シンデレラ?





とある時代のとある王国にヨージと言う青年がおりました。

ヨージはたいそうハンサムで家も裕福だったので女の子に大変モテました。

ヨージにはケーゴとユウと言う二人の親友がいました。

ケーゴとユウは兄弟で二人ともヨージに負けないくらいハンサムです。

あちこちのお屋敷で開かれるパーティで3人は誰が一番モテるか競い合いましたがいつもヨージが勝ちました。

当然ケーゴとユウは面白くありませんでした。

そんな日々が続いていたある日のこと。

人のいいヨージの父親が騙されて多額の借金を背負わされてしまったのです。

屋敷や土地を全て手放してもまだ借金は残っていました。

一家が途方にくれているとケーゴとユウの父親でヨージの父の友人でもあるキクチが援助を申し出てくれました。

その条件としてヨージの妹のヨーコを召使いにしたいと言いました。

ヨーコはケータという恋人がいたので行きたくないと泣きました。

両親にとっても娘は可愛いのでこんな苦しい状況でも行かせたくはありませんでした。

当然家族全員の目がヨージに向きます。

「え、俺?そりゃ俺だってヨーコは可愛いけどキクチは召使いが欲しいんだろ?俺じゃ納得しないと思うけど…」

ヨージが行きたくないのはケーゴとユウに命令されるのは癪に障るからです。

それでもやっぱり妹は可愛いし両親にも哀願されキクチが承知してくれれば自分が働きに行くことにしました。

父が掛け合うとキクチは意外なほどあっさり承知してくれました。

こうしてヨージはキクチの屋敷で召使いとして働くことになったのです。





ヨージは今まで働いたことなどなかったので最初は失敗ばかりしていました。

あまりにもいろんな物を壊すので堪りかねたキクチはヨージに蒔き割りや水汲みなど力仕事ばかりさせることにしました。

ケーゴやユウは普段はいい主人で友達として話してもくれましたが時々ヨージ苛めました。

キクチに言いつけられた仕事をしているのにつまらない用事で呼びつけたりするのです。

「ヨージ、この椅子とテーブルそっちに動かしてくれよ。やっぱりもう少し奥の方がいいかなぁ。う〜ん、なんかしっくり来ないから元に戻してくれ。」

「ユウ、お前いい加減にしやがれよ!」

切れかかったヨージにユウは意地悪そうに言います。

「あれ〜使用人の癖にそんな生意気な口利いていいのかなぁ。」

「ぐっ、申し訳ございません。」

「あ、そうそうケーゴが東のサンルームにお茶持ってきてくれって言ってたぞ。」

「そんなの他の召使いに頼めばいいじゃないか。またティーセット壊すかもしれないぞ。」

「仕方ないだろうケーゴがお前に持ってきてもらいたいって言うんだから。」

「分かったよ。」

ヨージは悔しそうな顔でユウの部屋を出て行きました。

「ホーントあいつは期待通りの反応をしてくれて楽しいよな。」

部屋に残ったユウはニヤリと笑いました。

ユウの部屋は屋敷の西側、東のサンルームは名前のとおり東の端にあります。

ヨージは広い屋敷を端から端まで移動しなければなりません。

「ったくあいつら絶対わざとだ。俺の方がモテてたのを根に持ってやがるんだ。」

実際ヨージの思ったとおりだったのですが本気で苛めているわけではなく二人にとっては軽いイタズラのつもりだったのです。

それでもヨージには十分迷惑だったのですが。





ヨージがキクチの屋敷で働き始めて半年が経った頃、お城で盛大なパーティが開かれることになりました。

今の王様の弟君、キョースケ様の結婚相手を選ぶパーティです。

キョースケ様は普段遠く離れた領地にあるお城に住んでいて結婚すればそのお城のお妃様になれるのです。

年頃の娘たちは競って着飾りお城に向かいました。

勿論青年たちも自分の結婚相手を見つけようとお城に集まります。

言ってみればお城で大規模なお見合いパーティが開かれるようなものです。

以前ならヨージもそのパーティに参加できたのですが、家が貧しくなってしまった今は行くことができません。

菊池に連れられて意気揚々と出かけて行くケーゴとユウを黙って見送るしか仕方ありませんでした。

「あ〜あ、あいつらモテ捲くるんだろうな。俺が行ってれば絶対負けないのに。でも貧乏な男には誰も寄って来ないか。」

庭に出て丘の上にあるお城の明かりを見上げていると突然後ろから声をかけられました。

「こんばんは、あなたカトーさんの息子のヨージ君よね?」

ヨージが振り向くとそこには背の高い人物が立っていました。

「そうだけど、あんた誰?」

「私は魔法使いのナギサよ。」

確かのその人物は魔法使いの衣装を着ていてとても美人でしたがどうも声が変です。

「あんた女じゃないだろ?」

ずばり言い当てられて魔法使いは少したじろぎました。

「あら、ばれちゃったのね。私は女性の衣装の方が綺麗で好きなのよ。男の癖に細かいことを気にするんじゃないの。」

