itsudemo Happy Day
「ふふ・・・」 思わず漏れてしまう忍び笑い。 あいつどんな顔するかな? 世話しなく動いていた手を止め 想像を巡らせる・・・ 驚いている顔 そして満面の笑顔 きっとまた犬みたいにじゃれついてくるんだろうな。 「くすっ・・・・・」 今日は6月9日 そして今キッチンに立っているのは岩城。 時計は2時30分を少し過ぎたところを差している。 岩城がキッチンに篭ってからゆうに3時間は過ぎていた。 時間は遡って一昨々日の夕方、岩城が仕事から帰ると 先に帰っているはずの香藤が迎えに出てこない。 どうしたのかとリビングのドアをそっと開けてみた。 「ただいま・・・?」 香藤はダイニングテーブルの横に突っ立ったまま、ピクリとも動かない。 「香藤??」 よく見ると左手に携帯電話を握り締めたままだ。 「なんだ?」 顔を見ようとパタパタと前へ回ってみる。 すると今にも泣きそうなに口をへの字にまげたままの香藤の顔が見えた。 「おいっ、どうした・・・んっ・・」 「ううっ!いわきさ〜〜〜〜〜ん!」 いきなりガバッと抱きつかれ思わずよろけるが足を後ろに一歩引き踏みとどまる。 「・・っぶないだろっ!」 「だって・・岩城さん、俺・・・あさって仕事入っちゃったんだよ〜っ!」 そう、あさっては香藤の誕生日だ。 俺は頬をくすぐっている髪を撫でぽんぽんとあやすように頭を軽く叩いた。 「ああ。金子さんから俺にも電話があったよ。」 「ええっ岩城さん知ってたの??」 「お前より先に連絡くれたんだ。たぶん騒ぐだろうからって・・・くすっさすが金子さん、かなり読みが深いな。」 「そんなぁ・・俺ずっと楽しみにしてたんだ。岩城さんとゆっくりデートできると思って・・・お店も予約しておいたのに・・・・」 「そうだな、俺も楽しみにしてたよ。でもな香藤、二人の夢を叶えるために今は出来ることを確実にこなしていかなくちゃいけないだろ?」 「夢・・・?」 「そう、夢、目標だ。」 両肩を掴み自分からすこし離すと、今は少し潤んでいる優しい薄茶色の瞳をじっ と見つめた。 「光ってるお前を沢山の人に観てもらえよ。そして周りの愛情、羨望、嫉妬さえも全て吸収してどんどんビッグになるんだ。いつかふたりでこの業界を少し上から見下ろしてやろう・・・・な?」 ふたりでプロダクションを立ち上げる。いつか必ず叶えるはずの夢だ。 「岩城さん・・・そっか・・・うん、そうだよね。泣き言いってごめんね。」 「そんなことはいい。気合入れてがんばれよ。その日は新しいCMの打合せだろ?」 「そうなんだ。エステのCMなんだけどさ、絵コンテを見ながらの打合せだって。」 「へえ。」 「そう言えば、岩城さんも明日新しく仕事入ったって言ってたよね。」 「ああ。単発ドラマの宣伝も兼ねてサプライズゲストで出る事になったんだ。」 「えっえっそれっていつ放送されんの?」 目の前にある唇を思わず意識してしまいながら頬をぷにぷに摘むと横に引っ張ってみた。可愛くてつい弄りたくなってしまう。 「いでで・・・なにふんの、岩城しゃん・・・」 クルリと後ろを向き上着を脱ぎながらふとまだ着替えもしてないことに気づいた。 「オンエアはあさっての夕方だ。」 「何時何時?!絶対みるっ!!」 「そんなこと言って仕事中断して皆に迷惑かけるなよ。」 そういいながら自分との事を一番に考え一喜一憂している香藤をとても嬉しく感じてる自分がいるのは確かなのだ。 夕方5時を少し回っていた。 ここは某スタジオの会議室。共演の新人女優も交えての打合せは佳境に入っていた。 どんな小さな事にも妥協はしない。俳優・香藤洋二を魅せる為にはどうしたらいいか。 そんなことを考えながら何気なく時計に目をやる。 「あああああああ〜〜〜っっ!!!」 香藤の叫びに回りの皆はビックリして立ち上がってしまった。 「なにっ!!どうしたのっ香藤君!」 「あ〜〜いえ、あのぉ〜少し休憩にしてもらえますか?」 