『赤ずきんならぬウサずきん』
昔、昔の‥‥‥どこかの国のお話です。 此処は、どこかといわれても困りますが、今の日本ではない事は確かです。 可愛い洋風の木のお家に住んでいるのは、黒髪に黒いお目目で白い肌を持つ美少年だったのです。 名前は岩城京介と言います。 彼は、今は亡き祖父からもらった兎の耳のついた頭巾を気に入り、何処に行くにもそれをつけて行きました。 それをみた祖母の佐和渚が、その頭巾に合わせて、白い生地でコートを作ってあげました。 勿論、お尻のところに白いボンボンをつけるのを忘れませんでした。 そのコートは岩城の容姿が浮きだって綺麗に見えるので、周りからの絶賛にあい初めは恥ずかしがって着ていたのですが、祖父と祖母の愛に包まれている気がして、そして周りが着ない事を残念がるので、いつの間にか彼のトレードマークとなって、人々は彼の事を『ウサずきん』と呼ぶようになってしまいました。 これはそんな彼が母親の冬美さんに呼ばれた事に始まります。 彼女は、つい最近妹の日奈を出産したばかりで、体力が落ちていたので遠出が出来ませんでした。 「京介さん‥‥‥おばあさまが風邪を引いたらしいの、でも私は、まだ体力が戻ってないし、日奈がいるので遠くに行く事も出来ないわ。だから、貴方が代わりに御使いしてもらえるかしら?」 「ええ、いいですよ」 冬美の用事を快く引き受けた岩城は、外に行く準備を始めました。 いつものフードにいつものコート 「お母さん、準備できました」 岩城はそういいながら、広間に行くと、バスケットが用意されて、その中には冷○★タを筆頭に、生姜湯の元、おかゆのレトルト、栄養ドリンク、ワインが入っていました。 「少し、重いかしら?」 「いえ、大丈夫ですよ」 岩城は言い返すと、そのバスケを受け取りました。 「気をつけてね。ああ、お昼のお弁当を入れ忘れていたわ。もし遅くなるなら、おばあさまの家に泊まって来てもかまわないからね」 冬実は岩城の事を考えて、言い返しました。 「はい、暗くなりそうならそうします」 「あと、最近、他の所から悪い狼が流れて森の奥に住み着いたらしいから、気をつけてね。何かあったら、雅彦さんにも申し訳ないからね」 雅彦とは冬美の旦那様で、岩城の父親になります。 「心配性だからな‥‥‥日奈が出来たんだから、俺から子離れして欲しいよ」 岩城はつい呟きました。 「本当に‥‥‥何かあれば、京介さん、だものね。私でも焼けるわ‥‥‥京介さんに恋人が出来たら、少しはましになるかしらね」 「それは‥‥‥反対に口うるさきなりそうだ‥‥‥」 岩城は冬美と楽しそうに笑いながら話すと靴をちゃんと履きなおす。 「では、行って来ます」 ひとしきり笑うと、岩城は頼まれた籠をしっかり腕に通すと、元気よく外を出て行った。 その姿を見送った冬実は、 「本当に京介さんに恋人出来たら、あの人どうするんでしょう‥‥‥ああ、日奈ちゃんお腹すいたの?ミルク上げますね」 奥から日奈の泣き声を聞いた冬美は、ドアを閉めるのだった。 「いい天気だ‥‥‥」 岩城は呟くと、元気よく佐和の家を目指して歩き始めた。 佐和の家に行く道の途中に誰か倒れている。 「どうしたの?」 ズタボロになっているが、尻尾や耳の形から犬の種類だとわかる。 「うん?いや‥‥‥」 グウウウゥゥゥゥ‥‥‥ 大きく盛大に、鳴り響く音に岩城は目を白黒させる。 「お腹すいてんだ‥‥‥好き嫌いは?」 岩城は聞きながら、自分のお弁当を差し出した。 「あんたねぇ‥‥‥俺、狼だぜ?」 その狼は苦虫をつぶして言い返すが、シッポはパタパタ動いている。 「だから何だ?死掛けているのを見殺しに出来るか、バカ!!」 岩城はそう言い返すと、起きて地べたに座った狼の頭を叩いた。 「痛って‥‥‥叩いた‥‥‥」 うっすらと涙目を溜めて、見上げるその表情はまるで捨て犬に遭遇した時と同じで、岩城はウッっと息を呑んだ。 あの、愛らしい目に何度、家に捨て犬や猫を連れ帰っただろう‥‥‥ その度に怒られたが、最後には「里親を捜すまで」と親を説得しては、里親探しに奔走した日々を岩城は思い出した。 「それに、みんなの歩く道の真ん中で横になってられると、歩くのに困る」 岩城はなるべく見ないように、ぶっきらぼうに言い返す。 「でも、本当はありがとう‥‥‥お腹すいていたんだ」 その狼は言い返すと、岩城の差し出したお弁当をわき目もふらずに食べ始めた。 