「匂い乱れし花守の…」


香藤が単発ドラマの収録から帰ってくると、家は暗闇に包まれていた。
「…やっぱ岩城さん遅いのかぁ」
 リビングのカレンダーに書かれていたスケジュールを思い出す。確か今日はこの間撮り終わった連ドラの打ち上げを兼ねた夜桜見物の予定だった。
「なるべく午前様にならないように帰ってくるつもりだって言ってたけど…主役じゃないけど、キーパーソンだったし…やっぱり早抜けできないよな」
 サスペンス調のドラマで事件の鍵を握る重要な役を岩城が演じた。推理ドラマとしてもレベルが高く小うるさい推理マニア達にも好評で、また主役達の迫真の演技もあってかなりの高視聴率を叩き出していた。こうした推理ドラマのキーパーソン役は、ともすれば主役や犯人役を食ってしまいかねない。一見こいつが犯人か?と思わせる謎めいた言動、視聴者にこの人物は何か知っていますよと匂わす数秒のショット。演じる側にとってはオイシイ役所だろう。けれど、岩城は淡々とした演技でこれらの演出をほぼ無効化していた。ラストの謎解きになって初めて、『そういえばそんな伏線が!』と思わず膝を打った視聴者も多かったという。
「岩城さん、あの役心底楽しんでたもんなー」
 誰が犯人でどんなトリックなのか、ネットや雑誌で俄か探偵たちが喧々轟々と自説を述べているのを嬉しそうに見ていた。
『こんな風に関心を持ってもらえるのは役者冥利につきるだろ。脚本や共演者がいいのもあるけどな』
 ワンクールという決して短くない時間、どれだけ視聴者の関心を惹いて持続できるか。今回のドラマで役者としての岩城の力量を見せつけられた。
「あーあ…悔しい。俺だったらきっと思いっきり意味深な演技してたよ」
 香藤は誰もいないリビングのソファに疲れた身体を投げ出すように座ると、天井を仰いだ。
 こんな時、自分はまだまだと思い知らされる。元々岩城の演技力には定評があった。反して香藤はどちらかといえばタレント色が強い、マルチタイプと思われていた。けれど二人とも芝居がしたいという気持ちが高じてこの世界に飛び込んでいる。『冬の蝉』以降、香藤の役者としての評価はうなぎのぼりではあるが、それでも。やっぱり同じ役者として悔しさは感じてしまう。
「よし、本日の落ち込み終ー了〜!」
 パンッと小気味いい音を立て、両手で自分の頬をはたく。
「落ち込んでいても事態が良くなるわけじゃなし!きちんと省みて問題点を捉えるのは大事だけれど、重要なのはそこからどう良い方向に持っていくかだろ、香藤洋二!」
 ちょっと強くはたきすぎて思わず目頭に涙が滲むが、己を鼓舞させるように叫びながら立ち上がる。
「岩城さんの隣に立っても恥じない男にならなきゃね」
 別々の人間なのだから役者としての表現が違っていて当たり前。観ている側に比べられるのはしょうがないが、自分がそれに捉われすぎたらどうしようもない。よし!と気合を入れなおした香藤はコーヒーを煎れようとキッチンに立った。
 コーヒーメーカーの立てるコポコポという音と芳しい香りが辺りに立ち込めると自然に身体から余分な力が抜けていく。ちらりと時計を見ると11時近くを示していた。確か夜桜見物は6時から始まっているはずだから、けっこう時間が経っている。岩城はあまり人付き合いが良くないように思われるのだが、実は人間関係には人一倍気を使う方で、特に仕事関連だと打ち上げなどの飲み会には最後まで付き合う事が多い。これは二次会・三次会まで行っているなと思った時だった。
 玄関のドアが開いた気配がし、続いてドサリと鈍い音が響いた。
「岩城さんっ!?」