周りの白い目なんぞ気にしない!岩城さんが・・・俺の岩城さんが終わっちゃう! 「休憩?あ〜わかった、岩城君がテレビ出るの?」 このCMの監督である澤野さんが呆れたように苦笑いを漏らす。 「そうそう!!そうなんです!だから休憩行って来ますっっ!!」 ダダダッと走り去る香藤を皆ポカンとしたまま見つめていた。 スタッフの一人がくすくすと笑い出したのを先頭にあちらこちらから笑い声が聞こえてくる。 「もうふたり随分長く一緒にいるのにねぇ・・・まだまだお互いに夢中なんて 信じられないよ。羨ましいな・・・・」 「うわ〜いっ!間に合ったぜっと・・・」 急いで自分の控え室に戻りテレビのチャンネルを合わせる。 ちょうど岩城が司会者に呼ばれ出てくるところだった。誰が出てきてどんな話をするかは始まるまで内緒よ!!という10分程度の番組な のだが、いまが旬の俳優や歌手や話題の人物が出てくるので中途半端な時間帯ながら中々の視聴率を誇っているのだ。 スタジオのセットのドアから出てきた岩城は司会者に軽く挨拶すると優雅な動きで椅子に座りカメラ目線で優しく微笑んだ。 「く〜〜っっ!やっぱ何時見てもカッコイイ〜〜!」 昨日家を出たときと服装が変わっていて、グレーっぽいパンツと黒の細いストライプに少し大きめな柄の入った岩城にしては少々派手なニットを着ていた。 「あっあれこの間誕生日に送った服だ!派手すぎるって怒ってたのに・・・・」 これも不器用な岩城のささやかな愛情表現なのだろう。きっとぶつぶつと文句を言いながら着たんだろうなぁと思うと自然に顔が綻んでくる。 「愛を感じるなぁ〜〜v岩城さん俺も愛してるよっ!」画面に向かって投げキッスを送ってみる。皆の前ではさすがにここまで出来ないからやっぱ岩城さんの出る番組はひとりで見なきゃvなのである。 岩城主演の2時間ドラマの宣伝が始まった。色々なシーンがランダムに流される。 「随分ビジュアル的な要素のあるドラマですね〜岩城さんにとって始めての役柄ではないですか?」 司会者が岩城に話を振ってきた。 「そうですね。でも演じるのはとても楽しかったです。」 今回のドラマは人間の2面性を取上げたもので、表の顔と裏の顔を持つ一人の青年の日常が鮮明に描かれていた。その狂気と現実の狭間で揺れ動く人間の表情を、CM界で名を馳せている監督が独特の表現方法で撮ったのである。そして今回岩城の演技も高く評価されていた。妖艶に微笑んだ顔の中に見える狂気、それは見ている人をゾクリと鳥肌立たせるものだった。 「岩城さんの夜の顔だったらよ〜く知ってるんだけどなぁ〜〜v」 司会者と楽しげに話をしている岩城を見ながら昨夜の情事を思い出し、またひとりでにやけてしまう香藤。こんなだらしない顔は絶対人に見られてはならない。 番組ではエンディングテーマ曲が流れる。そろそろ終盤に入った様だ。 「香藤さんとは相変わらず仲が良いと聞きますが、そういえば今日は香藤さんのお誕生日だそうですね。」司会者が優しげな微笑を湛えながら少し朱に染まった顔を岩城に向けた。コイツ岩城さんの綺麗さにやられたなっ!! 「お前それ以上近づくなよ・・・」と届くはずのない言葉に怒気を含ませ呟いた。 「そうなんです。アイツもこれでやっと三十の大台ですよ・・くすくすっ・・・」 笑いながら軽くカメラに向かって指をさしてクイクイと曲げる。子供がよくやるや〜いや〜い!の小さい版だ。その悪戯っぽい笑顔にズクンと胸がうずいた。 「ちょっとぉぉ〜〜岩城さんこれ全国放送だよ〜〜〜そんな顔してどおすんの〜〜!」 「何かプレゼントなど用意なさってるんですか?」 「ええ。色々考えたんですけどなかなか決まらなくて・・・でもきっとアイツだった ら何でも心から喜んでくれると思うから。大した物ではないけど、用意してあります。」 「うわっ羨ましいですね〜それでは見ているかもしれない、いや絶対見ていると思うんですけど、香藤さんに一言どうぞ・・v」 「ふふ・・・香藤、気をつけて帰ってこいよ。