【 Pulse 】

「ただいま」

家に着いて玄関を上がると、いる筈の香藤の返事がない。
きっと転がるみたいに飛び出してきて、お帰りって抱きついてくるかと思ってたのに。

そのままリビングのドアを開けると、ダイニングテーブルの上に山積みの食材。
ソファには、座った途端倒れ込んだのだろう、明るい色の髪のフサフサした大型犬が、横臥して、口を半開きにしてすやすやと眠っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・。

ぐるりと辺りを見回しただけでも、テーブル以外の家中が片付いて昨夜帰った時には、うっすらと埃の浮いていた家具や床や窓も、俺が出ている間に、香藤はさぞかし頑張って働いてくれたのだろう、随分ときれいになっている。
長い間空けがちで、生活感のなかったこの家に、その存在があるだけで、ああ、帰ってきたんだな・・・、と、思う。
ふたりだけの家だからこそ、・・・空気が違う。
・・・ずっと憧れていた・・・温かい家庭の匂いが還って来る。
香藤が俺を待っている・・・それだけで。

家中の掃除を終え、洗濯やら買い物やらを済ませ、取り込んだ洗濯物を畳んでいる最中に睡魔に襲われたのだろう、畳み掛けのバスタオルに突っ伏すみたいに眠る香藤。

・・・・・大変だったみたいだな?ご苦労さん・・・。

コートを脱いで、静かにソファの香藤の傍らに腰を下ろす。
無意識に俺の手は香藤の髪に伸びて、そっと指が動く。

一緒に過ごす何度目かの新しい年を迎えて、お互い随分と変ったかもしれない。
香藤はなんだか年々大人びていくような気がするし、俺は益々自分の中の香藤への想いを隠せなくなっていく。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・欲しい時に手が伸びて、お前に口付け・・・、抱き締める。
求められる自信は揺るがず、照れも迷いもなく・・・。
ただ、溶け合おうとする欲望には限りがない・・・。
応えてくれるこの腕が心地よくて、更に擦り寄り・・・俺の方が犬か猫のように・・・。
お前を抱いて、抱き締められる・・・独りじゃない胸の高鳴り。
体を繋げていない今でさえ、ただ傍にて・・・こうして、ほんの少し触れているだけでも、俺がお前で満たされる・・・。
香藤の首筋に浮き出る動脈を指先で辿りながら、・・・ああ、生きてる・・・そう感じると・・・心の底から、安心出来る・・・。

・・・・・・香藤・・・香藤・・・帰ったぞ・・・?

目が覚めたら、きっと香藤は笑う。
俺を迎えて、思い切り、俺の欲しい笑顔をくれる。
こうしてお前に触れてる俺を知ったら、尚更。
いつもみたいに抱きついて、ああ、そうだな・・・多分昨夜の続きの答えをせがむんだろう?

『・・・御誕生日、何が欲しいの?岩城さん?』

答えなんか決まってる・・・。
俺に必要なもの。
俺がいつもいつも欲しいもの。
そんなの、この世にたったひとつしかなくて、今更手放す気なんて全くない俺だけの・・・この鼓動なんだから・・・な。

おわり
2005/01/23  にゃにゃ

illustration:ころころ




にゃにゃさんところころさんの合作です
とっても素敵なお話と可愛いイラストにうっとりですねv
疲れて帰ってきても香藤くんの明るさが癒しになっているだろう岩城さん・・・
でも眠ってしまっている姿もきっと岩城さんを和ませているんですね〜v

眠っている香藤くん・・・ツボですv
お二人様、お疲れ様です
素敵な作品ありがとうございましたv