泣かないで 


(その1)「トゥルー・リバー」その夜


「泣かないで‥‥‥」(その1)
あの時、抱きしめて言ってあげれば良かった‥‥‥
そして、キスして言ってあげればよかった‥‥‥
でも、もう一つの自分が邪魔をした。
「役者」としての自分が‥‥‥

嬉しさと、悲しみの2つの気持ちが、自分の中に渦巻いてうまく言葉として、大事な人に伝えられなかった自分に頭にきている。
その事で、その人が悲しんでいる事実に頭にきている。
「はははは‥‥‥吉澄さん、俺って情けないですね」
そんな呟きを聞いた、吉澄は香藤の肩をポンとたたいて食事をする部屋に向かった。


「岩城さん、ご飯食べられる?おにぎりにしてもらってきたけど」
旅館に戻って、ショックで倒れていた岩城は蒲団に寝ていた。
顔色がまだ青いのが、香藤には痛々しく思える。
「香藤‥‥‥か。まだいい、そこに置いていてくれ」
「大丈夫?明日の撮影来なくていいよ。休んでいて」
「えっ?」
「そんな青い顔で来られたら、スタッフも気を使うからね。岩城さんは、此処で休んでいてね。俺はちゃんと撮影をして戻ってくるから」
岩城の髪の毛をかき上げるように、指で触る。
「だからね。泣かないで‥‥‥」
岩城の目じりにキスを落とす。
流しそうで流れない涙を、キスで拭い去るように
「岩城さん‥‥‥」
慰めるように、唇にキスを落とす
やさしく、深く‥‥‥‥‥‥いとしさを込めて

2004/05/01   sasa




その2  冬の蝉

泣かせたいわけじゃない
日の当たる世界に彼と一緒に生きたいだけなのに
でも、今はそれが許されない
だから、守っている
閉じ込めている
でも、それが彼を泣かせている原因なのだ

「秋月さん」
「俺を、殺してくれ。そうでなければ、政府に」
「その言葉は聴かないよ」
「草加、頼む」
毎日、毎日繰り返されるおんなじ言葉を、キスで閉じ込める。
そして、そのキスで秋月さんは心の中で泣いている。
解かっているのに、彼を手放す事はできない自分
「愛している‥‥‥」
泣かないで‥‥‥泣かないで‥‥‥泣かないで‥‥‥
心の中で、何度も繰り返し、キスをする。



「って、気持ちだったと思うよ。草加としては」
香藤は台本を片手に言い返す。
「それって感情表現のしすぎじゃないか?」
岩城が苦笑いをして言い返す。
「そうかな?俺がもし同じ状況に置かれたら、狂っても良いから、岩城さんを生かし続ける事のみを考えるよ」
香藤は臆面もなく言い返すと、岩城の唇に軽くキスをする。
「香藤‥‥‥」
「岩城さん、泣きそうな顔してるよ。もしもの話だよ」
岩城の表情を見て、香藤が笑いながら言い返す。
「そう思うのが、お前だけと思うな」
「‥‥‥岩城さん」
聞こえそうで、聞こえない声で岩城が呟いた言葉を香藤は聞き逃さなかった。
「嬉しい」
香藤はさらに岩城の体を抱きしめると、微笑んだ。




2004/05/09   sasa



★誰よりも大事に思っていて泣かせたくない愛しい人・・・
時代を超えても香藤くんにとっては岩城さんはいつでも
大切な大切な存在・・・そしてそれは岩城さんも同様で・・・
読んでいて胸が締め付けられる思いに駆られます
いつまでも幸せでありますように・・・・
sasaさん、お題クリアーお疲れ様ですv