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シンデレラ? 3
「二人はいつまでも幸せに暮らしました。」
これは御伽噺の最後を飾る決まり文句です。
王子様とお姫様が出会って結ばれ、いつまでも幸せにに暮らす。
確かに大雑把に言えばそうなるのでしょう。
しかし生きていればいろんな事が起こるものです。
それは人並みはずれたラブラブな生活を送るキョースケ様とヨージも決して例外ではないのです。
キョースケ様のお城の昼下がり、ヨージはいつもならキョースケ様と過ごす中庭に一人でいました。
キョースケ様を訪ねて隣国の王様からの使者が来たからです。
このお城には度々いろんな国からの使者が訪れます。
その度にヨージは少し不安になります。
その使者たちの目的がみな自分の国のお姫様をキョースケ様の妃にというものだからです。
元々この国は大きく豊かな国なので周辺の国はみな友好関係を結ぼうとしていました。
その上キョースケ様がとても見目麗しく大変聡明なことは諸国に知れ渡っていたので姫を嫁がせたいと思う王様がたくさんいたのです。
キョースケ様が愛するのは自分だけだと分かっていてもヨージは不安になります。
それは自分とキョースケ様が愛し合っているということをよその国に知られる訳にはいかないからです。
キョースケ様に決まった人がいないとなればいつまでたっても使者が訪れ続けるでしょう。
そしていつかは強引に話しを進める国が出ないとも限らないのです。
キョースケ様のためならどんな困難にも負けない自信のあるヨージですがこれだけはどうしようもなく不安なのでした。
一方のキョースケ様も度々訪れる使者たちに断り続けるのも疲れてきました。
いっそのこと「私の思い人はヨージです。」と叫びたくもなりました。
キョースケ様自身はヨージとの関係を恥ずかしいこととは思っていませんでした。
でも世間の人はそうは思ってくれません。
ヨージとの関係を公にすれば冷たい目で見られ心ない中傷を受けるのは分かりきったことでした。
自分だけなら何を言われても平気ですが国王様や国民まで偏見の目で見られかねないのです。
それを思うとヨージとの関係を諸国に公表することはできませんでした。
そしてその秘密を守るため二人の関係はキョースケ様の領地の領民以外では国の重臣たちしか知りませんでした。
キョースケ様はヨージを日陰の存在にさせてしまっていることをとても心苦しく思っていました。
ヨージが中庭でため息をついているとキョースケ様がやってきました。
「ヨージ。」
「キョースケさん、使者の人もう帰ったの?」
「ああ。ヨージすまない。いつもいやな思いをさせてしまって。」
「俺キョースケさんの気持ち分かってるから平気だよ。俺だけを愛してくれてるって。」
「ああ、何があっても俺が愛するのはお前だけだ。」
二人はいつもの木陰で寄り添いましたがどちらも少し辛そうでした。
「ちょっと二人とも何暗い顔してるのよ。元気出しなさいよ。」
突然頭上から聞き慣れてしまった声がして二人が見上げると一羽の美しい小鳥がいました。
「ナギサさんなの?」
ヨージが呼びかけると小鳥はパタパタと羽ばたき二人の目の前に来るとぽわっと煙に包まれナギサの姿に戻りました。
「キョースケ様、ヨージ君こんにちは。」
にっこり笑って挨拶するナギサにヨージはため息をつきます。
「もう、ナギサさん。覗くのはほどほどにしてって言ったじゃん。」
「あら、私ちゃんとほどほどにしてるつもりだけど。」
平然としたナギサにまた負けそうなヨージでしたがあることに気づきました。
「ナギサさん、もしかして寝室も覗いてるの!?」
「さすがの私もそれは1回でやめたわ。だって一人の身には刺激が強すぎるし後で虚しくなるんですもの。ほら、あなたたち激しいから…」
「・・・・・」
ヨージが口をパクパクさせながらキョースケ様を見ると顔を真っ赤に染めていました。
(キョースケさん可愛いっ!)
