Simple mind


携帯が鳴っている…。


岩城は自宅のソファでうたた寝をしていた。ここ数日まともに睡眠を取っていない。その日も何時に帰宅したのかはっきり覚えていなかった。帰宅と同時にソファに倒れ込み、そのまま微睡んでしまっていたらしい。

電話は着信音から香藤からだと知れた。香藤が海外ロケで家を離れてから1週間になる。

しばし上着を探す。覚醒しきっていない頭を左右に振って記憶を辿る。
そうだ───ダイニングテーブルの上だ。……のそっとその場所まで歩いていき、上着から携帯を取り出し、元のソファへ倒れ込みながらやっと通話ボタンを押した。

『ごめんっ!! 電話、こんな時間になっちゃって…』
「……ん?」

香藤の第一声は予想をくつがえすものだった。何でもっと早く出てくれなかったのー? と拗ねられるだろうと確信し説明の言葉を考えていた岩城は、いきなり謝られて眉根を寄せた。
時刻は午後11時半を回ったところだった。
香藤がなぜ謝っているのか額に手を当てて考えてみるが、思いつかない。二人の間では午前1時2時でもごく当たり前に電話し合っていたのだから。

「…何か約束してたか?」
いくら記憶を探しても謝られる理由が見つからず、直接香藤に訊くことにする。
『えー、約束なんかしなくても今日は電話するに決まってるじゃん! 俺一日中焦りまくってたんだよっ、夕方すぎまで何度掛けても岩城さん出てくれないし、夜はこっちが忙しくて電話する時間取れなくて…』
「ちょっと待て。今日必ず電話しなきゃならない用事ってのを先に言え」

『岩城さん……もしかしたら…忘れてた?』
「何を?」
『今日が何日か』

岩城は携帯を耳から外し、液晶画面で日付を確かめた。
数瞬後、ようやく今までの会話の意味が繋がった。

「そうか。今日は27日だったんだな…」
『本当に忘れてたの?』
「ああ」
『嘘、なんでー!?』
「仕方ないだろう。お前と付き合う前なんて、いつも当日過ぎてから思い出してたぞ? 男がいちいち誕生日だ記念日だ覚えていられるか」
『でも』
「だいたい、お前がいなけりゃ誕生日なんてただの日と変わりないだろう」


『…岩城さん……愛してる』
「何だ。いきなり」

 岩城は気付いていない。

『何だか岩城さんの誕生日なのに、俺だけプレゼント貰っちゃったな』
「? 何のことだ?」
『ううん。いいんだ。まだそっち日付変わってないよね。…誕生日おめでとう、岩城さん』
「ああ。…そっちは順調か? 予定通り帰ってくるんだな?」
『うん。待っててね。逢えなかった時の分までたっぷり愛してあげるから…』
赤裸々な香藤の言葉にもさすがに免疫が出来たらしい。壊すなよ、と軽く流して、その後二人は仕事やそのほかの近況を、距離と時間を埋めるように、ゆったり、大切に伝え合った。


二人が愛し合って何年目かの、ちょっとだけ特別な誕生日。



■終■

百瀬


 百瀬様 

岩城さんって自分の言葉や行動がどれだけ
香藤くんに安らぎや幸せを与えているかに
鈍感なところがあって・・・・それが岩城さんなんですけどねv
そんな岩城さんが何よりも愛しいですvvv
百瀬様からのプレゼントです
ありがとうございます・・・v