ー人の心が読めたらー 誰もが思ったことがあるのではないだろうか。 それほどに人間は心の内に本音を押し隠す事ができる生き物である。 しかし、今の香藤ならそんな力などなくても誰でも彼が不機嫌だと知る事ができた。 嘘をつけない不器用な人は心の内が顔に出ているなどと言われるが、今の香藤はそんな生易しい物ではなかった。 まさに[不機嫌]と書かれた大きな看板を背負っているかのように遠く離れた後姿からでも彼の不機嫌振りは窺えた。もっと言うなら香藤から[不機嫌]のオーラが出まくっていて周りの人間を戦々恐々とさせていたのだ。香藤がここまで不機嫌なのはドラマの撮影が押しに押していたからだ。 トラブルが相次ぎすでに終了予定時間の6時を大幅に過ぎて午後11時を回っているというのにまだ終わりは見えていなかった。 こんな時いつもなら香藤は持ち前の明るい性格で場を盛り上げてくれるのだが、いかんせん今日は日が悪かった。 今日は1月26日。 香藤の予定では今夜は岩城とベッドをともにして午前零時を過ぎた瞬間に誰よりも早く祝いの言葉を贈るはずだった。 「誕生日おめでとうv」と。 そしてその後も甘い時間を過ごすはずだった。 それなのにまだあと3,4時間は掛かりそうなのだ。 香藤は不機嫌を通り越して今度は泣きたくなっていた。 結局香藤が解放されたのは午前4時を過ぎていた。 監督に頼み込んで10分だけ時間を貰い零時過ぎてすぐに岩城に電話して祝いの言葉を伝えることだけはできたのだが。 自宅に帰り静かに寝室の扉を開けると岩城が穏やかな寝息を立てて眠っていた。 その寝顔をそっと覗き込み香藤は小さな声で囁く。 「岩城さん、ただいま。誕生日おめでとう。」 (かなり予定が狂っちゃったけど今日は二人ともオフだし、起きたらたっぷり愛してあげるからね。) そんな事を考えながらベッドに入った香藤は疲れからあっという間に深い眠りに引き込まれていった。 香藤が目覚めたのは10時を過ぎてからだった。 当然の事ながら隣のベッドに岩城の姿は無い。 欠伸をしながら寝室のドアを開けると階下から賑やかな声が聞こえてきた。 香藤が驚いてリビングに駆け込むとそこには楽しそうに話す岩城と香藤の母そして洋子と洋介の姿があった。 「あ、香藤起きたのか。おはよう。」 「洋二おはよう。お邪魔してるわよ。」 「お兄ちゃんおはよう。お邪魔してま〜す。」 香藤が状況を理解できずにいると口々に声を掛けてくる。 「どうした香藤ぼ〜っとして。まだ寝ぼけてるのか?」 香藤からの返事がないのを怪訝に思った岩城が歩み寄ってくる。 「えっ?あ、ごめんちょっとぼ〜っとしてた。岩城さんおはよ。でもなんでおふくろ達がいるの?」 未だ事態を把握し切れていない香藤に岩城が微笑んで答える。 「わざわざ俺の誕生日のプレゼントを届けに来てくれたんだ。」 見ればソファの上にそれらしい箱が置かれている。 「おふくろおはよう。洋子も。でもなんでわざわざ持ってきたのさ?俺達が居なかったらどうするつもりだったの?」 「あらそんなの。岩城さんがいらっしゃるって分かってるから伺ったに決まってるじゃないの。」 「そうよお兄ちゃん何言ってんの?突然訪ねて来るほど私達礼儀知らずじゃないわよ。」 母と妹に何馬鹿な事を言ってるんだと言わんばかりの目で見られ香藤はたじろぐ。 「実は昨日の朝お前が出た後にお義母さんから電話を貰ったんだ。夜言おうと思ってたんだがお前帰らなかったから。」 