Half soul


「・・・またか・・・」
香藤は小さくため息をつくと、今手にしている封筒をゴミ箱へ投げ捨てた。

岩城さんが持宗監督での映画出演以来、岩城さんには多くのファンレター以外にストーカーからも狙われるようになってしまった。
今までいなかったと言ったら嘘になるのだが、ここまで続いた事はなかったのである。
ある日、午後からの撮影だった香藤は、郵便物を取りに行くとそこには岩城さん宛ての手紙が入っていた。
しかし、良く見るとその封筒には、消印が付いておらず不振に思った香藤は、岩城には悪いと思いながらもペーパーナイフでその手紙を開いた。
内容を読むと直ぐに、清水へ電話を入れ確認を取った。
清水の話によると、事務所の方にもはやり同じ様な内容の手紙が届いていたとの事だった。
今までにも数回あったが、それも1ヶ月も経たないうちに来なくなっていたので、この数週間の辛抱だと思い香藤はその手紙を投げ捨てていた。
しかし、今回は違った。
1ヶ月が経った頃、たまたま二人のオフが重なった時届いた荷物のおかげで岩城にバレてしまったのである。

対応に出ていた香藤が荷物を抱えて、リビングに戻ると岩城の目の前に箱を置いた。
「ん?俺宛の荷物か?」
「・・うん・・・。そうなんだけど、なんか変なんだよね・・・」
「なにがだ?俺宛ての荷物のどこが変なんだ?」
「いや、岩城さんに荷物が届くのは変じゃんないんだけど、ほらここ見て」
そう言うと、香藤は送り主の欄を指差した。
「あれ?送り主が書いてないな」
「うん。これ・・絶対変だよ・・・」
「そうか?たまたま書くのを忘れただけかもしれないだろう?」
「でも・・・」
この時、香藤の頭の中には『ストーカー』の文字が浮かんでいた。
「とりあえず開けたら、誰が送ったかわかるんじゃないか?」
「ダメ!!岩城さんは触れないで!!」
「なんでだ?俺に届いた物だぞ?」
「絶対にダメ!・・とりあえず俺が開けるから、岩城さんは離れてて」
送り主の書かれていない荷物をそっとキッチンへ運び、慎重に箱を開けた。
「・・・・・・」
「香藤一体なにが入っていたんだ?」
焦れたように、岩城は香藤に近づきそっと箱の中身を覗いた。
その中には、数着の服と携帯電話、そして手紙が入っていた。
香藤が無言でその手紙を読むと、そのままグシャリと握り潰した。
「なにが書いてあったんだ?読ませろよ」
「岩城さんは読まないほうが良いと思うよ」
いくら言っても読ませようとしない、香藤に痺れを切らしたように強引にその手から奪い取った。
「ダメ!!!」
香藤の制止の声も聞かずにその手紙を素早く目で追った。

『愛する岩城さんへ

一昨日の、私服がどうもイメージに合ってなかったのでこの服をプレゼントします。
本当は俺とのデートの時に着て欲しいけど、そうすると俺達の関係がバレちゃうから出来ないよね。
悲しい?寂しい?
そうだよね。俺もとっても辛いよ。貴方をこの手に抱けないのが・・・。
でも、悲しまないで。携帯電話を一緒に入れておくので、いつでも俺に連絡してくれてかまわないから。
この携帯は誰にも教えちゃダメだよ。
あの馬鹿にも見つからないように、大事に隠しておいてね。
本当は俺と暮らす筈だったその家に、成り行きで違う男が住んでるのは少し悔しいけど、俺は知っているよ。
貴方の本当の気持ちを・・。
俺の事が大好きだって事。 俺の事が愛しいって事も。
だからもう少し待ってね。もう少しで貴方に会えるから。

