「おい、小野塚。あれ、香藤のBMWじゃねぇ?」

深夜1時。夜のXX区。ドラマの収録を終え、宮坂のマンションへ向かうタクシーの中、同乗の当人が、斜め前方を走る車両を指差しながら、声を上げた。

「あぁ?白の千葉ナンバーか?77 せ 2051・・・。そうだ。香藤の、だ。」
「ちょうどいいじゃん。小野塚。あいつも連れてこうぜ?」
「・・・だな。」
「・・・運転手さん、すいませんけど、あの白のBMWにつけて!」
俺達は顔を見合わせてニヤリとする。
『・・・久しぶりに、香藤、イジメたいんだろ?オマエ?』
『・・・そーゆーオマエが会いたいのは、岩城さんの方だろ?』
アイコンタクトで、お互いの腹積もりが解る、俺達。
道は然程渋滞している訳じゃないのに、なかなか距離が詰まらない。
イライラしながら、宮坂が俺の脇を肘で小突く。
「携帯、鳴らせよ?小野塚。香藤に車、停めろって。」
「もう、掛けてるよ。」
タクシーは前を走るBMWをしっかり見据えて走ってはいるが、肝心な香藤が信号待ちでもしてくれないコトには、声も掛けられない。

「・・・繋がんねー。あいつ、電源切ってやがるっ。」
「テメエの車ってコトは、仕事じゃねーよな?なんで電源切ってんだ、あのヤロー・・・。」
「岩城さんが一緒なんじゃねーの?他から連絡なんかいらねーってコトだろ。」
「あのバーカっ。」
「あ、ウインカー出した。コンビニ寄るみたいだぜ。」

スイスイとコンビニのパーキングに入っていく香藤の車について、俺達のタクシーもそれに習う。
車を停め、左ハンドルの運転席から降りてくる香藤の姿を見ていると、ナビを開けて何やらゴソゴソとやってる様子。そして、すぐキーロックをかけると、軽快にコンビニの中へ走っていくのが見えた。

「あいつ、全然気付いてねーよ。」
「岩城さんはーーー!?」
「何ナビでごそごそやってたんだ?」

タクシーを降り、香藤を追って店内に向かおうとすると、宮坂は真っ直ぐBMWの方へ。
そして、大胆に車内を覗くと、一気に固まった。

「どーした?宮坂?」
「・・・・・・。」
「宮坂っ!?」
「・・・・・・寝てる・・・、岩城さん・・・っ。」
「あぁ!?」

言われて、BMWに近付いて、ナビを覗く。
すると、確かに、香藤の、最愛の恋人のお姿。

ナビのシートをめいっぱいまで倒して、足から胸元までフリースのケットを掛けられて。
・・・すやすやと、熟睡。
あららら・・・。
「・・・き、き、キレイ・・・っっっ!!」
「・・・・・・。」

宮坂は、ナビのドアを叩き壊さんばかりに、その寝顔を凝視している。
俺は、ふーっと溜息をつく。
・・・ったく、どいつもこいつも・・・。俺の周りは色ボケ、ばかりかよ?
・・・香藤はともかく、宮坂まで。
「・・・しょーがねーな。」
「ちくしょー、なんでロックなんかかけやがんだよっ。開けとけよ、バカ香藤っ!」
「・・・アホ。んなの、当たり前じゃねーか。あの嫉妬深い奴なら。」
「うぅーーーっ。」
「・・・オマエそこにいろ。俺が香藤に声かけてくるから。間男は、じっくりお姫様の寝顔、堪能させて貰え。」
「・・・可愛い・・・っ。」
俺はアホヅラを下げて、ナビに張り付いてる宮坂を置いて、店内に向かう。
いや、どーも。
まさか、ホントに一緒だとは。

熟睡のお姫様・・・いや、『岩城さん』は、俺達にとっては、かなりキャリアの離れた先輩俳優で、俺達と同期の香藤の、熱愛する、言わば、『奥方様』。
奥方・・・ったって、男だし?実際タッパはあるし、そりゃあ凛とした端正な男前なんだけどな。
性格は至ってマジメで誠実。
しかも、謙虚で、格下の俺達へさえ礼節を忘れない、そりゃ出来た御方でいらっしゃる。
以前その岩城さんのご招待で自宅へお邪魔した時、嫉妬に狂った香藤のバカが待ち構えてて。
昔の悪事バラされて、岩城さんに泣かれちゃったもんだから、コトもあろうに、俺達の目の前で、いきなりエッチしかけやがった。
俺達への牽制のつもりだったんだろうけど、バカ過ぎだ。
岩城さん、俺達の存在忘れてて、正気に戻った時にはもう顔面蒼白って感じだったから、あとの修羅場は圧して知るべし・・・ってトコ。

ホント、頭悪ぃよなー、あいつ。
しかも・・・その濡れ場を最初から、最後までずーーーっと鑑賞させて頂いた俺達だったから、マズイコトに、どうもそれで、宮坂の奴は、すっかり岩城さんの艶姿にキて、しまったらしい。
つまりは、香藤同様、岩城姫の虜・・・って訳だ。
末期だ、末期。

