三春の桜 |
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春は、梅・桃・桜が一時に開花する町 咲き誇る三つの春を地名の由来とする三春町 澄みきった空の下、阿武隈の山ふところに抱かれたこの町は まるで遠い日のやさしい伝説をしのばせているような小さな古い城下町です きっかけは些細な事 「三春に行ってみたいな・・・・・」 何気なく岩城さんが言った言葉・・・・・その時は、そのまま聞き流していた。 でも、どこかに引っかかっていた事がある。 岩城さんがここまで地名をはっきりと口にしたことが・・・・・ 「ねえ、金子さん。三春って何処にあるの?」 車の移動の時、香藤は何気なく聞いてみた。 「三春ですか?確か、福島の方にそんな名前の地名があったと思いますが?」 金子は運転しながら答えると、バックミラーで香藤の様子をうかがった。 軽いため息をついて何か思い込んでいる。 金子は次の言葉を待っていたが、何も無く次のスタジオに車は着いた。 そのまま、香藤の口からはその事は出なくなった。 その晩、家に戻って香藤は自室のパソコンを立ち上げた。 岩城はまだ戻って来てないので、先に「三春」調べてみるためだった。 福島県の山手に三春の名前があった。小さな町・・・・・住所からそう感じた。 「泊まれる場所ってあるのかな?」 いろいろ調べている時に、気になった桜の名前のページを開いて見たら、桜の写真が画面一杯に、写し出された。そして、下記の説明が書かれていた。 三 春 滝 桜 【名 称】 三春滝桜(みはるたきざくら) 【所在地】 福☆県▲●郡三春町大字滝字桜◇保 【交 通】 ◎R磐◆東線三春駅より約8km (タクシー約2,000円程度) 【特 徴】エドヒガン系の紅枝垂桜(ベニシダレザクラ)で、大正11年10月12日、国の天然記念物の指定を受けた名木です。日本を代表する桜の巨木で、日本三大桜の一つといわれており、岐阜県の淡墨桜とともに東西の横綱に位置づけられています。 日本三大桜 三春滝桜 岐阜県根尾村(根尾谷)の淡墨桜 山梨県武川村(実相寺)の神代桜 平成2年6月2日、「新名木百選」(緑の地球キャンペーンの一環として読売新聞社 と国際花と緑の博覧会協会が選定)に認定されるとともに、人気投票による“名 木ベスト10”にも選ばれている。昭和42年、皇居新宮殿正殿の松の間杉戸絵を飾る「 桜」(橋本明治画伯)は、この滝桜をモデルとしたことでもよく知られています。 【大きさ】 樹高は12m、根回りは11m、枝張りは幹から北へ4.6m、東へ10.7m、南へ 13.9m、西へ14.5mの巨木です。 【状 況】開花期の4月中・下旬、四方に伸びた太い枝から、真紅の滝がほとばしるかのように小さな花を無数に咲かせ、その様はまさに滝が流れ落ちるかのように見えることから、古来滝桜とよばれるようになったといわれています。 【樹 齢】 植物学者の推定から、1,000年以上というのが妥当なようです その写真に思わず見ほれていた俺は、絶対岩城さんを連れて行きたいと思った。 でも、有名な桜だから・・・・・満開時は人が多いだろうな・・・・・ 自分たちの事を考えると、そんな所には行けないと岩城さんは躊躇してしまうんだろうな・・・・・行き方や、宿泊できる場所、桜の咲き始める時期などを調べ上げ、その後、金子さんと清水さんに頼み込んで、2日間のオフをもぎ取る。 決めたのが3月初旬だから・・・・・1ヶ月程しかない短い期間後にオフを取ることは、はっきり言わなくても無茶な事・・・・・だけど清水さんと金子さんはがんばってくれた。 1泊2日と俺達には無理をしてもぎ取ってもらった、大事な大事な二人だけの時間。 「喜んでくれるといいな・・・・・」 ふっと思い起こす。 岩城さんのうれしそうなはにかんだ笑顔・・・・・あの笑顔に弱いんだよね。 思い出して、ニヘラと笑う。 金子さんに注意された・・・・・・いけない、ここはスタジオで出番待ちだった。 4月初旬 無理にもぎ取ったオフ。岩城さんは驚き、困惑したようだった。 まさか、俺が無理にあわせて取ってもらったオフだったことは、清水さん言わずにい てくれていたようだったからだ。 帰ってきたその日の夜、二人分の荷物をまとめてしまっていた俺は、普段着に着替えて、リビングに出てきた岩城さんを捕まえて車に押し込んだ。 