よひらのはな

 

 

徹夜の仕事から帰宅した俺を出迎えたのは、香藤の満面の笑顔と一鉢の紫陽花。

 

 

「おかえりなさい!よかった〜、俺が出る前に帰ってきてくれて。

岩城さんに、このアジサイ見せたかったんだー」

 

 

花に向かって話しかけるような香藤。その目の色を、俺はよく知っている。

・・・妙な思い入れを込めた目だ。

 

 

「信号待ちの車の中から花屋さんが見えてさ。店の前にこれが置いてあったんだよね」

 

「・・・額紫陽花だな」

 

「がく・・・?」

 

「よく見かける丸く咲く紫陽花と違って、真ん中の花の周りを縁取るように咲いてるだろ」

 

「ああ。だから額なんだ?」

 

「本当はどうだか知らないがな。そんなようなことを聞いた憶えがある」

 

「へぇ・・・。ちょっと珍しいなって思ったんだけど。

でも何より俺は、この色に惹かれたんだよ」

 

「ああ。綺麗な白だな」

 

 

青みを帯びる一歩手前とでも言ったらいいのだろうか。

八重に咲くの星のような花の形が引き立つ白だ。

でも香藤がそれでこの紫陽花を買ってきたというのは少し意外だが・・・。

 

 

「でしょ?まるで岩城さんみたいv」

 

「は?」

 

「なんか思い出しちゃったんだよね〜。結婚式の時の、岩城さんの白タキシード姿」

 

「・・・またお前は・・・」

 

「あっ!またバカとか思ってるんでしょ!?」

 

「いや・・・」

 

 

何かというと俺とダブらせる物をみつけては喜ぶ香藤。

俺が帰ってくるまで、ひとりで花に向かって何をしていたのやら。

 

 

でも。

そういう香藤を見るのは好きだ。俺のことを考えて笑う香藤は幸せそうだから。

それに、そんな香藤は俺だけのものだと思うと、気持ちが温かくなる。

 

 

「岩城さ・・・!?」

 

 

この胸の心地よさを、重ねた唇に託して伝えた。

 

 

「い、岩城さん。俺、これから仕事なのに・・・」

 

「ああ。そうだったな」

 

 

そのとき、今にも服を脱ぎ出しそうな香藤を見ていたかのように、インターホンが鳴った。

 

 

「えええっ!金子さんだ!・・・そんなぁ」

 

「行ってこい」

 

「岩城さぁん・・・」

 

 

なんとなくこんな展開を期待していた、少しだけ意地悪な気分で、

半べそをかいて出ていく背中を見送る。

思えば俺は徹夜明け。少し仮眠を取ってから出かけるつもりだったが・・・。

 

 

たしか、似たような種類でピンクの花が咲く紫陽花があったな。

それをこの隣に置いたら、あいつはどんな顔をするだろう。

『俺』の隣にいつも在るもの。

そんな想いを・・・。香藤なら必ずわかってくれる。

 

 

いいプレゼントが見つかった。

俺は鍵を持って、入ってきたばかりの玄関に戻る。

 

 

香藤の帰りは夜だ。日付が替わる頃かもしれない。

あいつに似た紫陽花を探す時間はたくさんありそうだ。

 

 

明日はオフ。

 

 

香藤の誕生日。

 

 

よひらのはな/2005.05.14 じゅん

綺麗なタイトルに優しい文・・・
岩城さんの想いが綴られていて心が温かくなりますv
岩城さんはどんな紫陽花を用意するんでしょうか・・・
香藤くんおめでとう・・・その気持ちを私もこめて贈りたいです

じゅんさん、素敵な作品ありがとうございますv