「……」 またも自分の計画が脆くも崩れ去った事にショックを受けた香藤は上手く言葉が出てこずに口をパクパクさせていた。 香藤の性格を一番良く理解しているであろう洋子がその心情を察する。 「ごめんね〜お兄ちゃん。お正月にスケジュール見せて貰った時二人揃ってお休みになってたから。お邪魔かな〜とは思ったんだけど。ねっ、お母さん。」 「そうね。洋二には悪いと思ったんだけどあなた達が二人揃ってお休みなんてなかなか無いでしょ?」 「そうそう。それに私達だって何か口実がないとこっちに出て来にくいし。後でお買い物して帰るつもりなの。」 母と妹の波状口撃に香藤は何も言えなかった。 かなりショックを受けた香藤だが母も洋子も自分にとっては大切な家族で、洋介は可愛い甥っ子なのでこの来訪を歓迎する事にした。 何より今日の主役である岩城が楽しそうなのだから。 洗顔と着替えを済ませ自分も話の輪に加わる。 香藤が楽屋での話などを面白おかしく話すと洋子は若い女性らしく興味津々といった風に目を輝かせて聞いている。 洋介はいつの間にか岩城の膝の上に陣取りご機嫌だ。 暫く話した後香藤の母と洋子は朝食を摂っていない香藤のために早目の昼食作りを始めた。 最初からそのつもりだったらしく食材も持参して来たらしい。 程なくして美味しそうな料理が出来上がり皆でテーブルを囲む。 楽しくお喋りしながら食事をしていると岩城がとんでもない事を言い出した。 「お義母さん達この後お買い物に行かれるんですよね?良かったら洋介くん俺達がお預かりしてましょうか?」 香藤は驚いて岩城の顔を見るが岩城は全く気づくことなく言葉を続ける。 「たまには母娘水入らずでゆっくりされたらいかがですか?あっでも洋介くんもデパート行きたいのかな?」 香藤はこれ以上二人の時間を邪魔されてなるものかとここぞとばかりに口を挟む。 「どうせ洋介の服も買うんだろ?なら連れってった方がいいんじゃない?」 そう言いながら洋子に目で訴える。 「う〜ん。洋介の服買うとしてもサイズは分かってるから連れて行かなくてもいいんだけど…。でもご迷惑じゃないですか?」 兄を思う気持ちが子供を気にせず自由に買い物できる魅力に負けそうになっている洋子。 「この子大人しくしてないし。相手をするのは大変ですよ?岩城さんも洋二も毎日忙しくて疲れてるでしょ?」 息子を思う気持ちの方が強い母が助け舟を出す。 (さすがおふくろ。ありがとう。) 香藤が心の中で感謝するがこういうことに関しては全く鈍感な岩城が芽生えかけた希望を打ち砕く言葉を口にする。 「大丈夫ですよ。洋二君と二人なら何とかなると思いますし。俺達なら全然かまいませんから。なぁ香藤?」 (俺はスッゴクかまうんだよ。岩城さん。) そう思いながらも岩城ににっこり微笑んで言われては否定できるはずもなく。 「あ、あぁ…。俺達の事は気にしなくていいからたまにはゆっくり買い物してきてよ。」 心の中で涙を流しながらも引き攣った笑顔を浮かべてそう言うしかなかった。 香藤が陥落したのなら母娘に岩城の申し出を断る理由はなく、食事をすませると意気揚々と出かけて行った。 洋介は最初のうちは大人しくして洋子が持って来ていた絵本を岩城に読んで貰ったりしていたが、やがてじっとしている事に我慢ができなくなったのかリビングを走り回り始めた。 今度は香藤が高く抱き上げたり一緒に転げまわったりして相手をしていたが小さな子供は飽きるという事を知らず、それは洋介が遊び疲れて眠ってしまうまで1時間近くも続けられた。 「香藤、ご苦労様。」 