分お前ぐらいだろ?全く…」 そう言いながら、岩城は軽く香藤の髪を梳くように頭を撫でた。 心地の良い、手に馴染んだ髪の柔らかな感触に、そのまま気持ちまで和らぐのは気のせいではないだろう。「だけど…花が咲く時期になったら…さ、岩城さんと一緒に見に行きたいな、その天の川」 「ああ…そうだな」 春になったら二人で一緒に、あの場所へ…。 織女と牽牛が離ればなれとなっている天の川。 それと同じ名を持つ桜並木の元で。 絶対にお互い離れないように、しっかりと手を握りしめながら。 H17.8 こげ コメント …何で夏のお題で星の天の川の事を書くべきなのに、桜の話が中心になっているんだろう私…。 ともあれ、初書きの話がこんなん甘々のへっぽこで、本当にどうしようって感じで…済みません。まだまだ書き慣れていないと言うか、読みが甘いというか、もう未熟者丸出しの初心者マーク5.6枚付けておけって感じの話で、これから穴掘って潜って岩城さんと香藤さんをちゃんと書けるように修行し直してきます。 他にこのお題で書きたかった方には、本当にこんな外した話書くヤツで申し訳なく。 でも、書けて私自身は嬉しかったです。 書く機会を下さいました管理人様には、感謝致します。 そんな訳で、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。初心者マークのこげでした。 |
お題は「天の川」
そういう名前の桜があることを初めて知りました
岩城さんのイメージは桜そのものですよね・・・v
是非春になったらふたりで桜並木を歩いて周囲の目を釘付けにv(笑)
こげさん、素敵な作品をありがうございます