        貴方のナイトより愛を込めて・・・    』    


その内容に、岩城は全身に鳥肌を立てそのまま手紙を投げ捨て、香藤に抱きついた。
「だから言ったのに・・・」
カタカタと震えている岩城の身体を、大きな腕でそっと抱きしめた。
「・・・って・・・・の・・・・か?」
(知っていたのか?)
搾り出すように、カラカラに渇いた喉からは上手く言葉が出てこなかった。
それでも、その言葉を理解して香藤は小さく頷いた。
「1か月位前から、変な手紙が来てたんだけど前にも何回かあったし、そのうち来なくなるかなって思ってた」
「・・れ・・は・・・・こ・・な・・・い・・」
(俺はそんな事知らない・・・)
「うん。俺が全部処分してたし、岩城さんの事務所の方にも連絡は入れてるから。」
「ごめんね。岩城さん」
そっと、髪に口付けを落とし落ち着かせるように何度も背中を撫でた。
やっと落ち着きを戻した岩城を片腕に抱いたまま、香藤は携帯を取り出し清水さんへと電話を掛けた。
『はい。清水です』
「あ、香藤です。お疲れ様です」
『香藤さん!?お疲れ様です。どうかなされましたか?』
「うん・・・。あのね、清水さん。前に話してた岩城さんのストーカーの話なんだけど、今日家に荷物が来てね・・・・」
そう切り出してから、届いた荷物の事や入っていたものの話しをし、自分がいない時はホテルに泊まるようにと、そして誰かが一緒に居ることをお願いした。
『そうですか。わかりました。直ぐに事務所に連絡を入れて、対処させますね』
「お願いします。すいません。ありがとうございます」
『お礼も謝罪もいりません。岩城さんは私達にとってもとても大切な方なのですから』
清水の暖かな気持ちに、香藤は心から感謝をした。
その後、警察へ電話を入れたが結局は、事件が起こらない限り警察は動いてくれないと言う事を実感しただけだった。
ゆっくりと、携帯を切りまだ少し震えの残っている岩城の体をギュッと抱きしめた。
「大丈夫。岩城さんには俺が着いてるし、それに事務所の方にも連絡したし」
「・・ああ・・」
「俺の言葉が信じられない?」
「いや・・・。だけど・・・」
「ほら、やっぱり信じられないんじゃん。もぉ、じゃぁ俺が身体で教えてあげる」
少し涙が残る、目頭にチュッっとキスをすると、お姫様抱っこをしてそのまま、2階の寝室へと向かった。
ゆっくりと、ベットへ寝かせ沢山のキスの雨を岩城の身体に降らした。
「俺が何も考えられなくしてあげる」
その言葉が真実だった様に、岩城はその日香藤の腕の中で何も考えられなくなっていた。

その日を境に、岩城の生活は一変した。
仕事中は元より、一人の時でさえ気を張る事が多くなった。
唯一休める時、それは香藤と一緒の時だけになってしまった。
あの荷物以降、沢山の荷物が送られてくるようになった。
服は当たり前のように送られ、最近ではペアのアクセサリーや下着まで入れてくる始末・・・。
そして、必ず直筆の手紙が同封されていた。
香藤は荷物が届いても、決して岩城に見せることはなかった。
あの姿を、あんな思いをもうさせたくないと言う表れだった。

そんな事が3ヶ月ほど続いたある日、今度は香藤宛に手紙が届いた。
やはりそれは、消印がなく直に入れたと思われる手紙だった。
たまたま、一人のオフの時に届いた手紙だと言う事からかなりの正確さで2人のスケジュールを知っている人物だ。
不機嫌丸出しの顔でその手紙を、乱暴に開け手紙を取ろうと手を入れた瞬間小さな痛みが指先に走った。
「ッ・・」
あわてて指を引き抜くとその指先には、小さな傷が出来ていた。
「はぁ〜・・・」
ため息と共に封筒を逆さにすると、カミソリの刃が数枚落ちてきた。
「陰険・幼稚・古典的な手・・・・」
送り主を馬鹿にするような言葉を吐くと封筒を確認し剃刀が入ってない事を確認すると、乱暴に手紙を引っ張り出した。