待ってるから・・・。」 そう言った後、岩城の少し頬を染めた顔のアップで番組は終わり、CMに変わった。 「あぁあ〜〜〜もうだめだっ!!これ反則だよっ!!」 そういうと蹲ったまま暫く動けなくなってしまった香藤なのである。 その後の香藤の行動は、もう皆あっけに取られるばかりだった。 顔をほんのり上気させて会議室に戻ったかと思うと、監督を早く早くとせっついた。 そして次の打合せと、撮影の日程などを聞くと、皆に一礼してバックを掴み瞬時に走り去ったのだ。 「ほんっとに好きなのねぇ・・」 そこにいた女性スタッフの一人が呟く。先程の岩城の出ている番組をこちらの部屋でも皆で見ていたのだ。純愛とも激愛とも言えるふたりの愛の深さにただただ溜息しか出てこない。 「金子さん、ありがと!」 「・・・お疲れ様でした。明日の2時に迎えに来ます。」 「わかった!!」 手を振りながら駆け足で玄関先へ向かっていく。一途なその思いを果たす為に回りにどれだけ迷惑を掛けているのか、そんなのは関係ない。 「疲れた・・・・。」 金子はスタジオからここまでの間、香藤に両肩を掴まれたまま早く早くと耳元で喚かれ続けたのだ。だが我侭にも思えるその行動に怒りを覚えることがないのは何故なのだろう。 そう考えながら凝った肩をコキコキとまわす。 「はあ・・・」でもやはりとっ・・ても疲れたと思う金子であった。 「岩城さん!ただいまっ!!」 靴を脱ぐのももどかしく玄関を上がりリビングのドアを開ける。岩城はソファに座りテレビを見ていた。 先程画面で見た格好だった。撮りは昨日のはずだったのに・・・妙な錯覚を感じる。 「くすっ・・お帰り香藤。何を慌ててるんだ?」 くすりと微笑むその表情がまた頭の中でオーバーラップして肌が粟立つ。照明を少し落としたリビングで悠然と長い足を組みこちらを向く岩城は誰が何と言おうと世界で一番綺麗だった。 その姿にわなわなと拳を握り締めていた香藤は 「い・・・岩城さん!俺っずっと我慢してたんだからねっ!!」 そう言うときょとんとしている岩城にがばっと抱きつき、そのままソファへ押し倒そうとする。 「はあ?こらっ香藤!いきなり盛るなっ!!」 ごいん!香藤の脳天に鉄拳が落ちてきた。いつもの手加減無しの一発は香藤をどうにか正気に戻す事に成功したようだ。 「香藤、少し目を瞑ってろ。」 殴られた頭の痛みも漸く去った頃、岩城は意味ありげにそう言ってきた。 「え?う、うん。」 香藤がダイニングの椅子に腰掛け目を瞑るとカチッっと照明のスイッチを切る音と、なにやらゴソゴソと動き回る気配がする。シュッとライターを付ける音の後、微かな硝煙の匂いがした。 <へ?もしかしてバースデーケーキ???> 「目を開けていいぞ・・」 ダイニングテーブルの上には香藤の予想通り、小さめのバースデーケーキがちょこんと置かれている。レモンイエローの可愛らしい蝋燭に火が灯され、その影を幾重にも重ならせていた。 ケーキには大きなハートマークが真ん中にひとつだけ描かれている。形のいびつさといいどう見てもこれは手作りである。 「うそ・・・これって・・もしかして岩城さんが作ってくれたの・・・?」 「う、上手く焼けなかったんだが・・・クリームで隠したんだ・・・・」 岩城は俯き、多分真っ赤染まっているだろう頬をぽりぽりと掻きながら香藤の前に立った。 「夕飯も色々作ろうと思ったんだが、その・・・時間が無くなって・・・ケータリングを頼もうとしたけど・・・誰にも邪魔されたくなくって・・・・だから・・・悪いがこのケーキと 煮物一品だけだ・・・すまん。やっぱりお前みたいに器用には出来ないみたいだ・・・」 「・・・・・・」 薄暗がりの中なのでよくは見えないが、香藤はぼそぼそと話す岩城の顔を黙ってじっと見つめていた。 「香藤・・・?」 「岩城さん・・・・俺・・すっごい嬉しいよ・・」 普段料理などほとんどしない岩城が、どんなに頑張って作ってくれたか香藤には手に取るように分った。