天使の約束 −5years after−



ここは天界。

柔らかな陽の光が差し、小鳥の可愛いさえずりが響き渡るとても暖かくて優しい世界です。

ここに一人の可愛い天使がいました。

少し癖のある明るい髪が光に反射してキラキラ光り、人懐こいクルッとした大きな瞳がとても印象的な、
ちょっと甘えんぼの天使です。

今日もぶ厚い本を片手に、一生懸命お勉強しているはずなのですが・・おやおや。

「岩城さん、今日も元気かな?」

フワフワの雲の絨毯に座り込み、嬉そうな顔でジッと下を覗き込んでいます。

どうやら、今は息抜きの時間みたいですね。

「今日は幼稚園に行ってるんだよね・・」

そう言いながら、くせっ毛天使は絨毯に空いた穴からキョロキョロと辺りを眺めています。
すると

「あ、いた!」

目に飛び込んできたのは、サラサラの黒髪で、少し切れ長の目が綺麗な印象を与える男の子です。

「岩城さん、ボールで遊んでるんだ〜。いいなぁ、楽しそう。」

そんなことを呟きながら、くせっ毛天使はその男の子を見つめています。



実はこの天界には一つの決まりがありました。

天界にいる天使たちは先生である大天使の下で人間界の勉強をし、試験に合格した者は親となる人間を選び、
その子供として生まれていかなければいけないのです。

そして、くせっ毛天使がとても嬉しそうに見つめ続けている少年『岩城京介』は、5年前、くせっ毛天使より一足先に生まれていった黒髪天使なのでした。

どんなときも、何をするにも一緒だった大好きな黒髪天使。

その黒髪天使が天界を去るとき、くせっ毛天使はある約束をしたのです。

『俺も早く人間界に生まれて、きっと君を見つけ出す』と。



「あ、今度はお砂場だ。」

大きな瞳を更に大きくし、くせっ毛天使は一時も『岩城さん』から目を放しません。

元々、勉強があまり好きでないくせっ毛天使。それでも彼は毎日『岩城さん』を覗いて見ては一生懸命頑張っていました。

『岩城さん』の愛らしい仕種はくせっ毛天使の心を和ませてくれ、優しい笑顔は大切な思い出を甦らせてくれます。

『君はいつでも、僕の傍で微笑んでいてくれた』と。


それでも、お友達と遊ぶ『岩城さん』を見て、くせっ毛天使は時折悲しそうな顔をします。

なぜなら、『岩城さん』の隣で笑っているのは自分ではないからです。

「・・俺も早く生まれていきたいな・・」

『早く君に会いたい』そんなことを考えながら、くせっ毛天使が人間界を見つめていると

「こんな所にいたのですね。くせっ毛天使さん。」

後ろからとても綺麗で優しい声が聞こえてきました。くせっ毛天使は振り返ります。
と、そこにいたのは・・

「ファム様。」

銀色の艶やかな長い髪で風を撫で、澄みきった青い瞳でくせっ毛天使を見つめる女神ファム。
くせっ毛天使の先生です。

「また黒髪天使を見ているのですか?」
「え?あ、はい・・」

にっこり笑ってそう訊いてくるファムに、くせっ毛天使は恥ずかしそうに答えます。

そんなくせっ毛天使の隣に来ると、ファムは同じように絨毯に座り込み、下界を覗き込みます。

「・・大きくなりましたね。」
「・・はい。」
「あの優しい笑顔は、ここにいたときと少しも変わっていませんね。」
「・・はい。」

5年前、黒髪天使の先生だったファムはとても懐かしそうに呟きました。
その隣では、くせっ毛天使が同じように微笑んで黒髪天使を眺めています。

そんなくせっ毛天使の顔を見つめながらファムは言いました。

「・・あなたは変わりましたね。」
「え?」

突然のその言葉にくせっ毛天使は驚き、目を大きくしてファムを見つめました。

「とてもいい顔になりました。そうですね・・とても意志の強いというか・・」
