ハピネス
それは6月に入ったある日のこと。 もうすぐ最愛の香藤の誕生日、プレゼントは何がよいだろうかと岩城は悩んでいた。 (大抵のものは持っている気がするしな。…いっそのこと本人に聞いてしまうか。) 岩城は意を決して香藤に問いかけた。 「なぁ、香藤。もうすぐ誕生日だろう? こんなこと聞くのも何だがなにか欲しいものはあるか?」 その問いに対する香藤の答えはいたってシンプルなものだった。 「ずっとふたりきりでいたいよ。」 「それだけでいいのか?」 「うん、他には何もいらない。俺にはそれが最高のプレゼントだよ。」 「そうか、おまえの誕生日はオフにしてもらってあるからふたりでのんびりするか。」 「うん、楽しみにしてる。」 微笑みながら告げる香藤に少し照れながら岩城の口元も綻んだ。 そして、誕生日当日… 楽しみにしている、確かに香藤はそう言った。 それは岩城も同じことだったのだが、予期せぬ事態が起きてしまった。 香藤が熱を出したのだ。 「あ〜あ。なんで俺ってこうなんだろう。なんかこれじゃ遠足の日に熱出す 小学生みたいじゃん。」 ベッドに横たわり天井を仰ぎながら香藤はつぶやく。 「まぁ、そう言うな。ここのところ忙しかったから疲れが溜まってたんだろう。」 「でも、せっかく岩城さんが俺のためにオフとってくれたのに。」 「気にするな。それにふたりでいられることに変わりないじゃないか。 たまにはゆっくり休めばいい。俺はずっとそばにいるから。」 岩城はベッドの傍らに寄り添うようにして座り、そっと香藤の髪をなでる。 「ありがとう、岩城さん…やさしいね。」 そう言って香藤は嬉しそうに目を細めた。 「なんだか俺眠くなってきちゃった。」 「少し眠ったらどうだ?ずっと付いててやるから。」 「うん…ね、岩城さん。わがまま言ってもいい?」 「ん?」 「手、握っててくれる?俺が眠るまででいいから。」 岩城はフッと微笑むとだまって香藤の手をとった。 香藤が目を覚ますと岩城は眠る前と同じ姿勢で手をとったまま座っていた。 「岩城さん、ずっと手握っててくれたの?ごめんね。疲れたんじゃない?」 「俺がしたかったんだ、気にするな。それより具合はどうだ、少しは楽になったか?」 「うん、だいぶ楽になったよ。」 「なにか食べられそうならお粥でも作るか?」 「岩城さんが食べさせてくれるなら食べる。」 コラ、と岩城は笑いながら告げる香藤の額をつついた。 「そんな口が利けるなら大丈夫だな。ちょっと待ってろ。」 しばらくして小さな土鍋を乗せたトレイを持って戻ってきた岩城は お粥をレンゲにすくい、ふうふうと冷まして香藤に差し出した。 「ほら口を開けろ。」 「えへへ、岩城さんほんとに食べさせてくれるんだ。」 「甘えさせついでだ。今日は特別だぞ。」 釘を刺した岩城にこれならたまには熱出すのもいいかもと言いながら香藤は小さく舌を出す。 「熱くないか?味はどうだ?」 「うん、大丈夫。おいしいよ。」 「そうか。よかった。」 結局最初から最後まで雛鳥よろしく岩城の手でお粥を食べさせてもらった香藤は とても満足気だった。 岩城は薬を飲んでおくように言い残し、空になった食器を持ちキッチンへ向かった。 食器を片付けた岩城が戻ると香藤は静かな寝息をたてて眠っていた。 (こうやってると子どもみたいだな。) 岩城が髪をなでると香藤はうっすらと目を開けたが完全に目覚めたわけではなく まどろんでいるようだった。 「寝てろ。」 そう言って岩城は香藤の目を手で覆った。 「岩城さん、ありがとう。…俺、すごく、しあ…わ…」 うわ言のように呟いた香藤は再び眠りの中に引き込まれていく。 その言葉に自分の方こそが幸せをもらった気がした岩城は伝えられない言葉の代わりにと 香藤の額にキスをする。 そして枕もとにそっとカードを置いた。 『 香藤へ 誕生日おめでとう こうして改まると少し照れ臭いが いい機会だから素直な気持ちを書こうと思う。 俺はおまえと出会って人として大切なものに気づき 失ったと思い あきらめていたものを取り戻すことができた。 ありがとう。 これからもずっと一緒に歩いていって欲しい。 愛している。 岩城 』 2004.5 ゆうか |
熱を出した香藤くんを看病する岩城さん・・・萌え萌えv
で、それに甘える香藤くん・・・またらぶv
目が覚めたらもっともっと素敵なプレゼントを手にするだろう香藤くん・・・
本当におめでとう!
心からそう伝えたいです
ゆうかさん素敵なお話ありがとうございますv