プレゼントはまだ?




「できたーーー!」
そう独り言を言って香藤はダイニングテーブルにセットされた料理を眺めた。
殊更明るい調子で、しかも大きな声で言ったのには訳がある。
本日の主役である岩城がまだこの場にいないからだ。


イヤな予感はしていたのだ。
この場に主役であるはずの岩城がまだ揃わないって事に。
一緒に暮らすようになって5年以上つまり誕生日も同じ回数経験しているのだがこれが
奇怪なことに・・・・・・

岩城ときたら恋人(夫だ、夫!!)の香藤の誕生日当日には無理にでもスケジュールを
空けてくれたり、入っていたとしても半日は少なくても空けてくれたりするのに・・・
こと自分の場合にはしっかり丸一日仕事を入れてしまうのだ。
一昨年だって岩城が帰ってくる間に・・・と思って買い物に出たからプレゼントが更に
増えたのだ。
あれは結果オーライだったから、あれはあれでよしとしよう。
理由は解らなくもない。初めの頃は岩城の後ろに背後霊の如く
「なんでー?俺は岩城さんのために金子さんに無理言ってオフをもぎ取ったのにィ!」
と文句を言いながら付いて回ったものだが、今になってみればそれは岩城の祝われる
ことに対する“照れ”なのだということが判る。
それに万が一香藤がオフを取れなかったことを考えてオフを取ることを躊躇していると
いうことも。
そんな岩城の可愛さも、臆病さもひっくるめで好きなのだ。
だからこそ香藤は金子・・・いやあの厳しい社長をも拝み倒して今現在ここにいる。

それに、そのことに漫然と、ただ指を咥えて主を待っているだけではない。
今年はある程度の根回しもしておいた。それはお約束通り敏腕マネージャー清水の協力
あってのことだったが・・・。
コトがうまく運んでさえいればそろそろ岩城が帰ってきてもいい時間だった。
昼以降の仕事が“急遽”キャンセルされて戻ってくるはずなのだ。
別にこれは香藤だけの悪巧みではない。清水だって快く(ここんとこ重要!)協力して
くれた。
清水曰く─────
「事務所でも折角のお誕生日なんですからお休みなさっては?と毎年提案しているん
ですよ?でも岩城さんは『年末年始にオフを取っているから仕事を入れてくれて構わ
ない。』と仰られるものですからついお言葉に甘えてしまって。・・・分かりました。
私もご協力させてください。」
─────だった。
つまり、だ。今日、岩城がこなす予定のスケジュールのうち後半のものは架空のもの
なのだ。
イコール半日オフ。
香藤としては丸1日オフなら願ってもないことなのだが(そうすれば前の晩から・・・
などと考える)それではいくら鈍い・・・いや(前言撤回)人を疑うことを知らない純
な岩城ですら不審に思うだろう。
とりあえずは半日だ。欲張ってはいけない。
清水もその意見には深く同意した。

“急遽”早く帰れることになれば何かしら岩城から連絡があってもよさそうなものだ。
だがそれはまだない。
香藤は自室から今年のプレゼントを持ってきてテーブルの上に置いた。
今年のバースディプレゼントは1点のみ。ペアものは散々買ってしまったので今回は
やめにし、タイピンひとつに絞った。

とかく何かにつけメディアはランキングをつけるのが好きなようである。これは人間の
性だったりするのかもしれないし、スポンサーの意向やら話題性やら、勿論一般投票も
かなり加味されているとは思うのだが、それを喜ぶ人間がいるのも事実だ。
上位にランキングされれば香藤だってまんざら悪い気はしない。
昨年だって“抱かれたい男”に“結婚したい男”、“ベスト・ジーニスト”諸々。
嬉しいことに“いい夫婦の日”の特別賞!!
これにはかなり岩城も閉口していたが・・・。
当の岩城だって“スーツの似合う有名人”に選ばれてかなり嬉しそうだった。
以前「ダンディズム!!!言わないでしょ〜それ〜」などと言ってしまったことがある
が、なる程よく見てみれば岩城のこだわりがだんだん解るようになってきた。
襟幅、タックやスリットの入れ方、ダブルにするかシングルにするのか、
内ポケットすら着る者のこだわりがあるものらしい。
自分がそれを実践するかどうかはさて置き理解できる・・・と。
それに、香藤自らが岩城にと思って購入してきた服は確かに抜群に岩城に似合うのだが
岩城の色香を倍増すること確実なのだ。
だったらスーツをカチッと着こなしていてくれる方がまだマシというもんだ。
広い肩幅に背中。すらりと伸びた脚。似合いすぎるほど似合っているのだから。
そしてあの細い腰を程よく覆い隠してくれる。だからこれもこれでよしとしておこう。