ヨージがキスしようとするとキョースケ様はヨージの口を両手で塞いで拒みました。
「ヨージ、ナギサさんがいるんだぞ。」
キョースケ様は顔を真っ赤にしてそう言いましたがヨージは不満顔です。
「ベッドまで覗かれてたんだから今更キスくらいで恥ずかしがらなくてもいいじゃん。」
「…バカ。知らずに覗かれてるのと見られてると分かってるんじゃ全然違うだろう?」
「うふふふ、相変わらずラブラブなのね。」
すでに二人の世界に入りかけていたヨージたちはナギサの声に我に返りました。
「さっきまで落ち込んでたんじゃなかったの?」
ナギサに言われて二人はまた顔を曇らせました。
「もしかして二人が悩んでるのってしょっちゅう来る使者さんたちのことなの?」
「うん、まあね。キョースケさんは綺麗だし聡明だからぜひ自分の国の姫を嫁がせたいって言う国が多いんだよね。」
「俺が理由をはっきり言わずに断るから何度も使者を立ててくる国も多いんです。」
キョースケ様は切なそうな顔でヨージの頬に手を添えました。
「いっそのこと国王様にお願いしてヨージ君のお披露目のパーティ開いてもらったら。」
「そんなことができるなら俺もキョースケさんもこんなに悩んでないよ。」
分かってないんだからと言わんばかりのヨージにナギサはイタズラっぽく笑いました。
「あら、だってヨージ君はどんなお姫様より綺麗じゃない。」
その言葉を聞いてキョースケ様とヨージは思わず顔を見合わせました。
「ナ、ナギサさん、もしかしなくてもまた俺ドレスを着せようと思ってる?」
「ピンポーン。要はキョースケ様に決まった相手がいることが分かればいいんでしょ?身分ははっきりさせられなくてもヨージ君の綺麗さにかなう姫はそうそういないから皆諦めてくれると思うわよ。」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ。そんなこと国王様が許してくださるとは思えないよ。」
ヨージが伺い見るとキョースケ様は真剣に考えているようでした。
「俺はお前に大勢の前で女装するなんて辛い思いはできればさせたくない。でも、このままではいつまでも使者が来てその度にお前に辛い思いをさせてしまう。だからヨージ、一度だけ我慢してくれないか?兄上を説得してお披露目してもらうから。」
それが苦渋の選択であることがキョースケ様の顔にはありありと表れていました。
「キョースケさん、そんな顔しないで女装なんて俺は平気だから。他の国の人達を納得させられるような婚約者をちゃんと演じて見せるよ。」
「ヨージ、すまない。」
涙を零すキョースケ様をヨージは優しく抱き寄せました。
(あらあら、また二人の世界に入っちゃったのね。今はこのまま二人きりにさせてあげたほうがよさそうね。)
ナギサが心の中でそう呟いてまた小鳥に姿を変えて飛び去ったことに二人は全く気づきませんでした。
キョースケ様がお願いすると国王様は意外なほど簡単にお披露目パーティを了解してくれました。
どうやら国王様のところにもいろんな国から親書が届いたりしていて断るのに苦心していたようなのです。
そのパーティを1週間後に控えキョースケ様たちは国王様の城に向かって出発しました。
しかし途中で近頃国を騒がせている盗賊団に襲われてしまいました。
その盗賊団の頭領のアサノはまだ若いながらとても悪知恵が働きなかなか捕まえることができないでいました。
アサノは衛兵たちが子分と争っている隙にキョースケ様の馬車に乗り込んできました。
キョースケ様に剣を突きつけ金目のものを要求しようとしましたがその美しさに思わず見惚れてしまいました。
ヨージはその隙を見逃さずアサノを蹴落とすと御者に命じて馬車を全速力で走らせました。
それを見た衛兵たちも後に続き何とか逃げ切ることができました。
お披露目パーティにはたくさんの国の重臣がやって来ました。
中にはキョースケ様のお相手を自分の目で確かめようやって来た王様もいました。
国内のからもたくさんの人がパーティに参加しています。
その中にはユウとケーゴの姿もありました。
この二人もキョースケ様とヨージの本当の関係を知りませんでした。
キョースケ様の部屋ではナギサの魔法でヨージが変身しようとしていました。
キョースケ様はすでに礼装に着替えていていつもに増して美しさが際立っていました。
「ちょっと、ヨージ君。みんなの前に出たらそんなに鼻の下伸ばしてちゃだめよ。遠くの国の貴族の令嬢フレア姫って事になってるんだからお上品に振舞ってね。」
「分かってるよ。キョースケさんとの暮らしを邪魔されないためだからね。ボロ出さないように気をつけるよ。」
ヨージは照れ隠しのように自分の顔をパンパンと叩きました。
「どんなドレスにしようかしら。清楚さそと華やかさを兼ね備えていて、そして何より気品溢れるものでなくっちゃね。」
(ナギサさんもしかしなくても俺で遊んでる?)
