「ただいま」
玄関を開けて帰宅を告げるが、いつもすっ飛んで来るはずの香藤の姿がない。
明かりは点いているし、いないはずはないのだが…
「ただいま。香藤?」
リビングの扉を開けて再び声をかけてみるが返事はなく姿も見えない。
風呂だろうかと覗いてみるが、ここにも姿は見あたらない。
結局家中を探しまわり、最後にたどり着いた和室に香藤はいた。
いたにはいたが、畳に寝ころんですやすやと寝息を立てている。
見るとその頭の上あたりには、一体どこから持ってきたのか桜の盆栽の鉢が鎮座していた。
小さいがなかなかに見事な枝振りの桜である。
どうやら寝ころんでこの桜を見上げている内に眠ってしまったらしい。
音を立てないようにそっと近づき、寝顔を見つめつつ髪をそっと撫でる。
今年は花見に行けなかったからな。こいつなりに色々考えたんだろうな…
こういうイベント事が好きだからな香藤は。
全くのんきな顔をして寝てる。
あ〜あ顔に畳の跡が付いてるじゃないか。ヨダレまで垂らして。男前が台無しだ。
なんだ?幸せそうに笑って…。いったい何の夢をみてるんだ?
おい、起きろ、香藤
せっかく帰ってきたんだからおかえりの一言くらい言ったっていいじゃないか
そう心の中で少しわがままを呟いて、髪をつんと引っ張る。
「うぅ〜〜ん、………岩城さん………嫌よ嫌よも好きのうち……」
………一体どんな夢を見てるんだ………香藤………
こんな姿を見ても可愛いとか思ってしまった自分に少々呆れながら、ジャッケットとネクタイを外して俺も香藤と同じように寝ころんで桜を見上げる。
なるほど、こうして見ると小さな盆栽でもまるで大木を見上げているような気分になる。
眼上には可憐な桜の枝、隣には大切な者の安らかな息づかい。
安心と同時に睡魔が襲ってきた。
だんだん…目蓋が…重く………。
ぼんやりと目蓋を開けるとそこには今日自分が買ってきた桜の花があった
何となく夢の続きのような気がして思わず顔がほやんと弛む
「い〜い夢だったなぁ〜」
岩城さんと一緒にお花見に行って〜お酒飲んで〜
ちょっと酔っぱらった岩城さんと桜の木の下で×××……
むふふふふふふふふふふふ
ちょと恥じらってる感じが最高だったなぁ〜
あ〜でも夢かぁ〜〜残念………
とちょっとションボリしてふと隣を見ると、いつの間に帰ってきたのか当の岩城さんが俺の隣ですうすう眠っている
いつもはきっちりセンターの前髪が少し乱れて額にかかっている
起こさないようにそっと前髪を後ろに撫でつけてやると、案外こどもっぽい寝顔が現れ、長い睫毛がほおに影を落としている
うくくぅ〜〜可愛い〜〜〜
やっぱ夢より本物だよな〜
あ、笑った
どんな夢見てるんだろう
とそこに桜の花びらが一枚岩城さんの頬に落ちてきた
うわ……綺麗……
岩城さんて桜似合うなぁ〜
なんかこの鎖骨とかもう犯罪だよね…
この腰なんかもうひん剥いちゃいたいよ
お肌つるつる〜桜色〜
美味しそうだなぁ……………いやいやいやいやいや
せっかく気持ちよさそうに眠ってるんだから起こしちゃ悪いし
でもな〜この食べて下さいと言わんばかりの状況はちょっとなぁ
なんかもう夢と被っちゃってちょっとやばいかも……
ああ、もう我慢できない!
「いただきます」
ごめんね、岩城さん
「……………ん、ふ…ぅ…ん?あ!こら!かとっ…あ…ん…何…やって…!」
「ん〜〜ごめんね〜〜。気持ちよさそうに寝てたからやめようかと思ったんだけどちょっと我慢できなくて。でも大丈夫!もっと気持ちよくしてあげるからねVV」
「あ、こら…理屈に、なってな…んっ」
桜の花だけが見ている
そんな甘い
真春の夜の夢………
End. 海田およぐ