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岩城君、香藤君、久しぶり、って顔合わせてないのに久しぶりは変か。 『冬の蝉』いよいよワールドプレミアだね、おめでとう。 君たちとスタッフが心血を注いで作った映画、必ず高い評価を得られると信じてるよ。 俺もスクリーンで見られる日を楽しみにしてる。 その中に俺がいないのは本当に残念だけどね。 正直言うと俺、最初は君たちにいいイメージ持ってなかったんだ。 特に香藤君は一度草加役を蹴ったのに岩城君と共演したいだけなのかって思っててさ。 でも仕事が始まったらすぐにそんな思いは消し飛んだよ。 君たちがこの映画にかなりの思い入れを持って真剣に望んでるのが分かったから。 無論、香藤君はこれが失敗したら後が無いって切羽詰った部分もあったんだろうけどさ。 役者としての才能あると思ったし、色々話してるうちに人間としても好感が持てた。 君たちと一緒に映画を作っていける事を嬉しいと思うようになったのはすぐだったよ。 でもやっぱり撮影が始まって一番最初に思ったのは本当に仲がいいなぁって事。 休憩時間とかいつも一緒にいてさ。 ベタベタはしてなかったけど愛しくて堪らないって目でお互いを見てた。 岩城君があんなに香藤君にベタボレなのは意外だったよ。 全然自覚無いみたいだったけど惚気が激しかったし。 「香藤君てあまり物事深く考えなさそう。」って言っちゃった時凄い目で睨まれたんだよな。 あれはマジで怖かったよ。 台風で撮影ができなくて宿に缶詰になってた間も色々あったなぁ。 風呂に行こうとしたら風呂場の方からスタッフが三人帰ってきたんだよね。 でも皆風呂に入った様子がなくておかしいなぁと思いながら行ってみたら君たちが入ってた。 皆お邪魔だと思って入らなかったらしい。 俺はその時皆気の遣い過ぎだと思ったけどあながちそうでもなかった事が後で分かったよ。 風呂上りに一緒に飲もうって誘われた時ふざけて岩城君を押し倒したけど実はちょっとドキッとした。 間近で見た肌が凄く綺麗だったんだよなぁ。 しかも同じシャンプーやボディソープ使ってるはずなのにふわっといい香りが鼻を掠めて。 香藤君が惚れるのも解るなぁとか思ったんだけどね。 その後ちょっとへこんだよ。 何でって、それを見た香藤君が平気な様子で俺の分のグラスを取りに行っちゃったの岩城君ショックだったでしょ。 多分あの瞬間、岩城君の中から俺の存在は忘れ去られてたと思うんだよね。 岩城君には香藤君しか見えてないんだなって改めて思った。 ま、香藤君も負けないくらい岩城君にベタボレだっていうのをすぐに思い知らされたけどさ。 あの夜はホント参ったよ。 香藤君「聞こえちゃいました?」なんて言ったけどトイレでの会話から聞こえてたから。 バタバタ走る足音と岩城君の心配そうな声が聞こえて耳を欹てちゃったのが失敗だったよ。 手助けがいるかなって心配してたらベタ甘な会話が聞こえてきてさ。 挙句に「布団の中で甘やかしてよ・・・・風の音もあるし・・・いいでしょ?」って。 「布団の中で甘やしてって何?もしかしなくてもあれですか?それは勘弁して。壁一枚隔てただけのとこに俺がいるの忘れてない?」って言いに行きたかったよ。 おかげで俺寝不足だったんだよ。 なのに二人は台風一過の空みたいにすっきりした顔しちゃってさ。 おまけに岩城君は思いっきり嬉しそうな顔で惚気てくれるし。 岩城君にとってはあれではじめて惚気てるって事になるんだね。 どうりで普段の会話で惚気てる自覚がない訳だって思った。 そんな熱々振りを思い知らされてすぐだったから二人のケンカにはホントびっくりした。 実は俺、ちょっと責任感じてたりしたんだよ。 ほら、俺がワイヤーがブチッといったら死ぬとか最悪とか言ったから岩城君余計に不安になっちゃったんじゃないかってさ。 この事に関しては俺、香藤君に言いたい事があったんだ。 香藤君さ、自分で飛ぶって決めた時俺の事とか大事な人を突き落とさなきゃならない岩城君の気持ち考えた? もし立場が逆だったら香藤君はすんなり岩城君を突き落とせたかな? なんてね、あれ本当に怖かったからちょっと意地悪してみた。 生涯の伴侶でもありながら仕事上はライバルであり続けるのって難しいと思う。 特に今回みたいに同じ現場で仕事してるとね。 でも同時にそれは幸せな事でもあると思うんだ。 お互いの隣に立つのに恥ずかしくない自分でいたい。 そう思って高め合える存在がすぐ傍にあるのって羨ましいと思うよ。 