「ファム様・・」

優しい輝きをたたえた瞳で微笑むファムに、くせっ毛天使は少し照れ臭くなってしまい。
顔を赤くし、『ヘヘ』と笑う彼に、ファムは言いました。

「先ほど、オーディン様があなたを呼んでいらっしゃいましたよ。」
「え?」

その言葉に、くせっ毛天使はまた驚きの声を上げました。

「・・オーディン様がですか?」
「ええ。」

そう言って頷くファムに、くせっ毛天使の顔がみるみる綻んでいきます。


オーディンとは、天界の全てを統括する神様のことで
ファムのような何人もいる大天使の先生でもあります。

そして、人間界に生まれるための試験の最後の審判をする人でもありました。


「・・じゃあ・・」
「ええ、合格ですよ。」
「ぃやったぁ〜!」

くせっ毛天使が喜びの声を上げたように、オーディンに呼ばれるということはすなわち試験に合格したということなのです。

「さぁ、オーディン様は待たされるのがお嫌いな方ですから。早く行きなさい。」
「は、はいっ!ありがとうございました!」

フワリと笑うファムにお礼を言うと、くせっ毛天使は急いで立ち上がります。

そして、背中にある白い羽根を一杯に広げると、すぐさま空へと飛び立ちました。

みるみるうちに小さくなっていくくせっ毛天使の姿を見つめ、ファムは囁きます。

「・・どうか、あの子が無事に生まれていけますように・・」

『どうか彼の願いが叶いますように』

心の中でそう唱え、ファムは胸の前で手を組み、祈りを捧げたのでした。





それからどのくらい経ったでしょうか.

オーディンのいる天界の最上階に辿り着いたくせっ毛天使は、雲の絨毯に座り込んでハァハァと息を吐いていました。
目の前では入り口である大きな黄金の扉が、くせっ毛天使を見下ろしています。

「・・なんか緊張するなぁ・・」

荘厳な空気の漂う扉を見上げながら、くせっ毛天使はボソッと呟き立ち上がりました。
すると

「そこにいるのはくせっ毛天使か?」

その扉の向こうから何とも心地よく響く低音の優しい声が聞こえてきます。

「そんな所に立っていないで、中に入ってきなさい。」
「は・・はいっ!」

くせっ毛天使の返事を合図にするかのように、金の扉はゆっくりと開いていきます。

「失礼します・・」

少しビクビクしながら部屋の中に入ると、くせっ毛天使はあることに気付きました。

「・・あったかい・・」

そう、ふんわりと柔らかな、暖かいオーラがくせっ毛天使を包み込んでいるのです。

『なんて優しいオーラなんだろう・・』

俺はこの空気をずっと前から知ってるような気がする

知らず知らずの内に笑みを浮かべ、くせっ毛天使は少し離れた所から自分を見つめている人物の元へと歩きだしました。

その人物は、ふっくらしたお顔に丸いお腹、鼻の下とあごに豊かな白い髭を生やしています。

そして、天界の全てを統べる者にふさわしい、命の輝きをも感じさせる深い緑の瞳でくせっ毛天使を見下ろしました。

「遅くなって申し訳ありません。オーディン様。」

真っ直ぐな目で見上げてくるくせっ毛天使に、オーディンは目を細めます。

「いや、いいんじゃよ。わしも退屈しておったからの。」

にっこり笑ってそう言うオーディンに、くせっ毛天使はホッと息を吐きました。
そんな彼の様子に、オーディンは更に言葉を続けます。

「しかしよく頑張ったな、くせっ毛天使よ。ファムも5年前とはまるで別人だと感心しておったぞ。」
「え・・あ・・その・・」

フォッフォッと体を揺すって笑うオーディンに、くせっ毛天使は少し恥ずかしそうに顔を赤くして笑います。
自分がファムや他の先生に心配されていたことを、くせっ毛天使は知っていたようです。