パクパクパクパク‥‥‥‥‥‥ 「なあ、喉に詰まるぞ‥‥‥」 あまりの食べっぷりに岩城が心配して言い返すと、狼は急に食べるのを止め胸元を自分の拳で叩き始めた。 「だから、言ったろう」 岩城は呆れて今度はお茶を差し出すと、それをサッと受け取り一気に飲み干した。 「はあぁぁ‥‥‥人心地ついた。ありがとう。あっ、俺、香藤って言うんだ。君は?」 「岩城京介」 岩城はぶっきらぼうに名前を言う。 「ふ〜〜ん、岩城さんね。ねえ、これから何処に行くの?」 ニッコリ笑って聞き返す。 「おばあさまの所。じゃあ、バイバイ」 岩城はぶっきらぼうに言い返すと、手をふって行こうとする。 「あっ、送るよ。君可愛いから」 香藤と自分の名前を名乗った狼は立ち上がる。 「誰が可愛いって‥‥‥」 岩城が低い声で言い返し、キッと睨み返すとそれに物怖じとせず香藤狼は言い返す。 「君、そんな頭巾で顔を隠しても、匂いで解かるもん。お弁当のお礼」 そう言い返すと、香藤狼は有無を言わさずに岩城の手を握って歩き出した。 二人は道すがら、ポツポツと言葉を交わした。 岩城は、香藤狼にこの地に来た経緯を聞いたが、初めは話すことは無かった。 綺麗なお花畑があると、見ている岩城の表情を読み取って誘って花束を作って持たせてくれた。 「いいって、俺が誘ったんだし、お弁当のお礼って‥‥‥タダだけど」 佐和が好きな事を岩城は知っていたが、よそ道をすることをためらったのである。 「あっ‥‥‥ありがとう」 岩城は今回、素直にお礼をして微笑んだその笑顔が、香藤狼の心にズキューーーンと直球に突き刺さった。 しばらく道を歩いていて、そのうちにポツリポツリと自分の事を、香藤狼は話し始めた、なぜか最近、この土地に住み着いた狼である事を。 彼は前にいた森ではその容姿、性格で森の皆に慕われていたのだが、彼を快く思わない者達の策謀にかかったのである。 そして、彼は自分の無実を信じて森の仲間が逃がしてくれたのだった。 自分が生まれた森に帰るのは、真犯人を捕まえる‥‥‥その為に、自慢だった綺麗な金に近い毛並みもボサボサで、少しやせて見るからに悪い狼に見えるのだった。 「ああ、こんな事誰にも言ったこと無かったのにな」 香藤狼は言い返すと、苦笑したのでした。 さて、その様子を見つめていたのが、もう1匹の狼で黒い毛の狼で黒狼といいました。 彼は、香藤狼が住んでいた所で、頼まれて香藤狼をはめたのですが、発覚を恐れた雇い主に当座の資金を渡されて、この土地に逃げてきたのだった。 勿論、ウサずきんの事も知っていましたし、実はほのかに憧れていました。 「あのやろ〜〜〜」 黒狼は呟くと、その場を離れて、岩城のおばあさんの家に走って行きました。 「だあれ?この家のドアを叩くのは」 ドアを叩くと、中から明るい声が聞こえてきました。 「ボクです。おばあさま」 作り声で言葉を返すと、中からさらに明るい声が聞こえてきました。 「岩城君なの?入ってきて良いわよ」 黒狼はため息をつくと、そっと中に入って言って、佐和をパクリと丸呑みしました。 でも、化粧の匂いで少し胸焼けを起こして、佐和のベットに横になると、蒲団を頭からかぶりました。 「此処でいいよ。おばあさまの家は此処だから」 少し寂しげに岩城は微笑み返した。この少しの間に、香藤狼との話が楽しくて、離れたくない気分になっていた。 「どうしたの?明日、帰る時に迎えに来て上げようか?」 香藤狼は言い返しましたが、それには自分も離れたくないと思っていたせいでした。 「ウサずきんじゃないか‥‥‥渚、どうかしたの?」 家のドアの前で急に声をかけられたので見ると、そこには狩人をしている雪人君でした。 「雪人君‥‥‥おばあさま、風邪引いたらしいんだ。彼は、香藤。此処まで送ってもらったのだよ」 岩城は雪人君がおばあさんの渚の事を好きなことを知っていて応えました。 「え、大丈夫なの?」 心配そうな顔になるので、岩城は笑い返す。 「中に入って元気良いなら、呼びます。待っていてくださいね」 「あ、じゃあ俺も付き合うね」 岩城の言葉に、香藤狼が間を置かずに言い返した。 「じゃあ、おばあさまが良いって行ったら、夕飯食べていってください」 香藤狼に嬉しそうに微笑み返すと、岩城は一人で家の中に入っていった。 家の中は明りを少し押さえてあり、岩城は少し困惑した。 