香藤が洋介を抱いてソファに戻ると岩城が労いの声を掛ける。 「子供ってホント元気だよね〜。俺体力には自信ある方だけどクタクタだよ。」 香藤は洋介をそっとソファに下ろし自分も腰掛けると大きく息をつく。 「お前にばかり相手をさせてすまなかったな。洋介くんを預かると言ったのは俺なんだから途中で代わればよかった。」 岩城はすっかり乱れてしまった香藤の髪を手で優しく梳きながらすまなそうに言った。 「そんな、岩城さん気にしないで。俺だって預かるって言ったんだし。ちょっと休めば平気だから。」 香藤は自分の髪を梳いていた岩城の手をとると口元にもっていきそっとキスをする。 「そうか?それじゃあ洋介くんここに寝かせとくのもなんだし、上に連れて行ってお前も一緒に寝てくるといい。」 「そうだね。一人で寝かせとくのも可愛そうだし。そうさせてもらおうかな。」 「ああ。」 香藤は洋介を起こさないように抱き上げると寝室へ上がって行った。 一人になった岩城が掃除や洗濯などの家事をこなしているとやがて賑やかな声とともに洋子達が帰ってきた。 タイミングよく香藤も洋介を抱いて降りてきた。 「ただいま〜。遅くなっちゃってごめんなさい。」 「岩城さん、洋二すっかり甘えちゃってごめんなさいね。でもおかげで楽しかったわ。」 仕方なく岩城に同意した香藤だったが母や妹の嬉しそうな顔を見るとやっぱり洋介を預かって良かったと心から思った。 お茶を飲みながらまた一頻りお喋りした後三人は帰って行った。 洋子達を見送ってリビングに戻ると香藤は岩城に凭れ掛かって甘える。 「やっと二人きりになれたね。そういえば俺まだちゃんと顔見て言ってなかったよね。岩城さん誕生日おめでとう。」 「ありがとう、香藤。でもお前もしかして忘れてるのか?」 岩城が複雑そうな表情で見つめてくる。 「えっ、忘れてるって何を?」 RRRRRR…… 岩城が答えようと口を開いた瞬間電話が鳴った。 岩城が受話器を取り話し始める。 「はい、岩城です。」 「あっ、兄さん?」 それを聞いた瞬間香藤は正月に岩城の実家に行った時の事を思い出した。 「東京にいらした時には是非家に寄ってくださいね。」 そう言ったのは香藤だった。 勿論社交辞令的な意味を多分に含んだ言葉だったが。 雅彦もそれを分かっていて応える。 「ああ、そうさせてもらうよ。でも二人とも忙しいだろう?」 兄弟の仲もかなり修復されてきていたので岩城からも誘いをかける。 「うん、それはそうだけど。連絡くれれば時間を融通できるかもしれないし。オフの時もあるしね。」 岩城の言葉に雅彦は少し考えていたが思い切ったように口を開いた。 「実は今月の27日に東京で開かれる会議に参加する事になってるんだが…。京介の予定はどうなってるんだ?」 岩城と香藤はアイコンタクトを交わす。 「そうなんだ。その日は丁度俺も香藤もオフだから時間に余裕があるなら寄ってよ。」 「ええ、是非そうしてください。」 「そうか偶然だな。滅多にない機会なんだし二人がそう言ってくれるなら寄らせて貰おうかな。」 「ええ。お待ちしています。」 (そうだった。今日はお義兄さんが来るんだった。すっかり忘れてたよ。) 香藤は岩城との甘い時間がまた遠ざかった事にすっかり意気消沈してしまった。 「えっ!?」 雅彦と話していた岩城が突然驚いたような声を上げる。 「あぁ、そうなんだ。」 そして会話を続けながら香藤の方を見つめてくる。 「うん。分かった。家はかまわないから。で何時ごろ来るの?食事は?」 「うん。うん。分かった。