SWEET


「誕生日おめでとう、香藤」
「ありがとう、岩城さん」
そうお互いにかちりとグラスを合わせる。

ここは都内の某高級ホテルの最上階のレストランで、店内にはピアノのシャンソンが静かに流れている。
有名人がよく訪れる店なので、客も注目して騒ぐことなく、それぞれ楽しげに談笑したりしている。

「なんか照れるね、こういうトコだと」
「そうだな」
そう岩城さんははにかんだように笑う。
それだけでもうその場で押し倒したくなってしまったが、そこはじっと我慢の香藤洋二。
スイートに部屋もとってあるというし、今ここで台無しにする訳にはいかない。

「でもびっくりしたよ。まさか岩城さんがこんなとこ予約してくれてたなんて」
そうなんだ、いつもならこういうびっくりイベントは俺の専売特許なのに、今日は岩城さんがすべて俺に内緒でしてくれたことだった。
しかもホテルのスイートの予約まで取って!!
や、やっぱりこれは、誕生日プレゼントは岩城さん自身ということととってもいいのだろうか!?
いや、誕生日に限らず暇さえあれば岩城さんをいただいちゃってる俺だけど、やっぱり岩城さんから積極的にそういうことをしてくれるというのはやっぱりかなり興奮するのであって。
ああ、どうしよう、今から心臓がバクバクと・・・・

「ああ、ここのケーキが絶品だって聞いたから、甘いもの好きのお前にはちょうどいいかなって・・・おい香藤、聞いてるか?」
そう岩城さんは俺の目の前でひらひらと手を振る。
ぼんやりしていた俺ははっと我に返る。
「ごめん、岩城さん。ええと、ケーキが美味しいんだよね」
不審そうな岩城さんにそう笑って答える。そんな変な顔をしていたのだろうか?
「ああ、誕生日といえばケーキだろう?いつもケーキは清水さんに任せてしまっているからな。たまには俺が自分で探さないとと思って」
「そうなんだ。そんなの全然気にしてなかったのに……。でも嬉しいよ、ありがとう、岩城さん」
「ああ」
そういってまた恥ずかしそうに笑う。
俺は部屋まで持つんだろうか・・・

最近のなんだかんだを談笑しながら食事を終えた頃、見計らったようにウェイターがケーキを運んできた。
「こちら当店特製のバースディケーキにございます」
そう言ってケーキにろうそくを立て、次々と火を灯していく。
「さあ、香藤」
岩城さんに促されてろうそくの火をふうっと吹き消す。
「おめでとう、香藤」
そう岩城さんが言うと、店内からもわあっと拍手があがった。
それにどうもどうもと答えると、さあっと波が引くように拍手がおさまり、客たちはまたそれぞれの談笑に戻った。

「なんか、嬉しいね」
「ああ、家じゃ味わえないことだな」
とそこに、ケーキを切り終えたウェイターがシャンパンを取り出し
「こちらは当店から香藤様へのプレゼントでございます」
と言ってグラスに注いでくれた。
飲んでみると爽やかで甘めの俺好みの味だった。
「それから、」
とまたウェイターは後ろにいつの間にか控えていたウェイトレスから花束を受け取り
「こちらは小野塚様と宮坂様からお預かりしたプレゼントでございます」
と手渡してくれた。
薄いピンクの可愛らしいバラの花束だった。何だろう、まともすぎて不気味だ。
見るとカードが付いている。ナニナニ、と読んでみると

      香藤くん                                                                   
        誕生日オメデトウ。                                                                          
      これは俺たち二人からのささやかなプレゼントだ。
      ちなみにこれは6月のバースディローズで              
      プリンセス・ドゥ・モナコというバラだそうだ。           
      花言葉は『揺らぐ愛』                                                
                           宮坂 小野塚

グシャ

思わずカードを握りつぶす。
あいつら絶対遊んでやがる!!