嬉々としたナギサを見てヨージはふとそう思い少し情けなくなってしまいました。
「じゃあヨージ君いくわよ〜。」
ナギサが魔法のスティックを振るとヨージは前と同じように目映い光に包まれ美しいお姫様に変身しました。
今度のドレスはナギサが熱心に考えただけあっていっそう美しい物でした。
光沢のある細かい刺繍の施された白いシルクサテンのドレスの上にオーガンジーが幾重にも重ねられ逞しいヨージの体系がちゃんと女性らしく見えるようなデザインになっていました。
髪には小さなティアラも載っていて誰が見ても綺麗なお姫様にしか見えませんでした。
「うふふふふ、我ながら完璧な仕上がりね。」
ナギサはヨージの姿を見て満足そうににっこり笑いました。
「ほ〜。実は内心少し不安だったんだがこれならヨージさえへまをしなければ誰にも気づかれそうにないな。」
立ち会っていた国王様もヨージの変身振りにすっかり感心しました。
「ヨージすまないな大変な思いをさせて。でも数時間だから我慢してくれ。」
「平気だよ。俺ちゃんとお姫様らしくして見せるから心配しないで。」
申し訳なさそうな顔をするキョースケ様にヨージはにっこり笑って見せました。
「そろそろ時間だ、行くぞ。」
「では、お手をどうぞフレア姫。」
「はい、キョースケ様。」
二人は微笑みあって手を取ると国王様に先導されて大広間へと向かいました。
大広間に集まっていた人達はフレア姫の美しさにびっくりしました。
キョースケ様と並び立っても引けをとらないどころか二人でいっそう輝きを増しているようでした。
奏でられ始めたワルツに乗って踊る二人の姿はとても優雅で美しく、みな言葉もなくただ見惚れるばかりでした。
ケーゴとユウは踊る二人を見て密かにショックを受けていました。
二人はキョースケ様のお相手探しのパーティで会った美しい人にもう一度会いたいと思っていました。
冷たくふられても諦めきれずにいた人に再会できたのと同時にかなわぬ恋であることを思い知らされてしまったのです。
そんな二人の落ち込みをよそに賑やかにパーティが盛り上がる中、突然「キャーッ!」と言う悲鳴が広間に響き渡りました。
続いてあちこちで悲鳴が上がりました。
なんとパーティにアサノの率いる盗賊団が入り込んでいたのです。
剣を突きつけて脅しながら招待客から金品を次々に奪っていきます。
駆けつけた衛兵たちも招待客たちを盾にされ思うように動けません。
玉座に戻っていた国王様たちが騒ぎに気をとられていると突然間近に黒い影が現れキョースケ様のみぞおちに一撃を与えて気を失わせ担ぎ上げて連れ去ろうとしました。
国王様たちが慌てて後を追って庭に出るとそこにはアサノがいました。
それを合図にしたように広間にいた盗賊たちが逃げていきます。
「貴様キョースケを人質にするつもりか、卑怯だぞ!」
怒りをあらわに叫ぶ国王様にアサノは不敵な笑みを浮かべて言いました。
「この美しい人が人質?とんでもない。俺はねこの人に一目ぼれしたんですよ。どうしても手に入れたくなった。だからこのパーティを襲ったんですよ。心配しなくても俺が愛を注いで大切にしますよ。」
アサノは子分の肩に担がれたキョースケ様の頬をうっとりとした顔で撫でました。
ヨージは正体がばれるとキョースケ様が困ると思い大人しくしていたのですがそれを見て我慢できなくなりました。
もう衛兵たちがキョースケ様を助けるのを待ってなどいられませんでした。
「汚い手でキョースケさんに触るな!」
そう叫ぶとドレスの裾を捲り上げアサノに向かって駆け出しました。
アサノが振り下ろしてきた剣をものともせずにかわすと強烈な回し蹴りを喰らわせました。
続いて呆然としている子分に思いきり体当たりをしてぐらつかせキョースケ様を取り戻しました。
そして気を失ったままのキョースケ様を抱きかかえて素早く距離を置くとやっと体勢を立て直したアサノに向かって叫びました。
「お前なんかにキョースケさんは渡さない。何が愛を注いで大切にするだ。キョースケさんの気持ちを無視して幸せにできるはず無いだろうがっ!」
「お前、もしかしてキョースケ様の護衛の男なのか?」
アサノは驚きながらもにフレア姫がヨージであることを見抜きました。
