24時のプレゼント



「運転手さん、申し訳ないんですが急いでもらえますか?」



 あらかじめ呼んでもらっていたタクシーに飛び乗ると、岩城はとにかくという感じで運転手に声をかけた。 

時計を見ると23時38分。日中に比べると混んではいないとは言え都心部では空いているとも言い難い時間である。

 あと22分で日が変わる。それは、香藤の誕生日であった。



 岩城の誕生日には山程のプレゼントを買い込んだ香藤に、何が欲しいかと尋ねたら「オフを取って」と言われた。

香藤は岩城の誕生日に休みを取っている。自分の時にとってくれたのだから、岩城も取るつもりでいたので

「それは・・・勿論取るつもりだが・・・。そうじゃ無くて、他に何か欲しいものはないのか?俺の時にはいろいろと買ってきてくれたし・・・。俺は・・・選ぶのは苦手なんだ。お前が、今欲しいものがあったら・・・」

と、続けて問う。

「うーん〜・・・」

ソファに寝転がっていた香藤は、しばらく空を睨んで考え込んでいたが、

「岩城さんがプレゼントしてくれるもんだったら、俺は何だって嬉しいけど・・・。岩城さんが何を選んでくれたのかな〜って考えながら待つのも楽しみだしさvv」

 香藤は自分の事を気遣ってくれる岩城に嬉しさを隠さず、岩城と視線を逢わせて満面の笑みを見せる。その時の気分を想像しているのか、香藤の顔がだんだんと嬉しげにやに下がっていた。

 明らさまに嬉しげな香藤の顔を見せられて岩城は顔を赤らめたが、逆にそう素直に言い切られて岩城は困った。自分だって香藤の選んでくれたものは何でも嬉しいと思う。それは

「プレゼント」という物体に「香藤の気持」が確かに感じられるからだった。

岩城がかつて香藤に言ったように・・・。

 しかし実際、何をプレゼントするか・・・ということになると、いろいろと考え込んでしまって楽しむよりは苦痛になってくるのも確かだった。

相手のことを考えすぎて臆病になる、岩城らしい困惑。

「本当にこれで喜んでくれるのだろうか・・・」と。

単なるプレゼントだと言われればそれまでなのだが。

 しばらく岩城の困った顔を楽しんでいた香藤だったが、黙り込んでしまった岩城を見て、

少し笑うとソファから降り、岩城の側に腰掛けなおす。

「俺は“岩城さんと一緒にいる”ということが一番の幸せだからねー。ここしばらく、仕事が忙しくて1日数時間しか一緒に居られなかったから・・・。岩城さんの1日を、俺にプレゼントして・・・」

 後ろから岩城を抱え込むように抱きしめて、首筋に軽く口付けながら、ささやくように香藤はねだった。





 数日後、岩城は香藤の誕生日にあたる6月9日に「オフを取りたい」と申し出るつもりでいたが、渡されたスケジュールを見るとぽっかりとその日は空白になっていた。

「余計なことかもしれませんが・・・」

ご自身の時もオフをとられていたので・・・。と長年岩城の面倒を見、性格を知り尽くしているマネージャーの清水が遠慮がちに言う。

少し苦笑めいていたかもしれない。公私混同が苦手な岩城にとって、この心配りはとてもありがたかった。

が、同時に恥ずかしさも沸いてきて思わず火照りが顔を覆った。

そんな岩城の様子に気づき、姉が見守るように清水が微笑む。つられて岩城も軽く笑み、

「ありがとうございます」

と素直に受けた。

「ただ、ずらした撮影が前日に入ってしまったので、8日は少し遅くなるかもしれません。」

申し訳なさそうに清水が補足説明する。やはり、わざわざスケジュールを調整してくれたようだ。岩城は少し、考え込んだが「かまいませんよ」と了承した。



 そして、8日の今日。思ったほどでは無かったがそれでも少し押してしまった撮影時間に岩城はタクシーを呼んでもらっていた。時計を気にしながらタクシーに乗り込み、なるべく

急ぐように運転手に伝える。

 明日が香藤の誕生日だと知っているスタッフも多い。半ばからかいも入った挨拶に会いながらも、適当に応えてスタジオを後にしたのだ。「送りますよ」というスタッフに、まさか