(細かいことなのか?)と思ったヨージですが自分にとってはどうでもいいことなので気にしないことにしました。

「それで魔法使いさんが俺に何の用な訳?」

「やめてよ魔法使いさんなんて。ナギサって呼んでちょうだい。」

ヨージはちょっとひきそうになりましたがとりあえず用件を聞かなければと思いました。

「分かったよ。ナギサさん俺に何の用なの?」

「ありがとう、やっぱり顔のいい男に名前を呼ばれると嬉しいわね。そうそう、私カトーさんに頼まれてあなたをお城のパーティに連れて行くために来たの。」

「ナギサさん親父と知り合いなの?」

「ええ、ちょっとね。さあ、それじゃあ行きましょうか。」

先に立って歩き出したナギサにヨージは戸惑います。

「ちょっと待ってよ。行こうって言われても着てく服ないし。それに服借りて行ったとしても貧乏な男なんて誰も相手にしてくれないからいいよ。」

「あら、そんなこと気にしてたの。何のために魔法使いの私が来たと思ってるのよ。安心して全部私に任せなさい。」

ナギサはしょんぼり俯いてしまったヨージの背中をバシバシ叩きました。

「ちょっ、ナギサさん痛いよ。自分が男だってこと忘れてるでしょ。」

「あら〜オホホホごめんなさい。とにかく安心して私に任せて。いいわね。」

「はい。じゃあお願いします。」

「それじゃあいくわよ。」

ナギサが魔法のスティックを振ると目映い光がヨージを包み込みました。

眩しさに瞑った目を開けてみると…ヨージは美しいドレス姿に変身していました。

「ちょっとナギサさん。これドレスじゃん。俺男なんだよ。こんな格好じゃ恥ずかしくて行けないよ。」

「だって男のままで行っても誰も相手にしてくれないでしょ。とってもよく似合ってるし誰もあなただって分からないわよ。あっ、声は気をつけて高めの声で喋ってね。」

ナギサが出してくれた鏡を見るとレースとフリルをふんだんにあしらった白いドレスは自分でも驚くほど似合っていました。

それにかなりの器量よしなので男性の注目を集めるのは間違いなさそうです。でも…

「俺男にモテても嬉しくないよ。」

「文句言わないの。行くだけで気晴らしになるでしょ。それにいつも苛められてる二人を弄んであげればいいじゃない。それにキョースケ様と踊れるかもしれないし。」

キョースケ様にはあまり興味のないヨージでしたが二人をからかえるのは面白いと思いパーティに行くことにしました。





お城に着くと大広間にはすでにたくさんの男女が集まっていました。

ナギサの目論見どおりすらっと背が高く器量よしなヨージは男性たちにモテモテです。

言い寄ってくる男の中にはケーゴとユウもいました。

「お嬢さんそのドレスとてもよくお似合いですね。貴方の美しさがより引き立ってますよ。」

「お嬢さん貴方のように美しい方にはお目にかかったことがありません。どうか私と踊ってください。」

二人は全くヨージだとは気づいてないようで口々に口説いてきます。

ヨージは内心でニヤリと笑いながら二人に思わせぶりな態度を見せた後で冷たく振ってしまいました。





慣れないドレスに疲れたヨージはこっそり中庭に抜け出しました。

「あいつら本当に俺だって気づいてなかったな。振ってやった瞬間のあいつらの顔。ちょっとすっきりしたな。」

今夜は満月で中庭は月の光で明るく照らされていました。

もう男の相手をするのは面倒になったヨージはそのまま中庭を散歩することにしました。

少し歩くと噴水が見えてきてそこに人影がありました。

ヨージは近づいてみて目を瞠りました。

その人は男なのにとても綺麗だったのです。

絹糸のような黒髪が月の光を受けて美しく輝いています。

元から白いだろう肌は青白い月光のせいで上質な磁器のようです。

鼻筋はすっと通っていてその下には形のよい魅惑的な唇がありました。

切れ長な瞳は残念ながら伏しがちな瞼と長い睫毛に覆われてよく見えません。

少し寂しそうなその顔はとても儚げで月の光に解けて消えてしまいそうです。

ヨージは思わず駆け寄ろうとして…「おわっ。」ドレスの裾を踏んで思いっきり転んでしまいました。

「イテテ…」

ぶつけてしまった鼻を押さえながら身体を起こすとすぐ傍にその人が困惑した顔で立っていました。

そして戸惑いながらも手を差し出してくれました。

「あの…大丈夫ですか?」

思いっきり地声を出してしまったのでどうやら男とばれてしまったようです。

間近で見たその顔は本当に美しく瞳は深く澄んでいて黒曜石のように輝いていました。

ヨージはその美しさに見惚れてしまいました。

「あの、どこか痛むんですか?」

ヨージからの返事が無いのでその人はまた声をかけてきました。

「えっ、あっ、大丈夫です。かっこ悪いとこ見られちゃったな。あ、俺がこんな格好してるのはちょっと事情があってこういう趣味があるわけじゃ。」

必死で言い訳するヨージが可笑しかったのかその人はくすくす笑いました。

(この人笑うと凄く可愛い)

