「こらっ! 香藤、いい加減にしないか」 と、傍らに立つ香藤に岩城は叱りつけた。 「……」 それでも、香藤は気に食わない様子で脹れている。 「何時まで拗ねてるんだ。見っともない」 「見っともなくても良いよ」 口を尖らせて子供のように呟く香藤に岩城は仕方が無いと、溜息をついた。 「岩城さんが悪いんだからね」 と、まだブツブツ言っている。 香藤が拗ねるのは“当然”といえるかも知れない。本来、イブの日といえば、恋人達の時間。去年のイブは仕事、仕事で引っ張りだこの状態のうえ一緒に過ごす事が無かったのだ。その為、香藤は今年こそは! と、予定を空けさせていた。勿論、自分一人空けていても仕方ないから、岩城のスケジュールも空けさせていたのだ。今日この日の為に! それが、一週間程前に、宮坂と小野塚からクリスマスパーティを開くので、参加して下さい。 などと、香藤には回さず、岩城の方へ先に話がいっていた。それが、本当に憎たらしい。先に香藤へ話が行けば、 断れるのは確実。だから、岩城の方へ先にいった訳だ。 きっと、お詫びやら何やらで、岩城さんを誘ったに違いない。 油断は出来ない。 小野塚はともかく、問題は宮坂だ。アイツは絶対に岩城さん狙いのはず。 「メリー・クリスマス。岩城さん」 と、男女共数人いる中から宮坂が声をかけてきた。 「今晩は。宮坂君、今夜はお招き頂いて……」 「堅苦しい、挨拶はナシですよ」 と、にっこりと宮坂は笑うと、 「今夜は楽しんで下さいネ。さあ、どうぞ」 と宮坂はさり気無く、岩城の腰に手を回そうとするが、すかさず香藤の手が宮坂の手を払い除ける。 「よォ、宮坂」 ――判ってるんだろうな? ええ? 「お前、今日は仕事じゃなかったのか? 香藤」 ――判ってて邪魔したんだよ。 と、表面上には出さない会話をしながら、宮坂は、 「まあ、楽しんでくれ」 と何やら企んでいる様な笑みを見せた。 ――パーティは岩城達が来てから数人後から来て、賑やかになった。 バイキング式にテーブルに並べられた料理も結構イけて、パーティに参加して、1時間程して皆少々お酒も入ってか、盛り上がり絶頂を迎えた中、香藤も少し酔い加減で、 「ちょっと、トイレに行ってくるね。岩城さん」 「ああ」 警戒してずっと岩城から離れなかった香藤を宮坂は逃さず、数人の女たちに合図を送ると、宮坂はここぞとばかりに岩城へ近づいた。 「岩城さん」 「……宮坂くん」 「今日は、楽しんでくれてます?」 「え、ああ。とても」 「それは良かった。この前のお詫びって訳じゃないけど……岩城さん。俺、あんたに本気になったんですよ」 「え? 本気って……」 「色んな女と“恋愛”もしたけど、只の真似事に過ぎなかった事に気がついたから」 「冗談は……」 「冗談じゃないですよ」 「男に、そんな」 「それも、ナシ。香藤だって男でしょ?」 「宮坂くん。すまないが、俺には香藤がいる。香藤しか要らない。だから、君の気持は受け入れられない」 真っ直ぐと言い切る岩城に、 「判ってますよ。でも、それは今に過ぎないし、これからどうなるか判らないでしょ?」 と、宮坂はニコニコとしながら言った。 「今日は、それが言いたかったから……」 岩城は宮坂の真剣な眼差しに、少し困ったような表情を見せた。 本当に、香藤以外は駄目だと判ってもらいたい。 どうしたら? と丁度、香藤がトイレから戻って来たのが目に入った。が、戻って来た早々、3,4人の女性にあっという間に囲まれてしまう。 「!」 グッと思わず手に力が入った。 馴れ馴れしく香藤の腕に絡める女の腕……胸元が大胆に開いたドレスで誘うような女。 