プ レ イ



6月8日午後8時、香藤洋二は不機嫌だった。
当初の予定ならすでに帰宅して目の前にいるはずの愛しい人、岩城京介がいないからだ。
今、岩城はドラマの共演者たちと食事に行っていた。
この食事会は数日前に急に決まったものだった。
それはこのドラマの主演、小野塚の一言が発端だった。
「撮りが終わるまでに一度ゆっくりお話聞かせて頂いて勉強したいです。」
小野塚がベテラン俳優に向かって言ったこの一言で急遽共演者一同による食事会がセッティングされることとなった。
その立ち回りの上手さで小野塚は年上の俳優たちにも気に入られていた。
ベテラン俳優もそんな小野塚に勉強したいなどと可愛いことを言われれば願いを聞いてやりたくなるのは当然と言えた。
ベテラン俳優に音頭を取られれば他の俳優が否と言えるはずは無く、それは岩城も例外ではなかった。




「チクショーッ!小野塚のヤツ。」
リビングに香藤の叫び声が響く。
その手には携帯電話が握り締められていた。
そしてその小さな画面に映っているのは岩城と女優のツーショット。
小野塚からの写メールである。
この写メール食事会が始まってから1時間半ですでに5通目だった。
5通全てが岩城と誰かのツーショット。
中には肩を抱かれてかなり密着度の高いものもあった。
香藤は岩城から話を聞いた時からおかしいと思っていた。
小野塚は確かに立ち回り上手ではあるが殊勝に勉強したいなどと言うはずがないと思った。
共演者のスケジュールをある程度把握して今日以外に日がないと分かっての発言ではないか。
つまり香藤がバースデーイブを岩城と過ごせないようにするイタズラではないかと。
そしてそれはこのメール攻勢によって確信に変わっていた。
香藤はその場に乗り込んで行きたい衝動をグッと堪える。
自分が非常識な人間と思われるだけでなく岩城の現場での立場を悪くしかねないからだ。
岩城に早く帰ってきてとメールすることも出来ない。
小野塚の兄役という重要な役の岩城が早々に席を立つことなどできるはずがないのだ。
香藤にできるのは気にしてないふうを装って小野塚のメールに返信しないことだけだった。




一方の岩城はと言えば。
断ることができず参加したものの早く帰りたくてやきもきしていた。
明日という大切な日を香藤と一緒に迎えたかった。
しかし、自分の立場を考えても場の雰囲気を壊すことを考えても途中で帰ることはできない。
内心で諦めのため息をつきながら目の前の席の小野塚をちらりと見る。
岩城も香藤と同じくこの会が小野塚の策略ではないかと思っていた。
食事が始まってから何度も岩城と誰かのツーショットばかりを携帯で撮っていた。
その送り先が香藤であろう事は想像がついた。
再び自身とのツーショットを撮ろうと隣に来た小野塚に小声で確かめる。
「小野塚君、君わざとだろ?」
「何がです?」
「皆のスケジュールが今日しか空いてないこと分かっててあんなこと言ったんだろ?」
それを聞いて小野塚はニヤッと笑った。
「岩城さんも大分俺のこと分かってきましたね。それとも香藤の入れ知恵ですか?」
「君ね・・・」
全く悪びれない様子に岩城は小さくため息をつく。
「大丈夫、ちゃんと日付が変わる前に解放しますよ。香藤にマジ切れされると困るんで。」
言葉とは裏腹に楽しそうな小野塚の表情に岩城は呆れる。
「そんなに香藤で遊ぶのが楽しいかい?」
「ええ、そりゃもう。」
にんまりとした笑顔に岩城はまたひとつため息をついた。