明るい佐和が部屋を暗くしている事は、それだけ具合が悪いのだろうか?と思い、これじゃ、雪人君と香藤狼とゴハンを食べられないかもと、悲しい気分になった。 ベットルームに行くと、ドアをノックして 「おばあさま‥‥‥」 と声をかける。 返事が無いのでドアを開けて中を覗くと、薄暗い部屋の中でベットに大きなふくらみがあるので、寝ている事がわかる。 「大丈夫?」 心配げに聞くと 「あ〜〜〜、まぁ〜〜〜〜」 いつもと違う声に、岩城は驚いて近寄る。 「おばあさま、大丈夫?そんなに変な声になって、熱は」 岩城が心配して蒲団に手をかけると、相手はそのまま蒲団を岩城に投げてきた。 「うわ〜〜〜〜ッ」 岩城の悲鳴を最後に、姿がなくなりました。 そう、パクリと食べられてのでした。 「ふん、香藤狼となんか仲良くするからだ」 黒狼はそう言い返すと、再びベットで寝なおした。 ドアの前にいた香藤狼は、耳をピクッっと動かした。 「なあ、雪人さんって岩城さん呼んでいたよね‥‥‥」 聞き返すと、雪人は無言で頷いて、ドアを見つめている。 「今さ、中から岩城さんの悲鳴が聞こえてきたんだけど、俺の事信じる?」 香藤狼は耳を家の中に向けて言い返した。 「えっ‥‥‥まさか?」 驚いた顔で、雪人は香藤狼を見たら、香藤狼は真剣な表情で家を見つめている。 「岩城さんの声が聞こえない‥‥‥ねえ、変だよ」 香藤狼は必死に言い返す。 「まさか‥‥‥中に入ります。すいません」 雪人は言い残すと、急いで家の中に入ると、香藤狼も後に続くとベットルームから大きないびきが聞こえてきた。 「スッゲーいびき」 香藤狼が驚くくらいのいびきが、部屋から漏れて聞こえている。 「渚はこんなイビキかかないよ。岩城さんも‥‥‥違うと思う」 「じゃあ、誰なんだ?」 ドアを少し開け、こっそり中を覗くと真っ黒い毛が見えて、機嫌よく眠っているようでした。 「あの狼‥‥‥俺の探しているヤツだ」 香藤狼が姿を見て、言い返した。 「お腹が動いているってことは‥‥‥飲み込まれたのか。助けなきゃ」 雪人は静かに中に入ると、すっと近づくとお腹に鋏を当てて、 ジョキ、ジョキ、ジョキ‥‥‥と、切り始めました。 初めに、白いウサギの耳がピョンと飛び出して、岩城が顔を出しました。 「岩城さん‥‥‥大丈夫?」 小さな声で香藤狼が手を出して、岩城を助け出す。 「苦しかった‥‥‥おばあさまが中に」 岩城は新しい空気を吸い、そういいなおした。 「渚、大丈夫?」 さらに、岩城の後から佐和が顔を出すと、雪人は心配そうに声をかける。 「もう、いやになっちゃう‥‥‥服も汚れるし‥‥‥」 ブツブツいいながら、佐和は出てきた。 「この狼、どうしてやろうかしら?」 佐和はベットで寝ている黒狼を見て、呟きました。 「あっ、そいつ俺が捜しているやつなんだ。俺をはめたヤツ‥‥‥殺さないようにしてくれるなら、何してもいいよ」 香藤狼は言い返すと、岩城の体をタオルで拭いていた。 話をしている間にも、雪人が切ったお腹を縫い合わせていました。 そして黒狼を縛り上げて、佐和は香藤の元住んでいた森に連絡を走らせたのでした。 「じゃ、岩城君、私は雪人と行って来るから、お留守番していてね。香藤君はすぐに行ったら問題になると思うから、私達だけで行ってくるわね」 佐和はそういい、香藤狼を呼びました。 「二人きりにしてあげるから、がんばりなさい」 佐和は香藤狼の気持ちに気づいたようでしたし、岩城もまんざらじゃない様子だと思っていました。 「へっ?あの‥‥‥佐和さん」 香藤狼が困った顔をしていると、 「照れない、照れない‥‥‥じゃね。あっ、節度は守ってね」 佐和はウインクをして、出て行ってしましました。 さて‥‥‥この後、どうなったかは神様が知るのみ‥‥‥ ただ、しばらくして雅彦が飲みすぎて二日酔いになった事のみ、追記させていただきます。 ―――――了――――― 2005・2・14 sasa |
岩城さんの「ウサずきん」!!!
可愛い!!可愛すぎ!
襲ってくださいといわんばかりの可愛さですね!
(はあはあはあ・・・・危ないのは私ですか?)
香藤狼はイチコロでしたねv
さてどんな風にふたりの恋は育っていくのでしょうか?お兄様も大変v
(もう恋だと決めつけてる・・・)
sasaさん、楽しいお話ありがとうございますv