シンデレラ? 5



とある日のキョースケ様のお城では朝から皆が忙しく働いていました。

今日はこのお城にキョースケ様の招待でお客様が来るのです。

時折他国の使者が訪れはしますが招待されての正式なお客様が来るのは久しぶりです。

皆は忙しそうにしながらもどこか楽しそうでした。

特に侍女たちは時折何人か集まって嬉しそうにおしゃべりしていました。


「うふふふ、いよいよね。」

「お着きになるのは午後なんでしょ。」

「若い男性のお客様なんて本当に久しぶりよね。しかも二人もなんて。」

「どんな方たちかしら。楽しみよね〜。」

「聞いた話によるとすっごくかっこいいらしわよ。」

「なんでもヨージ様と王都のご令嬢方の人気を争ってたんですって。」


そう、今日このお城に来るのはケーゴとユウです。

先日ヨージが馬を借りたお礼にとキョースケ様が招待したのでした。

皆が楽しそうなのにひきかえヨージはご機嫌斜めです。

中庭の木陰に座って何やらブツブツ言っています。

「あ〜あ、あんなやつら招待なんてしなくていいのに。そりゃ確かに馬は借りたけどさ。」

膝を抱えて唇を尖らせるヨージの頭にポンと優しく手が載せられました。

「こら、まだそんなこと言ってるのか。遠いところを来てくれるんだからちゃんと歓迎しないとダメじゃないか。」

キョースケ様はヨージの髪をくしゃくしゃと混ぜて隣に腰を下ろしました。

「だってあいつらが服貸してくれなかったから俺酷い目にあったのに。あの時キョースケさんが来てくれなかったら俺死んでたかもしれないんだよ。」

涙を滲ませるヨージの頭をキョースケ様が自分の胸に抱き寄せました。

「間に合って本当によかった。あと少し遅くなっていたらと思うと今でもぞっとする。」

そう言うキョースケ様の腕が震えているのに気づいたヨージは背中に腕を回しぎゅっと抱きつきました。

「大丈夫、俺はちゃんとここにいるよ。もう絶対離れたりしないから。」

「ああ。」

二人はそのまま暫く抱きしめあったままでいました。

「ヨージ、彼らのことどうしても歓迎できないか?」

「だって俺だけじゃなくてキョースケさんまでこんなに不安にさせたんだもん。」

キョースケ様はヨージの両肩に手を掛け諭すように話し始めました。

「服を貸してもらえなかったこと逆にとることもできるだろう?」

「え?」

「もしあの服を着てなかったら最初に襲ってきた山賊達はいきなりお前を殺してたかもしれない。お前襲い掛かられるまで目が覚めなかったんだろう?」

「うん、そうだけど。」

「彼らが意地悪だったのには違いないけど結果的にそれで命拾いしたことになるんじゃないのか?」

キョースケ様に言われてヨージは考えました。

確かにあの時ヨージは山賊にのしかかられるまで目が覚めなかったのです。

「うう、そう考えたら許すことはできるかな。」

上目遣いになったヨージにキョースケ様は優しく微笑みました。

「友達なんだろう?ちゃんと話して仲直りしろ。」

ヨージはその言葉にはっとしてキョースケ様を見つめました。

「もしかしてそれで…俺に仲直りさせるためにあいつらを呼んだの?」

キョースケ様は少し寂しそうなでも慈愛に満ちた微笑を浮かべて頷きました。

「俺はこういう立場のせいもあって友達と呼べる人間はいない。だからお前には友達を大切にして欲しいんだ。」

キョースケ様の思いを知り、今度はヨージがキョースケ様を胸に抱き寄せました。

「ありがとうキョースケさん。俺何も知らないで拗ねてごめんね。それからこれからはずっと俺が傍にいてキョースケさんに寂しい思いなんて絶対させないから。」

キョースケ様は無言のまま頷いてヨージの背中に手を回しました。


午後になりケーゴとユウを乗せた馬車がお城に着きました。

「ようこそ。遠いところをよく来てくれたね。」

キョースケ様はにっこり微笑んで出迎えました。

「お招きいただいて光栄です。」

ケーゴとユウは畏まって跪いて挨拶をしました。

「久しぶり。こないだは馬を貸してくれてありがとう。助かったよ。」

まだ心にわだかまりの残るヨージでしたがぶっきらぼうながらも礼を言いました。

「ああ…久しぶりだな。」

「元気そうだな。」

ヨージに礼を言われるとは思ってもいなかったケーゴとユウは思わず顔を見合わせました。


ユウとケーゴが暫く部屋で休んだ後、花園の見えるテラスで四人でお茶をしました。

最近の都の様子など和やかな会話の中ずっと黙っていたヨージが口を開きました。

「ケーゴ、ユウ、俺お前たちに何かしたか?」

突然のことに3人が驚いたようにヨージを見ました。