「俺・・いえ、僕がここまで来れたのは、ファム様や他の先生方のおかげです。本当にありがとうございます。」

そう言って、顔を上げたくせっ毛天使の目に飛び込んできたのは

「・・オーディン様?」

先ほどとは打って変わって、厳しい表情のオーディンです。
一体どうしたというのでしょう。

「ところで、くせっ毛天使よ。お前に質問があるんじゃが・・」
「・・はい・・」

オーディンの静かながらも迫力のある口調に、くせっ毛天使は体をビクッと震わせます。
それと同時に、自分が何か粗相でもしたのかと心配になりました。
すると

「お前は何のために、人間界に生まれていくのだ?」
「え?」

突然の言葉に、くせっ毛天使の頭の中は一瞬真っ白になりました。
『何のため』そんな質問をされるなんて思ってもみなかったからです。

「何のためって・・決まりだし・・それに・・」
「・・黒髪天使に会うためか?」

確かめるようなオーディンの言葉に、くせっ毛天使はコクンと頷きます。

「しかし、黒髪天使はお前のことなど覚えておらんぞ?」
「それは・・」

オーディンにそう言われた途端、くせっ毛天使は悲しくなりました。

そう、人間の子として生まれた天使たちは天界での記憶を全て失ってしまうのです。

「お前だって、人間の子として生まれていけば一切の記憶を失くしてしまうんじゃ。そんな状態で黒髪天使のことがわかるのか?」

更に強く言い放つオーディンの顔を、くせっ毛天使は見ていられません。
俯き、両手の拳をグッと握り締め、唇を噛んで涙が出そうになるのを我慢しています。

そんな彼の様子にオーディンは一瞬苦しそうに眉を寄せました。
が、すぐに厳しい口調で言葉を続けます。

「それに、お前も勉強してきた通り、人間界にはいいことばかりがあるわけではない。悲しいこと、辛いこともたくさんあるんじゃ。お前はそれに耐えられるのか?」

その言葉にくせっ毛天使はギュッと固く目を閉じます。

オーディンの言う通り、天使たちが学ぶのは何も嬉しいこと、楽しいことばかりではありません。
人が人を傷つけ、悲しんだり悲しませたりする。そんな苦しいことや悲しいことも全て教えられるのです。