『最悪な大根役者の馬鹿犬
お前は俺の変わりにされてるのが気づかないのか?
あの人が本当に愛しているのはこの俺なんだよ!!
お前は用なしなんだよ。早く俺達の家から出て行け!!
さもないと、お前を殺す。
出て行け出て行け出て行け!!!』

たったそれだけの、短い文だった。
それを、折りたたみ自室の部屋の大き目の封筒に入れた。
そこには、今まで岩城に送られてきた手紙がいくつも入っていた。
まぁ、こんなのでも証拠とかになると考え、荷物もすべて香藤が保管していた。
本当は捨てたいが、犯人が捕まった時に証拠がなかったら釈放されてしまう。
それを嫌い、香藤は保管をしていたのである。
岩城にはもちろん捨てたと、嘘をついたがそれまでしても、犯人を捕まえたかったのである。
幸いにも、犯人は切り抜きやパソコン・ワープロで作った手紙ではなく、直筆で送ってくるので捕まった時鑑定出来るだろうと踏んでいた。
しかし、この3ヶ月で内容がだんだん変わって来ている事に気がついた。
始めは、岩城さんの事ばっかりだったが、最近では俺の事まで出て来ている。
『香藤がいるから、素直になれないんだよね』や『邪魔な香藤は、俺が片付けるから』など段々過激になってきている。
そろそろ、俺の身も危ないかなぁ〜・・・。
金子さんには、一応連絡してるけど俺も気をつけないとな。
そろそろ、夕食の買い物でも行こうかな、今日は岩城さん帰ってくるって言ってたし。
封筒を机にしまいこみ、着替えを済ませると1階へ降りた。
「ただいま」
「おっかえりぃ〜〜!!」
いつもの元気で、抱きついてあわせるだけのキスをした。
少し顔色の悪い岩城さんは、俺の顔を見た瞬間とても、ホッとした表情を見せた。
「顔色少し悪いね、岩城さん。具合悪い?」
「いや、少し疲れてるだけだ。だがお前の顔見た瞬間に疲れなんて吹き飛んださ」
「えへへっw俺も、岩城さんの顔見れなくて寂しかったよぉ〜」
ギュッと抱きしめ、肩におでこを擦り付けた。
「おいおい。くすぐったいだろう?」
「あ〜、岩城さんの匂いだぁ」
「あ、そうだ香藤。お前明日、仕事何時からだ?」
「ん?明日?明日はオフになったよ。雑誌の撮影だったんだけど、カメラマンが都合悪くなったんだって」
「そうか。じゃぁ、明日は一緒にいような」
「えっ?もしかして、岩城さんもオフになったの?」
「ああ。CM撮影する予定だったんだが、内容を変更するから日程をずらしたらしいんだ。それで」
「やったぁ〜!!じゃぁ、一日中岩城さんと一緒に居られるねw」
「でも、そろそろ洗濯物とか貯まってきてるからな。あと家の掃除もしないと・・」
「それは大丈夫。今日俺オフだったから、全部やっちゃったし」
「そうなのか?悪いないつもお前ばっかりにさせて」
「気にしないの。手が空いてる方がやるって約束でしょ?だから俺がやっただけ。それに岩城さんだってオフの日にやってくれてるじゃん」
「ああ。そうだな。それよりお前、どこか出かけるのか?そんな格好して」
「あ、うん。夕飯の食材買いに行こうと思って。冷蔵庫見たら、殆ど入ってないからさ」
「そうか。じゃぁ、少しまっててくれ」
岩城は靴を脱ぎ、早足で2階に上った。
その後ろ姿を確認した後に、慌ててリビングに戻ると先ほどの剃刀を丁寧に拾い上げ、紙に包み隠した。
こんな物見せるわけにはいかないからね・・・。
きっと怪我したって聞いたら自分が悪いと思っちゃうから。
階段の下りる音を聞いて、香藤は急いで車の鍵を掴み。あげた
上から降りてきた岩城さんはいつものスーツではなく、香藤が岩城に似合うだろうと買ってきた服を着ていた。
「俺も一緒に行く。久しく一緒に出かけてないしな。それに少しドライブもしたいし」
本当は連れて行く予定ではなかった。
そもそも、こんな早い時間に帰ってくる予定ではなかったが、香藤がオフの事をしって少しでも早く帰りたくて、NGも一回も出さずに早々に帰路に着いたのである。
「でも、疲れてない?それに、出かけるなら明日でもいいし。無理に今日買い物に行かなくて大丈夫なんだよ?」
「いや、お前と一緒に今出かけたいんだ。それに、明日俺が動けるほどのセーブをお前がしてくれるのか?」
「それは、無理に決まってるじゃん」
「だろう?だから、今出かけるんだよ」
「でも・・・・」
その先の言葉を濁し、香藤は口ごもった。
「なにがあってもお前が、俺を守ってくれるんだろう?」
「そんなの、当たり前じゃん。岩城さんの事はなにがあろうと守るよ」
「じゃぁ、出かけよう」
さっさと、靴を履き俺をせかした。
「今日は俺が運転するよ」
そう言うと、俺が持っていた鍵を奪い取った。
本当は無理をさせたくなかったのだが、自分がやりたいと言うのならそうさせたかった。
こんなことで少しでも岩城さんの気が晴れるなら・・・。
「おk」
二人並んで、家を出て鍵をしっかり掛けて久々の買い物に出かけた。

