The white world 白い 白い 白い世界 縫うようにその間をすり抜ける ただ走り続ける 段々息が荒くなる 風に舞う雪が頬にあたる 何かを探している 誰かを呼んでいる 何を? 誰を? とても悲しいのに とても辛いのに 声に出さないまま木々の間をすり抜ける 雪に足をとられながらも・・・ そして・・・・・・ ・・・・・見つけた! その瞬間全てが 白に覆われた・・・・ |
「・・・藤、・・・・香藤っ!」 軽く肩を揺すぶられて目を開けた。 最初に見えたのは岩城さんのテーブルについた手。 「あれ・・・?」 「こんな所で寝たら風邪引くだろう」 仕方のない奴だな、と溜息混じりの声が上から聞こえてきた。 「俺・・・・寝ちゃってたんだ・・・」 身体を起こしてぼんやりとテーブルの上を眺めれば、並ぶグラスやお皿の数々。 喜々として用意していた自分を思い出した。 ・・・・・時計を見ると夜の7時過ぎ。 ほんの30分程のうたた寝だったようだ。 「おかえり、岩城さん。思ったよりも早かったね」 ようやく意識がはっきりしてきた俺が嬉しそうに言うと 「ああ、予定通り撮影が進んだからな」 と微笑んで答えてくれてた。 「やっぱり関係者もみんなイブって事意識するのかな」 「そうかもな。・・・・すまなかったな、全部用意させて・・・大変だったろう?」 「ううん、別に。買い物は大体金子さんに頼んじゃったからね、皿並べただけ。俺も昨日まで暇なかったし」 「そうか、今度会ったらお礼言っておかないと」 そう言いながら、俺の頭に手を置いて少しくしゃくしゃとした。 岩城さんにされるとすごく幸せになる。 「岩城さん・・・ただいまの・・・は?」 甘えたいなあ〜と、見上げると、ふっと笑って顔を近づけてくれた。 ・・・・・・互いにぬくもりを味わう瞬間。 「おかえり」 「・・・・ただいま」 そう言って、また唇を重ねた。 今度は少しだけ深く・・・・長く・・・・。 着替えて、食卓につく。 この日のために用意したワインを飲みながら、お互いに見聞きしたことを話す。 それは仕事の話だったり、とるに足らない噂話だったり・・・でもそれは2人にとってとっても大切なこと。互いに会えなかった時間を埋める大事な触れあいだった。 「今日は全国的に雪なんだって」 さっきテレビで聞いたことを話す。 「クリスマスにはいいんじゃないか? ここはそうでもないけどな」 「今年もホワイトクリスマスって訳にはいかなかったね・・・一度くらいはこの日にどーんと雪が降って、辺り一面銀世界っていうのも楽しいのにね・・・・・・って、・・・・あれ?」 ・・・・・・白? 今なんか頭の中に浮かんだ映像が・・・・。 「ん? どうした?」 「うん・・・・」 岩城さんの問いに頷きながらも、一瞬見えた映像を追おうとする。 今、何を見た? さっき見た夢の映像? 「香藤?」 「・・・・うん・・・」 ・・・・なんだろう・・・・よく分からない。 雪という単語で何かを思い出しそうだったのに。掴めない・・・はっきりと思い出せない。 「・・・・疲れてるんだろう・・・・?」 「あ、ごめん、大丈夫、大丈夫」 心配そうに眉を寄せる岩城さんに笑って手を振る。 でも言葉とは別に頭の中は何かを追っている。 疲れとかじゃない・・・・それだけは分かる気がする。 こう・・・・何処かで見た感覚・・・・この身体で味わった感覚 そういう白・・・・そういう雪の世界・・・・ 「香藤?」 お皿を見つめて黙り込んだ俺に岩城さんが呼びかけた。 「本当に大丈夫なのか?」 「あっ・・・・」 ぼんやりしていたことに気付いた。 岩城さんは席を立ち、隣に座って俺の顔を自分の方へ向けさせる。 額に手を当てられた。 「大丈夫だよ、熱ないでしょ」 「・・・・でも・・・・」 なおも心配そうにする岩城さんに微笑んだ。 このまま誤魔化してもいいけど・・・・・でも心配かけちゃいけない。 「ごめん、・・・・・・あのね・・・・・なんかさっきから気になっていることがあって・・・」 「気になっていること?」 「うん・・・夢なのかなんだかよく分からないんだけど・・・」 そう言って、俺はぽつりぽつりと話した。 雪の降る林のような所を走っていること。 何かを探しているようなそんな気分になること。 そして それを見つけた!と思った瞬間、全てが消えること。 とりとめのない話。 ただ白い雪がやたらと印象に残っていて・・・・ 断片的なイメージばかりで、何をどう説明していいか分からないままに話す。 途中で呆れられると思っていたら、意外にも岩城さんは俺を顔を見つめながらじっと聞いてくれた。 