それじゃあ待ってるから。」 電話を切った岩城は香藤の方を振り向くと突然顔の前で手を合わせ頭を下げた。 「香藤!すまんっ!」 「えっ、何?どうしたの?」 香藤がわけが分からず訊ねると岩城はそのままの姿勢で答えた。 「兄貴が急にこっちで泊まらなくちゃいけなくなったらしいんだ。それで家に泊めてくれないかって。」 思いもかけない事に香藤は思わず大声を出す。 「ええ〜〜っ!!それでもしかして岩城さんOKしちゃったの?」 香藤のあまりに大げさな反応に岩城は逆切れ気味になる。 「だからすまんって言っただろう!それに断るなんて冷たい事ができるわけがないだろう!?」 岩城の剣幕に香藤が押され気味になる。 「うっ、そりゃそうだけど。でも…。だって…。」 香藤が涙目になっているのを見て岩城は冷静になる。 「お前が今日の俺の誕生日を特別に思ってくれるのは嬉しいよ。でも兄貴がこっ ちに来ることなんて滅多にないんだし。今日の分は今度オフが重なった時に取り返せばいいだろう?」 岩城に抱き寄せられ、背中を優しく叩かれて香藤も気が治まる。 「うん、分かった。ごめんね、子供みたいなこと言って。」 「俺も怒鳴ったりして悪かったな。兄貴食事をすませてから8時頃来るそうだから。それまでは二人でゆっくりしてよう。」 「うん。でもお義兄さん来る前に客室掃除しとかなきゃね。」 「そうだな。」 岩城にピッタリと寄り添いながら香藤は考える。 (お義兄さん今日が岩城さんの誕生日だから家に泊まるんだ。ホテルなんてすぐ取れるのに。自分がいれば俺達がHできないだろうと思って邪魔しに来るんだ。) そしてこれは単なる香藤の邪推ではなかったりするのである。 つまり今回の宿泊は可愛い弟を取られた兄のささやかな復讐であったりするのだ。 香藤が時計に目をやると間も無く5時になるところだった。 香藤は岩城に寄り添ったまま訊ねる。 「ねぇ、岩城さん。今夜やっぱりダメだよね?」 「…ああ。」 「お義兄さん来るまで時間あるし、今1回だけダメ?」 「………1回だけだぞ?」 「ありがと、岩城さん。優しくするからね。」 「…ばか。」 二人は手を繋いで寝室に上がった。 「先にプレゼント渡しとくね。」 香藤は寝室に入るとすぐプレゼントを差し出した。 「改めまして。岩城さん、誕生日おめでとう。」 「ありがとう。香藤。」 岩城は少し恥ずかしそうに目許を赤く染めながら包みを受け取った。 開けてみるとそれは腕時計だった。 有名ブランドの物ではあるが余分な飾りの無いごくシンプルな物だった。 「派手なのよりこういうシンプルなのの方が岩城さんには似合うと思って。実は俺の分も色違いのお揃い買っちゃったんだ。ずっと岩城さんと同じ時を刻んで生きて行きたいと思ったから。」 「香藤、ありがとう。俺もお前の傍でずっと同じ時を刻みながら生きて行きたい。」 「うん。ずっと一緒にいようね。」 二人は引き寄せ合うように唇を重ねるとベッドに倒れこんでいった。 やがて時間となり雅彦が訪れた。 「兄さん、いらっしゃい。」 「お義兄さん、いらっしゃいませ。」 「京介、香藤君、今日は突然無理を言ってすまない。急に明日も会議に出席する事になったんだ。」 「俺達なら全然かまわないから気にしないで。それより外寒かっただろ。早く上がって。」 岩城に促されてリビングに入った雅彦は持っていた紙袋をすっと差し出す。 「何?」 岩城が戸惑って訊ねると雅彦が顔を赤くして答える。 「お前今日誕生日だろ。プレゼントだ。」 