食材だけのつもりが、久々二人で出かけた為かアクセサリーやら服やらで家にたどり着いた頃には大量の荷物が車に乗っていた。
「う・・さすがに買いすぎたかな・・。」
バックミラー越しに後ろを見た岩城は、少し後悔の念に駆られていた。
色々なショップに入るたびに、香藤が『これ似合うよ。絶対岩城さんに』と
あっちこっちから俺に似合う服を持って来ては着替えさせられ、気づいたら買っているという状態だった。
俺もストレスが溜まっていたのか普段なら買わないようなものまで買っていた。
気づいたら今のような状態だったのである。
「えっ?そうかな?俺一気に買うときもっと多いよ?」
「お前と一緒にするな・・・」
呆れた顔をされた香藤は少し膨れたように、岩城を見た。
「車、玄関の前に止めててね。この量じゃ1回では運びきれないから」
「ああ。わかってる。俺も手伝うよ」
「うん。ありがとう」

玄関前に車を止めると、岩城に玄関を開けてくるように頼み香藤は後部座席から持てるだけの荷物を持ちゆっくりと身体を起こした瞬間・・・・・
ドンッ・・・・
背中から、何かにぶつかったような・・・・・。
反動で持っていた荷物を地面に落としてしまった。
その音に驚いたのか、小走りで岩城が戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「・・・・・・」
大丈夫と声を出そうとした瞬間、右後ろのわき腹に小さな痛みが走った。
「おい、後ろの男は?」
その問に香藤は痛む腰を庇うように、ゆっくりと振り返った。
黒のニット帽を目深にかぶった男が、背中を丸め張り付いていた。
「な・・・・・・」
「お前が悪いんだ!!俺の岩城さんが優しいからっていつまでも、一緒に嫌がって!!お前はもう用なしなんだよ!!」
怒鳴り声と一緒に、さらに大きな痛みがわき腹を貫いた。
痛みを堪え、肘を力いっぱい後ろに引くと男は小さなうめき声と一緒に数歩後ろへ尻餅をついた。
キャーー!!
たまたま通りかかっていた通行人が、大きな悲鳴をあげた。
「香藤!!!!!」
真っ青な顔をして、近づいてきた岩城さんを片手で制した。
「来ないで岩城さん。それより、警察に電話を!」
「でも!!お前・・・血が!!!」
「いいから早く!!!」
声を出すたびに、痛みは強くなるのだがここで自分が倒れてしまえば岩城さんを守れない・・・。
震えている指で、慌てて携帯を取り出し電話をしている岩城さんを横目で確認すると、
わき腹に手を当てて、庇うように振り返ると座り込んでいる男を睨みつけた。
その男の手には血で真っ赤に染まったナイフが握られていた。
「お前か、岩城さんに変な手紙や荷物を送ってきたのは」
意識が遠のきそうになっている自分にムチを打ち、平気なそぶりを見せた。
こんな時、自分が役者であった事を感謝した事はない。
そうでなければ、真っ青な顔をしてきっと地面に這いつくばっていただろう・・・。
しかしこの状況でそんな姿を見せれば、こいつは喜び下手をしたら岩城さんに危害を加えるかもしれない・・。