「ふー、まだ帰ってこないんだ。こっちから連絡してみようかなぁ。」
いや、迂闊に連絡など入れればどこかでボロが出るかもしれない。
ここはメールでも入れておこう。
『岩城さん、仕事どう?俺、料理作って待ってるからねv』・・・と。

香藤にしてみれば昨年、厳密に言うと昨年の岩城の誕生日の翌日から既にプレゼントを
考え始めていた。候補を挙げればキリがない。
岩城にあれやこれや身に付けさせてみたいと思う気持ちは日々留まるところを知らない
のだから。
ところが岩城が“スーツの──”に選ばれてかなり嬉しそうだった様子を見てからは
タイピンに、と候補を搾って考えるようになった。

どうせならいかにも誕生日らしいものを、と数々の宝飾品店を回った。
そこで誕生石が持ち主を守護するいわばお守りの役目をすると言われているものだと
いうことを教えられた。店員には「女性は割とご存知ですけれど。」と言われたが香藤は
男だ、その点は疎かった。岩城だって同様だろう。
結果、シルバーがベースでガーネットがはめ込まれているシンプルなデザインのものに
した。
で、折りしも年が明けた今月になって例の“スーツの──”のスポンサーからオーダー
メイドされたスーツ、それとシャツとネクタイが届いた。
「タイミング的には悪くないんじゃないの?それに、俺の誕生石って確か真珠だよね。
何か真珠って岩城さんのイメージv『俺を守ってくれるのは岩城さんだよね。』なーん
つって!」
ひとり悦に入っている香藤だった。

香藤がひとり妄想している間にも時間は過ぎていった。気付けばメールを入れてから
結構時間が経っていた。それでも岩城が帰ってくるどころか連絡すらまだ入らない。
痺れを切らして清水の携帯に連絡を入れようとした途端、自分の携帯が鳴った。
(清水さんからだ。)
受信ボタンを押すと同時に清水の声が聞こえる。
「香藤さんですか?も・・・申し訳ございません!どういう訳かキャンセルされる筈の
お仕事がそのまま入っているんです。事務所に確認したら『岩城さんがスケジュールを
前倒ししてくれて構わないって仰られた。』って。先日私が娘の件でお休みした時に
変更したらしいんです。・・・もしかして私たちの計画が岩城さんに悟られてしまった
んでしょうか!?」
らしくもなく清水が慌てている。
「・・・・・・・・・。」
受話器から何度も香藤の名前を連呼されるが当の本人の頭の中は真っ白だ。
そしてようやく清水からの電話が切れ、我に帰って叫んだ。
「何でぇー?何で岩城さんこういうことになると鋭いの!?」



結局、岩城が帰宅したのは日付もあと1時間ほどで終わろうという頃・・・。
それでもめげない香藤は玄関からベッドに岩城を強制連行させた。来年は誕生日の翌日
にオフをもぎ取らせようと目論みながら。
「お、おい、香藤何を──!?俺の話も聞けー!」

岩城の話を香藤が聞いたのは誕生日翌日、夜も明けきらない時間だった。
岩城は誕生日翌日の昼過ぎまでのオフを取っていたということ。
そのために仕事を前倒ししたんだということだった。
「岩城さん、それってvvv」
それじゃあと行動を起こす香藤・・・。
岩城が香藤からの誕生日プレゼントを手渡されるのはもう少し後になりそうだった。



end



短い上にしょーもない話ですみません;
‘04.01.24.
ちづる

すごく一生懸命の香藤くんが可愛いのです(*^_^*)
ツボです・・・v
で、結局微妙に空回りしているところがまた愛しいです
でもそんなところが岩城さんにとってもたまらないのかもv
思いっきり愛されたことでしょう
ちづる様からのプレゼントです
ありがとうございます・・・・v