その言葉にはっとしたヨージが見回すと招待客たちが呆然とこちらを見ていました。
「はん。これはとんだ茶番だな。キョースケ様の婚約者が護衛の男とは。キョースケ様にそちらの趣味があるのを隠して国民や諸国からのお客様を騙すつもりだったのか?」
「キョースケさんを侮辱するのは許さない!」
燃えるような目でアサノを睨みつけたヨージの腕の中でキョースケ様が身じろぎました。
「キョースケさん?」
ヨージがしゃがんでキョースケ様を地面に下ろし上半身を抱えながら顔を覗きこむと震えながら瞼が開かれました。
「う…ん。ヨージどうしたんだ?そうだ俺は誰かにハラを殴られて…」
心配そうに見つめるヨージに問いかけた後、襲われたことを思い出して辺りを見回すとアサノと目が合いました。
「お目覚めですかキョースケ様?あなたが男性をお好きだとは知りませんでしたよ。」
アサノの皮肉を込めた言葉にキョースケ様がヨージを見るととても辛そうに目を逸らしてしまいました。
立ち上がって大広間のほうを見るとたくさんの人が驚いた顔でこちらを見ていました。
ヨージの正体がばれたことを知ったキョースケ様は一瞬唇をかんで俯きましたがすぐに顔を上げてまっすぐにアサノを睨みつけました。
「確かに俺は男であるヨージを愛している。でも俺はそれを恥ずかしいことだと思ったことなどない。」
キョースケ様の瞳は一点の曇りもなく澄んだ光を湛えていてその言葉にウソがないことを表していました。
「…くっ。」
今度はアサノが悔しそうに唇をかみました。
「今日のところは引き下がりますが俺はあなたを諦めませんからね。」
そう捨て台詞を残して逃げようとしたアサノと子分の上に突然大きな網が降ってきました。
「チクショー!何なんだこれは!!」
アサノはもがきながら笛のような物を吹きました。
「そんなことしても無駄よ。あなたの子分は全部捕まえたから。」
「何ィッ!」
アサノが声のしたほうを見上げると数人の衛兵を従えてナギサが立っていました。
その衛兵たちは子分が持って逃げたはずの金品の詰まった袋を持っていました。
「チッ、いったいどうやって…」
衛兵たちに取り押さえられながらアサノは悔しそうに舌打ちしました。
「今あなたが体験したじゃない。こうやって捕まえたのよ。私は魔法使いですものこれくらいお茶の子さいさいよ。」
アサノはナギサを憎らしそうに睨みながら引き立てられていきました。
「ナギサさん、ありがとうございます。盗賊団を捕まえていただいて。今日いらしてくださった方々の大事なものも取り返すことができてなんと言って感謝したらいいのか。」
キョースケ様はナギサの両手を取ると心からの感謝の言葉を贈りました。
「私は自分にできることをしただけよ。それよりお客様方に何か言った方がいいんじゃないかしら。」
キョースケ様はナギサの言葉に皆の方を見た後ヨージに目を向けました。
ヨージは目を合わせることができずに俯いてしまいました。
「キョースケさんごめんなさい。俺ちゃんとお姫様らしくするって言ったのに…」
キョースケ様はヨージの両頬に手を添えて上を向かせました。
「なんで謝るんだ?お前は俺を助けてくれたんじゃないか。謝るのは俺の方だよ。お前とのこと恥ずかしいと思ってないと言いながらこんな誤魔化しをしようとしたんだから。ヨージ、すまなかった。」
「そんな、キョースケさんこそ謝らないでよ。俺たちみたいな関係はなかなか分かってもらえないもん。ましてやキョースケさんは国王様の弟なんだから隠そうとするの当然だよ。」
「ありがとうヨージ。でも、もう誤魔化さない。さっきアサノに言ったことは本当だって皆に話すよ。生涯の伴侶はお前だって。」
「キョースケさん…いいの?」
「ああ。お前とのことで恥ずべきことなんて何もないんだから最初からこうすればよかったんだ。」
「キョースケさん…」
ヨージの目からボロボロと涙が零れ落ちました。
「ほら、泣くな。皆にちゃんと紹介しなきゃいけないんだから。ナギサさん、ヨージの姿に戻してもらえますか?」
ナギサも二人の愛の深さに感動して目を潤ませていました。
「ええ、勿論。おやすい御用よ。」
ナギサは目じりに溜まった涙を拭うと魔法のスティックを振りました。
目映い光が消え逞しい青年の姿に戻ったヨージを見た人達からどよめきが起こりました。