「違反するほどスピードを出して欲しい」とも言えず、断ったのである。寄りたい所があるから・・・」

と言い訳をして。

 自分でも、しようが無いなと岩城は思う。でも、とにかく早く家に帰りたい。明日になる前に・・・。



 23時56分。家に灯りが点っているのをタクシーの中で確認する。

香藤が家にいると思い嬉しくなった。

タクシーチケットにサインするのももどかしく、それでも運転手に一言礼を言い、タクシーから飛び出す。

玄関のドアからそのまま、香藤がいるであろうリビングに飛び込んだ。



「あれ〜?岩城さん?お帰りなさい。早かったねー。もう少し遅くなりそうな雰囲気だったのに」

「ああ・・・。ただいま」

 ビール片手に台所で何かを作っていた香藤は、駆け込んで入ってきた岩城に少し不思議そうな顔をして、それでも笑顔で岩城を出迎えた。

 今日は珍しく、香藤も同じスタジオでの仕事だった。帰りにスタジオを覗いていたらしい。

 少し様子がおかしい岩城に、香藤がビールを持って近づく。

「どうしたの?息切らして。すごく急いで帰って来てくれたんだ。・・・そんなに俺に会いたかった?」

 最後は、からかう様に岩城の顔を覗き込んで、香藤はビールを一口、口に含むとそのまま岩城に口付けた。ゆっくりとビールを岩城の口中に流し込む。

「バカ!そんなんじゃない」

心の中を見透かされたようで、岩城はいつものように罵声が口から出た。

「岩城さんっていつも、照れるとバカっていうんだよねー。ひどいなーって思うけど、照れてる岩城さんって可愛くて、俺好きだよvv。」

 そんな岩城が香藤にとってはとても可愛く映る。

 その時、リビングの掛け時計が0時を知らせた。各時刻ぴったりに時報がなるタイプだ。

「うわお、0時ぴったり!これで俺も岩城さんに一コ追いついたね。・・・もしかして、まだお袋のお腹の中っていう可能性もあるけどさ!」

「お誕生日おめでとう、香藤」

 無邪気に喜んだ香籐を子供みたいだと思いながら、岩城は間に合ったことにもホッとして香藤を抱きしめておめでとうを言った。

「岩城さん・・・?もしかして0時に間に合うように帰って来てくれたの・・・?」

「6月9日の俺の1日をお前にやるって約束したからな・・・。1日って0時から24時までのことだろ?」

顔を赤らめながら、覗き込む香藤から視線を外して岩城が言葉を返す。

香藤は、軽いめまいに似た幸せに酔いそうになる。

世間体を気にするこの真面目な恋人は、時折、香藤が吃驚するような思考回路で愛情を示してくれる。そして、それがどんなに香藤を幸せにしているか、自覚がないのだから。

「ありがと、岩城さん。俺世界一幸せな男だよ。」

「これぐらいで、世界一なんていうな・・・」

繰り返し、何度も重ねられる口付けに応えながら、帰ってきて良かったと岩城は思った。

そのまま、もつれるようにソファに移動し、段々と激しくなってくる香藤の行動に、ふと気付いてキッチンの方に視線を向ける。

「お前、何か作ってたんじゃないか?大丈夫なのか?」

「ああ、あれ?ポトフ作ってた。・・・明日は二人っきりで誰にも邪魔されずに過ごそうと思ってさ・・・。」

動作を止めずに香藤が応える。

「あ、岩城さんお腹すいてる?」

そういえば、スタジオから直接帰ってきたのだと気が付いて、香藤は岩城を覗き込んだ。

「いや、後でいい。お前を食べてからでな・・・」

 自分でも恥ずかしい科白だ・・・と、岩城は思った。が、今日は特別な日だ。今日、この世にお前が生まれた事に感謝したい。そして、お前に俺と同じぐらい幸せになって欲しい。

「香藤。この世に生まれてきてくれて、ありがとう。感謝してる。」

「岩城さん、すごい殺し文句だね・・・///。そんなこと言われたら俺、幸せで死んじゃうよ。

でもね、俺は岩城さんと会うために生まれてきたんだから・・・お礼なんて言わないで・・・」

香藤の本気とも冗談とも取れる言葉。(お前の言葉の方が俺を殺しそうだ・・・。)そう岩城は思ったが口にはせず、香藤の背中に腕を回す。

「香藤」

「何?岩城さん」

「・・・その台詞。どっかの歌で似たようなもの無かったか・・・?」

「・・・ひど〜い!俺、真面目に言ったんだよ!!!!なんでそんなこと言うかなあー!!」

 言われた台詞が恥ずかしくてやんわりと揶揄にかえた岩城は、むくれる香藤をなだめる様に自分から口付けた。



おわり



2004.0604 

ころ ころん



いやーーん、岩城さん、本当に殺し文句v
素敵素敵v
私達までメロメロです(笑)
香藤くんの為に一生懸命早く帰ってくる岩城さん・・・いいですよねv
こんなに思われるなんて・・・・ふふふv
自分から口づけてくる岩城さんって・・・・好きですv
ころころさん、素敵なお話ありがとうございます