・・・確かに。
人間なんて、どんな顔が隠されてるかなんて、解ったもんじゃない。
平素のカッコイイ岩城さんからは想像も出来ないような色っぽさで、百戦錬磨の香藤がノロケ捲り、
『俺の、俺の、俺だけの!!』を連呼するベタ惚れ振りも、頷ける。
煌びやかな芸能界で、廻り中ワタクシこそがNO.1てな、美女達に囲まれて仕事してる俺の目にさえ、鮮烈な印象を残している有様なんだから、平素の岩城さんにすら抵抗ナシと言い放った宮坂には、さぞや格別、眩しかったコトだろう。

実際、その生本番眺めながら、宮坂、口開けてヨダレ垂らしてたっけ。
ホント、マジ、エロかったし、なぁ・・・。

香藤の唇に犯され、砕ける細い腰。
徐々に衣服を剥がされて、浮かび上がった骨格は、間違いなく同じ男のそれだったのに。
段々と快感に色めいて、輝き出す肌。
器用に動く香藤の指に囚われて、その表情は、どんな女のそれより、妖しく、オスを誘い。
そして、香藤に誘われるまま、その腰に跨って貫かれた瞬間、振り乱す髪、震える肢体。
揺す振られるままに、香藤のそれを咥え込んで、悩ましく動く絶妙な腰使い。
涼やかな目元を官能に潤ませ、戦慄く唇から・・・、甘い・・・悲鳴・・・。
それすら、耳に焼付いている。
元AV男優で、散々っぱら女とヤリ捲って、大概の女なら簡単にそのテクで落とせる筈の香藤が、それでも独占欲を剥き出しにして、ハラハラと嫉妬全開、大騒ぎするのも仕方ない艶かしさ・・・だった。
しかし、岩城さんの方だって、香藤よりよっぽどキャリアのあるAV男優だったんだから、ハナから男OKだった訳じゃなかったろうに。
ありゃ、岩城さんの天性の資質もあったんだろうけど、それをいち早く見抜いた奴の審美眼、そして、あそこまでの媚態を見せる体に開発した香藤の手腕には恐れ入る。
テメエで作った、テメエ好みの体なんだから、男としちゃあ、余計に愛着、あるもんなんだろうな・・・。
しかし、俺はといえば、むしろその艶やかな岩城さんを貫いて、その姿態に溺れる香藤の方に、食指が動いた・・・。
余裕は扱いて見せていたけれど、半ば泣きそうなツラで岩城さんを突き上げていた、その様に。

・・・逆なら、香藤は、どんな顔するんだろうか、と・・・。

突っ込まれる側に回ったら、その余裕ヅラが、どんな風に歪むのか、と・・・。
自分じゃ言わねーけど、・・・岩城さん相手なら、ネコもするんだろ?あいつ・・・。
・・・妖艶な岩城さんもいいけど、・・・俺なら、やっぱ、香藤を喘がせたい。
あいつ、マゾなの間違いねーんだから、さぞかし泣き顔は楽しめそうだ。
あいつにぶち込んで、・・・俺の、で香藤を調教する。
タチのあいつは岩城さんに譲って、ネコのあいつを俺が仕込む・・・。
あいつの中でナリを顰めてるMの素質、開花させてやるよ、俺がじっくり・・・、俺仕様に・・・。
これって、かなり、よくねぇ?
おーっと、・・・末期は、俺もか・・・。

思わず漏れた苦笑に、額を掻くと、足を踏み入れたコンビニのレジに、一際煌めく奴の姿。
ちょっと前まで、テメエの我が儘で、事務所とトラブって仕事、干された身だったくせして、忌々しい程、人目を引く。色抜きされたリーバイスに、派手なプリントのシャツ、羽織ってるだけ。
チャラいあいつにしちゃ、至ってラフでシンプルなスタイル。
・・・そこだけ、別の生き物がいるみたいに。
深夜の店内は、人も疎らだったけれど、店員も客も、その誰もが香藤の一挙一動をチラチラと目で追っている。
ネームバリューの差こそあれ、しばらく、俺が入っても、気が付かれなかった程。
・・・ムカつく。
「よ。香藤?」
「げっ。小野塚っ。オマエ、なんでこんなトコに・・・っ!?」
香藤の奴は、俺を認識して、まるで蛇か蛙でも見つけたみたいに、思いっきり、はっきり、嫌そうな顔をした。
相変わらず、遠慮のない奴だな。
カッコつけしいのくせして、何、カゴいっぱいに、所帯臭いもん、抱えてんだよ。こいつ。
「仕事帰りなんだよ。宮坂んちで飲むんだ。オマエもどうよ?」
「ヤダね。・・・オマエらと関ると、俺の幸せな家庭が崩壊する。」
「バーカ。・・・岩城さん泣かしたのは、俺達じゃなくて、オマエの旧悪だろ?勘違いしてんなよ。」
「うるせーっ。オマエらが余計なコトペラペラしゃべんなきゃ・・・。うっ、ああぁぁっ!!」
「おっ?」
元・抱かれたい男NO.1の顔は、店の外の車両を見て、恐ろしい程崩れた。
駐車場に宮坂見つけて、乱暴に支払いを済ませると、脱兎のごとく、店を飛び出す。