公使館焼き討ちシーンのトラブルでの入院、そして降板では心配と迷惑をかけたね。 本当にすまなかった。 今はこうして声も出るようになって仕事も始めてる。 前に手紙にも書いたけどまた君たちと同じ現場に立てる事を願ってるよ。 カメラが炎に包まれそうなのを見た時、本当に無意識に身体が動いてた。 皆の思いが詰まったフィルムが燃えてしまうのを見過ごせなかった。 でも結果、降板する事になってたくさんの人に迷惑かけて何やってんだって感じだよね。 それに、大事な人をまた待たせる事になっちゃったし。 映画が成功したらプロポーズするつもりだったんだけどね。 おっと、これはできれば内緒にして欲しいな。 まあ、俺のプライベートなんて週刊誌のネタにならないだろうけどね。 岩城君はその純粋さ優しさ故に傷つく事が、香藤君はそのまっすぐさ故に周りとぶつかる事がこれからもあると思う。 でも決して二人らしさを失わずに乗り越えて進んで行って欲しい。 って、俺が言わなくても二人が一緒にいるなら心配ないか。 いつまでも幸せに、そして役者としていっそうの活躍を心から祈ってるよ。 それじゃ、また会える日を楽しみにしてるよ。 吉澄は最後に笑顔で軽く手を振り画面から消えた。 ワールドプレミアを翌日に控えた夜。 後乗りして来たスタッフから岩城と香藤に一本のビデオが手渡された。 「ある人からのビデオレターだよ。誰からかは見てのお楽しみ。」 スタッフはそう言って去って行った。 そのもったいぶった様子を不思議に思いながらビデオを再生した二人は画面に現れた吉澄の姿に言葉を発する事ができなかった。 ただただ無言で元気そうな吉澄の姿を見、静かに語られる言葉を聞いていた。 ピッタリと寄り添い、指を絡め合った手をギュッと握りながら。 映像が終わった時、岩城の目からは涙が溢れていた。 それを見た香藤は肩を抱き寄せる。 その香藤の目も潤んでいた。 「吉澄さん、声出るようになったんだね。よかったね。」 「ああ。」 「仕事もできるようになって本当によかったね。」 「ああ。」 岩城は香藤の肩に額をつけて涙を零し続けていた。 「岩城さん、そんなに泣かれると俺また妬けちゃうよ。」 「仕方ないだろ。嬉しいんだから。そう言うお前だって目が潤んでるじゃないか。」 そう言って涙を拭おうとする岩城の手を香藤が押し止める。 「擦っちゃダメだよ。」 香藤は唇で岩城の涙を吸い取るとそっと口付けた。 「吉澄さんはああ言ってたけど、この映画の中に吉澄さんはちゃんといる。撮り直しできなかった危険なシーンにって意味じゃなく。」 「あの命懸けの行動は皆の最高の映画を作ろうという気持ちをより強くさせたよね。だから皆を通して吉澄さんの思いはフィルムに焼き付けられてる。」 「ああ、そして吉澄さんは二度も俺に大事な事を思い出させてくれた。吉澄さんがいなかったら俺はこの映画を台無しにしてたかもしれない。」 「もう、やっぱり妬ける。」 岩城は拗ねる香藤の頬を両手で包むとぐっと顔を近づける。 「仕事上ではこれからも色んな人に教わる事がきっとある。お前は俺のハートのど真ん中にいるんだからそんな事で妬くな。」 「それは分かってるけど妬けるもんは妬けるの。」 香藤は岩城の身体に腕を回すと誰にも渡さないとばかりに抱きしめた。 岩城も香藤の背中に手を回した。 「香藤、帰ったら時間作って貰って吉澄さんに会いに行こう。報告とお礼を兼ねて。」 「うん、行こう。行ってまた勘弁してくれって言われるくらい惚気ちゃおうか?」 「そうだな。」 二人はあの日の吉澄の顔を思い出して笑い出す。 プレミア・イブの夜に届けられたメッセージは岩城と香藤の心に暖かいものを灯し穏やかさをもたらした。 END 勝手に吉澄さんに恋人がいる事にしてしまいました。すみません;;; 原作のワールドプレミアの話を読む前に書いたので原作とは合わないと思います。 二次創作と言う事でお許しくださいます様お願いいたしますm(_ _)m '05.3.3 グレペン |
何よりの贈り物ですね!
本当に素敵な人と巡り会えて良かったね・・・・としみじみ思ってしまいますv
吉澄さんの人柄が溢れ出た素敵なビデオレターに
心がほっと温かくなるような・・・そんな感じです
きっと帰国後におふたりは吉澄さんとお会いするのでしょうけど
これからも良きライバルとして共に歩いていけるといいなあ〜とか
勝手に思っていますv
吉澄さんの役者としてのご活躍も心からお祈りしています
グレペンさん、素敵なお話ありがとうございますv