11時を少し過ぎた頃、小野塚は岩城を解放するタイミングを考え始めていた。
勉強会と称していた食事会はすでに只の宴会と化していた。
岩城は食事会の初めからモテモテでかわるがわる誰かが隣に来るので香藤に送る写真を撮るのに事欠かなかった。
そして今も小野塚の友人役の若手俳優が隣にいる。
彼はかなり酔っているらしく岩城の顔をじっと見つめていたかと思うとガバッと抱きついた。
「岩城さんてホンッとに綺麗ッスよね。」
シャッターチャンスを逃さず撮影し香藤に送信すると電光石火の速さで返信が届いた。
≪小野塚いい加減にしろよ!岩城さんになにかあったらただじゃおかない!!≫
期待を裏切らない反応に思わず噴出す。
(あいつホンと外さないよな。最後に余興も残ってるしそろそろ切り出すか)
岩城が何とか若手俳優を剥がすのに成功したのを見て小野塚は口を開く。
「あ、そう言えば明日は香藤の誕生日ッスね。」
「じゃあ岩城くんそろそろ帰らないと香藤くんがすねちゃうんじゃないの?」
「いつまで経っても熱々だね。」
小野塚の言葉を聞いて皆から冷やかすような声がかかる。
「いや・・・そんな・・・。」
岩城が赤面すると音頭を取ったベテラン俳優からも声がかかる。
「そんなに可愛いんじゃ香藤くんが離したくなるなるのも当然だね。いいよ、いいよ帰って。」
岩城は益々赤面しながらもほっとした笑顔になる。
「すみません勝手をして。それじゃあお先に失礼します。」
そう言って席を立とうとした岩城を小野塚が呼び止める。
「あ、岩城さんこれ俺から香藤にプレゼントです。」
「え?ああ、ありがとう。」
小野塚がそんなことをするとは意外に思いながらも岩城は素直に受け取った。
「岩城さん、開けてみてください。」
「え、俺が?でも香藤へのプレゼントなんだろ?」
「そうですけど今ここで岩城さんに開けて欲しいんです。」
岩城は企みを感じたが皆から好奇の目を向けられ開けないわけにはいかなかった。
衆人環視の中包みを開くと現れたのは所謂「ネコ耳」と言う物だった。
「おお〜っ。」とどよめきが起こり岩城の顔が羞恥に染まる。
小野塚はネコ耳をひょいっと取り上げると岩城の頭に素早くつけた。
周りから歓声ともどよめきともつかない声が上がる。
岩城が一瞬固まっている隙に小野塚は写真を撮り香藤に送った。
そして慌ててネコ耳を外ししまっている岩城に声をかける。
「岩城さん、香藤に写メしといたンで期待して待ってっと思うからちゃんと着けてやって下さいね。」
「しっ失礼しますっ。」
岩城はそれに答えず真っ赤になって逃げるように帰っていった。
写メを見た香藤がどんな反応をしているのか。
岩城が帰宅した後、あの家で何が起こるのか。
それを考えると小野塚は楽しくてたまらなかった。
今や小野塚にとって岩城も香藤とセットのオモチャだった。




小野塚からのメールを受け取った香藤は・・・股間に直撃を受けながら泣いていた。
「岩城さん、無防備すぎだよ〜。次の撮りの時襲われたらどうすんの。」
気を取り直して小野塚に抗議メールを送ろうと画面を見てまたドクンと欲望が熱くなる。
行き場のない熱を解放しようと香藤はジーンズの前を寛げた。


そうして一息ついたところへまた小野塚からメールが届く。
今度は文字だけのメールだった。
≪岩城さんさっき帰った。生ネコ耳堪能しろや≫
(な、生ネコ耳・・・・・)
香藤の頭の中に一気に妄想が広がる。
当然、ネコ耳を着けた岩城の姿である。
しかも裸で目を潤ませ悩ましい顔で香藤を見つめている。
更に香藤の妄想の中の岩城はお尻からセクシーなしっぽまで生えていた。
しっぽはゆらゆらと揺れてまるで香藤を誘っているかのようだった。
一旦熱を放出し大人しくなっていたモノが瞬時に復活を遂げる。
「うわッ、こらッもうちょっと我慢しろ。岩城さん帰ってくんのに一人でなんて勿体無いことできるか。」
香藤は自分のモノに言い聞かせるように言うと無理やりジーンズの中に押し込みよろよろと玄関に向かった。




岩城は自宅へと向かうタクシーの車中でネコ耳の包みを見てため息をついた。
(帰ったら着けないわけにはいかないだろうな・・・)
着けないと小野塚達には見せたんだからと煩く言われるのは目に見えている。
玄関を開けたら香藤が待ち構えていて即行で寝室に連行されるのではないだろうか。
別に嫌なわけではないがネコ耳を着けた自分を見た香藤の暴走がちょっと不安な岩城だった。


自宅前でタクシーを降り立ち時計を確かめると時間は11時58分。
門を潜り、階段を上るにつれ玄関から溢れるオーラのようなものが強くなっていく。
ドアの前に立つとそれはしっかり岩城を包み込んでいた。
「ただいま、誕生日おめでとう。」とちゃんと言わせて貰えるだろうかと思いながら岩城はドアノブに手を掛けた。
時刻は11時59分になっていた。



終わり

'05.5.21  グレペン



ネコ耳・・・ネコ耳岩城さん・・・ぽわわわん
妄想が止まりません・・・美味しすぎv
小野塚くんの悪戯(笑)が功を奏したかな?(^o^)
何だかんだ言いながらネコ耳をつける気になっている
岩城さんが可愛いですv
香藤くんおめでとう! 素敵なプレゼントが目の前だよv

グレペンさん、楽しいお話ありがとうございましたv