「はい、あ〜ん」 ぐっと目の前に差し出されるスプーンに岩城は顔を少し引いた。 「・・・もう、岩城さん・・・」 「自分で・・・出来る」 「観念してよ、いい加減・・・お粥が冷めちゃうでしょ。ちゃんと教わって作ったんだからさ、味は保証付き!」 「だって・・・」 「だって、じゃないよ! なんでそんなに恥ずかしがるかなあ。ほら、口開けて・・・ちゃんとふうふうしたから大丈夫だよ、熱すぎないから!」 そう言ってにっこり笑う香藤の顔を見て・・・・・・・岩城は小さく溜息をついた。 「どうしてもか」 「そう、どうしても」 「・・・・・」 「ほうら、あ〜ん」 香藤は再び器を持ってぐっと身を乗り出した。 「・・・・・」 仕方がない・・・・ 岩城は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、口を開いた・・・。 「じゃ、これ片づけてくるから・・・お水持って来るよ」 「ああ」 食欲はなかったが、香藤もその点はちゃんと考えて量を少なめに持ってきてくれた。 おかげで何とか食べきることが出来た。保証付き!と言ったとおり確かに良い味だった。 おそらく実家に電話をして作り方を習ったのだろう。 微妙に岩城の好みにアレンジされていたのにも気付いた。 岩城は軽く頭を振ると、身体をずらして布団に潜り込む。 なんだかさっきよりも顔が熱くなった気がする。 ・・・熱が上がったのか・・・ 自分の頬を触りながら、あんな恥ずかしいことをさせた香藤のせいだと心の中で毒づく。 1月26日誕生日の前日・・・岩城は朝から熱を出していた・・・。 「誕生日のお祝い旅行だv」 と、26日、27日と幸いにも互いにオフが取れたために温泉にでも・・・という香藤の計画は岩城の熱で見事に崩れた。 熱と言っても微熱で、寝込む程ではないから行ける、と言ったのだが、香藤が休まないと!と強行に主張して。 疲れもたまっていたことだし・・・と自分を無理矢理納得させては朝からベッドで横になっていた。 けれどそれで意気消沈しているのかと思えば、目をキラキラさせてかいがいしく世話をしてる香藤はとても楽しそうだった。 「あれ? 横になったんだ・・・少し水を含んでいた方がいいよ?」 「ああ、そうだな」 再び布団から上半身を起こす岩城に素早く香藤は手を回した。座りやすいように枕を背にあてる。 水をコップに注いで・・・動作を止める。 「口うつし・・・ってどう?」 「バカっ!」 そう言って岩城はコップを取り上げた。冷たい感触が喉を通り抜ける。 「もう・・・岩城さんったら・・・あれ? 顔赤いよ? 熱が上がったのかなあ」 そう言って自分のおでこをコツンと当てる。 「う〜ん・・・・どうだろう?」 「・・・・・おい」 「何?」 「・・・おまえが熱を上げているからだと思うが・・・」 「え? 俺? なんで?」 「・・・・子供扱いするな」 「ん? 何々、もしかして恥ずかしいの? これが?」 そう言いながらまた自分の顔を寄せる。 「香藤!」 「ああ、駄目だよ、大声出しちゃ・・・何で恥ずかしいかなあ」 「恥ずかしいのが普通だろう」 「そう? ご飯食べさせたり、こうやって熱計ることが?」 普通だと思うけど? と、香藤が首を傾げる。 「お前も・・・その・・・なんだ」 「?」 「・・・なんかワクワクしているし」 てっきり旅行が駄目になって落ち込んでいると思ったのに・・・。 「だって、岩城さんの看護だよ? 楽しいに決まってるでしょ! 勿論温泉も良いけど、それはまた行けるし・・・それに・・・」 人目がない方が岩城自身が何よりも素直になり、可愛い姿も独り占め出来ると考えれば、温泉よりも美味しいかも知れない・・・。 「それに・・・なんだ?」 ぽわわわんと遠くを見ている香藤に聞き返す。 「え? ああ、まあそれはいいんだけど・・・」 えへへと笑い返す。 ・・・・こいつはまた変なこと考えて・・・・ と、岩城は眉をひそめた。 しまりのない顔で一体何を考えているのか・・・。 なんだかんだと話ながら、そっと寝かされた。 頭の下の氷枕がひんやりして気持ちが良い。 「どっか痛くない?」 掛ける布団を整えながら聞いてきた香藤に岩城は頷いた。 「大丈夫だ、少し眠いくらいかな」 「そう。じゃあ、少し眠って? 疲れが出たんだよ、岩城さん。明日も休みなんだし・・・って、明日誕生日だもんね、少しでも良くしておかないと」 「そうだな・・・」 そう言いながら目を瞑る岩城の額に香藤はキスをして、立ち上がった。 「また後で様子見に来るからね」 「香藤」 立ち上がりドアの方へ行きかけた香藤の背中に岩城が声をかけた。 「ん?」 「・・・・・すまなかったな」 そうは言っても、旅行が駄目になったのだ。そのことは申し訳ないと思っていた。 「気にしないでよ、本当に。それよりも少し眠ってね、また様子見に来るから・・・」 ああ、と口だけが開くのを見て、香藤はそっと・・・ドアを閉めた。 階段を下りながら後どれくらい寝かせたらいいのかな・・・とか考える。 時計を見れば昼の1時過ぎで・・・2〜3時間はそっとしておいてあげると良いのかも知れない・・・その間に夕食のことを考えればいいのだ。 自分でも不思議なくらい、ワクワクしていた。 ・・・岩城さんが病気だっていうのに・・・なんて不謹慎なんだ・・・ と思いつつも、その世話を焼くことがこんなにも楽しいとは思わなかった。 温泉旅行はそれなりに楽しいものになったかも知れないけれど、岩城を独占出来る!という美味しいポジションはこういう事態にならなければ出来なかったことだ。 ・・・まあ、病気と言っても高熱ではないし、少し疲れが出た・・・・という軽いものだからきっとこう思えるんだけどね・・・ ふんふんと鼻歌交じりで洗濯を仕分けしながらも顔が緩んでくるのを止められない。 「可愛かったなあ〜岩城さん・・・」 手を止めて、さっき自分の手からお粥を食べた様子を思い浮かべる。あんな事にもいちいち恥じらうところが可愛くてたまらない。 明日いっぱいまで寝かせるとして・・・何回またあの可愛い顔が見られるんだろう・・・・と思うと楽しみが一杯!といった感じだった。 「よおし、夕食も頑張るぞ!!」 看護と称してとにかくこの2日間を思いっきりらぶらぶに過ごすのだ! 「ゆっくり休めて、俺の看護付きで・・・・いい誕生日にしなくちゃね!!」 そう叫ぶと、夕食作りに早く取りかかるために、目の前の仕事を終わらせようと気合いを入れた。 ・・・・既に誰が良い思いをいする誕生日なのかのか、すっかり見失っている香藤だった・・・・ そして、寝室では・・・香藤がそんなことを叫んでいるとは知らずに、暖かい布団に冷たい枕をあてて、気持ちよさそうに眠っている岩城がいた。 誕生日は明日・・・Happy Birthday・・・・・・ |
2004・1・24 日生 舞 |
なんか・・・香藤くんを祝っているような気がします;;
お誕生日おめでとうとは言い難いですね(^^;)
岩城さん・・・ごめんなさいです・・・
心からおめでとうをv