それだけは、許せない・・・。
「岩城さん・・・。これで俺達二人の邪魔をする奴は片付けたから、一緒に暮らせるね」
持っていたナイフを投げ捨て、立ち上がった男は岩城へと手を伸ばした。
香藤はその手を容赦なく叩き落とすと、岩城を背に庇うように立ちふさがった。
パトカーの音が段々と近づいてきている事に、ホッとしながらも香藤は男を睨み続けた。
「か・・・おまっ・・・・血・・・・」
岩城が言わんとする事はわかっていた。
確かに、自分の脇からは血が流れていると言う事が・・・。
わき腹は焼けるように痛み、そこが心臓になったかのようにジンジンと痛んでいた。
意識が遠のきそうな痛みだが、ここで倒れられない。
ここで倒れたら岩城さんに何をされるかわからないから・・。
「大丈夫だよ岩城さん。見た目ほどたいして痛くないから」
いつもの笑顔で振り返った。
その顔に少し安心したのか、涙目になりながらも小さく頷いた。
男はブツブツと何か小声で言っているがあまりにも声が小さすぎて二人には聞こえなかった。
やっとの事でたどり着いた警察によって男は取り押さえられた。
警察官にパトカーに乗せられた所を確認すると、香藤はそのまま地面に倒れこんだ。
「香藤!!!!!!」
岩城の悲痛な叫び声をどこか遠くに感じながら、香藤はそのまま意識を失った。
抱き起こした香藤のわき腹からは、とめどなく血は流れ香藤自身も顔色を失っていた。
警察官は慌てて無線で至急救急車を手配するように連絡を入れていた。
直ぐに救急車はやってきた。
救命士は応急手当をすると、直ぐに担架に香藤を乗せた。
自分も乗り込もうとした瞬間、パトカーの後部座席に乗っていたストーカー男が香藤を見て、薄く笑った。
それを目撃した瞬間、その男を殴り飛ばしてやりたがったが、そんな事よりも香藤の命の方が大事だと救急車に同乗した。

数分もしないうちに、救急病院へと搬送された香藤はそのまま手術室へと入って行った。
警察から連絡が行ったのか、しばらくして金子さんと清水さん、それに香藤のご両親と妹さんがやって来た。
岩城は静かに振り返ると、そのまま頭を下げてた。
「申し訳ありませんでした!!」
「岩城さん?」
「俺のせいで、香藤が・・・香藤が・・・・」
「頭を上げてください岩城さん」
「しかし・・・」
「貴方を守るために負った傷なら、それは洋二にとっての誇りなのですから」
「そうですよ、岩城さん。お兄ちゃんなら大丈夫。岩城さんを一人にするなんてありえませんから」
自分が悪いのに・・・。
自分がドライブに行こうなどと言わなければ・・・。
あの時、香藤を一人なんかにしなければ・・・。
涙が止まらなかった。
香藤が倒れた瞬間、背中が氷りついた。
失うかもしれないと言う恐怖に、足元から自分自身が崩れていくような感覚に陥った。
抱き起こした香藤から、とめどなくあふれ出る血が失う恐怖を倍増させた。
自分は何も出来なくて、ただ泣いている事しか出来なかった。

