『ウサずきん‥‥‥続いてしまった』







『見つけた‥‥‥こんなところに居たんだ。香藤』
木の上から香藤狼を見つけた人物が居る。
そして、観察を続け始めたのだった。
香藤狼は尻尾をパタパタしながら台所に立つと、何かを作り始めた。
鼻歌を歌いつつシッポはもう笑えるくらい振っている。
しかし、あれが無意識だから始末に終えない‥‥‥
『ククククク‥‥‥相変わらず正直な奴』
笑い声が出そうなのを堪え、木の上で肩を震わせている。
よくよく見ていると、何かケーキみたいな物を作っているようだ。
『まめだね‥‥‥香藤って相変わらず』
楽しそうに香藤狼ウォッチングしているその人物は、家に近づく人物に気がつい
た。
木々の間から、白い耳が動いて見える。
ドアをノックして家の中に入って行った。
その後、香藤狼の嬉しくて鼻が伸びている顔を見て、何かを思いついたようにそ
の場を立ち去った。


白いお耳が可愛くて♪
シッポのポンポンもおサイコー♪
触りたい♪抱き締めたい♪岩城さんならさぞ似合う♪
揺れるポンポン、岩城さん♪
可愛いなーーーvv
(香藤狼が歌ったら♪作にゃにゃさん)


昼下がり、香藤狼はニコニコしながら、歌いつつ佐和さんの家に向かっていまし
た。
初めて会ってから2週間が経っているが、香藤狼は佐和の家の一部屋を間借りし
ていた。
二人きりで過ごした晩、岩城のあまりの無邪気さに、香藤狼は実は何も出来すに
いた。
でも、ほのかに燃え上がった心が、ウサずきんに対しての恋心だと気づいたから
だった。
「でも、先じゃ両思いになってやるんだもんね」
香藤狼は、拳を大空に高く突き上げた。
「ただいま、佐和さん。買って来ましたよ」
佐和に頼まれて、買い物を済ませた香藤狼が戻って来た。
佐和には先に、黒狼を森に連れて行ってもらった借りがある。
しかし、そのお蔭で雪人と親密になれたんだから、±0だと思う。
「お帰り、香藤君。ああ、お昼過ぎに岩城君が来るって連絡来たわよ」
佐和さんはニコニコしながら言い返す。
「本当?へへ、楽しみだな」
香藤狼は尻尾をパタパタ動かして言い返す。
尻尾の動きがハンパじゃないので、相当嬉しいと佐和は見て目を細めた。
「じゃ、おやつ作らしてくださいね。佐和さんも食べるでしょう?」
実は香藤狼は料理が得意だったらしく、和佐の家でも台所を占領して何かを作っ
ている。
「でも、貴方が‥‥‥あの森であんなに‥‥‥」
佐和が口を開くと、
「やだな‥‥‥佐和さん。俺はそんなんじゃないんですよ」
香藤は言葉をさえぎるように言い返すと、そのことに触れて欲しくない様子で言
い返した。
「まあ、いいけどね‥‥‥さっき、お友達が見えたわよ」
佐和は台所に向かう香藤狼に声をかけた。
「友達‥‥‥って?」
香藤狼は首をかしげながら、台所に立ち窓を見ると、
「やっほーーv」
ガタッ!!
香藤狼は思わず尻餅を搗きかけた。
「お‥‥‥小野塚‥‥‥」
台所の窓より顔を出している彼は、前の森で香藤狼ともう一人と三人で仲良く遊
んでいた仲間だった。
「なんだよ‥‥‥こんなところまで」
思わず憮然と言い返すと、窓の縁にひょいと上半身を持ち上げながら
「うん、お前が中々戻ってこないんで、様子見に来たのだけどさ‥‥‥」
含み笑いをしつつ、小野塚は言い返す。
「‥‥‥いいだろう。俺が何時戻ろうと、戻るまいとさ‥‥‥今は、此処が気に
入ってんだよ」
香藤狼は言い返すと、今日もお菓子を作ろうとしていた。
「ふ〜〜うぅん。まあ、詳しくは聞かないけどね。元気そうで何よりだ」
小野塚は言い返すとニヤッと笑った。
「お前のその笑顔‥‥‥その裏には何かある‥‥‥」
香藤狼は言い返すと、無視してさらにお菓子を作ろうとしていた。
「へへへっ‥‥‥色ボケしている狼にしては、鋭いな‥‥‥香藤」
顔をさらに近づけると、小野塚は何かを呟いた。
「まあ、俺からの心ばかしのお祝いって事で‥‥‥」
小野塚の言葉が終わると同時に、香藤狼の姿は見えなくなっていた。
『おっお前は‥‥‥;;元に戻せ!!バカやろ!!』
足元より声がする。その方向を見ると‥‥‥狼の耳がついた蛙がそこに居た・
「似合うぜ。じゃあな」
小野塚はそのまま消えた。
『小野塚!!バカやろ〜〜〜〜戻せ!!』
今まで香藤狼が立っていた所の下の方から声がする。
そう、実は小野塚は本居た森では悪戯をたまにするが優秀な魔法使いだった。
「どうしたの?香藤君‥‥‥きゃ〜〜〜」
香藤狼の声を聞き止め佐和が様子を見に来た途端、悲鳴を上げた。
「渚‥‥‥どうしたの?」
その声に、何時来ていたのか雪人が顔を出した。
「いや〜〜〜私、蛙だけは苦手なの!!雪人」
其処には狼の耳とシッポのみを残したアマガエルがちんまりと居た。