・・・くくく・・・っ。可愛い奴・・・っ。

「宮坂!!オマエ、何やってんだよっ!勝手に、見んなっ!!」
「・・・香藤・・・、よっ。ははは・・・。岩城さん、寝顔も別嬪さんだな!?」
「そんなの言われなくても解ってんだよっ。人のもん、物欲しそうに見てんじゃねーよっ!散れっ!岩城さん、起きちゃうだろっ!!」
「・・・オマエのが、うるせーよ。バカ。挨拶くらい、させろよ?」
「ダメ!ふざけんなっ!いーから、もう、どっか行けって!」
「乗せてけよー、俺のマンションまで。こっからそんな遠くないんだから。」
「・・・冗談じゃねー。オマエらみたいなケダモノ、俺の岩城さんの傍に置けるかっ!」
香藤について店を出て、そのやりとりを眺めていると、BMWの車内で、岩城さんが身動ぎをするのが見えた。
「あ、起きた?岩城さん?」
「ええっ!?」
体を覆っていたフリースがハラリと下がり、シャツの胸元を肌蹴た岩城さんが、ムクリとシートから起き上がる。

寝悩ましく、口元に手をやり、小さく欠伸して。
腕を下げても、まだ眠いみたいにぼんやりと首を傾けて、うっすらと開かれた唇が、・・・異様に、エッチ臭い。
「ん・・・。」
それを凝視する香藤と宮坂の顔の両極端なザマに、俺は思わず吹き出した。
宮坂は、口開けて惚けちまってるし、香藤は蒼白っ。
・・・おもしれー・・・っ、ダメだっ。こいつら、おもしろ過ぎるっっ!!
「・・・岩城さん、あんなカッコしてるってコトは・・・、ぷぷ。オマエ、また・・・。」
「うるせーうるせー、小野塚、テメエ、人んちの夫婦生活に、口出すんじゃねーっ。」
「岩城さんが、寝惚けてる・・・。か、か、可愛・・・いっ。」
「宮坂ぁ、うるせーっつってんだろっ!・・・くそっ。帰るっ!!」
香藤が運転席に回り、BMWのキーロックを解除したのを目聡く看破して、宮坂がナビのドアに手を掛ける。おっ、すっげー瞬発力っ!

「岩城さん、今晩はっ!」
「ん・・・っ?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

宮坂=挨拶、岩城さん=ふにゃ、香藤=絶叫っ!!
しかも、ドアを開けて見ると、シートに片膝立てて、フリースケットが零れた、岩城さんの生脚!が覗いていた。
車、土禁でもないのに、なんで裸足?
なんで、岩城さん、シャツ肌蹴て、生脚なのっ!?
もしかして、着けてるの、そのシャツだけ!?

・・・何してた帰りか、モロバレじゃねーか・・・っ!バカ香藤っ!
くくく・・・っ!
勢いよく開いたドアの反動で、岩城さんの体が、揺れ、その体をパッと抱き止めた宮坂の腕の中で、睡魔と闘う岩城さん。

「ん・・・、着いたのか・・・?か・・・と・・・。」
抱き締めている腕の人違いに気付かないまま、宮坂の耳元に口を寄せて呟く。
「・・・やっぱ・・・キツ・・・、明日に・・・してくれ・・・。」
シャツの裾からスラリと伸びた、太腿っ!・・・脚線美が、強烈っ!
どう見ても、H後、無理やりシャツ1枚着せ付けただけって風情。
・・・エロ過ぎっ。これは、確かに、クる!んーんっ♪・・・さっすがー、岩城さんっ♪♪♪
2人とも・・・、瞬殺だな。
宮坂、は、また固まって、ぎゃっ・・・鼻血吹いてるっ!!
香藤の顔を見上げれば、ヤキモチ妬いて、わなわな震えて。

・・・あぁぁーっ!!・・・泣きそうーーーっ♪♪♪

「どけっ!!」
運転席から身を乗り出し、宮坂を突き飛ばして、岩城さんを奪い返すと、乱暴にドアを閉め、一気にBMWは走り去っていく。
携帯、電源、切ってる訳、だよ・・・なっ!
バっカでーっっっ!!
あの、泣きそうな顔っ!サイコー!可愛いっ!そそるっっっ、香藤っ♪♪♪
突き飛ばされた宮坂は唖然として、尻餅ついたまま、眠り姫の残像に惚けてる。
俺はといえば、香藤の百面相がおかしくておかしくて、しばらく腹を抱えて蹲ったまま、動けなかった。

おわり



2004/07/08   にゃにゃ





★少し前にお預かりしていたお話ですが
タイムリーな宮坂&小野塚話だったので、この時期出させて貰いました
ふたりに振り回される香藤くんがたまりません☆
愛しい・・・・・v
実はこのお話には前後のお話が各1話ずつあります
それも近日中に・・・・v(ひとつはあちら行き)
お楽しみに〜v

にゃにゃさん、楽しいお話ありがとうございますv