ヨージはこの人のことが知りたくなりました。

「俺こんな格好してるからボロが出る前に逃げてきたんだけど貴方は何で一人でここにいたんですか?」

「誰も俺を必要としてくれないから…かな。」

「えっ、だってそれだけ綺麗なんだからモテるでしょ?」

意外な答えにヨージは驚きました。

「確かに声はかけられるけどあまり裕福じゃないって言ったらすぐに離れて行ってしまう。」

自分にも身に覚えのあることなのでヨージにはその寂しさがよく分かりました。

ヨージはこの人に笑って欲しくて一生懸命いろんな話をしました。

ヨージの努力の甲斐あってその人が笑ってくれるようになった頃風向きが変わって広間からワルツが聞こえてきました。

その人は立ち上がると恭しく手を差し出しました。

「私と踊っていただけませんか。」

「喜んで。」

ヨージはにっこり笑って答えました。

その人は育ちのよさが伺える優雅な動きで女性側のダンスは初めてなヨージを巧みにリードします。

ヨージは夢見心地で踊っていましたがふと大事なことに気づきました。

「ねぇ俺たちまだ名乗りあってなかった。俺はヨージ。あなたは?」

「俺は…」

その人が躊躇った様子を見せそれが気になったヨージはうっかりドレスの裾を踏んでしまいました。

そしてその人の方に倒れ込んでしまったのです。

突然のことにその人もヨージを支えきれず一緒に後ろ向きに倒れてしまいました。

「イッター。ごめんなさい大丈夫ですか?」

ヨージが身体を起こしてみるとその人は頭を打ったのか気を失っていました。

「大変だ!」

辺りを見回すと明かりの点いている部屋が見えたのでそこに運ぶことにしました。

抱き上げてみるとその人は思った以上に軽くヨージはびっくりしました。





部屋に入ってみると誰もいませんでしたがベッドがあったのでそこに寝かせました。

明るいところで見るとその人は益々美しく見えました。

上着を脱がせ襟元を緩めてあげると肌理細やかで滑らかな肌が現れました。

ヨージはなぜかドキドキしてまっすぐ見ることができず慌てて目を逸らしました。

楽なようにとベルトも緩めましたがその人は男にしては細い腰でヨージは益々ドキドキしてしまいました。

「なんで俺こんなにドキドキしてるんだろう。確かに凄く綺麗だけどこの人は男なのに。」

ヨージがじっと見つめているとやがてその人の瞼が震え綺麗な瞳が現れました。

そして苦しそうな呻き声を洩らした唇から赤い舌が覗いたのを見たときヨージは頭の中で何かが切れた気がしました。

気がつくとヨージはその人を抱きすくめ唇を合わせていました。

想像以上に甘いその唇にヨージはすぐに夢中になり口腔深くに舌を差し入れ相手の舌を絡め取りました。

その人ははじめ驚いて必死で抵抗していましたがやがて息苦しさからかそれも弱まりヨージが唇を離したときにはぐったりしていました。

「あっ、ごめんなさい突然こんなことして。でもっ俺あなたのこと好きになったから。」

「それ本気で言ってるのか。」

「勿論本気だよ。俺がどれだけ本気か教えてあげる。」

ヨージはそう言ってもう一度その人を抱きしめようとしましたがドレスが邪魔で思うように動けません。

「えーいもうこのドレス邪魔だ!」

