天使が降る日は・・・ 後編



―キッチンからは微かな、だが多種多様な音が聴こえてくる。
トントンは葱を刻む音。コトコトは煮込んでいる音か。田舎の母ちゃん元気かなあなんて人気俳優らしくもないことをボンヤリ考えていた。

しかし、だ。
次の瞬間、俺の素朴な郷愁は宇宙の彼方に吹っ飛んでしまった。
ドアの向こうから現れたのは田舎の母ちゃんとは似ても似つかぬ未確認生命体。
純白のエプロンも眩しい天使―そう天使だ。
「お粥できました」「ハッ、ありがとうございます」
思わず茶碗を押し頂く俺。見れば中にはちゃんと玉子が溶かしてあった。
「玉子粥好きだって言ったっけ?」
「ソレも小野塚さんが教えてくれました」
京介クン、笑顔で即答。小野塚・・・つくづく恐ろしい男だぜ(震)。
にしても・・・「うまそうだなァ」
「そ、そうですか?照れちゃうな」「え、いや・・・イタダキマス」
慌ててレンゲを持つ俺。い、言えない。死んでも言えない。“うまそう”なのが粥じゃなくて京介クンのおみあしだなんてッ!(←危)
今まで彼とこんな至近距離で向き合った事はなかった。だから気付かなかったのだが、素晴らしい美脚だ・・・(おまわりさーん!)

女のそれの様に曲線的ではないが、適度に柔らかそうなふくらはぎ。角質とは無縁であろう膝小僧。
そんなものがエプロン越しに見え隠れしている。またエプロンの持ち主のさやかが小柄な方なのであまりブカブカにはならない。
つまり、似合ってたりして。

勿論俺に美少年趣味はない。ただそのぅ、何と言うか彼にはまだ男にも女にもなりきっていない年頃特有の綺麗さがあった。
神秘的で微妙な、正しくエンジェルである。

「って、ぎゃー!!」「み、宮坂さん!大丈夫ですか?」
天使に不埒な目を向けたバチがあたったのか、熱いままの粥を飲み込んでしまった。マジで背骨に火が点いた気分だ。
「これ!どうぞ」
慌ててキッチンにとって返し、ペットボトル入りのミネラルウォーターを探し出してくれた京介クン。何処までも心優しい子だ。
それに比べてこの俺は・・・神様お許し下さい(涙)。

「はぁ〜。ゴメン、何から何まで(←全くだ)」
「そんな、困った時はお互い様でしょう?ボクこそ大した事出来なくて」
「とんでもない!充分だよ」 俺、力一杯首をブンブン。
「ホントですか?良かった(キラキラ)」
うあ〜、また熱があがっちまったんだろーか?遂に羽根と輪っかが見えて来たぜ・・・。

考えてみれば大の男が赤の他人の子供に看病を頼むなんて普通ありえないだろう。
なのに自分が手違いでここに居るとは露程も思っていないらしい京介クン。何度か仕事で一緒しただけの俺を、どうして君はそんなに労ってくれるんだ。
「じゃ、お言葉に甘えちゃおっかなー」
こうなりゃ真実なんて話せるモンじゃない。ってゆーかこの楽しくなってたりして。
「ボク丁度オフですから。何でも言って下さ・・・あっ!」
「何、どうかした?」
「は、外すの忘れてました」と真っ赤になってエプロンの紐をほどきにかかる京介クン。
子供とはいえ彼も男のはしくれ。やっぱこんな新妻(蹴)仕様の格好は恥ずかしかったに違いない。
それでもちょっと惜しいとか考えてる俺って・・・。でも赤面した京介クンも可愛いから、いっか(←世の中間違ってる)。

やがて天使様は溜まった洗濯物を洗って下さり(何故敬語)、期限の迫ったレンタルビデオ(AVじゃねーぞ!)を返却に行って下さり、その帰りにコンビニでのど飴やプリンを買って来て下さるとゆー活躍振り。
おまけに何と何と!寝汗拭きやパジャマの着替えまで手伝って下さったのだ!激萌え・・・違う、感動っス。
流石に夕飯の時間になると帰宅する事になったが、「御迷惑じゃなかったら明日も来ていいですか?」との有難いお言葉。どーぞどーぞ。

―そしてそれから3日間、京介クンはナースしに通ってくれた(幸か不幸かもうエプロンは忘れなかったが)。
彼の看護はそれは丁寧で、思いやりに満ちていた。子供なので出来る事には限度があるが、そんなのは問題じゃない。
京介クンが笑顔で側に居てくれる、俺の為に親身になってくれる。それだけで幸せだったのだ。
だから風邪が完治した4日目の朝、俺は生まれて初めて自分の頑強さを恨んだものだった。

「言っとくけどSMとかやだかんね」
藪から棒な申し出に驚いたらしい。彼女の眉間に思い切り皺が寄る。
「んな趣味俺だってねーよ」 ついついおもねる口調になる俺。
「コレ着て欲しいだけなんだって。たまにゃいいだろ?新鮮で」
「はぁぁ??」
そんな素っ頓狂な声を出さなくてもいいだろう。気持ちは判らないでもないが。
さやかはしばらく渋っていた俺のしつこさに根負けし、“それ”を装着してくれた。
「サンキュ!じゃ・・・」
彼女を寝室に引っ張って行く足取りが軽いのは何故なんだ。嗚呼このまま変態さんの仲間入りしてしまったらどうしよう。
「来いよ」
ベッドに飛び乗り、上半身だけ脱いで手招き。さやかは肩をすくめると、ゆっくり近付いて来る。
いや、それは最早彼女ではない。

裸身にエプロンを纏って立っているのは間違いなくMy Angel。あの日舞い降りた白き天使だった。



後白河美蕾・著



後編ですv
天使のようなチビ岩城さん〜らぶvvvv
その玉子粥・・・食べたいですぅ〜(^o^)
美蕾さん、とっても可愛いお話をありがとうございますv