二人は手を繋いで国王様の前に戻ると跪いて頭を下げました。
「兄上申し訳ありません。でも俺はもうヨージとのことを隠したくありません。どうか許してください。」
「国王陛下、私のせいでこんな騒ぎになってしまって申し訳ありません。」
「二人とも顔を上げろ。キョースケ、どうせお前のことだ許さないと言ったらヨージと国を出るとか言うんだろう?ヨージ、お前はキョースケを救ってくれたんだ。感謝こそすれ怒る気などない。」
二人が顔を上げると国王様は安堵と諦めの入り混じった顔をしていました。
国王様は小さくため息をつくと小声で囁き合っている招待客たちに声をかけました。
「皆さん大変お騒がせしました。盗賊に盗られた物は後ほどお返しします。この二人のことについては本人たちに説明させますから中にお戻りください。」
国王様の言葉に従い大広間に戻った客たちの前に二人が立つとざわめきがぴたりと収まりました。
「まず最初に今日おいでいただいた皆さんを騙そうとしたことをお詫びします。申し訳ありませんでした。」
二人は客たちに向かって深々と頭を下げました。
「先ほどの盗賊とのやり取りですでにお分かりでしょうが私はこのヨージを愛しています。ご覧になったとおり彼は男です。でも私は彼が男だから好きになったのではなく、このヨージと言う人間を愛したんです。」
キョースケ様の皆を見る目はまっすぐで迷いがなく澄んでいてそして時折ヨージに向ける目には愛しさが溢れていて誰もが黙ってその言葉を聞いていました。
「私たちにとってお互いは性別を越えた特別な存在なんです。他の誰もお互いの代わりにはなりえない。私たちはこれからの人生を互いを伴侶として歩いていきます。」
先ほどのわが身の危険も省みずキョースケ様を救ったヨージの行動と今のキョースケ様の言葉で皆二人の愛が深く純粋なものだと分かりました。
そして誰からともなく二人を祝福する拍手が起こり大広間全体に広がっていきました。
その暖かい拍手の陰でケーゴとユウは激しく落ち込んでいました。
自分たちの恋がかなわぬものだと知っただけでもショックだったのになんとその恋していた相手が親友のヨージだったのです。
二人はそのままふらふらと屋敷に帰り暫くの間外出もせず自己嫌悪の海にどっぷり浸って過ごしました。
キョースケ様とヨージのことは諸国にも国民にも暖かく受け止められました。
心配していたような国王様や国民が偏見の目で見られることもありませんでした。
使者が訪れることのなくなったキョースケ様のお城では二人が益々ラブラブ振りを加速させていました。
今日も中庭の木陰で寄り添って座りキスを交わしていました。
「ちょっと二人ともいい加減にしなさい。」
突然声がして見上げるといつか見た小鳥がいました。
「ナギサさん、いらっしゃい。」
自分が幸せだと人にも寛容になれるものです。
ナギサは二人の前でもとの姿に戻るとため息をつきました。
「ねぇ二人とも心配事がなくなったからってイチャイチャし過ぎじゃないの?」
「そう思うなら覗かなきゃいいのに。」
ヨージに揶揄されてナギサは少し悔しそうな顔になりました。
「覗くのは止める気ないわよ。だいたいねぇ覗かなくても分かるのよ。あなたたちのせいでこの辺の気温2,3度高くなってるもの。」
「ふ〜ん、そうなんだ。じゃあもっと暑くしちゃおうか?キョースケさん。」
「そうだな。」
二人はしっかりと抱き合い深く唇を重ねました。
(な、何よ。皆に認められたことでキョースケ様まで大胆になっちゃったじゃない)
ナギサもこれには堪らず退散するしかありませんでした。
皆に認められたことでキョースケ様が無意識のうちにかけていた心のブレーキが外れてしまったようです。
この辺りの気温はこれから上がることはあっても下がることはなさそうです。
でも二人は幸せな空気も振りまいているのでどんどん気温が上がってたとえ常夏のようになったとしても領民たちもみな幸せなのに違いありません。
そして後々までこう語り継がれるのです。
「二人はいつまでも幸せに暮らしました。」
おしまい
04.6.24 グレペン |
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