岩城さんはどこ?


今日は俺の誕生日なんだけど、しっかり仕事が入ってる。
別に仕事が入ってるのはいいんだ!
お昼の番組1本だけだから夕方には帰れるし。
問題なのは、せっかく岩城さんが俺のために休みを取ってくれたのに、俺が仕事に行かなきゃいけないってこと。
一瞬岩城さんも現場に連れて行っちゃおうかと思って岩城さんに言ってみたけど、やっぱりすごく怒られた・・・。
その代わり『どこにも行かないでお前のこと待ってるから、仕事頑張って来い。それで仕事が終ったらまっすぐ家に帰って来いよ!』ってキスしてくれたんだけどね。(デレ)
そして今はその仕事が終って、金子さんの運転する車で家に帰るところ。

「香藤さん、今日は本当に申し訳ありませんでした。今日のお誕生日はオフを頼まれていましたのに、急に仕事が入ってしまって・・・。」

そうなんだよ。清水さんに『岩城さんが香藤さんの誕生日にオフを取ってますよ。』って聞いて、俺も半年くらい前から、『俺の誕生日はオフにして!』って頼んでたんだけどさ、1週間前急に仕事が入っちゃったんだよ(泣)
仕事だから仕方ないんだけどさ・・・。

「そんなの気にしないでよ。金子さんの所為じゃないんだからさ。

その代わり明日オフにしてもらったし、それに岩城さんの事務所にも掛け合って、明日の岩城さんのオフも取ってくれたんでしょう?それで充分だよ!!」

実は明日も岩城さんオフなんだよね!
ってことは、明日こそは2人そろっての久々のオフなんだ〜♪


「今日仕事を入れてしまったせめてもの罪滅ぼしです。
それから、これは自分からです。
香藤さん、お誕生日おめでとうございます!!」

そう言って渡されたプレゼントの包みを開けると、中にはクロムハーツのサングラスが入ってた!さすが俺のマネージャーだよね!!
俺の好みわかってるよ!

「金子さん、ホントにありがとう!
凄く嬉しいよ!大切に使わせてもらうね!!」
「喜んでいただけたならよかったです!」

それから今オファーがきてる仕事の話とか、軽い打ち合わせなんかをしてるうちに愛する岩城さんが待つ我が家に到着した。

「香藤さん、今日は本当にすみませんでした!
明後日は11時頃お迎えにあがりますので、お疲れ様でした!!」

「は〜い。明後日11時ね!金子さんもお疲れ様!気をつけて帰ってね!」

金子さんの車を見送ってから俺は門の鍵を開け中に入った。
やっと家に着いた!
早く家に入って岩城さんの顔みたいよ!
もしかして俺を喜ばせようって、俺のためにお風呂沸かして、寝室の俺のベッドの上でセクシーな格好で俺のこと待っててくれたりして?!

くぅ〜!萌える〜!!

俺ははやる気持ちを抑えつつ玄関の扉を開けた。



「岩城さ〜ん ただいま〜!」
「・・・・・。」
あれ〜?返事がない。
岩城さんが家にいる時は迎えに出てくれなくても『おかえり 香藤』って言ってくれるのに・・・。
いないのかなぁ?
でも仕事に行く時『今日はどこにも行かないでお前のこと待ってるから・・・』って言ってたよな?
俺は返事の無い岩城さんが家にいるのかを確かめようと玄関を見回して、岩城さんの靴を探す。
すると今日俺が出かけるときに並べてあった岩城さんの靴がなくなってて、代わりに見たことのない女性モノの靴が1足きれいに並べてあった。

「ん〜?お客さんかな?

・・・この靴、女性モノだけどかなりでかいよな!?佐和さんでも来てんのかな?
それにしても岩城さんどこに行ったんだろ?」
俺はブツブツ独り言を言いながらリビングの扉を開けて、驚いた!!!

