頂戴!
「・・ん・・」 ふわふわとした浮遊感を伴い、俺の意識は徐々に引き上げられていく。 ゆっくりと目を開けると、ほんの数センチ開いたカーテンの隙間から入り込んだ一筋の光が天井に映し出されていた。 それを見て初めて、新しい一日が始まったのだとぼんやり認識する。 「・・岩城さん・・」 仰向けに寝ていた俺は、シーツに投げ出されている自分の左腕が軽いことに気付き 隣で俺の腕を枕にして寝ているはずの愛しい人を確認しようと、視線を向けた。 すると 「・・あれ?」 その人はいつの間にかベッドから姿を消していて。 まだボーッとした頭で、俺は昨夜の情事のあとの会話を思い出していた。 ああ、そうだ。 今日、俺は昼から仕事で岩城さんは一日オフで 朝食を作り終わったら起こしに行ってやるからそれまでゆっくり寝てろって言われたんだ。 岩城さんだってずっと仕事が忙しかったんだから、オフの日くらい寝てればって言ったんだけど。 そしたら軽く睨まれて 『・・そんなことしてたら、お前はいつまでたってもベッドから出ないだろ。』だって。 ・・仰る通りです。読まれてるなぁ、完全に。 でも、岩城さんが俺のこと気遣ってくれるのはすごく嬉しいから それに甘えさせてもらったわけだけど。 こんなこと言うのは贅沢だってわかってるけど でも 目覚めてすぐに岩城さんの顔が見れないのは ・・ちょっと寂しい。 「・・起きるか・・」 わざわざ起こしにきてもらうのもなんだし。 そう考えて、俺はまだ気怠さの残る上体を起こそうとした と、そのとき トン トン トン トン 階段を昇るリズミカルな足音が聞こえてきて。 例え百億人の中にいたって必ずこの音は聞き分ける自信がある。 岩城さんの足音だ。 それから廊下をパタパタと歩く音。 少しずつ距離が縮まっていくのがすごく嬉しくて。 自然とにやけてくるのを隠すために俺は頭からすっぽりと布団を被った。 寝室のドアの前で足音が止んだ。かと思うと、コンコンとドアをノックする音。 そして、岩城さんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。 「・・香藤?起きてるか?」 布団を被ったまま返事をしない俺に、まだ寝てると思ったんだろう。 静かにドアを開け部屋に入ってきた岩城さんはまず、窓まで行きカーテンを開けた。 一気に部屋に射しこんでくる陽の光に包まれた岩城さんが何かキラキラしてて。 そおっと目だけ出して見惚れてしまっていた俺は、岩城さんがベッドに視線を向けた瞬間、慌てて布団を被った。 ・・どうやらまだ気付いてないみたいだ。 「香藤、もう時間だぞ。そろそろ起きろよ。」 ベッドに腰掛け、そう言って布団の上から俺の体を揺する岩城さん。 ・・あ、これマッサージみたいで結構気持ちいい。 何とも心地よい振動に、俺はニマニマしながら身を任せていた。 すると 「・・香藤?」 ・・あ、ちょっと口調がきつくなってきたぞ。そろそろ顔見せてあげないと。 「香・・」 「・・おはよ、岩城さん。」 布団を少しだけずらし、顔だけを出して俺は岩城さんを見つめる。 いよいよ本腰を入れて起こしにかかろうとしていた岩城さんはどうやら拍子抜けしてしまったらしく。 「・・何だ、起きてたのか。」 そう言ってフゥと息を吐き、俺の額をコツンと小突いた。 「ったく・・起きてるなら起きてるって最初から言え。」 「・・はぁ〜い。」 少し可愛らしい?声で返事をすると、岩城さんは『仕方ないな』とばかりにフワリと笑う。 俺の一番好きな岩城さんの顔。見てるだけですごく幸せになれる魔法みたいな笑顔。 この笑顔があれば、俺は何も怖くない。 まぁ、岩城さんなら怒った顔も泣いた顔も最高なんだけどね。 「もう朝ご飯できたから、早く服着て降りてこいよ?」 そう言って俺の頭を撫で、岩城さんはベッドから立ち上がろうとする。 あれれ?岩城さんもう行っちゃうの? 「あ・・!」 「ん?」 思わず声を上げてしまった俺に、岩城さんは不思議そうな顔を見せた。 「なんだ?どうした香藤。」 「え・・いや・・」 ゴニョゴニョと口篭もる俺を岩城さんは少し心配そうに覗きこんできて。 濡れた黒曜石のような艶っぽい瞳に俺の顔が映りこんでるのがはっきりわかるくらいの距離で、岩城さんが不安そうに俺の名前を呼ぶ。 「香藤?具合でも悪いのか?」」 その声音から岩城さんが本気で心配してくれてるのが手に取るようにわかって。 「・・そうじゃないけど・・」 こんなこと言ったら絶対怒られるかな・・なんて思うんだけど でも 「だって・・岩城さん、一番大切なこと忘れてる・・」 「・・は?」 「別に具合悪いわけじゃないけど・・このままじゃ元気出ないもん、俺。」 少し拗ねた口調で訴える俺に、岩城さんはキョトンとして。 それから首を傾げ、何か考えたかと思うと『ああ!』とでもいうように左手の平を右の拳でポンと叩いた。 そしてすぐに、頬をほんのり染め、可愛らしくはにかんで。 「・・なんだ。お前にはそれが一番大切なことなのか?」 「うん!」 そうだよ。俺には岩城さんが全てなんだから。 だから早く元気の素を俺にちょーだい!! 「早く早く!」 「しょうがない奴だな・・」 飼主に散歩をせがむ犬みたいな俺に、岩城さんはクスクス笑いながらゆっくりと被さってくる。 そして チュッ 俺の前髪をソッとかきあげ、額にキスしてくれた。 それから チュッ 次は瞼 その次は左頬 そして右頬 岩城さんの唇が触れた場所が妙に熱くて くすぐったい。 「もういいか?」 「だ〜め!」 コツンと俺の額に自分の額を当て、岩城さんが意地悪く訊いてくる。 そんなこと言って、わかってるくせに。 「ここにされるのが一番元気になるの!」 力いっぱいそう言って、俺は唇を少し突き出してみせた。 途端に岩城さんの顔も綻ぶ。 「まぁ・・今日もしっかり仕事してもらわないといけないからな・・」 そんなことを囁きながら、岩城さんの唇が俺のそれに近づいてくる。 唇が触れる直前、吐息と吐息が混ざり合う瞬間、岩城さんが嬉しそうに囁いた。 「ほんとにキスが好きだな。香藤は。」 「・・当然。」 優しくて 甘くて 俺を元気にしてくれる誰かさんのキスがとてもね。 ![]() 2004・6 ユッカ |
★お話とイラストで綴っていただきました〜v
ちょっと甘えてみる香籐くん・・・それを受け入れる岩城さん・・・・
はああ、甘い甘いですv ツボです!
そりゃ岩城さんのKissなら元気の素ですよね!
(そしてふたりのKissシーンは私達の元気の素v)
これからも甘い朝を重ねてくださいね〜v
ユッカさんお題クリアーお疲れ様でした