実際、そんな人間界の様子に『行きたくない』と泣き出す天使もいましたし、
くせっ毛天使も勉強してみて初めてわかった事実にとてつもない怖さを感じたことがありました。

そして、くじけそうになったときいつも浮かんでくるのは−

「オーディン様。」
「ん?」

くせっ毛天使はキッと顔を上げると、涙が滲んだ目で必死にオーディンを見つめます。

「確かに俺たちはお互いを忘れたまま生まれていきます。でも・・」
「でも、何じゃ?」

一瞬だけ言葉を詰まらせるくせっ毛天使の背中を押すように、オーディンは問いかけました。

「でも、俺は信じてますから!」

『信じる』その言葉を聞いた瞬間、オーディンの顔が少しだけ緩みました。
それに気付かないくせっ毛天使は更に必死に言葉を続けます。

「たとえ記憶が失くなったとしても、心は覚えてるって信じてますから!」


そう たとえ今君が傍にいなくても 俺はずっと君を感じてた。

優しい瞳 穏やかな笑顔 どんな不安や悲しみも包み込み消してくれる暖かい心

君の心が俺の中にいてくれたから 俺は生まれていける


これから飛び込む世界が どんなに厳しくて辛いところだとしても

君がいない世界なんて 俺にはなんの意味もないんだ


「だから・・」
「もう、よい。」
「え?」

まだ何か言おうとするくせっ毛天使を制し、オーディンは先ほどと同じ優しい笑みを浮かべます。

「合格じゃ。おめでとう。くせっ毛天使。」
「・・・は?」

オーディンの言葉の意味がわからないくせっ毛天使はキョトンとしています。

「本当にお前たちは心の底からお互いを必要としているのじゃな。」
「はぁ・・・」
「・・黒髪天使もお前と同じことを言っておったぞ。」
「・・え?」

フワフワの顎髭を触りながら、オーディンはとても嬉しそうです。
そう、オーディンはくせっ毛天使が黒髪天使と同じ気持ちかどうか、もう一度確かめたかったのです。

「黒髪天使にも同じ質問をしたんじゃが、あいつもお前を信じるとはっきり言い切っておった。」

『それこそ、いつものあいつからは想像もつかないくらいの怖い目で睨まれたわい』

ハッハッハと豪快に笑うオーディンの言葉に、くせっ毛天使の心がじんわりと暖かくなります。
そして

『僕は信じてるから』

黒髪天使が天界を去るときに残した言葉が頭をよぎった瞬間、くせっ毛天使の目から涙が一筋こぼれました。


必ず 俺は必ず 君を見つける

そしてまた その綺麗で純粋な笑顔を 俺のために

俺だけのために見せてくれたら


次から次へと溢れてくる涙を拭うことなく、くせっ毛天使は心の中で誓います。


俺は一生 君を大切にするんだ


「くせっ毛天使よ。泣いている場合じゃないぞ?」
「・・はい。」

しゃくりあげながら顔を上げるくせっ毛天使に微笑むと、オーデインは彼の後ろを指差しました。
くせっ毛天使も振り返り、その指が指し示す先を見てみます。
すると

「うわ・・眩し・・」

思わず目を瞑ってしまうほどの強く明るい光が、球の形を作り波のように揺れています。

それは人間界へと続く通路なのでした。

その眩しさに目を細めながら、それでも決して視線を逸らさないくせっ毛天使に、オーディンは尋ねます。

「くせっ毛天使よ。親となる人間は決めているのか?」
「あ、はい。もう決めてます。」

泣いて赤くなった目を擦りながら、くせっ毛天使はニコッと笑いました。

くせっ毛天使が自分の母親にと決めた女性。

下界を眺めているときに偶然見つけたその人は、明るく笑顔の可愛らしい人で。
自然と周りに人が集まる、太陽のような存在です。

それでも、ふとしたときとても悲しそうな表情をするその女性のことがくせっ毛天使はとても気になっていました。

「・・そうか。じゃあ、お前がその女の人を癒してやるのじゃぞ?」
「はいっ!」

元気よく返事をするくせっ毛天使に、オーディンもまたにっこり笑って頷きます。
そして、そのまましゃがみ込み、くせっ毛天使の瞳を真っ直ぐに見つめながら言いました。

「これからお前が生まれていく世界では、何が一番大切かわかるか?」
「え?」

二度目の質問に、くせっ毛天使はまた不安げにオーディンを見つめます。

「・・人を信じ、愛することじゃ。その心を持っていれば、例えどんな困難が来ようとも決して負けはせん。」
「オーディン様。」
「ん?」

それまで黙ってオーディンの話を聞いていたくせっ毛天使が口を開きます。

「だったら大丈夫です。俺にはもう。」

『何よりも愛しくて、何の迷いもなく信じることのできる人がいるんですから。』

「・・そうか・・そうじゃったな。」

力強い光を宿した目で、少しの澱みもない声ではっきりそう言うくせっ毛天使の頭を、オーディンはポンポンと叩きます。
嬉しそうに細められた目には、涙が微かに光っていました。

「もう、わしが教えることは何もない。ほら、もう行きなさい。」
「・・はい。」

静かに返事をすると、くせっ毛天使はゆっくりと光の道へと歩きだします。
今までたくさんの天使たちが歩いていったその道は、新しく旅立つくせっ毛天使を喜んで迎えるかのように
一層強い光を放ち、小さい体を包み込んでいきました。

