チューリップ


11月初旬、冬の到来を予感させる冷たい空気に目が覚めた。
自分よりちょっと体温の低い恋人を抱き寄せようとして腕を伸ばしたけれど、
その手は冷たいシーツをたどるばかり。
「あれ?岩城さん?」
昨夜、明日は二人揃ってのオフだからと岩城のベットへもぐりこんだのは夢だったのか・・・
香藤は重い瞼をゆっくり開けた。
部屋の感じがいつもと少しだけ違う。
「やっぱり岩城さんのベットだ」
ガバッと勢いよく起きて寝室を飛び出し、リビング・キッチン・お風呂と歩き回るが岩城の姿はどこにもなかった。
「岩城さぁ〜ん!岩城さん。どこぉ〜?」
ペタペタと裸足の足音だけが後をついてきた。

カタカタッ・・・カタッ・・・
小さな音が外から聞こえくるのに気づいて庭に続く窓を開ける。
「岩城さん?そこにいるの?」
「ああ。香藤。おはようっておまえはなんだ。その格好・・・」
「いっいわきさぁん!!」
着崩れた自分のパジャマ姿はどこへやら、振り向いた岩城を見て香藤が歓喜の声をあげる。
岩城が昨日、香藤がかぶっていたキャップ帽を目深にかぶっていたからだ。
「あっこれか。そこにあったから日よけがわりに借りたんだが悪かったか?」
「悪いなんてとんでもございません。写真。写真。携帯。携帯っと」
「携帯はいいから早く着替えてこい!」
「はぁ〜い」



「岩城さん。何してるの?」
ラフな部屋着に着替えた香藤が携帯片手にやってきた。
また岩城コレクションが増えそうなのでご満悦だ。
「これか?実はな。清水さんが持ってきてくれたんだ」
岩城の事務所に出入りする花屋がサービスでたくさん置いていった物らしい。
かわいいパッケージの中にはチューリップの球根とこんなメモが入っていた。

・・・あなたの家には何色のチューリップが咲くでしょう?

【花言葉】
  全般・・・永遠の愛・愛の告白・思いやり・博愛・名声
  
  ○赤・・・愛の告白・愛の宣告・美しい瞳
  ○白・・・思い出の恋・失恋・新しい恋・思いやり
  ○黄・・・愛の表示・望みなき愛・実らぬ恋・正直・名声
  ○紫・・・永遠の愛情・不滅の愛

  ◎斑入りの場合・・・美しい目・疑惑


「日当たりがよければ割と咲いてくれるらしいぞ。もらってから日がたってたから気になってたんだ」
「ふぅ〜ん。斑入りだって。なんか色によってずいぶん違うんだね。ちょっとこわいかも」
「ああ。それか?」
「これだと紫がいいけど…チューリップはやっぱ赤かな?でも黄色とか白も好きなんだよね」
「いいんじゃないか。そんなのは。俺達には関係ないだろ」
「うん。へへっ。そうだよね」
「こらっ苦しいぞ。抱きつくな」
香藤は後ろから抱きついたまま岩城の肩に顔をのせ、メモをのぞきこみながら話続ける。
「なんか他にも書いてあるよ。なになに。チューリップの由来はペルシャ語の”ターバン”だって」
「トルコ人のかぶってるチェルビルトって帽子に似てるからって説もあるらしいな」
「ねぇ。後で帽子、買いに行こうよ。その帽子いい感じだよ」
岩城が照れくさそうにそっぽを向いた。

だから離せなくなっちゃうんだよね。この人を・・・

「岩城さん。かわいい」
「かわいいって言うな。ほらっ植えるんだからはなせ」
「はい。はい。でもさ。チューリップってこんな時期に植えるんだね」
「ああ。寒い冬を乗り越えて、きれいな花が咲くんだそうだ」
「なんか・・・」
「俺達みたいだなって言いたいんだろ」
「あっひどい。岩城さん。それ俺のセリフなのに・・・」
「クスッ。それよりおまえも一緒に植えてみるか?」
「うん。いいの?日奈ちゃんみたいな親指姫が産まれたらどうしようかなぁ。かわいいだろうな。グフフ」
「おまえは。まったく。俺はおまえだけでいいぞ」
「もう。岩城さんは・・・ねぇ。もう1回言って。もう1回言ってっよ」
「だから世話がかかるって話だ。早くすませて朝飯にするぞ」
「早くすませてベットに戻るの?」
「バカっ」


4月。春の暖かな日差しの下で・・・
2人にあてられたチューリップはほんのりピンク色の花を咲かせた。


H17.4.10
千尋



甘い!甘いです〜頬が緩んじゃう!
チューリップになりたいですv
岩城さんに撫でなでして貰いたい・・・(は?)
もうふたりの仲の良さに庭の花が全部赤くなりそうです〜vvvv
ご馳走様です!

千尋さん、ありがとうございますv