『小野塚って‥‥‥前の森で悪友だった奴で‥‥‥悪戯も好きなんだ‥‥‥これ
じゃ、岩城さんにも嫌われちゃうよ』
情けない泣き声で香藤狼は言うが、その姿は佐和から見えないようにしていた。
佐和がひっくり返らないようにだった。
「でも‥‥‥岩城君来ちゃうわよ‥‥‥」
佐和は目をそらしつつも言い返す。
「こんな時は‥‥‥御伽噺の場合‥‥‥お姫様のキスで呪いは解けるんだよね‥
‥‥」
雪人が何気なく言い返した。
「そうね‥‥‥定番よね。お姫様の呪いには王子様のキスが‥‥‥王子様の呪い
にはお姫様のキスが‥‥‥」
佐和は夢見心地で言い返した。
「って、事は‥‥‥もしかして、香藤君のお姫様のキスで元に戻るのかしらね」
佐和は香藤狼に言い返した。
『じゃあ、岩城さんの‥‥‥頼めないよ‥‥‥まだ、そんな関係じゃないのに‥
‥‥』
香藤狼は思わず頭を抱えたしぐさをする。
「せめて、香藤君がそのままで小さい姿なら‥‥‥可愛いのに‥‥‥」
佐和はさらに止めを刺した。
「どうしたんですか?」
岩城の声がする。
「岩城君‥‥‥何時来たの?」
佐和が慌てて聞き返すと、
「ドアをノックしたけど‥‥‥返事が無かったんですが‥‥‥鍵が開いていたの
で‥‥‥」
岩城は言い返すと、香藤に近づいた。
『岩城さん!!見ないで‥‥‥』
香藤狼は慌てて言い返しと、体を隠そうとした。
「なんで?急いで来たんだよ‥‥‥途中で、小野塚君って人に会って‥‥‥香藤
が大変だって‥‥‥」
岩城は心配そうに言い返す。
『あの野郎‥‥‥岩城さんまでなんで‥‥‥言うんだよ!!』
香藤狼はつい大声で言い返したら、
「呪文を間違えてかけちゃったって‥‥‥元に戻せるのは、俺だけだからって‥
‥‥香藤。今から元に戻すけど‥‥‥俺を嫌いにならないでね‥‥‥」
少し目元が涙で潤む岩城を見て、香藤狼はドキッとした。
「岩城君、どうするの?」
佐和が方法を聞こうとしたと同時に、岩城は蛙の香藤にキスをした。
「チュッ」
と音がする。
「い‥‥‥岩城さん‥‥‥」
香藤狼が目をウルウルさせて見つめなおす。
「げえええぇぇぇぇ―――」
これは蛙嫌いの佐和の叫びであるが、間違いない反応だと思う。
「岩城君の蛙嫌いじゃなかったの?」
実は岩城もどちらかと言えば蛙が苦手である。
「あっ‥‥‥でも、香藤には戻って欲しい‥‥‥だから‥‥‥」
岩城の声は悲しそうである‥‥‥。
その言葉に雪人も頷き返した。
不意に、「ボンッ」と大きな音がした。
その音に振り返ると‥‥‥香藤狼は元の姿に戻っていた。
しかし、その顔は岩城にキスされた嬉しさに緩み放題だった‥‥‥

「おっ。元に戻ったな」
ようやく落ち着いた佐和の所に小野塚が顔を出したのは、机の上に香藤の作った
お菓子が並んだ時だった。
「小野塚‥‥‥貴様!!」
「ええ、どうしたんだ?俺、お礼は言われても、怒られる事はないと思うぜ?違
うか?香藤(笑)」
小野塚はニヤッっと笑うと、机の上に並べてあるお菓子を一つつまむ。
「と、言う事で俺は帰るな。また、来る」
笑いながらその場から居なくなった。
「何だったんだ‥‥‥?」
後に残された岩城は頭を捻っていたが、香藤は初めて岩城からのキスに感謝を心
の中でしていたのだった。

岩城も何かを感じている様子だった‥‥‥微かに1歩近づいたある春の1日だった。


             ―――――了――
―――
                       
 2005/03/    sasa





きゃああん、可愛いv
ウサずきんの第2弾を書いてくださいました
今回は何と小野塚が登場!
ふたりの仲を引っかき回していますね〜v
がんばれ香藤狼!(笑)
笑えるほど尻尾を振っている箇所に個人的に萌えましたv

sasaさん可愛くて素敵なお話ありがとうございますv