 慌てて玄関に向かった香藤は、三和土に膝をついて蹲る岩城の姿に血の気が引いた。
「どしたのっ?どっか怪我でもした?気分悪いのっ?」
 裸足のまま岩城の傍に駆け寄り、そっと肩に手をかけて上を向かせると、真っ青な顔色で目を閉じていた岩城がゆっくりと瞳を開いた。
「…ああ…香藤か…すまん、少し酔った…」
「いいから。立てる?こんなとこに座り込んでたら体冷えるよ」
 力が入らない岩城に肩を貸しリビングに向かう。本当はベッドで休むのが一番なのだろうが、どうもそこまで歩くのも辛いようだ。抱き上げて運んでも良いとは思ったが、岩城の様子が普段とは違うようで気にかかる。リビングのソファに横たわらせ、ジャケットを脱がせるとシャツの襟元を緩めた。
「…すまん……。家に着いたと思ったら、急に力が抜けて…」
 苦しそうな息の下、それでも迷惑をかけた事を謝る岩城の言葉に愛しさが募る。
「何言ってんの。そりゃ驚きはしたけどさ。それだけここが岩城さんにとって心許せる場所だって事でしょ」
 水を持ってくるねと言ってキッチンに行こうとした途端、引き止めるように手首を掴まれた。
「ここに…いてくれ」
 岩城はもう片方の手で目元を覆っていたが、その指の間から縋るような眼差しを向けながら呟いた。しどけなく横たわる肢体から匂い立つ様な色香が纏わりついて、こんな時なのに見惚れてしまう。
「…うん。大丈夫。傍にいるよ」
 床に座り込むとゆっくりと岩城の髪を撫でる。サラサラと指の間から零れ落ちる絹のような黒髪の感触を楽しみながら、何があったのか聞きたい気持ちをぐっと我慢する。
 岩城は不規則な仕事柄、体調管理には人一倍気をつけていて無茶な飲み方は絶対にしない。それに二人とも酒にはかなり強い。特に岩城いたってはザルを越えてワクだ。限界まで飲み比べた事はないが、かなりの酒量を過ごしてもほんのりと赤くなるだけで、誰かに絡んで手を焼かせるとか、泣き喚くような醜態はなかった。それなのに。
 こんな風に悪酔いして倒れこむ姿は初めて見た。
 もしかしたら体調が悪くて普段は平気な酒量でも悪酔いしてしまったのだろうか。そうだとしたら、香藤にも責任がある。今日の岩城の仕事は夕方からの花見があるだけだったので、酒宴があるとわかっていながら昨夜は何度も求めてしまっていたから。夕方からだから多少は大丈夫だろうと思っていたけれど、無理をさせてしまったのかもしれない。
 香藤が穏やかに髪を撫で続けていると、気持ちよさそうに吐息を漏らした岩城が目元からゆっくりと手を外した。隠れていた眸がまっすぐに香藤を捉える。
 その凛とした硬質な視線の中に、どこか脆い光が見え隠れしている。無言のまま見つめあい、やがて岩城の両手が静かに香藤の首に回された。誘われるままソファに横たわった岩城の首筋に顔を埋めるように抱きしめ返す。
「……ああ…香藤の匂いだ」
 安心しきった子供のような声で言われ、そのあまりに可愛いい仕草にクラリと眩暈がし、激しい欲情が沸き起こって本能のまま貪りたくなる。
「どしたの?」
 なんとか暴走しそうになる身体と気持ちを抑え、優しく問いかける。香藤の肩に額をつけていた岩城は、甘えるように胸元に頬を摺り寄せた。ぴったりとくっついていた二人の間に僅かな空間ができる。そこからふわりと立ち込めた香りに香藤の眉根が微かに寄った。
 タバックレザーの独特な匂い。メンズフレグランスでよく使われる素材だが、岩城のイメージにはそぐわない。彼が持っている香水にこの系統の物はなかったし、苦手だと言って絶対に使わない種類の香りだ。
 頭の芯が急激に熱くなる。誰にこの香りを移された?