夕飯は途中で食べる事にした。 「おい、香藤どこに行く気だ?」 「きついなら寝ていていいよ。行くところは、今は秘密。楽しみにしていて」 「明日と明後日のオフは、お前が頼み込んだらしいな・・・・・何を考えているかは知らないが、楽しみにしている」 岩城さんは、苦笑しつつも微笑んで答えを返してくれた。 何気ない、こんな時が本当に嬉しいと感じて、俺の顔もほころんだ。 そして、車は北の方角に向かって消えた。 朝方、車は目的の場所に近い駐車場についた。 この先は桜の為に車の乗り入れが出来ないようになっているから、人の来ない早い 時間に岩城さんとこの桜を見て、その後、旅館に行ってゆっくりしようと考えていた。 人に騒がれず、岩城さんが困らないようにでも、桜はゆっくり見せたいこの2つに目的を絞ったのだが・・・・・こんな早い時間、もしかしたら岩城さんに怒られるかな? 怖々と隣の助手席を除き見ると、岩城さんは目を覚まして俺を見ていた。 「何、百面相してるんだ?」 クスクス笑った岩城さんが聞き返す。 「起きていたんだ・・・・・岩城さん。着いたよ」 「ここは何処なんだ?」 岩城さんは伸びをしながら聞き返し、窓より外を眺めた。 「福島県三春・・・・・桜を見に来たんだ。朝早いけどね」 「三春・・・・・って?何で?」 岩城さんが驚いて聞き返す。やったと思った。岩城さんに喜んでもらえると確信してしまった・・・・・上機嫌な俺 「うん、岩城さん。言った事があるじゃないか。三春に行ってみたいってね。だからさ」 香藤の言葉に、岩城は不思議そうな顔をする。 「そんな事口に出したのか?」 岩城は思い出せない様子だが、香藤は頷き返す。 「そっか・・・・・言ったのか。香藤、ありがとう。で、ここから歩くのか?」 「少しね。ここで有名な桜だって。枝垂れ桜だよ。満開ならもっと綺麗なんだけど・・・・・もしかしたら早いかも知れない」 開花予報は、今年は早いけど実際に来ないとそれは判らない。 「でも、見せたいのだろ。俺に」 岩城の言葉に更に香藤は感激した。車より降りて目的まで朝もやの中を二人でゆっくり歩いた。 本当に早い時間なのか、誰にも会わずに目的の場所に着いた時、朝日の中に薄い桜色が回りに広がった。 二人は無言でその花を見つめている。 『綺麗だ・・・・・桜もだけど、その中の岩城さんも・・・・・』 香藤は思わず見とれていた。 咲き始めて、幾分立つが、満開にはまだ早い・・・・・それでもその桜には岩城も圧倒されていた。 そして、もう一つ・・・・・朝日とその中で微笑んでいる香藤の姿だった。 陽はだんだんと明るさを増してくる、その中に、ふと人の声が聞こえてくる。 「岩城さん、惜しいけど先に旅館に行って落ち着こうよ。夕方、ここにきても良いんだしね」 「そうだな。騒ぎになる前に行こうか」 岩城は香藤の言葉に頷き返し、もう一度だけ、桜を見返すとその場を後にした。 香藤は先に進んでいたが、来ない岩城に気付き立ち止まっていた。 駐車場まで戻り助手席に岩城が座ると、ため息をついた。深い感動を伴った、ため息である事は香藤には解っていた。連れてきて良かった・・・・・本当にそう思えた。 「香藤、ここに来たかった理由、知っているのか?」 旅館に向けて車を出した香藤に、岩城は聞いてきた。 「ううん、でも、岩城さんが地名を言った事が印象に残ってたんだと思う。だからかな」 香藤は、答え岩城の方をチラッと見る。 「「独●竜☆宗」覚えているか?」 「15年前にあった時代劇だよね。最近、DVDが出たんじゃないかな」 「ああ、その時にここの土地の由来を聞いて、一度、春に来てみたいと思った」 「そうなんだ・・・・・で、どうだった?」 「来て良かった・・・・・お前と一緒だし・・・・・な」 顔を真っ赤にして窓から外を見る岩城さん・・・・・ 俺、運転して無いなら岩城さんに抱きついてしまいたかった。 ――了―― sasa
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★香藤君のほんのちょっとした気遣いが岩城さんにまた1つ幸せを与えたお話
でもそれによって結局は香藤君自体も幸せに・・・v
なんて素敵な関係でしょうv
参考にされた三春の桜もとても綺麗で素敵でした
sasaさん、素敵なお話ありがとうございましたv