数時間してやっと手術中のランプが消えた。
ドアが開き、色々な機械や点滴につながれた香藤が運ばれていった。
「先生!!」
「大丈夫です。手術は成功しました」
その言葉に、ホッと胸を撫で下ろした。
「しかし、凄いですね彼は・・・」
「えっ?」
「麻酔が掛かっているのにも関わらず、ずっと言葉を発していたのですよ」
「一体・・・」
「『俺は大丈夫だから。泣かないで岩城さん』っとずっと同じ言葉を繰り返してました」
その言葉に、俺はまた涙を流した。
自分の事よりも、俺の事を心配するなんて・・・。
「お兄ちゃんらしいね。岩城さん」
妹さんの言葉に、何度もうなずいた。
あいつはいつもそうだ。
自分の事よりも、俺を優先させる。
いつもあいつに助けられている自分がとても情けないと思いながらも、そんな香藤がとても誇らしくそして愛しく思えた。
とめどなく溢れる涙が落ち着いた頃に、俺は病室へと向かった。
大きく深呼吸をして、静かにドアを開ける。
点滴と機械に繋がれた香藤が、そっと横たわっていた。
静かにしかし確実に、一歩一歩近づく。
少し顔色の悪い香藤の頬に触れ、その温かさに喜びが満ち溢れた。
香藤は生きている・・・。
手術が成功したと聞いたが、触れるまでは安心できなかった。
決して医師の言葉を信用しなかったわけではないが、触れて見て初めて実感が沸いたのである。
今この手が触れているこの温もりは、決して夢ではない。
香藤が血まみれで倒れた時は、失うかもしれないと言う予感が胸を締め付けた。
俺を癒すあの微笑が、俺を包み込むこの両腕が、俺を愛しむ声が・・・・。
その全てを失ったら俺はきっと、生きてはいけない・・・。
俺は全てに存在理由を失い、全てに絶望してしまう。
昔では考えられなかったが、そんな俺を香藤が変えた。
正直、こんなにまで人を愛せるとは思わなかった。
どこかで自分自身に一線を引き、それ以上は入らないように、入れないようにと無意識の内でそうしてきた。
しかし、香藤はその一線さえもモノともせずに俺の心の奥底まで入ってきた。
今の俺があるのは香藤のおかげだ・・・。
そのな香藤を失う怖さにはじめて、俺は恐怖を覚えた。
身体だけが氷りつくだけではない、本当の恐怖。
心の恐怖を・・・。
香藤が生きている事を確認するかのように、頬目鼻口となぞるように手を滑らせた。
そして、腕から手にたどり着くとその手に自分のそれを重ね握りしめた。
病室にいた他の者はその光景を、ただジッと見つめた。
触れて確かめたいと言う岩城の気持ちが十分に伝わったのである。
そんな、岩城を遠めに香藤の家族がそっと外に出た。
それを慌てて負うように、金子が静かに病室を出た。
「あの・・・。」
「私達は帰りますね。洋二も大丈夫だと思いますので」
「そうですか」
「それに、岩城さんがいれば大丈夫だと思うので」
「・・はい。」
「それでは、申し訳ありませんがお先に失礼しますね」
「はい。」
金子は深々と頭を下げ、見送ると再び病室に音を殺して身体を滑り込ませた。