 不意に抱きしめた腕に力が篭った事に気がついた岩城が驚いたように香藤を見上げた。
 この香りの持ち主は誰なのかを問い詰めようとして口を開いたが、それが音になる事はなかった。
 香藤の唇が音を紡ぎ出す前に、岩城のそれがそっと慈しむように触れてきたからだ。
 突然された行為に驚いて目を見開いて固まる香藤を尻目に、岩城は触れるだけのキスを何度も繰り返す。唇で下唇を食むように挟みながら吸われて離された。
「やっぱり…落ち着くな……。お前の香りに包まれていると」
 酔いのせいではない、薄紅色に染まった頬と幸せそうな微笑。
 箍が外れかけた理性をかろうじて繋ぎ止めていたか細い糸が、大きな音を立てて千切れ飛んだ。




                      ※※※※※




 激しいが甘い情熱の名残が漂うリビングでまだ力が入らなくてしどけなくソファに座る岩城の前に、香藤がすっかり存在を忘れ去られていたコーヒーを置いた。二人ともジィンズだけを身に着けている。香藤は岩城の背後に回って腰を下ろすと愛しい人を包むように抱きしめた。定番ともなっているこの姿勢を取ると、もやもやしていた気持ちがどこかにいってしまっている事に気がついて現金な自分に苦笑する。
「身体、大丈夫?ごめんね、昨日の今日なのに無理させちゃって」
「そう思うなら少しは控えろ」
 気だるげに情事の後の艶色が残る仕草で前髪を後ろに撫でつけながら反論する岩城の首に唇を落とす。
「いやそれは無理。あんな岩城さん目の当たりにして押さえるなんてできない」
「……威張って言うセリフじゃないな…」
 呆れたような口調の中にも仕方がないと笑っている岩城を肩越しに見つめる。煮詰まりかけたコーヒーを口にする岩城の横顔からは、帰って来た時の不自然な青白さが消えていた。
「でも珍しいね、岩城さんが悪酔いするなんて」
「ああ…。ちょっとな」
 岩城は何かを思い出したのか、不快そうに眉をしかめながらゆっくりとカップを傾けた。頑なに香藤と視線を合わせないようにリビングの床に目を落としている。香藤はそんな岩城の横顔を肩越しにじっと見詰めた。何かあったのはわかっている。でも問いただす前にできれば岩城から話して欲しい。そう願いながら無言で見詰め続ける香藤の視線を受け止めていた岩城の唇から溜息が一つ零れた。
「今日の花見、ドラマの共演者やスタッフと一緒で楽しかった。―――最初は」
 観念したのか、身体から余分な力が抜けて香藤に凭れ掛かってきた。香藤の肩に落とした頭が天井を仰ぐ。
「宴会が盛り上がってきた時に、他の番組のプロデューサーが来たんだ…」
 そのプロデューサーの名前に香藤は思いっきり顔をしかめた。わりと年配で仕事はできるが、私生活はだらしなく、男女問わず気に入った人間に手を出しては飽きたら手酷く捨てると噂のある人物だったからだ。あまり業界の噂に詳しくはない岩城でも知っている。またタチの悪い事にその男は他局にも強い繋がりがあり、業界の重鎮達にも気に入られている。やり手ゆえに色事にだらしないのは仕方がないと受け止められているのだ。
「何が気に入ったのか終始俺の隣に居つづけていてな。座る場所を移動してもいつの間にか隣にくるんだ。俺が苦手な香水の匂いをプンプンさせて…おかげで花見どころじゃなかった」
 天井を仰いでいた岩城はゆっくりと香藤に視線を向け、険しい表情になっている香藤に気がつくと微かに微笑みながら、その首筋に額をつけるように擦り寄った。
「早く花見が終われば良いのにと思った。でもかなり盛り上がってな…。終わったのは10時を過ぎていた。皆から二次会に誘われたんだが、丁重にお断りして帰ってきた」
「あいつは?」
「しつこく誘ってきたけれど、タイミング良く向こうの携帯に電話がかかってきて、その隙にタクシーに乗り込んだ。そんなに飲んではいないのに、苦手な香水のせいか悪酔いしてしまったようだな」