ヨージはドレスを脱ぎ捨てると勢いよくその人に圧し掛かりました。





翌朝先に目を覚ましたヨージがじっと見つめていると瞼が震えその人が目を覚ましました。

「おはよう。昨夜は無理させちゃってごめん。どこか痛むとこある?」

その人は不機嫌そうな顔でヨージを睨みました。

「男に抱かれるのなんて初めてだったんだから痛いに決まってる。」

「ごめん。優しくするつもりだったのに夢中になっちゃったから。」

シュンとしょげてしまったヨージにその人はくすくす笑いました。

「いいよ。ヨージが本気だって分かって嬉しかったから。」

ヨージははじめて名前を呼ばれ嬉しくなりました。

「そうだ。俺まだあなたの名前聞いてない。」

「俺は…」

その人が名乗ろうとした時扉がノックされました。

「キョースケ様こちらにいらっしゃいますか?」

「わっ、誰か来た。入ってこられたらまずいじゃん。」

慌てるヨージをよそにその人は落ち着き払って答えました。

「ああ、ここにいる。心配かけてすまない。疲れてついそのまま眠ってしまった。風呂に入りたいから用意してくれ。」

「はい、畏まりました。」

扉の外の人物は恭しく返事をすると去って行きました。

ヨージは今聞いた会話が信じられなくて呆然としてしまいました。

「キョースケ様?本当に?」

「俺がキョースケだったらヨージの気持ちは変わるのか?」

「ううん、ううん、そんなことない。」

キョースケが悲しそうな顔になったのでヨージは慌てて頭を横に振りました。

「正直言うと俺はまだお前が好きなのかはっきり分からない。でもお前に傍にいて欲しいと思ってるのは確かだ。それでもよければ俺の城にきて欲しい。」

「キョースケ様、嬉しいけど国王様がお許しにならないんじゃ。」

「キョースケでいい。確かに兄上は堅物だからとりあえず俺の護衛とでも言うさ。でも俺にはお前が必要だとはっきり分かったらその時はどんなことをしても兄上を説得して見せる。」

そう言い切ったキョースケの瞳は昨夜の儚さとは全く違う強い光を放っていました。

「キョースケ。」

ヨージは嬉しくて嬉しくてキョースケを思い切り抱きしめました。

「ヨージ、俺の城に行ってからでも俺が嫌になったり他に好きな人ができたらちゃんと言ってくれよ。」

「そんなことある分けない。神様にだって誓える俺には一生キョースケだけだって。」





その後ヨージは家族と一緒にキョースケの城に移り住みました。

暫く経ってヨージへの愛を確かなものと感じたキョースケは必死で国王を説得しました。

最初は認めてくれなかった国王も可愛い弟であるキョースケの真剣な様子に渋々ながら許してくれました。

ヨージの明るい人柄は領民たちにも好かれ二人はいつまでも幸せに暮らしました。





おしまい

                          04.5.20  グレペン



★春抱きキャラによるシンデレラですv
ドレスを着た香藤にも萌えます!
でも攻めです!(笑)
その行動の早さはまさしく香藤!(爆)
狙った獲物は逃さない感じが素敵です・・・
美しいキョースケさんを目の前にしては仕方ないかv
ヨージとキョースケはこれからもきっと幸せに愛を育むことでしょう