岩城は更にずいっと押し付けるように差し出された袋を嬉しそうに受け取る。 「もうこんなことして貰う年でもないのに。でも嬉しいよ。ありがとう兄さん。」 岩城がこんな素直に喜ぶとは思っていなかった雅彦は更に赤くなる。 「そっそれは冬美が用意したんだ。俺は言われて持ってきただけで…。」 「くすっ、そうなんだ。じゃあ後で義姉さんにお礼の電話しなきゃいけないね。」 「ああ、そうしてやってくれ。あいつも喜ぶと思うから。」 その後多少ぎこちないながらもお互いの近況を報告しあったりして暫く話をした。 「お義兄さん、お風呂の用意ができましたからどうぞ。」 風呂の準備を終えて香藤がリビングに戻ってきた。 「ありがとう香藤君。京介お前達はいいのか?」 「俺達は後でいいから。兄さん先に入って。」 「そうか。それならそうさせてもらうかな。」 雅彦が脱衣所にいると岩城が追いかけるように入ってきた。 「兄さん、パジャマ俺のだけどこれ使って。タオルはそこの棚にあるのどれでも使ってもらっていいから。」 「ああ、すまない。」 「じゃ、ゆっくり温まってね。」 「京介。」 出て行こうとする岩城を雅彦が呼び止める。 「何、兄さん?」 岩城が振り向くと雅彦は俯いて顔を赤くしていた。 「あ、いや、その…、なんだ。…お前達一緒に風呂に入ってるのか?」 「………そっ、そんな事するわけないじゃないかっ!別々に入ってるよっ!」 予想外の質問に岩城も顔を真っ赤にして叫ぶ。 「そっ、そうか。ならいいんだ。変な事を訊いてすまなかった。」 雅彦は明らかにほっとしたようだった。 「いや、いいんだ。気にしないで。じゃ、ホントにゆっくり温まってね。」 岩城はそれだけ言うと逃げるように脱衣所を後にした。 (あ〜驚いた。まさか兄貴があんな事訊いてくるなんて。) 実は雅彦が来る前、一度だけ肌を合わせた後二人は一緒に風呂に入っていたのだ。 岩城はリビングに戻ってもまだ動悸が治まらずにいた。 「岩城さん、顔赤いけどどうしたの?」 「いや、なんでもない。」 香藤に先ほどの雅彦との会話を話せるはずもなく、パタパタと手で顔を仰ぎながら隣に座る。 「ふ〜ん。」 深刻な事ではないと判断した香藤もそれ以上は追求しなかった。 「なんかやっぱ、お義兄さんと話すのって緊張する。」 「くすっ。そうだな。俺もだ。」 二人は顔を見合わせて小さく笑う。 「でも岩城さんはまだいいよ。俺なんかさり気に睨まれてる気がするんだよね〜。」 「お前、正月によっぽど兄貴の心象悪くしたんだな。結局日奈も抱かせてもらえなかったしな。」 正月、岩城の子供の頃のアルバムを見て顔を緩ませきっているのを見て危機感を覚えたらしい雅彦は一度として愛娘の日奈を香藤に抱かせる事はかなった。 どうやら雅彦の心の中では香藤に[変態]のレッテルが貼られてしまったらしいのだ。 「そんな事言ったってさ〜。あんな可愛い岩城さん見て俺が平静でいられるわけないじゃん。それに結局アルバム没収された後二度と見せてもらえなかったんだよ。」 雅彦にアルバムを取り上げられた時の事を思い出して涙目になった香藤を岩城が慰める。 「今度行った時にまた見ればいいじゃないか。俺からも兄貴に頼んでやるから。」 「うん。」 香藤が甘えるように岩城の肩に凭れ掛かっていると、カチャリという音とともにドアが開き雅彦が入ってきた。 香藤が慌てて身体を起こす。 「風呂ありがとう。気持ち良かったよ。」 「そう?良かった。兄さんもう寝る?それなら部屋に案内するけど。」 岩城も少し顔を赤らめている。 