きっとキッチンめちゃくちゃだっただろうな・・。今は綺麗に片付いているキッチンで粉と悪戦苦闘している岩城を思い描くと嬉しさと同時に胸が熱くなる。俺の為に、俺の喜ぶ顔を見たいが為に何時間キッチンに篭もっていたの?ツンと鼻の奥が痛くなった。ほろりと一粒涙が頬を伝う。 「香藤??」 こんな香藤のリアクションに慌ててしまったのは岩城である。喜んで飛びついてくると思ったのに泣かせてしまった。こんなちっちゃいケーキがそんなに嬉しかったのか?それとも泣くほど腹へってるのか????やっぱりケータリング頼んでおくんだった・・・ 香藤の涙に一瞬パニックを起しかけた岩城の腰に手を回し、すりすりと頭を擦り付けてきた。 「ありがとう岩城さん。俺世界でいっちばん幸せ者かもしんない・・・」 「くすっ・・・随分大袈裟だな。」 「愛してる。ずっとず〜〜〜っと愛してるよ。」 「俺もだよ・・・香藤、誕生日おめでとう。」 岩城は少し屈むと優しいキスを落とした。 「ほら・・取り合えず蝋燭吹き消せよ。誕生日の定番だろ?」 そういうとさっきのテレビで見たように悪戯っぽい顔で笑ってみせた。 3本だけ立てられた蝋燭はずいぶん溶けてしまっていて、ケーキに黄色い染みを作り始めている。それを見た香藤は慌てて蝋燭を吹き消してしまった。 「なんだよ。普通おめでとう、の後に吹き消すんだろう?それに願い事をちゃんとしたのか?」 「俺の願いはもう叶ってるからいいんだ。」 「?」 岩城は部屋の電気を付けるのに立ちあがった。 「俺は岩城さんが側にいればいい。それだけでいい。他には何もいらないよ。」 そう言ってクリームを指に付けるとパクッと口に入れる。それはあんまり甘くなくてふわっと口の中で溶けた。 「おいしいっ!」 「そうか?じゃあ褒めてくれたお礼に、今度は俺が食わせてやるよ。」 岩城は香藤の前に戻りケーキのハートの部分を指で絡めとると香藤の口へ運んでいった。香藤の熱い口内で妖しく舌がうねり岩城の指を舐める。その香藤の顔がとても扇情的で岩城はかあっと頬を火照らせた。 「岩城さんにも食べさせてあげる。」 中指と薬指に付けられたクリームは岩城の唇に跡を残しながら湿る中へと誘導されていく。舌を少し突き出しそれを舐め取る。ピチャピチャと何とも卑猥な音が静まり返った部屋に響いた。 香藤の指を銜えジュッと吸ったり、あごを少しあげて唇を半開きにしたまま指の間を舐め上げる。薄暗がりの中 岩城はテーブルに腰掛け、頬を撫でると香藤の髪を梳いた。 「腹減ってるなら、俺を食っていいぞ?」 唇に付いたクリームを舐めながら艶のある眼差しで誘うように見つめてくる。その眼に捉われたら逃げる事など到底無理、いや絶対無理な香藤なのだ。 「い・・岩城さん・・こんな状況でそんなこと言って・・・俺知らないよ・・・ケーキより先に食べちゃっていいの?」 チュッと音を立てて指を唇からはずすと妖艶に微笑を返してきた。 「お前の好きにすればいい・・・」 夜遅くになって食べられたケーキは、二人の熱に当てられてか、クリームが溶けて見るも無残な姿になっていた。溶けて固まってしまった蝋燭を退かしながらふたり向かい合い、そのままフォークでつついて食べる。少し固めの(いやいやかなり固め・・・)のスポンジと、食べながら恥ずかしそうな顔で一生懸命言い訳をする岩城の姿。(そして先刻の岩城の乱れた姿も・・・) それらはすべて最高に素敵な香藤へのバースデープレゼントとなったのだった。 ありがとう、岩城さん。 MOMO 2005.6.happy day スタジオの内部など全くわからないまま 書いております。 色々間違っておりましたらごめんなさい。。。 |
テレビを見る香藤くんの反応がとても楽しくて(^o^)
で、ケーキを食べるふたりが・・・・素敵ですv
ええ、思う存分岩城さんを味わったんでしょうねえ〜vvvv
なんて羨ましいv おめでとう香藤くんv
MOMOさん素敵な作品ありがとうございました