Insect repellent
「お待たせして、すみません。」 そう言いながら彼が車に乗ると同時にフッと微かに鼻腔をくすぐる香りがした。 「いいえ、今日のスケジュールですが・・・。」 車を発進させ、今日の予定について話しながらさっきの香りについて記憶をたどる。 どこかでかいだことのある香りなのに・・・思い出せない。 「は〜い、次のシーンまで30分休憩です。」 スタッフの声がかかると、とたんに周囲がざわつく。 「お疲れ様です。どうしましょう、控え室までお戻りになりますか?」 戻ってきた彼にそう聞くと 「いえ、30分だけですし、このままでいいですよ。」 「それでは、なにかお持ちしますね。」 セット脇まで飲み物を取りに行く。どれにしようかと思うも結局はいつものコーヒーを 手に取り戻りかけたそのとき、近くのスタッフの会話が耳にとびこんできた。 「同じ男なのにさ、色気あるよなぁ〜」 「うんうん。今日は珍しく気だるい感じだから余計に艶っぽさが増してるじゃん。プロ デューサーなんか本気で狙っているみたいだし。オレもあの人ならいけちゃう気がする。」 おそらく、いや絶対、彼の事を言っているのだろう。 「ん・うん・・・」 軽く咳ばらいをして、スタッフの脇を通り過ぎる。 ・・・やっぱり疲れているのかしら。オフも半日だったし。 ここ数ヶ月、ドラマ・CM・テレビや雑誌のインタビューなどと多忙を極め、ようやく とれたオフも今日の午前中だけ。この後もずっとスケジュールが埋まっている。 もう少しオフを取らせてあげられればいいのだけど・・・。 いくら自己管理に定評があるといっても、この過密スケジュールでは体調を崩してしまう。 ・・・それに、 さっきのスタッフの言うとおり、いつもは凛とした空気をその身に纏っている人が 今日みたいに気だるそうにしていると確かに艶っぽさが増す。 最近、同性からのアプローチが増えている。このドラマのプロデューサーも例外ではなく、 こういった仕事がらみの圧力がかかる可能性のある場合、トラブルを避けて円滑に仕事を してもらうようにするのも大切な私の仕事なのだけど・・・。 そんなことを考えながら手に持っていたコーヒーを彼に手渡す。 「ああ、ありがとうございます」 そう言って受け取ろうとのびてきた彼の右手に視線を落とした瞬間・・・ 彼の気だるさの本当の原因がわかった。 朝、思い出せなかった香りの正体も・・・ 「すぐ戻ります。」 そう言いスタジオを出ると、携帯を取り出しメールを打つ。 朝の香りは、彼の愛しい人が身にまとう GIGOLO その移り香 右手首内側に残るのは、久しぶりのオフを濃密に過ごしたことを物語る 朱い情交のなごり どれだけの時間を一緒に過ごそうと、変わらず愛情を深めあっていくのをそばで見ていると 幸せな気持ちになるけれど・・・。 マネージャーとしては、今日みたいに気だるさが残るのは困る。 なんといっても「岩城 京介」はうちの事務所の大看板 体調管理もマネージャーの仕事の1つなのだから・・・。 携帯をしまい、スタジオに戻りながら彼の愛しい人がこのメールを見たらどんな反応を するだろうかと想像する。 “ 華はその豊潤な蜜と香りで、幾多の虫をひきよせます。 溢れんばかりの愛を注いで美しい華を咲かせるのもよろしいのですが、 「虫除け」をお求めならほどほどにお願いします。” 青くなって慌てながら、“虫除け”お願いメールを送ってくるだろうか。 つい、クスクスと笑みがこぼれてしまう。 ちょっと意地悪だったかしら? でも、ちゃんとくぎをさしておかないと。 ・・・日々、増加する虫を払うのは本当に大変なのだから・・・。 2005.3.22 ころも 初めて、投稿させて頂きました。 Insect repellentは虫除けという意味だそうです。 最後まで読んで頂いてありがとうございました。 |
読んでいて、うふふって微笑んでしまうお話ですv
そうですよね、このお華さんはあらゆるものの目を
そして気を惹きつけてしまいますよね
清水さん、ナイスです!(笑)
メールを見て慌てふためく香藤くんが目に浮かびそうです
ころもさん 可愛いお話をありがとうございますv