「それで?」 とか 「それから?」 とか言いながら・・・。 話し終えて・・・・・・・自分で笑った。照れ隠しだ。 「・・・ね? 変な話でしょう? 俺、あんまり夢見ないのに・・・・でもなんかさっきからひっかかちゃって・・・・」 おかしいよね・・・ふと言葉を添える。自分でもよく分からないことだ。 ただの夢なのに・・・。 その時、すっと岩城さんの手が肩に回された、少しだけ引き寄せられる。 「岩城さん?」 「俺も・・・・似たような・・・いや似ているようで似てないような・・・そんな夢を見る」 「え?」 真横にある岩城さんの顔を見つめる。 「・・・・俺は木を見上げているんだ・・・・たぶん地面に寝ているんじゃないかと思う・・・・お前と同じ白い世界で・・・・雪が後から後から降り積もってくるんだ」 遠くを見るような目で話す・・・・・その横顔を見つめた。 「なんか・・・・悲しいね」 寝ている岩城さんの上に雪が降り積もるなんて考えたくもない。 そんなことはあってはならない、絶対にさせたくない! 仮にでも考えたくない。 「そうでもないぞ?」 俯いてしまった俺にくすっと笑う声が聞こえる。 「?」 岩城さんは尚も俺を引き寄せた。 「言葉にしてしまうと、確かにそうなんだが・・・・なぜだか俺はすごく満たされた思いでそれを見ているんだ」 「・・・満たされている?」 「ああ、それが何かは分からないけれど・・・でも悲しい気持ちはあまり感じなかった・・・」 「そうなの?」 とても悲しい情景だと思うけど・・・・。 そんな気持ちを知ってか知らずか岩城さんは言葉を続けた。 「それに・・・・今、同じような雪の夢をお前も見ているという・・・それで何かあまり悪い方に気にならなくなった気がする。少し気になってたからな。・・・・・・でも、何かは分からないけれど、何か俺とお前で繋がるものがあるのかも知れない・・・それが何かはまったく分からないけれど・・・・そう思うと・・・・少しだけ・・・嬉しくなった・・・って、おい!」 「岩城さん!」 少し頬を赤らめて小さな声で最後の方を語る岩城さんに俺は抱きついた。 そうせずにはいられなかった。 「こ、こらっ、急に驚くだろう!」 「だって、岩城さん、すごく嬉しいことを言ってくれるんだもん!!!」 さっきまでの戸惑いが消えてしまう程の喜びが湧いてくる、現金な話だ。 どうして同じような物を見るのか・・・ それは何も分からないけれど、でも岩城さんはそれを嬉しいと言ってくれた。 ぎゅっと身体を抱きしめる。 そうすると諦めたように身体の力を抜いてくれた。 抱きついた俺の背中を手が撫でる。 「何があっても、そしてもしあったとしても今一緒だから、こうやって抱きしめられるから、俺も幸せだよ!」 自分に言い聞かせるように・・・ 「・・・・そうだな」 「これからもずっとずっと・・・・抱きしめるよ!」 何があっても・・・・ 「・・・・ああ」 「本当だからね!」 「分かってる・・・」 笑いを含んだ声でふわりと上から抱きしめられると、それだけで幸せだ。 「さあ、先に食事をしてしまおう。せっかくの料理が冷めてしまう」 トントンと背中を叩かれて頷く。 「そうだね・・・それに明日はお休みだし?」 無理をしてあわせたオフの日だ。 「とことん愛させてね!」 まだ抱きしめたまま、見上げる。 「ば、馬鹿っ!」 そう言った岩城さんの顔は真っ赤で・・・・。 その頬にちゅっと音を立ててキスをした。 それだけで・・・・もうあの夢のことは押しやられて。 そして 改めて乾杯をする。 今夜はクリスマスイブ。 ・・・・・それでも明日の朝、雪が降っていると嬉しいかも・・・・ そんなことを考えながら、岩城さんと微笑み合った。 メリークリスマス・・・・・ |
白く冷たい雪と 温かなぬくもり あの日からずっと・・・・ずっと・・・・抱きしめている 探し求めていたものを 何よりも大切にしたいものを この腕に抱きしめるために 今は 目を瞑ろう・・・・ 舞い落ちる雪を ふたりで笑って見上げるために・・・ 再び出会うために |
2003・12・22 日生 舞 |
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・・・・・何というか暗いのか切ないのか何なのか・・・・(--;)
雪というものをもっと象徴的に書いてみたかったのですが;;
そうは感じないかもしれませんが・・・・これHappyなんですよ〜(力説)☆
ということで・・・脱兎!ヘ(;・・)ノ