ディープキス〈うきうき・ウォッチング〉
お昼のバラエティ番組が始まる時間。岩城は慌ててリモコンでTVのスイッチを入れた。今日、香藤がこの番組にゲストとして出演するのだ。香藤の登場を心待ちにしている自分がいる。香藤が地方にロケに行ってからもう1週間、逢っていないのだ。 「お昼の生放送番組にゲストで出ることになったから。岩城さん、オフでしょ? 見てね見てね」と、携帯に電話があったのは昨日の午後。 今日の香藤の予定では、地方ロケから戻ったあと、夕方から都内での撮影がスケジューリングされていたはず。ゲスト出演はその合間に組み込んだらしい。夕方の撮影が終われば翌日は二人揃ってオフ。今夜は久しぶりに二人でゆっくり過ごせるけれど、生放送の香藤を見逃すわけにはいかない。 いつものテーマソングが流れた。 「今日のゲストは香藤洋二君です」 キャーッ。黄色い歓声と共に登場したTVの中の香藤の姿に、思わず笑みがこぼれる。画面が華やかさを増す。元気そうな笑顔に安心する。 祝電や花が紹介されたあと、いきなり司会者が突っ込む。 「それで、岩城君とはどうなの? 相変わらず?」 「ラブラブですよ〜。お昼にここにゲストで出るって報告したから、うちで見てくれてると思います。岩城さ〜ん、今日はあんまり遅くならずに帰るからね〜」 カメラに向かって無邪気に手を振る香藤。再び黄色い歓声が上がる。 岩城は赤面し、額を手で押さえながら「まったく……のろけはその程度にしてくれよ」と、つぶやいた。 司会者がぼやく。 「だいたいさあ、人気俳優が恋人と相思相愛なのに、なんで黄色い歓声があがるんだよ。おかしいよ(笑)。普通ね、イケメンタレントは恋人ができたり結婚したりしたら人気が落ちるもんだよ。君たちはさあ、人気うなぎのぼりでしょ? 男同士だからかなんだか知らないけどさあ、反則だよ!(笑)」 会場がどっと沸く。 「俺は岩城さんと恋に落ちただけですよ。悪くないも〜ん。反則だなんてひどいですよ〜(笑)」 恋に落ちたという言葉に、会場がオーッと反応する。 恒例のお友達紹介。司会者が香藤に岩城を紹介しろと迫る。 「実は俺、岩城君のファンなんだよ。岩城君って、男から見てもきれいだよね〜」 「だめですよ〜。明日は二人揃ってオフなんです。岩城さんを紹介したら、1週間ぶりなのに二人でゆっくりできなくなるもん」 また黄色い歓声が上がり、TVの前の岩城は再び額を押さえた。香藤は現在ドラマで共演中の人気女優を紹介した。 「次の現場で、またスタッフにからかわれそうだな」と、岩城はひとりごちる。 CMが入ったところで、コーヒーを入れるためソファを離れる。TVはスイッチを入れたまま。香藤が、番組の最後にドラマの宣伝をすることになりそうだと話していたからだ。もしかしたら、エンディング前に顔を出すかもしれない。コーヒーを持って慌ててソファに戻る。香藤を見逃すまいと一生懸命な自分に苦笑いする。 そろそろエンディング……と思っていたら、玄関に人の気配がした。えっと思う間もなく、ドタドタという足音に次いで、リビングのドアがバーンと開いた。 TVの衣装そのままの香藤が飛び込んできて、ソファでぎょっとして中腰になっている岩城に抱きついた。 「岩城さ〜ん、逢いたかったよ〜」と、顔を岩城の肩に押しつける。 「は?? か、とう? お前、何で? 生放送は?」 香藤は、事情が飲み込めない岩城の手からコーヒーカップを取り上げてソファのテーブルに置き、両手で岩城の顔をはさんで口づけた。唇が強く重ねられて、香藤の舌が押し入ってくる。GIGOLOの香りが鼻腔をくすぐる。ゆっくり歯列を撫でられたあと、いきなり舌が激しく絡み始める。吐息がもれる。思わずふらつく岩城の腰を、背中に回った香藤の両腕がしっかりと抱きしめる。 熱烈な、熱烈なキスに徐々に体温が上がっていく。声が出せない。目を開けられない。でも、そのキスに、吐息に、香りに、鼓動に、髪の毛に、抱擁に、広い背中に岩城は1週間ぶりの香藤を実感する。香藤が帰ってきたことは間違いない。香藤の体温にぽっかり空いていた心の穴が満たされていく。自然に両腕が香藤を抱きしめる。徐々に香藤に体重を預けようとする自分がいる。 香藤の右手が岩城の首の後ろに固定され、さらに執拗に唇を求められる。どんどん身を乗り出す香藤の舌が激しく口腔内を貪る。岩城の顎と呼吸が上がり、香藤のキスに応える余裕が消えていく。貪られるまま、マヒしたように反応できなくなった唇をさらに香藤が貪る。全身が熱くしびれ始めて手足の力が抜けそうになる。座り込みそうになった岩城を、唇をはずした香藤が抱きとめた。 「岩城さん、ごめん。これから先はまた夜、帰ってからね」 抱きしめられたまま囁かれ、恋人の声が胸に響いて、岩城は我にかえる。そして、愛おしそうに香藤の顔を両手で包み、自分の目の前に持ってきて、瞳を開いた。 「よく顔を見せろ……お帰り、香藤。お前はいつも俺を驚かせるんだな……帰ってからって……また出かけるのか?」 「岩城さん、ただいま〜。すぐに夕方の撮影に行かなきゃ。地方ロケの間中ずっと、岩城さんに逢いたいよお〜って叫んでたら、“最終日、都内で撮影現場に移動する途中で家に寄れるかもしれませんよ”って金子さんが提案してくれて。俺、我慢できなくなって……。ゲスト出演のスケジュール、入っちゃったから忙しくなったけど、だったら、エンディングに出るって言っておいて、岩城さんを驚かせようって昨日から計画したんだ。ねぇねぇ、びっくりした?」 いたずらっぽく笑う香藤の問いかけには直接答えず、笑いながら両頬をぎゅーっとつねってお返しする。 「いた〜い、岩城さ〜ん。これから俺、撮影なんだよ〜」と、香藤が口をとんがらせた。 その唇に今度は岩城から唇を重ねる。舌が、唇がお互いを求め合うのが抑えられず、しばし時間が止まる。やっとの思いで唇をはずし、岩城は香藤を送り出した。 二人はキスに夢中で気づかなかったが、例の番組のエンディングでは、司会者が「香藤君、間に合ったか〜?」と叫んでいた。ゲスト出演のCM中に香藤は、「エンディングに間に合うように自宅に戻って、岩城さんをびっくりさせようと思って〜」と、のろけをかましていたのであった。次の週末の再放送で、そんな香藤のお茶目な笑顔がお茶の間に流れたのはいうまでもない。 2004.5.7 ゆみ |
★見たいです!その番組・・・なんて美味しい!!
もう見た人みんなきゃああ〜もんですよ!
いいなあ〜v
何処でも誰にでも惚気る香籐くん・・・・幸せだねv
少しの時間の間にも岩城さんに逢いたい!っていう気持ち・・・・とっても伝わってきましたv
ゆみさんお題クリアお疲れ様でした