 心配かけてすまなかった。そう呟いた岩城は、それでもしかめっ面が直らない香藤を宥めるように、自分を抱きしめている両腕を軽く叩く。
 岩城はなんでもないように話しているが、本当はもっと何かあったはずだ。
 苦手な香水と胡乱な噂のある人物が隣に座り続けているのは、確かにキツイがそれだけであんな風になるだろうか。岩城が三和土に蹲っていた姿を思い出し、抱きしめる腕に力が篭る。
 心臓が止まるかと思った。
 それまでずっと気を張り詰めて、ようやく安心した途端に力が抜けて倒れこんだのだろう。そんな思いをしたのに、香藤にこれ以上気にするなと言葉と態度で告げる岩城に愛しさともどかしさが募って爆発しそうだ。
「……香藤」
 ああ、困らせてる。
 頭の片隅では客観的に自分達を見ている視点があるのだが、心と感情を支配しているのは別の視点で。それは香藤自身でもコントロールができそうにない。無言で悔しそうな顔をして抱きしめている香藤に、岩城もまた黙ったまま寄り添っていた。
 ほんの少しだけぎこちなさを伴った、けれど愛し合い歩み寄ってきた者達だけが紡ぎだせる居心地のいい沈黙の時間が流れる。
「…セクハラ」
 結局我慢できずにそれを破ってしまったのは香藤だ。
「されちゃった?」
 仕方がないやつだ、という呟きが聞こえた気がした。視線を向けると、岩城は穏やかに微笑んでいる。
「ずっと隣にいられて、肩や腰に手を回されて、何気ない仕草で太腿を撫でられるのをセクハラっていうのなら、確かにされたな」
「なにそれ!」
 セクハラ以外何者でもない行為をされていましたと、サラリと言われて激昂する香藤に対して岩城は何でもない事だと鷹揚に構えている。
「アイツ!今度あったらぶん殴ってやるっ!」
「落ち着け、香藤」
「だって!俺の岩城さんに何するんだ!絶対許せないっ。それに岩城さんだってアイツにセクハラされて嫌だったから、気を張り詰めすぎてあんな風に倒れたんでしょ!?どうしてもっと怒ら…」
 不意に、岩城の唇が香藤のそれに重ねられた。歯列を割って潜り込んできた舌が易々と口内を蹂躙しだす。絡め取られた舌同士が互いを貪り、卑猥な水音がリビングに響く。
「…っ……岩城さん…」
 舌がだるくなるほど長く激しいキスがようやく終わり、離れていく唇を繋ごうとしているような銀糸が二人の間に煌く。キスの甘さに目元を染めた香藤は、同じく上気した頬と荒い息を吐く岩城を咎めるように見下ろした。
「これで誤魔化したつもり?」
「そうじゃない」
 岩城は背中ではなく左側を香藤の胸に凭れるように身体をずらしながら否定した。甘えるように香藤の肩に顔を埋めながら、その両手が背中に回って強く抱きしめられた。
「正直な気持ちを言うと、お前以外の男にセクハラされるのは確かに気分のいいものじゃない。だが、今の俺達では悔しいけれど、あのプロデューサーにはまだ頭が上がらない」
「だから我慢しろって?」
「違うよ」
 岩城の唇が香藤の頬に触れる。
「見返してやろう」
 まるでこれから悪戯をする子供のような表情を浮かべた岩城に目を奪われる。自分の立ち位置を自覚しながら、流されるわけでも受け止めるだけでもない、己の道を切り開いていく者だけが見せる力強さと潔さを持った男の顔だ。
「今はまだ無理でも、これから先もそうとは限らない。あんな奴に二度と付け入らせないよう、俺達が強くなっていけばいい。ただそれだけの事だろ」
 前にも言われた言葉に、苛立っていた心がストンと落ち着いてくる。
 そんな簡単にできる事じゃないのはわかっている。例えあのプロデューサーに太刀打ちできるような立場になっても、彼以上の権力者が出てくる可能性はある。多分、終わりなんてない。
「俺とお前ならできるさ」
 それでも、岩城がそう言うのならば。
「……やっぱ敵わないかも…」
「何だ?珍しく弱気じゃないか。殴るよりも遥かに効くぞ」
