続 甘すぎる雪

今日は、俺の誕生日だ。だが、どうしても抜けられない仕事が入って、家に帰ったのはもう夕方になっていた。
清水さんが運転する車の中から外を見る。
町中のあちこちに例の香藤のポスターが、溢れていた。
どうやら、女性に大人気らしくて店頭に貼ってあるポスターなどは、貼りなおしてもすぐに無くなってしまうと言う噂だ。
残っているのは、ビルボードと、駅の広告くらいとまで言われている。

遠くに見えるビルボードの香藤を見ながら思う。あの情欲に潤んだ誘うような目は、情事の時の俺を見つめる瞳だ。
誰にも見られたくないあいつの顔をこうやって世間にさらす芸能人という職業を疎み、そして、知りもしない香藤を慕う何万人かの女達に嫉妬をする自分が情けないと思う。

「着きましたよ。岩城さん」

清水さんにそう言われて、香藤のその撮影の日の事を思い出していた自分にはっとする。

「あ・・、すいません、どうもお疲れ様でした。」
「あの・・岩城さん、すいませんでした。まだ、例の物手に入らなくて・・・」
「いや、いいんです。ご面倒かけて・・・」

俺はできるだけ明るい声の調子で言った。
だが、清水さんにはきっと俺の落胆がわかったに違いない。
俺は気まずい雰囲気を断ち切るように言った。

「じゃ、お疲れ様でした。」
「岩城さん・・・もう少し、当たってみますから・・・」
「いえ・・本当にあまり気にしないで下さい・・では、明日また・・・」
「そうですか・・・、お疲れ様でした。」

そう清水さんに言われて、車を降りて玄関に向かう。
扉を開けたとたん、元気な香藤の声が聞こえてきた。

「お帰りなさーい!岩城さん!」

そう言って、嬉しそうに俺に飛びついてくる。
全く、お前はいつも犬みたいだなと言いたいのを堪えて、俺は言った。

「ただいま・・すまなかったな。家に居れなくて・・」
「何言ってんの!今日の主役が、謝っちゃだめ。」

と、唇を尖らせながら、香藤が言う。
こんな時、明るい褐色の目が特に輝いて見えるのは、俺の気のせいだろうかと思う。

「俺、はりきって夕飯作ったから。岩城さんの好きな和食にしたんだ。さ、冷めないうちに食べようよ。」

と、香藤に急かされてダイニングルームに行くと、鰤の照り焼き、ほうれん草のおひたし、筑前煮などが、並べられていた。

「美味そうだな・・有難う、香藤」

俺がそう言うと、もうこの世にはこれ以上は無いというほどの嬉しそうな顔をして、香藤が微笑む。

食事が済むと、香藤が俺の目の前にリボンが掛けられた長い筒のようなケースを置いた。

「岩城さん、お誕生日おめでとう。俺からのプレゼント、開けてみて」

俺はゆっくりとリボンを解き、ケースの蓋を開け、中の物を取り出した。

「どう・・岩城さん、今年のプレゼントは俺だよ。」

それは、香藤の噂のポスターだった。
だが、町で見かけるのとはポーズが少し違うようだった。
それに、化粧品会社や商品の名前、キャッチフレーズも、載っていない。

「これは、世界にひとつしかないんだ。岩城さんだけの俺だよ。カメラさんに頼み込んで特別にポスターにしてもらったんだ。」

まるで、俺の心を読んでいたかのような香藤の言葉に動揺する。世界中に嫉妬していた俺の・・・

「町に出てるのとこれとが、最終審査に残ったんだけど、こっちが没になっちゃって・・カメラさんも俺もこれがいいと思ってたんだけど・・ちょっと刺激が強すぎたみたいで・・。」

そう言うと、少し気まずそうに香藤が笑った。

「有難う、香藤、嬉しいよ。最高のプレゼントだ。」

俺がそう言うと、安心したように大きく溜息をついて言った。

「ほんと!良かった〜、俺、今あんまり仕事してないし、お金使うのも岩城さんに悪いって思ってたから・・・」
「俺は本当に何もいらない・・お前さえ傍にいてくれたら・・・・それで・・」
「岩城さん・・・」

香藤が、そっと俺の肩を引き寄せ、顔を近づけてきた。俺は甘いあいつの口付けに体の力が抜けていくのを感じながら、心の中で思った。

清水さんには、明日伝えなくてはいけないだろう・・・
頼んでおいた香藤のポスターは、もう要らなくなりましたと・・・



ー終ー


レイ

Jan.18 2005

おそまつですいません;;;







フェロモン爆発の香藤くんのポスターですv
イラスト入りの作品にワフワフさせて貰いました!
見えそうで見えない(何が)所も憎いですね!(笑)
岩城さん・・・どんな表情でこれを眺めるのかしら・・・v

レイさん、素敵な作品ありがとうございましたv