「あん時服貸してくれなかったの意地悪にしては度が過ぎる。何か俺に対して怒ってたからじゃないのか?うだうだ考えてんのは嫌だからはっきり言ってくれよ。」

ケーゴとユウはチラチラと目配せしあってばかりで答えません。

「なんだよ、言えないようなことなのか?」

ヨージが二人に詰め寄ろうとした時パタパタと小鳥が手すりに舞い降りました。

「まあまあ、落ち着きなさいよヨージ君。」

そう言うと小鳥はぽわっと煙に包まれナギサの姿に戻りました。

初めて見たユウとケーゴは目を丸くしています

「だってナギサさん、身に覚えがないことが理由で意地悪されるなんて納得いかないよ。」

「うふふ、誰だって言いたくないことはあるわよ。」

「何それ。ナギサさんは分かってるの?」

ヨージの問いにナギサは意味深そうな微笑を浮かべるとケーゴとユウの方を見ました。

「こんにちは、ケーゴ君、ユウ君。ちゃんと顔合わせるのは初めてよね。私は魔法使いのナギサよ。」

「こ、こんにちは。」

「は、はじめまして。」

驚きとナギサの雰囲気に圧倒されたのとで二人はぎこちなく答えました。

「ねえ、ちょっとナギサさんってば。知ってるんだったら教えてよ。」

ヨージにせっつかれナギサはいたずらっ子のような笑みを浮かべました。

「私の予想だけどこの二人キョースケ様のお見合いパーティーの時のヨージ君を本気で好きになってたんじゃないかしら。正体を知った時はかなりショックだったと思うの。」

「ええっ!?」

思ってもみなかった答えにヨージもビックリです。

「失恋の痛手とその相手があなただったショックから立ち直ったところにまた女装したあなたが来たから思わず意地悪しちゃったんじゃないかしら。」

図星を突かれケーゴは悔しさと恥ずかしさで顔を赤くしてそっぽを向いてしまいました。

ユウはしれっとした表情で「バレたか」とでも言うように軽く肩をすくめました。

ヨージもなんと言っていいか分からずまじまじと二人を見詰めるだけでした。

「ヨージ、二人に庭を案内してあげたらどうだ?」

なんとも言えない空気が漂う雰囲気を変えようとキョースケ様が提案しました。

「ああ、うん、そうだね。ケーゴ、ユウ来いよ。」

「あ、ああ。」

ヨージが席を立って花園に下り、ケーゴとユウもそれに続きました。

「ナギサさんの鋭さに助けられましたね。ありがとう。」

遠ざかる三人を見送ったキョースケ様はナギサに微笑みました。

「うふ、だってあの時のヨージ君凄く可愛かったからもしかしてって思っただけですわ。」

自分の魔法が完璧だったことにもなるのでナギサはとても嬉しそうです。

「それはそうと、ちゃんと夕食に招待してあるのにそれまで待てなかったんですか?」

「だって〜、二人が凄くいい男だから早く自分の目で見たかったんですもの。」

全く悪びれないナギサにキョースケ様は額に手を当て軽くため息をつきました。

「不法侵入もほどほどにしてください。まあ今回はそのおかげで三人が仲直りできそうだからいいですが。」

覗かれることに関してはすっかり諦めてしまっているキョースケ様なのでした。


三人の間にあったわだかまりも解け、話題豊富なナギサが加わったことで夕食の席は賑やかになりました。

食後もお酒を飲みながら楽しく話をしていました。

「ああ〜いい男ばかりに囲まれて本当に幸せだわ〜。」

ほろ酔い加減のナギサがうっとりした顔で言いました。

「ナギサさん、この中で誰が一番いい男だと思います?」

興に乗ったケーゴが訊ねました。

ナギサは四人をしげしげと見比べて答えました。

「キョースケ様。大人で気品があってさすが王子様よね。後の三人は私から見ればまだまだ子供ですもの。」

予想通りの答えにキョースケ様以外の三人は軽く肩をすくめました。

「やっぱり。キョースケ様は俺から見てもかっこいいですからね。じゃあナギサさん、俺たち三人の中では誰が一番ですか?」

未だヨージへのライバル心を持っているケーゴがまた訊ねました。

「あなたたち三人の中で?そうねえ…ちょっとそこに並んで立ってみてくれる?」

ヨージの中にも二人に対する対抗意識は残っていたのでケーゴに続いて立ち上がりました。

気のない風を装っていたユウもやはり他の二人に負けたくないという気持ちがあって席を立ちました。

三人それぞれ自分が一番かっこよく見えるであろう表情やポーズでナギサにアピールします。

それを見比べていたナギサは突然イタズラっぽい笑みを浮かべると魔法のスティックを取り出して一振りしました。

