冬椿
雪の中に咲く赤い花‥‥‥これは? 大事なものを失った心 ぽっかり明いた所に埋めるものが欲しくて‥‥‥欲しくて‥‥‥ それが何か解からなくって‥‥‥ 求めていた‥‥‥捜していた‥‥‥ 「急に寒くなって来たね。雪でも降るのかな?」 ぼんやりとソファーに座り、窓から外を見ていた香藤が呟くように言って来た。 「いや、まだ先だろう‥‥‥」 岩城は珈琲を入れながら答ええる。 「どうして解かるの?」 振り返って聞き返すと、 「うん、まだ雪の匂いがしないからな」 カップに珈琲を注ぎ、岩城は香藤の横に持って来て座った。 「ありがとう‥‥‥」 差し出されたカップを受け取りながら、香藤は再び窓の外を見つめている。 「どうしたんだ?」 岩城はここ数日元気の無い香藤に聞き返す。 「何でも無い‥‥‥」 「って、感じじゃないぞ。この間の撮影見に来た後から、お前、何を考えている?」 岩城は空いている手で、香藤の頭をクシャっと撫でる。 そのまま、香藤は岩城の肩に頭を預ける。 「うん、ちょっと思った事があって‥‥‥」 香藤は言いにくそうにそうに、目を閉じた。 「俺にもか?」 「うん、雪が降ったら‥‥‥話してもいいかも‥‥‥」 香藤はそう言い返すとカップを机の上に置きなおし、岩城の暖かさを感じるように、体の力を抜いた。 白い雪の上に真赤な椿の花が落ちる。 それが何かにか見えて、体が震える。 近寄りたいのに、雪が邪魔をして進めない。 抱きしめたいのに‥‥‥消えていく温もり ようやく手に入れて‥‥‥すり抜けた‥‥‥ 何故? どうして? 「明日辺り‥‥‥雪になりそうだな」 ベットの上に体を磨り寄せた岩城さんが呟く。 「どうして?」 不思議に思って香藤が聞き返すと、 「雪国の生まれだからな‥‥‥なんとなく、感じるんだ。雪の匂いって言ってもいいのかも知れない」 クスっと笑いながら、岩城は香藤の温もりを求め、さらに体を摺り寄せてくる。 「岩城さん、寒い?」 上布団を肩までかけなおし、香藤が聞き返す。 「少しな‥‥‥」 岩城の言葉はそこで途切れた。規則正しく寝息が聞こえ始める。 「岩城さん‥‥‥愛してる」 香藤は岩城を抱きしめる腕に、少し力を込めると自分も眠りに入った。 次の日、起きると岩城さんの言うとおり雪がちらついていた。 今年初めて見る雪に心が少しだけ浮かれるけど‥‥‥何故か雪を見ると悲しい気持ちに襲われていた。 原因は解からなかったけど、それが何かと繋がっている《モノ》だとは無意識にも解かっていた。 最近は? 岩城さんと出会ってから、そんな事無くなっていた‥‥‥ 岩城さんの暖かさが心地よくって、心の寒さが飢えが無くなっていた。 雪を見ると悲しいとは思うが、少しずつ、少しずつ軽くなっていく。 隣との垣根に赤い花が見える。 『ドキッ』っと心音が高くなった。 あれは?椿 赤い椿‥‥‥血の色? 塊‥‥‥暖かさの無い‥‥‥白い雪の上の塊‥‥‥椿の花だけが鮮やかに‥‥‥ 此処は? この地は‥‥‥あれは‥‥‥ 『秋月さん!!』 解けた苦しみ‥‥‥彼をなくして彼を求める心 大事な大事な人を守れずに、彼を求める心の空白部分が『キーワード』の雪に反応して悲鳴を上げていたのだ。 ホロリ‥‥‥目から何かが流れ落ちる。 「香藤、どうした?」 急に後ろより声をかけられ、驚いて振り返る。 「顔色、悪いぞ‥‥‥大丈夫か?」 岩城さんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。 「うん、大丈夫‥‥‥岩城さん、俺ね、岩城さん見つけられて、すごく幸せ」 「急に何を言うんだ?」 香藤の言葉に照れて、顔を赤らめた岩城は凄く可愛い 「本当だよ‥‥‥この幸せ、これからもずっと‥‥‥」 「ああ」 岩城の言葉に香藤は微笑んだ。 心の飢えはもう感じないだろう‥‥‥そんな気がする。 ようやく見つけ出した、大事な大事な気持ち。 彼を愛しむ心 「岩城さん、愛してる」 「香藤‥‥‥」 この言葉に乗せて、キスを送る。 寂しく寒い心が、温かいモノに変わっていくのが解かる。 何も言わず、窓より舞い散る雪を二人で見つめ続けた。 これからは雪を見ても、悲しくないだろう これからは雪を見ても、寂しくないだろう 彼をともに歩くから 彼を雪に取られる事はもう無いから‥‥‥ ―――――了――――― 2004・12 sasa |
前世を絡めた雪のお話でした
無意識の中で求め続けた互いの存在を改めて確認できた今
過去のふたりの魂がどのような形で影響しているのかは分かりませんが
それでも目に見えない絆だけはもう手放さないのでしょうね
素敵なお話です・・・
sasaさん、ありがとうございますv