だってそこにはやっぱり岩城さんはいなかったけど、かわりにものすごい美人の女の人がソファーに座ってたから・・・。
腰の辺りまである長くきれいな黒髪
切れ長で黒曜石のような黒く潤んだ瞳
誘うようにグラマラスに引かれた赤いルージュ
そしてルージュと同じ赤のチャイナドレスの深いスリットからのぞく白くきれいな脚
チャイナドレスの赤がぬけるように白い肌を一段と際立たせている
芸能界なんてところで仕事をしているから、美人は見慣れていると思っていたけど、こんなに美しい人は初めて見た。
でもその瞳には見覚えがあるような気がした。
しかし目の前にいる女性の余りの美しさに俺は一瞬言葉が出てこなかった。
そしてそんな俺の様子を目の前の美女は不安げな顔で見つめていた。

「え・・・っと・・あの・・岩城さんの知り合いの方ですよね?・・・あの・・その・・・岩城さんはどこに・・・?」

俺の言葉にその美女は少し困った顔をして、あいまいに微笑んだ。
そして俺を手招きして自分のそばに呼んで、ソファーに座れと言うように軽くソファーをたたく。
それから俺に一枚のカードを手渡した。
そのカードには

『香藤くん お誕生日おめでとう!
ダイニングテーブルの上のディナーと、このカードを持っていた美女は私からのプレゼントよ!
一晩のお好きに楽しんでちょうだい!!         佐和』

と書かれてあった。

「一晩お好きに楽しんでちょうだいって・・・。」

そんな俺の呟きが聞こえたらしい美女が目元をほんのり赤く染めて、恥ずかしそうに下を向いた。
えっ?ちょっと待って!
お好きに楽しんでってやっぱりそういう意味なの?!
いくらなんでもそれはダメだろ!?
俺には岩城さんがいるんだから、他の人となんて考えられないよ!!
ってか、この人は一体誰?
な〜んかよく知ってるような気もするんだけど?
誰だっけ?
でもこんなきれいな人なら1回見たら忘れるはずないと思うんだけどなぁ?
う〜〜〜ん・・・
はっ!
そんなことより岩城さんはどこに行ったの?

「えっと・・とりあえずあなたは誰なのか教えてもらえますか?」

その美女はあいまいな表情で微笑むだけで何も答えてくれない。

「ん〜・・・。答えたくないの?じゃあ岩城さんはどこに行ったの?」

その質問にもやっぱりあいまいな表情で微笑むだけで何も答えてくれない。
もしかして言葉がわからないとか?
いや、それはないだろう!?
さっき俺の独り言に反応してたもんな。
じゃあなんでしゃべらないんだ?
声が出ないとか?
こんなにきれいなのに声がガラガラとか!?
なんなんだろう?
すごい謎だよ!存在そのものも謎だし・・・。
マジで一体この人は誰なんだよ!
それに岩城さんもどこに行っちゃったんだー???
そんなことをグルグル考えていると、いきなり謎の美女に手を取られて、俺はダイニングテーブルへと連れて行かれる。
そういえばさっきのカードにダイニングテーブルのディナーがどうとか書いてあったな。
『一晩の好きに楽しんで・・・』のところに気を取られてて、そんな言葉頭に入って無かったけど。
リビングに入ってきた時はソファーに座る美女に驚いて、ダイニングテーブルなんて目に入ってなかったし・・・。
さっきのカードの内容を思い出しながら改めてダイニングテーブルの上を見ると、そこにはテーブルの上所狭しと豪華な料理が並んでいた。

「うわ〜!すげー!!これ佐和さんが作ったの?」

俺の質問に謎の美女が微笑みながら頷いてくれる。
「そうなんだ?でもこんな豪華なディナーなら岩城さんと一緒に食べたいんだけど、岩城さんがどこに行ったのか教えてくれないよね?   ホント岩城さんどこに行っちゃったんだろ?」

俺の独り言に近い質問にあいまいに微笑みながら首をかしげた後、俺をダイニングテーブルに座らせて、謎の美女はキッチンへと消えていった。
そしてキッチンから戻ってきた彼女の手には、高かったであろうゴールドのシャンパンの入ったワインクーラーが持たれていた。