すると三人は目映い光に包まれ眩しさに瞑った目を開けるとドレス姿に変身していました。

それぞれ色もデザインも違う美しいドレスです。

「きゃ〜素敵。思ったとおり三人ともよく似合うわぁ〜。」

初体験のユウとケーゴは自分の姿を見て呆然として言葉もありません。

ヨージももう慣れたとは言えがっくりと脱力せずにはいられませんでした。

「……ナギサさん何すんの。もしかして最初からこれが目的で俺たちを立たせたの?」

ナギサには敵わないと分かっているのでヨージはすでに怒る気をなくしていました。

「あらさすがヨージ君鋭いわね。実は今度招待されてるパーティーに着て行くドレスで悩んでたのよ。」

「そんなの自分で着てみればいいじゃん。」

「そうなんだけど三着一度には無理でしょ。つるしてる時と着た時では感じが違うからこうして見比べたかったのよ。三人ともくるっと回ってみてくれない?」

ヨージは言われるままにくるりと回りまだ呆然としている二人に声をかけました。

「おい、お前らも言われたとおりにしろ。決まらないと元に戻してくれないぞ。」

その言葉にはっとして二人もくるりと回りました。


「ナギサさん、そろそろ決まった?」

ヨージが疲れたように言いました。

三人はナギサに言われるままにあっちを向いたりこっちを向いたりお辞儀したり歩いたりさせられていたのです。

「う〜んそうねえ。踊るとどんな感じになるか見たいからキョースケ様三人と順番に踊っていただけませんか?」

突然話を向けられキョースケ様は目を瞬かせました。

「ダ、ダメダメダメ、ダメ〜〜!!キョースケさんと踊っていいのは俺だけなんだから絶対ダメ!!」

ヨージは大声で叫びながらキョースケ様に駆け寄りぎゅっと抱きつきました。

「いいじゃんかちょっと踊るくらい。ケチなヤツだな。」

「そうそう、そんな狭量じゃいい男とは言えないぞ。」

ユウもケーゴもドレスに慣れまんざらでもないふうでいつもの調子を取り戻していました。

「うう〜、いくら子供だって言われようと嫌なもんは嫌なんだよ。」

ヨージは涙目になってキョースケ様に抱きついたままで二人を睨みました。

ユウとケーゴはそんなヨージを見てクスクス笑いました。

キョースケ様は軽くため息をつくとポンポンとなだめるようにヨージの背中を叩きました。

「ヨージ、ちょっとだけだから我慢しろ。お前も言ったように決まらないと元に戻してもらえないだろう?」

「それはそうだけど…」

それでもキョースケ様から離れようとしないヨージをナギサが両肩を掴んで引き離し椅子に座らせました。

そして魔法のスティックを振るとヨージは椅子から立ち上がれなくなってしまいました。

「ナギサさん、酷いよこんなことするなんて。」

ヨージはジタバタともがきますがどうにもなりません。

「ケーゴ君とユウ君が踊る間そこで大人しくしててちょうだい。それじゃあキョースケ様お願いしますわ。」

キョースケ様はヨージを気にしながらまずユウの手をとり踊り始めました。

ナギサの出した魔法のオルゴールが奏でる音楽に乗って軽やかにステップを踏みます。

踊りながら小さな円を描き一周したところでケーゴと交代しました。

ユウもケーゴもキョースケ様の巧みなリードで優雅なダンスを見せました。

ケーゴのダンスがもうすぐ終わるというところでヨージが叫びました。

「ナギサさん、次は俺の番だよ!早く開放してよ!!」

ナギサは苦笑しながらスティックを一振りしました。

自由になったヨージはケーゴを突き飛ばすようにしてキョースケ様に抱きつきました。

そのまま動こうとしないヨージの耳元でキョースケ様がそっと囁きました。

「ヨージ機嫌直せ。踊ってお前が一番のパートナーだって見せつけてやればいいだろう。」

その言葉にヨージはぱっと顔を輝かせました。

「うん!」

ヨージはこの上なく嬉しそうな幸せそうな顔で踊り始めたのでした。


翌日の朝食の席でケーゴは食事には手もつけずうっとりとキョースケ様を見ていました。

ユウはユウで意味ありげな笑みを浮かべながらずっとヨージを見ていました。

「なんだよユウ、その気味の悪い笑いはなんなんだ?」

視線に耐えられなくなったヨージに問われてユウはニヤッと笑いを深めました。

「いや、昨夜のお前可愛かったなと思って。やっぱり俺お前のこと好きかもしんねえ。」

思わず絶句したヨージにユウの口から更に追い討ちをかける言葉が告げられました。

「でもってケーゴはどうやらキョースケ様に惚れたらしい。昨夜からずっとあんななんだ。」

はっと我に返ったヨージがケーゴの肩を掴んで揺さぶります。

