朝、起きたら、隣にいるはずの姿が、なかった。  


* * *

「……」  

寝起きでいつも以上に茫とした顔のまま、香藤はベッドに肘を突く形で身を起こした。  

そして、ええと、と呟きながら、香藤は昨夜を思い返す。  

昨夜は(半ば無理矢理)岩城をベッドに連れ込んだ――はずだ。  

忙しい仕事で疲れているはずなのに、買ってきた小説に夢中でいつまで経っても寝ようとしない。

「隣に誰かいないと寝れない」  

って言ってみたら、

ん?どれ、一緒に寝てやるから、と殺し文句と言われ、ベ ッドに引き込んだ。  

その時点で夜半は回っていたのだが、…まぁ、そのまま大人しくふたり揃って寝れるはずもなく――。

「…」  

そんなこんなして、結局疲れる形で、倒れ込むようにして寝て、記憶は今に至るのだが。

「…岩城さんて今日は朝から仕事だったっけ」  

まだ纏まらない思考で呟き、しばしの後、首を左右に振って自らそれを否定する。  

しかし、自分の隣のスペースに、岩城の温もりは既になく。

「起きたの、結構前だよなぁ…」  

どこ行ったんだろー、と頭をかきながら香藤がゴニョゴニョと呟くと同時に、 その部屋のドアが開いた。

「…香藤」  

静かに姿を見せた岩城は、起き上がっている香藤の姿に苦笑を浮かべる。

「起きてたのか。まだ寝てるかと思った」

「それはこっちの台詞だってば」  

岩城につられるように苦笑しながら、香藤は完全に身を起こし、岩城を頭から 足元まで見下ろしていく。

「…」

「何だ?」  

首を傾げる岩城を、何かに気付いたか、香藤は軽く手招きした。  

岩城もそれに逆らうことなく、ゆっくりと歩み寄り、香藤の座るベッドに座りこんだ。

「頭。…何か付いてる」

「ん?あ、」  

香藤が手を伸ばすと、岩城は何か思い当たる事があるのか、小さく声を上げる 。  

その間に、香藤は岩城の髪を少しいじりながら、それを取った。

「…枯れ葉?」  

何でこんなものが、と首を傾げる香藤の脇で、岩城は小さく笑う。

「香藤」  

そして名を呼び、ほら、と香藤の視界に、手にしていたものをさらした。

「ススキ?…あ」

「やっぱり、忘れてただろう?」  

ススキを見て何かに気付いたような香藤に、岩城は嬉しそうな笑みを広げる。

「仲秋の名月だよ」  

ふふ、と声を零しながら、手にしたススキで香藤の頬を撫でてやり、

「俺も昨日思い出したんだけどな」

「それで、朝起きてススキを取りに行ったの?」

「あぁ。空気が気持ち良くてさ、ちょっと寝転がってきたんだ」

「……それで頭に枯れ葉、ね」  

納得、と、岩城の頭から取った枯れ葉を手の平で弄びながら、香藤は溜息混じりに呟いた。  

そんな香藤にもたれ掛かるようにして、岩城もススキの莖を掴んで、くるくると回している。  

白い綿毛が、ぱらぱらといくつか落ちた。

「…香藤、今日は月見酒でもしようか」  

遅くなるかもしれないけど、と続けると、そうだね、と香藤は応えた。

「このススキを飾って、…オーソドックスに団子も置くか」

「そうだね」  

互いに楽しそうに笑いながら、香藤は岩城の手中からススキを受け取る。

「――たまには、そういう夜もいいな」  そんなふたりの夜も。  


笑み混じりにそう言って、香藤は岩城の額に口付けた。



【END】




舞永(京香)




秋のテーマにぴったりのお話をいただきましたv
穏やかなふたりの生活の一場面で素敵です
ススキの野原に寝転がっている岩城さん・・・
私も是非一緒に!(笑)
頭に枯れ葉を乗せたまま帰ってくるなんて可愛すぎ!!
舞永さんありがとうございますv
(京香さんからHN変更されています)