 そうじゃない。敵わないのは岩城に、だ。
 しかしそれを素直に口に出すのは悔しくて、抱きしめていた彼の身体をソファに押し倒しながら、滑らかなラインを描く肩に軽く噛み付いた。
「っ…。こら、じゃれるな」
 この人には敵わない。確かに不器用で一つの事に捕らわれがちな傾向はあるけれど。欲しい物に対してなりふりかまわず一直線に突き進める事が香藤の持つ強さならば、迷いながらも道を見つけ、傷つく事を恐れず前を見据えて歩き出せる。
その力は岩城だけが持つ強さだ。
「でもさー…。やっぱり誤魔化されてる気がしないでもないんですけどー」
 恐らく岩城がセクハラまがいの行為を我慢していたのは、香藤の事もあるのだろう。あの男から受けた行為を最後まで口にしなかったのもそうだ。本来ならば香藤に何かあったのだと悟らせる事は絶対になかったはずだ。知ってしまったら、岩城に関して簡単に激昂してしまう香藤が何をするかわからないから。『冬の蝉』が大ヒットして、事務所とのトラブルも何とか解決はした。けれどまだその立場は危うい。今あの男を殴って問題を起こせば、いくら岩城絡みでも世間的にダーティなイメージがつく事は免れない。
「素直に受け取っておけよ。せっかく人が甘やかしているんだから」
「それってやっぱり誤魔化してるって事?」
 今でも十分甘やかされているのに。心地よすぎて困るなんて、贅沢な悩みだ。
「ねえねえ、岩城さん」
 はむはむと噛んだ肩を甘噛みしながら岩城を窺うと、ランダムに当たる舌と噛まれる行為に目元が薄っすらと紅を刷いたように染まりだしている。ただでさえ敏感な身体なのに抱かれた後だ。あちこちに残っていた快楽の熾火が燻って彼を苛んでいる。
「…はっ……止めろ…かと…」
「嫌ですぅー。だって言ったじゃない。俺以外の男からセクハラされるのは嫌だって。それって俺ならセクハラされてもOKって事でしょ?」
 せっかく人が素直に誤魔化されてあげるのだから、これくらいの報復は許されてもいいはずだ。幸い岩城も香藤も明日の仕事は午後からだし。両手が岩城の染み一つない肌の上をさ迷いだす。引き締まった上半身のラインをなぞると、細かく震えだしながら熱い吐息が漏れてくる。
「くそ…。必要以上に甘やかせるんじゃなかったな…。調子に乗りやがって…」
 悪態を吐きながらもその両腕は慈しむように香藤の背中に回っている。
「後な…お前、一つ勘違いしてるぞ」
 未だに肩に噛み付いている香藤の髪を軽く引っ張りながら、岩城は挑発するように口元を吊り上げた。
「セクハラというのは、されている側が嫌でたまらないから成り立つ行為だ。お前が俺に何かしても、それはセクハラにはならないぞ」
 その小悪魔めいた表情に見惚れてしまう。捕らわれて、溺れてしまう。
「―――岩城さん、それって反則…。そんな事言われたら、俺止まらないよ?」
 煽られたのはどちらなのか。欲しくてたまらなくなった香藤は、自分の欲望を教えるように腰を岩城の太腿に押し付けた。
「お前が止まる事なんてあるのか?もうお喋りはいいから…香藤……」
 岩城が香藤の耳元に唇をよせた。
 囁くように落とされた言葉に、香藤の理性はあっけなく白旗を揚げて。
「…っ……!だからそれは反則だって〜…」
 情けない声を上げた香藤を笑っていた岩城は、反撃に出た恋人から思い切り強く抱きしめられた。そして彼が囁いた言葉どおりに、愛しい人の香りに包まれながら一晩中愛されて、不快な記憶を彼方に追いやってもらった。
 二人一緒ならば何も怖いものはない、最強な恋人達のある夜の出来事。



2005/04/10 久保木冬茗




岩城さんが強くて・・・ステキです!
きっといろんな人がちょっかいを出してくると思うんですよね・・・
香藤くんも気が気でないでしょう;
でもそれでも自分たちの選んだ道を進んでいく・・・
そんなおふたりが好きですv

久保木さん、ありがとうございますv