「おいっ、ケーゴ。今ユウの言ったこと本当なのか!?」

かなり激しく揺さぶられたにもかかわらずケーゴはキョースケ様に見惚れたままです。

「キョースケ様って本当にかっこいいよなあ。見つめられてドキドキしたよ。踊ってる間雲の上にいるみたいだった。」

それだけ言うとまた自分の世界に入ってしまいました。

ヨージは何度か口をパクパクさせたあと大声で叫びました。

「お前らもう帰れーー!!」


午前中はキョースケ様は執務、ヨージは剣の稽古をしていたので何事もなく過ぎました。

そして昼食を終えた時のことでした。

「ケーゴ君、ユウ君、急ですまないが明日帰ってくれないか?実は明後日ある国の王子がこちらに立ち寄られることになったんだ。」

ケーゴたちは一週間の滞在予定で招待されていたのでこれにはヨージもビックリです。

「キョースケさん俺そんなこと知らなかった。」

キョースケ様はヨージに優しく微笑みました。

「さっきその王子の使者が来て申し入れを受けたところだからな。急なことだが以前から親交のある国だから断るわけにいかない。」

「そう言えばどこかの国の使者が来てたね。」

「ああ、何でも旅行の途中らしくて何時ごろ来られるか分からないそうだ。もし遅い時間になったらそのまま一晩滞在してもらうことになる。」

キョースケ様はそこで言葉を切って改めてユウとケーゴに向き直りました。

「そうなった時に他の客がいるのは好ましくないんだ。王族同士の付き合いになるから君たちを同席させるわけにはいかないしね。」

キョースケ様の話を聞いて二人は納得しました。

「分かりました。そういうことなら明日帰ります。」

「こちらが招待してわざわざ遠いところを来てもらったのに追い返す形になって本当にすまない。」

「そんな、急な話なんですから気にしないでください。」

「そうですよ。俺たちに気なんか使わないでください。」

こうして図らずもヨージの望みがかなう形となり翌日ケーゴたちは帰っていきました。


キョースケ様たちは二人の乗った馬車を見送った後いつものように中庭の木陰で寄り添っていました。

「お城の皆は大変だね。急に国賓クラスのお客様が来るなんて。でもその割りに静かだね。」

確かにお城の人たちは何の準備も始めていないようでした。

「それは当然だ。だってあれはウソなんだからな。」

「えっ?」

キョースケ様の口から出た思っても見なかった言葉にヨージはまたビックリです。

「まるっきりウソって言うわけでもないがその王子が来るのは二週間後だよ。」

「なんで…そんなウソ…」

その問いにキョースケ様は苦笑を洩らしました。

「大人気ないとは思ったんだけどな。お前を動揺させる彼らに腹が立ったんだ。それと…」

そこまで言ったところでキョースケ様は顔を赤くして俯いてしまいました。

「ねえ、それと…何?」

ヨージに顔を覘き込まれキョースケ様の顔は更に赤くなりました。

「……お前は俺だけのものだから、お前にちょっかいかけそうなユウ君を傍に置いておきたくなかったんだ。」

キョースケ様は消え入りそうな声で告白すると首筋まで真っ赤になってしまいました。

「キョースケさんっ!!」

ヨージは嬉しさのあまりキョースケ様を押し倒して顔中にキスの雨を降らせました。

そして最後にしっかりと唇を合わせました。

「俺最高に嬉しいよ。キョースケさんが嫉妬してくれるなんて。」

キョースケ様は目を潤ませながら自分を見下ろしているヨージの頬にそっと手を添えました。

「俺だってお前が俺を思ってくれるのと同じくらいお前を愛してる。ただ性格が邪魔をして素直に態度に出せないだけだ。お前だけは何があっても誰にも譲れない。」

「うん、俺だってキョースケさんは誰にも譲れない。」

二人は熱く見つめあい何度もキスを繰り返しました。

ユウの言葉でキョースケ様は自分の中のヨージに対する独占欲に気づいたようです。

二人のラブラブ度は益々加速して覗き見しているナギサを喜ばせることになりそうです。

そして二人は覗かれていることなどどこ吹く風で甘々な日常を送ることでしょう。



ですから今回もこの言葉でお話しを締めくくりましょう。

めでたし、めでたし。



おしまい

05.2.10  グレペン





★大人気シリーズにとうとう悪友コンビ登場ですv
グレペンさん、流石です〜v
密かに嫉妬していたんですね〜キョースケ様・・・・らぶ
個人的にユウ→ヨウジはツボなので大変面白かったですv
ナギサさんは相変わらずですし(笑)

ああ、この世界に行きたい・・・・・v
グレペンさん、新作を書いてくれてありがとうございます