花びら・・・散る、降る。




今年は例年になく春の訪れが早い。
それに伴い桜の開花も早く、また散っていくのも早い。
多忙なふたりにとっては毎年の事ながら、やはり満開の桜を愛でるのは難しい。


* * * * *


「ただいまー、岩城さん。」
明かりの点いた家に帰宅する。それだけでも充分に嬉しい。
増してや愛しい人がそこにいるのなら。
そしてこれからは、その愛しい人と・・・。

「お帰り、香藤。何かいいことでもあったのか?」
「え?何でそんな風に思うの?」
岩城はその理由について「いや、何となく。」と答える。
が、まさか顔や声に出ているから、とは言えなかった。

「岩城さん、夕食は済ませた?お風呂は?」
「俺は外で済ませてきたが風呂はまだだ、お前は?」
「うん、俺も食事は済ませてきた。じゃあ、お風呂に入る前にちょっと出かけない?」
「これからか?」
幸い岩城は幾分ラフな格好はしていたものの、すぐに出かけられる服装をしていた。
ジャケットを羽織り、香藤の運転する車に乗り込む。


住宅地から走ること数十分。暗い一角がある。
大学のキャンパスだった。
車を止め、正門を入る。

そこにあったのは天然記念物にも指定されている枝垂桜。道なりの街頭に照らされて
ぼんやりと闇に浮かび上がっている。
「たまたま今日、仕事に出かける時に通って気付いたんだ。結構地元の人たちが見に
来てた。」
大学側もこの時期だけはと門を開けてくれているらしい。
それでも夜遅い時間になれば訪れる人もいない。

「ほんとはね、どこかにまだソメイヨシノが咲いていないかと思ったんだけど今年はもう
散っちゃったんだよね。それにこの桜だって昼間見たときはもっときれいだった・・・。」

「お前と見られるんだったら、どんな桜でも構わないさ。例えどんな姿をしていても。」
「俺だって岩城さんと見れるんだったら・・・。」
ふたりがそう言ったとき、一陣の風が吹き抜ける。
頭上の桜から花びらが舞う。何枚も何枚も。

「岩城さん、肩についてる・・・・・・花びら。」
香藤が上着についた花びらを摘んで取ろうとした。が、その手がそのままシャツに滑り、
ボタンを外した。



帰宅後、冷えた身体を温める。まだ野外は冷えるのだ。
例えどんなに温めても。

「早く入っておいでよ。」
香藤の急かす声で、ため息をつきながらも脱衣所で服を脱ぐ。
鏡に映った身体にはいくつもの花びらが散っていた。

そしてその体から一枚・・・花びらが舞い落ちた。
それを彼らが見つけるのはもう少し後になりそうだ。


end



‘04.03.15.
ちづる
     
    ――了――



★・・・・・まあ、思いっきり桜を味わったご様子v
素敵です・・・・・v
岩城さんの上に舞い散る桜を見ながら・・・きっと同時に
色んな岩城さんを味わっただろう香藤君・・・・
さぞ幸せな時を過ごしたことだろうと・・・

素敵な艶のあるお話、ちづるさんありがとうございました