「岩城さん? どうかしました?」 と、何も知らない風に聞いた宮坂は岩城の目線の先に目をやって、 「あらら。モテまっくてるなぁ。香藤のヤツ」 これで、動揺した岩城さんを頂いてしまえばっ。という宮坂の考えも思わぬ展開になった。 「すまないが、俺はこれで帰らせてもらうよ」 「えっ! 岩城さん。まだこれからですよ?」 「いや、もう本当に楽しかったから……先に帰らせてもらうよ。じゃあ、宮坂くん今夜はありがとう」 と、言うと足早にその場を出て行った。 宮坂は思わぬ展開に舌打ちした。 香藤は女たちを無下にしないようにしていたが、岩城の様子がおかしい事に気がついて、その場を出て行く岩城を慌てて追いかけた。 「ちょっ、退いて!、岩城さん、まって!」 彼女たちには悪いが、それどころでは無い。 傍に、宮坂が居たが……。 まさかっ、何かされたんじゃ。 香藤は、岩城が出て行った後を見渡しながら、走って、ようやく岩城の後姿が見えた。 「岩城さん! 待って」 と、岩城の腕を掴んだ。 「どうしたのさ? いきなり」 「……少し、気分が悪くなったから先に帰ろうと思っただけだ」 「じゃ、言ってくれれば俺も帰るのに……大丈夫?」 心配そうに言ってくる香藤を真っ直ぐに見れずに岩城は大丈夫だと頷いた。 二人は、タクシーで自宅まで帰った。 車内では一切喋らず街のネオンを見ながら、岩城は何かを思っているようだった。 タクシーが自宅に着くと、香藤は料金を払った。 先に降りていた岩城が家の戸を開けて入り、香藤が後から入ると同時に、岩城は素早く振り返ると香藤の唇に唇を重ね合わせた。 「っ!」 驚いた香藤は目を見開き、よろめいた背がドアにぶつかった。 それでも、岩城はもっともっと重なり合うように重ねた。 香藤は岩城のキスに応えるように岩城の後頭部に手をやり自分へと押し付ける。 荒い息遣いがまだ電気も点けられていない玄関で執拗に繰り返される。 「はっあっ……」 長い口づけが終ると、岩城は力なく香藤へと身体を預けていた。 香藤は岩城の背に腕を回すと、 「どうしたの? さっきから変だよ? 岩城さん」 「……何でも無い」 ヤレヤレ……又、何でも無いか。 岩城さんの悪い癖だよね。 「何でも無く、こんなのおかしいよ。言ってくれなきゃ判らないでしょ? ん?」 「……」 「ね?」 根気よく聞いてくる香藤に、岩城は顔を香藤の胸に押し付けると、 「お前が……戻って来たとき彼女らに囲まれてて……」 「え? それって……」 「もう、いい!」 と、少し頬を染めた岩城は香藤から身体を離した。 岩城は恥ずかしさにその場から離れよとさっさと部屋へ入ろうとするが、香藤は岩城のあまりの可愛さに、逃げる岩城を背後から抱き締めると、 「妬いてくれたんだ! 俺スッゴク幸せだよ!! 岩城さん」 「なっ! 誰が妬くなんてっ!」 「もう、照れなくてもいいじゃん。何時も俺ばっかりだからっ。凄く幸せ。最高のクリスマスプレゼントだよっ」 滅多に見せない岩城のヤキモチに嬉しさが込み上げて来る。 香藤は腕に抱いた岩城の顎を自分の方へ向けさせると、口づけた。 今度は、優しく触れ合って、幾度と重なり合わせて二人は見つめあった。 2003.12.14 秋篠琴音 |
〈秋篠琴音 様〉
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嫉妬しちゃう岩城さん〜ツボです! ツボ! 可愛い!
(はあはあv)
香藤・・・たまりませんね〜vvv
もうらぶらぶな2人・・・・最高です!!
秋篠さん 素敵なお話ありがとうございます