「明日も早いし、もう休ませて貰うとするかな。」 「そう?じゃあ部屋こっちだから。」 「香藤君、お休み。」 「おやすみなさい。お義兄さん。」 二人が出て行くのを見送って香藤は大きくため息をつく。 「ふう〜〜っ。心臓に悪いよ。」 早く岩城と二人きりに戻りたいと切に願う香藤だった。 岩城達も明日は仕事なので早々にベッドに入りしっかりと抱きしめあって眠った。 翌朝、雅彦も一緒に香藤お手製の朝食を食べる。 もくもくと殆ど会話もないまま食事をすませ雅彦はすぐ出かけることになった。 門まで見送ると言う岩城を雅彦はやんわりと断る。 「ここでいいから…。」 雅彦は何か考えていたが突然鞄からひとつの包みを取り出すと香藤の手に押し付けた。 「香藤君、これは親父から君にだ。」 「えっ、何ですか?」 「君の欲しがってた物だ。」 雅彦は視線を合わせないままぶっきらぼうに答える。 香藤が開けてみるとそれは写真のネガだった。 「これってもしかして岩城さんが子供の頃の…。どうして?」 「親父がちゃんと保管してたんだ。家から帰る時あまりに君が悲しそうにしてたから気の毒に思ったらしい。」 「ありがとうございますっ!」 香藤は嬉しさのあまり雅彦に抱きついた。 「こっ、こらっ。何をするんだ。」 雅彦が顔を真っ赤にしてもがく。 「あっ、すみません。あんまり嬉しかったもんだから。」 「全く君は、子供じゃないんだからもうちょっと落ち着いて行動できないのか? 」 香藤から解放された雅彦はパンパンと手でスーツの皺を伸ばす。 「すみません。ごめんなさい。」 「それから言っておくが、そのネガはあげたんじゃなくて貸すだけだからな。家にとっても大事な物なんだからちゃんと返してくれよ。多少色褪せしてしまっているが東京なら色を復元してくれる所があるだろう?」 「はい。大切にお預かりします。写真が流出したりしないよう焼き増も信用の置ける所に依頼しますから。」 香藤は背筋を伸ばして答えた。 「頼んだぞ。それじゃあ俺はもう行くから。」 「兄さん来てくれてありがとう。嬉しかったよ。親父達にもよろしく伝えて。」 「ネガの事お義父さんにありがとうございますと伝えてください。」 二人に笑顔を向けられずっと表情の硬かった雅彦も僅かながら微笑む。 「分かった。俺の方こそ突然無理を言って本当にすまなかった。ありがとう。二人とも元気でな。」 「うん。兄さんも身体に気をつけてね。」 雅彦はドアを開きかけて振り向く。 「香藤君、朝食美味かったよ。ありがとう。」 それだけ言うと顔を真っ赤にして飛び出すようにして行ってしまった。 二人は雅彦のらしくないセリフに暫し呆然としていたが、やがて顔を見合わせて小さく吹き出す。 「お義兄さん真っ赤になっちゃって可愛かったね。」 「ああ、そうだな。」 「泊まって貰って良かったね。」 「ああ。」 「岩城さん、忘れないでね?」 「何をだ?」 「今度オフが重なったら昨日の分取り返すって事。」 「…ああ、分かった。」 香藤が岩城の腰を抱き寄せリビングに戻る。 昨日はいろいろありすぎてドタバタのうちに過ぎてしまったけれど。 とりあえず今は、迎えが来るまで二人きりの甘い時間… おわり '04.1.24 グレペン |
岩城兄・・・・最高ですv(*^_^*)
弟夫婦からきっとこれから先いろんな事を
学ばれていくのではないでしょうか(笑)
香藤くんとお兄さんって結構良いコンビになりそうな気がします
グレペン様からの2作目のプレゼントです
ありがとうございます・・・・v