「ん・・・・・」
小さな声と共に、香藤がゆっくりと目を覚ました。
「香藤」
「い・・わき・・さん?」
「ああ。大丈夫か?今看護師さんを・・・」
岩城が香藤の枕元に会ったナースコールを押そうと手を伸ばした。
しかし、岩城がナースコールに手が届く前に、香藤の手によってその手は掴まれてしまった。
「あいつは・・?」
「ああ。捕まったよ。お前が眠ってる間に、警察の人が来てな。詳しい話は後日って事になった」
「そっか。岩城さんに怪我はないよね?俺途中で意識なくしちゃって・・・」
「ああ。俺は大丈夫だ・・・・くっ・・・」
香藤が目覚めた事によって、再び涙が溢れてきた。
香藤は痛む脇を庇いながら、ゆっくりと起き上がるとそっと岩城を抱き寄せた。
「ごめんね。岩城さん・・・。怖い思いさせちゃって」
岩城はただ首を横に振った。
「でも、岩城さんに怪我とか無くてよかった」
「良く・・なんかない・・・。お・・俺は・・・・お前を・・う・・失うかと・・・」
その先は、涙によってかき消されてしまった。
「うん。ごめんね。心配させちゃって」
岩城はただ首を振るだけで、声を出すにひたすら泣き続けた。
落ち着きを取り戻した頃に、ナースコールを押した。
やってきた、医師とナースによって軽い診察を終えると、大丈夫との太鼓判をいただいた。
退院は、傷の経過によるが大体2週間で出来るだろうと言われた。
その後は、自宅療養になるが激しい運動さえしなければ、仕事もして良いとの事だった。
医師たちが去った後に、香藤は大きなため息をついた。
「どうかしたか?傷が痛むのか?」
香藤はうつむいたまま、首を横に振った。
「どうしたんだ?はっきり言え」
「・・・岩城さん怒らない?」
上目遣いで岩城の顔を覗き込んだ。
「俺が怒るような事なのか?」
「俺にとっては重要な事なんだけど・・・」
「なんだ?言ってみろ」
「うん・・・。あのね、先生が激しい運動しちゃダメって言ってたでしょ?」
「ああ。傷口が開いたら困るからな」
「ってことはだよ、岩城さん・・・俺・・・俺・・・」
「ん?どうしたんだ?身体動かす仕事でも入れてたのか?」
「それは入ってないけど、もっと重大な事に気がついたんだ・・」
「だからなんだ?」
「俺最低でも2週間は岩城さんに触れない・・・」
「はっ?」
「だから、最低でも2週間は岩城さんとセッ・・!・・・ぃってぇ〜」
岩城は思いっきり、香藤の頭を叩いた。
「お前は!それしか頭にないのか!!」
「だって、俺には死活問題だよぉ〜!2週間も岩城さんに触れられないのは・・・」
本気で項垂れている香藤に、大きなため息をついた。
やっぱり、香藤は香藤だな。

数日後、警察がやってきて事情聴取をして、香藤が保管していた荷物と手紙を警察に渡し、ストーカーは無事送検された。
香藤から聞いた話しだが、ストーカーはテレビ局で雑用のバイトをしている奴だったと聞いた。
俺とも少し話をした事がある奴だったらしい。
元々、俺のファンで映画を見てさらにファンになり俺と話した事によって勘違いをしたらしい。
俺はハッキリ言って覚えていなかった。
と言うよりは、顔を知らないのでどの人かは解らなかったのだが、香藤を傷つける奴を知ろうとも思わなかった。
2週間後、香藤は無事退院して今は自宅療養中である。
雑誌の取材などは受けているが、金子さんの計らいでテレビ番組などの長時間掛かるようなものはキャンセルをしてもらったそうだ。
今回の事があって、俺はさらに香藤の大きさに気がついた。

自分が思っている以上に、香藤の存在がどれだけ大事な事なのかを実感した。
俺にとってお前は、生きていく上でこの上なく大切な、空気のような存在。
お前がいなければ俺は存在しない。
俺の魂はお前と一つだと言う事。
どちらかが掛けてしまえば、意味を成さなくなるような存在。
だから、この先もお前を大切にしよう。
俺達は決して離れては生きていけない。
香藤・・・・・俺の大切な・・・大切な・・・。
Half soulよ・・・。

                           END


ここまで読んでいたたいてありがとうございます。
しかし・・・
ごめんなさい・ごめんなさい・ごめんなさいぃ〜・・・・
訳のわからない文章・・・orz
本当に駄文としか言い様がありません;;
文才が無くてごめんなさい;;
もう平謝りでは申し訳なくて、土下座で地面に額を擦りつけてますorz
今度はもっとマシな文を書けるように努力いたします;;
最後まで読まれた心優しき方々に、心より感謝いたします!!
                   kreuz



ショッキングなシーンがありましたが
それでも香藤くんの岩城さんを絶対守るんだという強い気持ちが出ていて素敵でしたv
岩城さんはあの映画の中で本当に言葉に出来ない別の美しさを醸し出しているので
こんな迷惑なファンも開拓してしまうかも知れませんね・・・・

kreuz様、ハラハラドキドキな展開に一気に読ませて頂きました
投稿ありがとうございましたv