before ワンクール・ポルノ

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 「岩城さん.....
 
  思いがかなう、の「思い」は
 
  頭で考えた「思い」じゃなくて、ハートで感じた「思い」のことだから、
 
  思いがかなうためには、頭で考えた「思い」を用意しても意味がないんだって.....」
 
 
 いつかどこかで読んだことのあるフレーズが、あいつの声となって浮かんでくる。
 
 
 .....それじゃぁ、まるで予言じゃないか。
 
 今はまだ奥深く隠されたままの「思い」だけれど、
 
 これはかなう「思い」だと、決して逃れられない運命だと、おまえは言うんだな.....。
 
 
 その声が、俺の瞼にそっと口付けを落としていき

 そして、上唇を軽い音を立てて啄ばんでいる。
 
 軽い羽のようなそれだけでは不満で、自然と唇が開いてしまう。
 
 
 「岩城さん.....」
 
 
 呼ばれて、目を薄めに開けて見ると、
 
 暗闇に、
 
 俺を真っ直ぐに見つめる目だけが、見える。胸につくっと痛みが走った。
 
 
 「おまえ.....そんなに優しい目で俺を見る、な。」
 
 
 渇いた唇を潤そうと舌で舐めようとしたところを、むさぼりつくように噛み付かれた。
 
 角度を変えながら交わりが、深くなってくる。
 
 押し入ってきた舌が、それ自体が意思を持った生き物のように動き回り、
 
 舌が付け根から絡め捕られそうに、強く吸われる。
 
 「ん.....ん.....ふ.....んっ.....」
 
 飲みこみきれない唾液が、あごを伝わっていく。
 
 その垂れた雫を追うように、舌も這っていく。
 
 おかしい。
 
 感じすぎている。
 
 まるで神経が皮膚のすぐ下を通っているような、風にさえ反応しそうな感覚がある。
 
 こんどは、耳朶を甘噛みされ、身体に激しい震えが起こる。
 
 ねっとりと、耳の中に舌がはいりこんでくる。
 
 「あ.....ん.....あ.....」
 
 這いまわる肉の塊に押えつけられているかのように、身体が動かない。
 
 首を反らすことも出来ない。
 
 逃げ場のない快感がどんどん内へと溜まってくる。
 
 耳の後ろ、首、肩甲骨をねぶられ、ところどころきつく吸われていく。
 
 「ん.....あ.....あ.....んんっ」
 
 遠慮なく動き回るそれが、胸の一点を激しく苛み始めた。
 
 小さな突起を舌で執拗に捏ね回し、歯を当てられ、唇で引っ張られる。
 
 今は、ただそこだけが、犯されている。
 
 「う.....ん.....やめ.....ひ.....あっ.....あああああっ!」
 
 ただ一つ動かせる口だけが、快感のはけ口のように、ひらきっぱなしになる。
 
 唾液がつっと流れた。
 
 下腹部への刺激もなく、ただ胸への愛撫だけで、イキそうになっている。
 
 
 イヤだっ!!
 
 と、心が叫んだ。
 
 怖ろしく過敏になった身体に、心までもが作り変えられていくように、思えてしまった。
 
 
 「変わるのは.....怖い.....」
 
 
 「岩城さん.....大丈夫.....怖くない.....」
 
 
 見えない手に、ふわっと抱きとめられたような感じに、ふいに涙が盛り上ってくる。
 
 
 「どうして.....かっ.....」
 
 
 いつかきっと、好きになってしまうだろう.....。
 
 この「思い」で泣くことになっても、それは甘い涙に違いない。
 
 今、流れる涙がそうだから。
 
 
 ふいに、自由の戻った足が触れたシーツの思いがけない冷たさに、はっとして目が覚めた。
 
 目がしばたく。
 
 手をやると、濡れた液体に触った。
 
 夢を見ていたと思ったのだが、内容は覚えていない。
 
 目が覚めると同時に消えてしまった。
 
 胸に穴のあいてしまったような気持ちだけが、とり残されていた。
 
 それは今までに感じたことのない気持ちで、俺に不安を呼んだ。
 
 ただの夢だ.....何でもない。
 
 そう、決めて、勢いよくベッドを出ると、時計を見た。
 
 まだ、出かけるまでには、充分な時間がある。
 
 早くシャワーを使いたい。
 
 こんな気分はさっさと切ってしまいたい。
 
 
 
 シャワーを浴びながら目を瞑っていると、自然と今日の撮りのことが思いだされた。
 
 「春を抱きしめていた」の最終回だ。
 
 最後に来た大事なシーン。
 
 いまさらラブシーンに照れはないが、役に気持ちをもっていく集中力をつくり出すために、
 
 気を引き締めて行かなければ。
 
 たとえその相手があの、香藤であろうともだ。
 
 あいつにもそれなりに、役者の自覚は備わっているらしいから、

 心配するようなことは何もないだろうが。
 
 俺は、いいものを作りたい!
 
 あいつはプロ意識を持ったプライドの高いやつだから、それだけは信用できそうだ。
 
 俺と香藤の間に、それ以外はいらない。
 
 
 おわり
 
 
 2005.9.10  千。
 
 
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 SSを書くのは始めての経験です。冷や汗.....。
 「春を抱いていた」にはまってひと月、1巻を読み返すほどに、
 初めから香藤くんは、岩城さんにとって特別のオトコだったのね、と思うようになった。
 たとえ恋人同士にならなかったとしても。(あ、イヤン。それじゃ「春抱き」じゃない...)
 香藤くん、エライ!
 よくぞ、隠れてる岩城さんを発見してくれたよ。
 と思いながら作ったお話しでした。
 




初投稿ありがとうございますv
まだ出会って間もない頃の
そしてこれから全てが始まる頃のおふたりです
そうですよね・・・こんな頃があったんですよね〜しみじみv

とっても素敵なそして今となってみればまた新鮮なおふたりをご馳走様ですv
千さん、ありがとうございますv