香藤君、大反対の巻


「ダメ! 絶対ダメ! 岩城さん、その話、断って!」
香藤さんが声を荒げたので、私も驚きました。岩城さんのマネージャーをするようになってかなりになるけれど、香藤さんがこんな風に反対するのを初めて見たので。

岩城さんに写真集の企画が持ち上がったんです。カメラマンは、自然と人間を組み合わせる斬新な構図で、世界的な人気を博しているムッシュ&マダム・ルルーシュというフランス人の夫婦カメラマン。彼らが、ムッシュ・イワキを撮りたいと指名してきたのです。
岩城さん自身はルルーシュ夫妻の作品集を何冊か持っていて、ファンだったそうで、喜んでご協力したいというお返事でした。
ただし、彼らの写真には、被写体がヌードになることもあるので、企画内容をよく伺った上でという条件がありました。
香藤さんが大反対したのは、その企画内容でした。
撮影場所は日本。
その四季折々の自然を背景に、指先など様々なからだの部位をアップで撮影するというものだったんです。
ヌードではなかったのですが、それを聞いた香藤さんは、とんでもないという反応でした。
「目のつけどころはすごいと思うよ。頭の先から足の指まで岩城さんのボディは完璧なんだ。睫毛だって耳だって指先だって、岩城さんの身体はすごくきれいだから、いい写真になるのは間違いないよ。それは俺がいちばんよくわかってる。でも、そんなもの公開されたら、岩城さんのフェロモンに悩殺される奴が、それこそ雨後の竹の子みたいに出てくるに違いないんだ」
そして、今まで見たこともないくらいの真剣な表情で、私におっしゃったんです。
「清水さん、これはね、封印しておかなきゃいけないものなんです」
あまりの真剣さに、私は心の中でちょっと笑いそうになった反面、香藤さんの心配も無理もないかもと、思ったのでした。
香藤さんとは対照的に、岩城さんにはそこまでの自覚がないようでした。
「封印って、まるで悪霊扱いじゃないか!? 大げさな奴だ。手や足先のアップで何でフェロモンが出るんだ?」
「アップだっておんなじなの! それに、岩城さんは自分のフェロモンに無頓着すぎるの! この間もさ、TV局で男の社員の話し声が聞こえてきてさ〜、“局に来てる芸能人でいちばんは岩城京介! 色っぽいっていう自覚のなさがまたそそる”って…。俺に気づいた途端、黙り込んでたけど。でも俺も、フェロモン自覚してない岩城さんにムラムラきちゃってるわけだし、もうどうしたらいいのかわかんないんだよ〜」
ポカリ。
「いったい〜」
「清水さんの前でムラムラとか言うな! 清水さん、すみません」
顔を赤らめる岩城さんと、頭をさする香藤さん。思わずくすりと笑った私。
そして、岩城さんはきっぱりとおっしゃったんです。
「清水さん、この話、お断りすることにします。香藤が賛成してくれる仕事に力を尽くしたいから」
はっと顔を上げた香藤さん。
「岩城さ〜ん!!」
「こら、清水さんの前だって言ってるだろう!? 人前で抱きつくんじゃない!」
毎度展開される二人のやりとり。いつもくすくす笑ってしまう私です。


3ヵ月後の春の九十九里浜――。
サーフィンを楽しむ香藤さんと、浜辺からまぶしそうにその姿を見やる岩城さん。二人のそばには、カメラの機材を抱えたムッシュ&マダム・ルルーシュがいました。
そうです、結局、写真集のお話をお受けすることになったのです。
被写体はムッシュ・イワキとムッシュ・カトウ。会話する、笑い合う、手を触れる……。
そんな二人の触れ合うからだのアップを、日本の四季をバックに撮影する。岩城さんにいったん断られて、ルルーシュ夫妻は企画内容を変更したのでした。
岩城さんのからだのアップなんて、絶対ダメと大反対していた香藤さんですが、変更されたこと、自分も参加できると知り、一転、大賛成。
「映画でずっと一緒だったのに、また別々の現場になってさびしいって話してたんだけど、こんなに早くまた一緒に仕事できるなんてうれしいよね〜」
「まったくお前は調子がいいな〜。大反対だったくせに」
呆れたような岩城さん。でも、その笑顔に、香藤さんと一緒に仕事ができる喜びがこぼれていました。

ムッシュ&マダム・ルルーシュの最初のカットは、浜辺に並んで座り、砂の上でどちらからともなく重ね合わされた二人の手のアップでした。
手首までのスェットスーツで、潮にふやけ、砂にまみれた香藤さんの右手の指先を、薬指に指輪をはめた岩城さんの白い左手が愛おしそうに握り込んでいるんです。
二人の寄り添う心が写真いっぱいにあふれていて、私はこの写真集の成功を確信したのでした。



2005.3.30 ゆみ



一生懸命反対する香藤くんに笑ってしまいました
封印しなきゃいけないもの・・・納得です(笑)
でも身体のパーツなんて・・・逆にエロチックで・・・ステキv
私も見たいです!欲しいです!そんな写真集v

ゆみさん、ありがとうございますv