「シャンパンを持ってきたってことは、やっぱりこのディナーはあなたと2人で食べるの?」

彼女は頷きながらクーラーから出したシャンパンのボトルを俺に渡す。
俺に開けろってことらしい。
やっぱり俺の誕生日のディナーは謎の美女と2人でしないといけないみたいだ。
仕方ない。
岩城さんの代わりにこの人がいたってことは、岩城さんも俺がこの人と一緒にいるのを認めたってことだろうし、このまま待ってても岩城さんが帰ってくる気配もないしね?
そう思った俺は彼女から受け取ったシャンパンのコルクを勢いよく開けた。


*********************


佐和さんが用意しておいてくれた料理はどれもおいしくて、シャンパンに合う料理ばっかりだったから、俺はついつい飲みすぎて、食事が終る頃にはいい感じに気持ちよくなってた。
この食事が岩城さんと一緒だったら本当によかったんだけど、男としてはこんなに美しい人と食事するのに悪い気はしない。
謎の美女は食事中もあいかわらず一言もしゃべらなかったんだけどね。
豪華なディナーを終えリビングのソファーでくつろいでいた俺のもとに、ディナーの後片付けを終えた彼女が残ったシャンパンとケーキを持ってやってきた。
そして俺の隣に座るとケーキにロウソクをたてて、そのロウソクに火をつけた後、部屋の明かりを消すために立ち上がる。
(こうやって改めてみるとこの女の人身長高いよなぁ。俺とおんなじくらいあるんじゃないの?)
明かりを消すと戻ってきて、また俺の隣に座り、俺にロウソクの火を吹き消すように促す。
そして俺がロウソクの火を吹き消した瞬間・・・

「・・・んっ?!」

俺は謎の美女にキスされていた。
でもこのキスの感触って・・・。
俺の首に腕を絡め、少し情熱的なキスをしてくる彼女から何とか離れると俺は思わず叫んでた!

「い・・・岩城さんっ?!」

俺の叫びに満足そうな顔をした後、謎の美女・・・いや、美女の格好をした岩城さんは

「あぁ、そうだ。お前、本当に俺だって気づいてなかったのか?」

って笑った。

「気づくわけ無いじゃん!
なんかよく知ってる人のような気もしたけど、岩城さんが女装するなんて思うわけないんだから!!
でもさぁ、見事に化けたよねぇ!俺が近くて見ても気づかなかったんだからさ。
・・・それにしても本当にきれいだ・・・。」

俺の言葉に目元を赤くしてうつむく岩城さんがかわいくて、俺は思わず岩城さんを抱きしめた。
抱きしめながらどうして女装してるのかを聞いてみたら、佐和さんに強引に女装させられたって答えが返ってきた。
佐和さんってたまに考えることがよくわかんないよね?
まぁ、こんなきれいな岩城さんが見れたんだから、今回ばっかりはそれもありかな?と思うけどね(笑)

「岩城さん、俺まだ岩城さんから何にも言ってもらってないんだけど?」

岩城さんを抱きしめながら耳元で囁くと、岩城さんは俺の首にまた腕を絡めて

「香藤、誕生日おめでとう。この一年もいつもお前を愛してるよ。」

って言葉とともにまたキスしてくれた。
こんなサプライズがあるなら、誕生日に仕事するのも悪くなかったなんて、俺って現金だよね?
それから俺たちは残りのシャンパンを飲みながら、ケーキを食べた。
岩城さんに食べさせてもらうバースデーケーキは、今まで食べたケーキの中で一番甘くて幸せの味がした・・・

   La Fin

2004・5

                                              こなゆき

香藤くんの頭では謎の美女が岩城さんだとわからなかったけど、
本能(野生のカン?!)では岩城さんだと感じ取っていたので、
美女との食事が悪い気がしなかったと言うことにしておいてくださいm(__)m



女装した岩城さん・・・・さぞかし綺麗でしょうねえ〜v
美人さんですよ、そりゃあもう!
どこかで感じ取っていたというのはあるでしょうねえv
だって愛しい岩城さんだもの☆
こんな風に祝われて良かったね、香藤くん!
こなゆきさん、素敵なお話ありがとうございます