「どうした香藤、なんて書いてあったんだ?」
と岩城さんがくしゃくしゃになったカードを広げて読み
「ああ、なるほど」
とつぶやいた。
「ちょっと岩城さん!!なるほどってナニ、なるほどって!!」
俺の愛は揺らがないようっ!!
「あ、いや、ほら、薄く花びらにグラデーションがかってるだろう?それの移ろう感じがまさにそうだなぁと思ってな。いいじゃないか、綺麗なんだから。ほら、そうやってすぐ反応するからからかわれるんだぞ?」
「わかってるよ〜。ていうか何であいつらが今日ここで食事するの知ってんの?」
まさか今ここにいやしないだろうかと周りを見回す俺に、岩城さんは
「ああ、ここのことは彼らに教えてもらったんだ。俺がどこがいいか悩んでたら紹介してくれてな」
と事も無げに言った。ああ・・・この人ってなんでこう無防備なんだろう・・・。たまに恨めしくなるよ。と、少々ぐったりしている俺に岩城さんは無邪気に言う。
「ほら、せっかっく来たんだからケーキ食べよう。美味そうじゃないか」
岩城さんに促されなんとなくいじけた気分でケーキを口に運ぶ。

「おいしい」
そう呟くと岩城さんは「そうか」と言って嬉しそうに笑い、自分も一口食べて「ん、美味い」と嬉しそうにまた笑った。
そうだよね、せっかくの誕生日なんだからいじけてちゃもったいないよね。
気分が浮上した俺はぱくぱくとケーキを平らげ、そんな俺を岩城さんは嬉しそうに見つめていた。


              *****


食事を終え、エレベーターに乗って予約しておいた部屋に向かう。
あんまり甘いものが得意じゃない岩城さんは一切れ(それも普通の半分位の大きさ)が限界で、俺が食べてる間はずっとワインを飲んでた。

それでも普段ならケーキなんて一口で「甘い」といって顔をしかめる位だから、やっぱりここのケーキはすごい。
まあ、あいつらの情報は確かだったってことで、そこんとこは認めてやることにしよう。


エレベーターに乗ってる間、岩城さんはワインを飲みすぎたのか、なんとなくぽうっとしていた。
白い頬が赤く染まり、瞳も潤んだようで、吐息も気だるげでなんとも言えず色っぽい。
うわ!危ないって岩城さーん!!

誰に対して危ないのかは、ご想像にお任せシマス。

部屋に着き、ボーイから荷物を受け取りドアを閉めると、いざ!岩城さんを押し倒そうと姿を探すが見当たらない。

「あれっ、岩城さ〜ん、どこ〜?」
と呼ぶと、窓際のソファの後ろからひょこっと顔を出して立ち上がった。
見ると赤い花の咲いた鉢植えを持っている。
「何?その花。いい香り〜」
その花は蝶が舞うような形の小さな花で、なんともいえない甘い優しい香りがした。
「スイートピーだ。綺麗だろう?6月の誕生花。ちょうど上手い具合に咲いてくれたんだ。おめでとう、香藤」
と俺の手に手渡した。
「え、これ、プレゼント?」
岩城さん自身じゃなかったのか…。
「いやか?」
「いやっ、とんでもないっ!ていうかこれ、岩城さんが育てたの?」
「ああ」
ということは、ずいぶん前から考えててくれてたってことで。岩城さん、忙しいのに……。
そう考えるとじわぁっと喜びがあふれてきて、思わず目頭が熱くなった。

そんな俺をよそに岩城さんは
「欧米ではこの花を恋人たちの寝室に飾る習慣があるそうだ」
といって俺の手から鉢を取り、寝室に運んでサイドテーブルにコトンと置き
「香藤」
と誘うように俺を呼んだ。
スイートピーの花の香りよりも、ケーキよりも甘い、その色香に誘われるまま、俺は岩城さんにくちづけた


End.

2004・5・19
海田およぐ



お花をプレゼントする岩城さんの可愛いことv
で、少し酔った姿の妖艶なことv
きっとこの後香藤くんは食べたよね!当然!!
うふふ、岩城さんったら素敵v
優しい心遣いで香藤くんを幸せにしているのが見られて嬉しいです
およぐさん優しいお話ありがとうございますv