「・・あったかくて気持ちいい・・」

ゆっくりと穏やかに揺れる光は、どこか懐かしい感じさえして。
少し眠くなってきたくせっ毛天使は体を包む柔らかい光に身を委ね、目を閉じようとします。

そのとき、オーディンがくせっ毛天使に話しかけてきました。

「くせっ毛天使よ。最後にわしからプレゼントをやろう。」
「・・プレゼント?」
「お前が生まれてから・・」

光の向こうでオーディンが何か話していますが、くせっ毛天使にはうまく聞き取れません。

「オーディン様?何を仰っているのですか・・?」

問いかけてみてもオーディンからの返事はなく。
くせっ毛天使の意識もだんだん遠のいていきます。

そのとき、ふと誰かに呼ばれた気がしました。

「誰・・?」

くせっ毛天使はゆっくりと声のする方向に体を向けます。
するとそこにいたのは

「岩城さん・・」

くせっ毛天使が心の底から会いたいと思っていた黒髪天使が、両手を前にいっぱいに広げています。

『早くおいで。』まるでそう言ってるみたいです。

「今すぐ行くから・・待っててね。岩城さん・・」

喜びと希望に溢れんばかりの笑顔を浮かべ、くせっ毛天使は大好きな人が導く方向へと真っ直ぐ進んでいきました。


そして新しい世界への光の道は消え、オーディンはくせっ毛天使がいた場所をいつまでも寂しそうに見つめていたのです。







「あら、もうこんな時間だわ。」

人間界ではくせっ毛天使がお母さんにと選んだ女性が、夕食の準備をするためキッチンの中を忙しそうに動き回っています。
すると、男の人がリビングに入ってきました。

どうやら、くせっ毛天使のお父さんになる人のようです。


「ただいま。美江子。」
「あ、お帰りなさい。洋一さん。」

仕事を終えて家に帰ってきたお父さんを、お母さんが笑顔で迎えます。
それに気付いたお父さんは、ネクタイを緩めながらお母さんに尋ねました。

「なんだ?今日はやけに嬉しそうだな?何かいいことでもあったのか?」
「ふふ、実はね。」

そう言ってにっこり微笑むと、お母さんは近くにあるチェストの引き出しから小さい本のような物を取り出し、
お父さんに見せました。

「え・・?」

その本を見た途端、お父さんの顔はみるみる綻んでいきます。

その本の表紙に書かれていた文字は『母子手帳』

「・・じゃあ・・!」
「ええ、3ヵ月ですって。」
「そうか!」

少し恥ずかしそうに笑うお母さんを、お父さんはぎゅうっと抱きしめます。
お母さんもそのぬくもりをしっかりと抱き返し、言いました。

「私ね・・」
「ん?」
「・・この子は絶対、男の子だと思うのよ・・」

『私たちに会うことなく、天使になっていったあの子の生まれ変わりなの。』

腕の中で静かにそう呟くお母さんの言葉に、お父さんの目には涙が滲んできます。

「そうか・・お前が言うなら間違いないだろう。」
「ええ。」

そう言いながら瞳にたまった涙を拭うと、お父さんはしゃがみ込み、お母さんのお腹に耳を当てます。

「おい、坊主。元気に生まれてこいよ。」

『お前はお兄ちゃんの分も幸せにならないとな。』

言い聞かせるように囁き、ソッとお腹にキスをするお父さんの姿に、お母さんは大きな涙の粒をいくつもいくつも落としたのでした。


それから6ヵ月後、1975年6月9日

皆に望まれ、元気な産声を上げて香藤家に生まれた男の子は『洋二』と名づけられ
家族の愛に包まれながら健やかに成長していったのです。






場所は変わってここは天界。
雲の上からはオーディンとファムが人間界を見下ろしていました。

「・・無事生まれたみたいですね。」
「そうじゃな・・」

静かに呟くファムの言葉に、オーディンは目を細め頷きます。
そんなオーディンをチラッと見やると、ファムは再び下を見下ろし口を開きました。

「ところで、オーディン様?」
「何じゃ?」

白い髭を触りながら少し寂しそうなオーディンに、ファムはクスッと笑い言葉を続けます。

「くせっ毛天使が旅立つときに仰ってた、プレゼントって何ですか?」
「ああ・・それか。」

今度はオーディンがフフと笑います。

「いついかなるときでも、変わらぬ絆があることを教えてくれたあの子たちに、わしがしてやれる最後のプレゼントじゃ。」


『お前が生まれてから人間界の年月が2周りする頃、お前たちがお互いを見つける最初で最後のチャンスをやろう』


くせっ毛天使が天界を旅立つ瞬間、オーディンが告げた最後の言葉です。

「・・まぁ、そんなものはなくてもあいつらなら大丈夫かもしれんがな・・」

そんなオーディンの言葉をファムは黙って聞きながら

二人はいつまでもいつまでも 健やかに素直に育っていく天使たちの姿を眺めていたのでした。





そして22年後



地下の薄暗い駐車場に停まった車から出てきた青年が二人、言葉を交わします。


「どーも。お久しぶりです、岩城さん。」
「香藤・・」



二人の物語は今、始まったばかりです。




’04.5.26 ユッカ




終わり方がすっごい好みなんですv
うんうん、そうやってふたりはまた出会い物語を紡ぐのね・・・って・・・
なんかこれからを思うと顔がにやけてきます(しばらくは香藤くん大変ですが;)
とっても綺麗な幻想的なシチュエーションに心が洗われるようです
出会った頃のふたりが頭に浮かびますね
ユッカさん美しいお話ありがとうございますv