ご注意:本作は完全パラレルでございます。
ちっちゃい京介くんとおっきい宮ちゃんのお話なのです。
受け付けない方はお読みにならなひ方がよろしいですわよ。

天使が降る日は・・・ 前編




嫌なガキに違いないと思っていた。
4才でCMデビューしてから6年。熾烈なる生存競争を勝ち抜いて来たスター子
役である。人ズレして無駄に如才なく、そのクセ態度は不遜そのもの。
スポンサーや大御所の前ではブリッ子でも、マネなどには平気で「ジュース買っ
て来いこらァ」などど言う・・・そんなイメージがあった。

ところが、だ。
実際の“天才子役・岩城京介”は、俺の予想をまるっきり裏切るキャラクターだ
ったのだ。
まず礼儀正しい。それも慇懃無礼なのではなく、非常にナチュラルなのである。
おまけに彼は幼いながら、自分の仕事に関して相当なプライドと情熱を持っていた。
常に高みを目差して飛び続ける、妥協知らずっぷりには負けそう・・・いや
ハッキリ言って負けている。
事務所の社長にも「岩城くんはキャリアも演技力も、あんたなんかより遥かに上
なんだからね。子供だとバカにせずに色々教えて貰いな」などと言われちまう始末。
つまりは人間としての格が違うって事らしい。
ともかく京介クンが並の10才児じゃないのは確かだ。
そしてその日本一・・・いや世界一立派かも知れない10才児は何と今、俺んち
で料理などなさっている。しかもフリフリエプロン着用で。

何故そうなったのかって?よくぞ尋いて下さいました。
そもそもの始まりは今朝の悪寒と目眩。もう目覚めた瞬間にヤバイと思いましたね。
昨日から風邪気味だったのに打ち上げでハメ外し過ぎたかなァ・・・しっかり熱
出てやんの。もう頭は痛いわ天井は回るわ(オフだったのは不幸中の幸いか)。
それでも何とか枕元のケータイを掴み、彼女の番号を検索。
(頼む、さやか!早く出てくれ)
こういうのを祈る様な気持ちというのだろうか?耳をそば立てるのも辛い中、無
心にコール音を聴く俺。
「はい?」 神様は居た!
たった5コール(それでも俺には100回位に思えたが)で彼女の可愛い声が。
地獄で仏、魔界で天使とはこの事だ(は?)。
「た、頼む。すぐ来て」
「え?」
「し、死にそうなんだよぉ・・・熱あって。か、粥でいいから作りに来てくれよぉぉ」
我ながらか細い、情けない声だ。だがなりふり構っている余裕はない。俺は必死
で頼み込む。
「治ったら何でもおごるからさぁぁ・・・」
「あの、ちょっと待っ「じゃ、ヨロシク」
これ以上は喋れない。何か言いかけた相手を遮り、一方的に通話を絶ち切った。
これだけで力尽きた俺は、間もなく発熱による眠気に呑まれていったのだった。

「・・・さん、宮坂さん」
誰かが呼んでいる。まるで天国から響いて来るみたいな、澄んだクリスタル・ボイス。
沼の底に沈んでいた意識を、ゆっくりと浮上させて行く。
(・・・☆!!)
―その時、俺は思い切り点目になった。
目を開けて真っ先に見た顔。それがあまりにも意外な人物のものだったからだ。

「きょ、京介クン!?何でココに居んの」
「え、だって宮坂さんが呼んだんでしょう?」
「はい?」 声が裏返った。
「お電話戴いて飛んで来たんですけど・・・」
病中にいきなり頭が冴える事ってあるよな(本当は健康な時にこそ冴えて欲しい
モンだが)。
彼女のフルネームは“石神さやか”。ケータイの登録は当然、イ行。京介クンの
名前の一段上である。
要するに全ては、熱で動きが悪くなっていた指先による検索ミスが原因という訳。
挙句に変声期前のボーイソプラノを女の声と間違える始末。耳も相当イカレてい
たらしい。

(って待てよ)
謎はまだ1つ残っていた。
「京介クン!よくウチに入れたねっ」
彼はここの合鍵を持っていない。ってかそれ以前に俺の住所すら知らない筈だが・・・。
「ハイ、実はあの後小野塚さんに連絡したんです」
(は?)

何かすごーく嫌な予感がするんですけど・・・。

「そしたらすぐ行ってやれって、こちらの住所書いたメモと合鍵―(以下聞こえ
てません)」
また額が熱くなってきやがった。いくら俺のオツムでも、これだけ聞きゃあだい
たいのカラクリは判るぞっ。
小野塚め、京介クンから問い合わせを貰った瞬間にホームズばりの名推理をやっ
てのけたい違いない。あいつはさやかとも面識があるし、俺のケータイなんてし
ょっちゅう弄っている。
そして推理の後で何か考えついたのだろう(“何か”とは何なのかと言われても
困るが、十中八九ロクでもないことに決まっている)。

「とりあえずお粥作りますね」
ふと我に返れば、京介クンがスーパーの袋を掲げていた。
「正直あんまり自信ないんですけど、ガンバリマス」
「こ、こちらこそどうもスミマセン」
妙に畏まりながらキッチンの場所を教えてあげると、パタパタと可愛い足音をさ
せつつ消えて行く。
やがて「あー、俺のドジ!」という叫びが。
京介クン普段は俺って言ってるのかぁ・・・なんてどうでもいい発見がやけに嬉
しかったり。
「宮坂さんっっ」
パタパタ再び。何故か焦った顔で駆け寄っていらっしゃる京介クン。 
「あの、これ使っていいでしょうか?」
って京介クン、それはっっっ!

危うくベッドから落ちるトコでした。
京介クンの手にある物体はどう見ても、いつかさやかが忘れていったエプロン!
モチ女物!
「あ、駄目ならいいんですけど」
ちょっと困り顔の京介クン。そう言えば彼の家は躾が厳しいらしいという噂だ。
服を汚したら叱られるのかもしれない。
「いーよいーよ。使って・・・」
苦しい息の下から答えると彼は一礼し、「本当にすみません。慌てててエプロン
忘れちゃったんです」。
なるべく汚さないようにしますからと念を押して、今度こそ俺の視界からフェー
ドアウトして行った。

                   後編へ続く

後白河美蕾・著



美蕾さんの初投稿作品ですv
チビ岩城さんとおっきい宮坂くん(岩城さんと比較して 笑)のお話ですね
なかなか変わった視点で興味津々です
ちっこい京介くん・・・・天使のように可愛いのでしょうねえvvv
後編も楽しみしています、美蕾さんありがとうございますv